中学一年生
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
転生前の記憶があることで、他の生徒より有利に学校生活を立ち回れているものの、完璧に行動できているかと言えばそうではない。
どころか、一部の人達の前ではそういった経験値が全く役に立たず、失態や失敗を晒してしまっていることも少なくない。
前世から数えた年齢がとんでもないことになっていようと、人間的に未成熟であることには違いないのだ。
いくら前世の記憶があろうと、どうしたって私は不完全で不安定なのである――行動も、存在も。
本来一度きりの人生を終わり切れなかったことを踏まえると、生まれてきたことすら間違いなのかもしれないが、これ以上間違いを犯すわけにはいかない――少なくとも、同じ過ちは繰り返してはならない。
もっとも、何かを間違えたこと自体私の存在意義を否定されかねないほどの大失態なのだが。
一度目の人生ならばともかく、今は他人のために生きているのだから、ひとつひとつの行動に命を懸ける覚悟でいなければならないのだ。
だから、紫原君と別れた後、決死の思いで黄瀬君の教室に駆けつけたのだった。
思い返すのは、以前の黄瀬君の暴走である。
先ほどの事態が彼の耳に入り再び学校中を疾走される前に、一刻も早く私の無事を知らせなければならない。
教室に辿り着き、すれ違いになっていないかと不安を抱えながら中を覗き込むと、扉の近くにいた女生徒が声を掛けてきた。
「あれ? 莉乃ちゃん、どうしたの?」
「あ、えっと、黄瀬君はいるか?」
「黄瀬君? うん。あそこにいるよ」
彼女の指差す方に目を向けると、確かに黄瀬君は自分の席に座っていた。
自分の席に座り、両腕をだらりと下ろし顔を机に突っ伏している。
「……彼は大丈夫なのか? 具合でも悪いのか?」
「さあ……。さっきまでは元気だったんだけど、急にあんな風になって」
寝ていなければ間違いなく私の声が届いている距離なのだが、黄瀬君は全く反応しない。
ひとまず彼の元へ行こうと足を踏み出しかけたところで、数人の女子のグループに囲まれてしまった。
そしてそのうちの一人が、
「ねえねえ、藍良さん。彼氏がいるって本当?」
と訊いてきたのだ。
その時、黄瀬君の肩がぴくりと動いたような気がしたが、彼女達が壁になって見間違えただけかもしれない。
「いや、いないよ。どうしてだ?」
「えー、だって、さっき廊下で彼氏らしき人に抱きつかれてたって聞いたよ?」
彼氏でも何でもないが、それは間違いなく紫原君のことだ。
もしかしたらまだ噂になっていないのかと思いきや、既に情報は出回っていたらしい。
ちなみに、あれからまだ数分しか経っていない。
「あの人は友達だ。それに、私は今後も彼氏は作らないよ」
「え、なんで?」
「私の青春はこの学校に捧げているからな。恋人なんて必要ない」
言い終わった直後、がたんっと椅子が倒れる音がした。
その場にいた全員が振り返ると、やはりと言うか、音源の先には立ち上がった黄瀬君と床に転がる椅子があった。
「あっ、莉乃っち! 来てたんスね!! いやー、気づかなかったなあ。いつ来たんスか?」
黄瀬君はこちらを振り向くと、今やっと気づいたと言わんばかりに笑顔で駆け寄ってきた。
本人は何事もないように振る舞っているつもりだろうが、言動に違和感しかない。
そして私の前で立ち止まると、周囲の女子達に向かって微笑んだ。
「ごめんね。ちょっと二人だけにしてもらえるっスか?」
その一言で、彼女達は黄色い声を上げて教室の奥へ退散していった。
最初に声を掛けてくれた娘 もじゃあね、と口早に告げると、黄瀬君を名残惜しそうに見つめながら彼女達について行った。
「……黄瀬君。さっきはどうしたんだ?」
「いやー、ちょっとふて腐れてたって言うか。でももういいんスよ。誰かのものになるくらいなら、まだいいかなって」
「……何の話だ?」
「こっちの話っスよ」
にこり、とはぐらかすように微笑まれる。
その笑みは、前にも見たことがある。
小学生時代のことを訊くと、いつも彼はその表情で追及を逃れていた。
かつて私が何をしたのか、何が彼の心を動かしたのか、彼は頑なに語ろうとしない。
「……黄瀬君。君にとって私はどういう存在だ?」
「莉乃っちはオレのヒーローっスよ。オレを助けてくれたんスから」
黄瀬君はいつものように即答した。
いくら記憶を掘り起こしても、彼に助けられたことはあれ助けた覚えは全くない。
同じクラスだっただけの、会話すらしたことのない関係。
それでも今は私を尊敬してくれているのだ。
莉乃っち、と黄瀬君は呼ぶ。
「っていうか、まさかそれを訊きにわざわざ来たんスか?」
「そういうわけではないんだが。……少し、嫌な予感がしたんでな」
「嫌な予感?」
「気のせいだろう。君がそう言ってくれるなら、私もまだやっていけるよ」
