中学一年生
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これまでに主要キャラクター達との濃密なやり取りをお伝えしてきたが、対照的に紫原敦君との初めての会話は――
「ねー藍ちん」
「えっと……何だ? 紫原君」
「あのさー、今お菓子とか持ってない?」
「ごめん、持ってないよ。部活中だしな」
「ふーん」
こんな、ありきたりでありふれたとりとめのないものだった。
時系列は、私が一軍専属になってすぐのことである。
部活の休憩中にふらりと近寄って来たかと思えば、この時初めて私のことを『藍ちん』と呼んだのだ。
聞き慣れないために反応が遅れた私に対して、まるで昔から呼び慣れているかのようにあっさりと。
そんな風に受け入れられたのは本来喜ばしいことなのだが、誇らしいことなのだが――ここで私は、胸に僅かな違和感を抱いてしまった。
要望に応えられなかった私に気分を害した様子もなく去って行った紫原君を目で追うと、今度はふらふらと緑間君に近づきあろうことか彼に同様の質問をしたのだった。
「ねーミドチン、お菓子持ってる?」
「あるわけないだろう! 大体、部活中に菓子を食べるのは止めろ!!」
「えー、休憩中だし、別に良くない?」
「そういう問題ではないのだよ!」
たまたま近くにいたとは言え、数いる部員の中で何故緑間君に話を振ったのだろう、とこの時体育館にいる誰もが思ったに違いない。
緑間君がにこやかに菓子を渡してくれると本気で信じていたのか、あるいは紫原君にとって話し掛ける相手は誰でも良かったのか。
緑間君の説教が始まっても飄々としている彼を見て、後者の可能性を濃厚に感じた。
誰でもいい、あるいは、どうでもいい。
そういうことなのだろう。
ふと頭に浮かんだ可能性にそれらしい根拠が見つかった途端、先ほどの違和感が確信に変わった。
誰でも良かったのだ。
あんな風に親しげに声を掛けるのは、私でなくても別に良かったのだ。
私にとっては生涯決して忘れることのない青春の一ページでも、紫原君にとっては日常ですらない当たり前だった。
そりゃあ、後に思い出話をして噛み合わなくなるのは無理もない。
彼にとっては、別段意識するほどでも記憶するほどでもない出来事なのだから。
この日の出会いが私にとってどれほど劇的だったかを一生懸命語ったところで、彼には微塵も伝わらないのだ。
価値観が違う。
もっと言えば、次元が違う。
言葉が通じないほどに。
そうは言っても、彼のそんなスタンスは私のスタイルと非常に相性が良かったのである。
まるで旧友のように支配的で赤の他人のように排他的な対応は、私にとってこの上なく理想的だった。
私の理想――その詳細を語るのは後の機会に回すが、端的に言ってしまえば藍良莉乃を何の感慨も躊躇いもなく利用してくれることだ。
まるでそうすることが当たり前のように人を支え、意識されないほど当たり前のように人に受け入れられる。
そんな理想を初対面で叶えてくれた最高の利用者である紫原敦だが、皮肉なことに彼にはその翌日に嫌われた。
当然のように受け入れられ、必然のように嫌われた。
「藍ちんさあ、そういうのウザいんだけど。多くの人を救うのが目標だとか、本気で言ってんの? そんな綺麗事叶うわけないじゃん」
イラつくんだよね、と吐き捨てたその言葉を、私は比較的冷静に受け止めていた。
まあ、ここまではっきり否定されて何も感じないと言えば嘘になるが、否定されても馬鹿にされてもこの目標を取り下げるつもりはないので、あまり気にしても仕方のないことである。
価値観が違い、次元が違うのだから。
言葉が通じないのだから。
仕方がないだろう。
それに、好かれなくても嫌われても、必要とされればそれでいいのだ。
「なんで他人のためにここまでできんの? すげーとは思うけど、ここまで行くと正直気持ち悪いよ」
そして、これらの辛辣な発言を受け入れることができた最大の理由は、この展開をある程度予想していたからだ。
努力や根性や信念を嫌い、それらを掲げる人間を嫌う紫原君相手に好かれるはずはないと、予め覚悟していたことが大きいと思う。
そうでなければ――
そうでなければ、ここまで頭越しに嫌われても何も感じないなんてことはないはずだ。
「誰にでも都合が良すぎて、気持ち悪い」
その意見に、私はこう返した。
そうか、と。
たった一言そう返して、頷いた。
紫原君の意見は理解できるし、私も転生しなければ一生こんな志など抱かなかった。
私だって生まれた時からこういう性格をしていたわけではないのだ。
凡人だった頃を記憶している分、体験している分、今が色々な面で逸脱していることくらいは自覚している。
だから同意することで、充分に共感を示したのだが――
「そういうのもウザいんだけど」
対する紫原君の共感は全く得られなかった。
残念だが、これも仕方がない。
嫌われても気持ち悪くても受け入れてほしい、幸せになりたい気持ちは、やはりこの世界の人々には理解しがたいのだろう。
「ねー藍ちん」
「えっと……何だ? 紫原君」
「あのさー、今お菓子とか持ってない?」
「ごめん、持ってないよ。部活中だしな」
「ふーん」
こんな、ありきたりでありふれたとりとめのないものだった。
時系列は、私が一軍専属になってすぐのことである。
部活の休憩中にふらりと近寄って来たかと思えば、この時初めて私のことを『藍ちん』と呼んだのだ。
聞き慣れないために反応が遅れた私に対して、まるで昔から呼び慣れているかのようにあっさりと。
そんな風に受け入れられたのは本来喜ばしいことなのだが、誇らしいことなのだが――ここで私は、胸に僅かな違和感を抱いてしまった。
要望に応えられなかった私に気分を害した様子もなく去って行った紫原君を目で追うと、今度はふらふらと緑間君に近づきあろうことか彼に同様の質問をしたのだった。
「ねーミドチン、お菓子持ってる?」
「あるわけないだろう! 大体、部活中に菓子を食べるのは止めろ!!」
「えー、休憩中だし、別に良くない?」
「そういう問題ではないのだよ!」
たまたま近くにいたとは言え、数いる部員の中で何故緑間君に話を振ったのだろう、とこの時体育館にいる誰もが思ったに違いない。
緑間