藍良莉乃。
本来この世界にいるはずのない異端者 だが、二度目の人生を他人に尽くすことで生存を許されている。
黄瀬君が『ヒーロー』と評価してくれるなら、私はまだ生きてもいいのだろう。
どころか、一部の人達の前ではそういった経験値が全く役に立たず、失態や失敗を晒してしまっていることも少なくない。
前世から数えた年齢がとんでもないことになっていようと、人間的に未成熟であることには違いないのだ。
いくら前世の記憶があろうと、どうしたって私は不完全で不安定なのである――行動も、存在も。
本来一度きりの人生を終わり切れなかったことを踏まえると、生まれてきたことすら間違いなのかもしれないが、これ以上間違いを犯すわけにはいかない――少なくとも、同じ過ちは繰り返してはならない。
もっとも、何かを間違えたこと自体私の存在意義を否定されかねないほどの大失態なのだが。
一度目の人生ならばともかく、今は他人のために生きているのだから、ひとつひとつの行動に命を懸ける覚悟でいなければならないのだ。
だから、紫原君と別れた後、決死の思いで黄瀬君の教室に駆けつけたのだった。
思い返すのは、以前の黄瀬君の暴走である。
先ほどの事態が彼の耳に入り再び学校中を疾走される前に、一刻も早く私の無事を知らせなければならない。
教室に辿り着き、すれ違いになっていないかと不安を抱えながら中を覗き込むと、扉の近くにいた女生徒が声を掛けてきた。
「あれ? 莉乃ちゃん、どうしたの?」
「あ、えっと、黄瀬君はいるか?」
「黄瀬君? うん。あそこにいるよ」
彼女の指差す方に目を向けると、確かに黄瀬君は自分の席に座っていた。
自分の席に座り、両腕をだらりと下ろし顔を机に突っ伏している。
「……彼は大丈夫なのか? 具合でも悪いのか?」
「さあ……。さっきまでは元気だったんだけど、急にあんな風になって」
寝ていなければ間違いなく私の声が届いている距離なのだが、黄瀬君は全く反応しない。
ひとまず彼の元へ行こうと足を踏み出しかけたところで、数人の女子のグループに囲まれてしまった。
そしてそのうちの一人が、
「ねえねえ、藍良さん。彼氏がいるって本当?」
と訊いてきたのだ。
その時、黄瀬君の肩がぴくりと動いたような気がしたが、彼女達が壁になって見間違えただけかもしれない。
「いや、いないよ。どうしてだ?」
「えー、だって、さっき廊下で彼氏らしき人に抱きつかれてたって聞いたよ?」
彼氏でも何でもないが、それは間違いなく紫原君のことだ。
もしかしたらまだ噂になっていないのかと思いきや、既に情報は出回っていたらしい。
ちなみに、あれからまだ数分しか経っていない。
「あの人は友達だ。それに、私は今後も彼氏は作らないよ」
「え、なんで?」
「私の青春はこの学校に捧げているからな。恋人なんて必要ない」
言い終わった直後、がたんっと椅子が倒れる音がした。
その場にいた全員が振り返ると、やはりと言うか、音源の先には立ち上がった黄瀬君と床に転がる椅子があった。
「あっ、莉乃っち! 来てたんスね!! いやー、気づかなかったなあ。いつ来たんスか?」
黄瀬君はこちらを振り向くと、今やっと気づいたと言わんばかりに笑顔で駆け寄ってきた。
本人は何事もないように振る舞っているつもりだろうが、言動に違和感しかない。
そして私の前で立ち止まると、周囲の女子達に向かって微笑んだ。
「ごめんね。ちょっと二人だけにしてもらえるっスか?」
その一言で、彼女達は黄色い声を上げて教室の奥へ退散していった。
最初に声を掛けてくれた
「……黄瀬君。さっきはどうしたんだ?」
「いやー、ちょっとふて腐れてたって言うか。でももういいんスよ。誰かのものになるくらいなら、まだいいかなって」
「……何の話だ?」
「こっちの話っスよ」
にこり、とはぐらかすように微笑まれる。
その笑みは、前にも見たことがある。
小学生時代のことを訊くと、いつも彼はその表情で追及を逃れていた。
かつて私が何をしたのか、何が彼の心を動かしたのか、彼は頑なに語ろうとしない。
「……黄瀬君。君にとって私はどういう存在だ?」
「莉乃っちはオレのヒーローっスよ。オレを助けてくれたんスから」
黄瀬君はいつものように即答した。
いくら記憶を掘り起こしても、彼に助けられたことはあれ助けた覚えは全くない。
同じクラスだっただけの、会話すらしたことのない関係。
それでも今は私を尊敬してくれているのだ。
莉乃っち、と黄瀬君は呼ぶ。
「っていうか、まさかそれを訊きにわざわざ来たんスか?」
「そういうわけではないんだが。……少し、嫌な予感がしたんでな」
「嫌な予感?」
「気のせいだろう。君がそう言ってくれるなら、私もまだやっていけるよ」
藍良莉乃。
本来この世界にいるはずのない
黄瀬君が『ヒーロー』と評価してくれるなら、私はまだ生きてもいいのだろう。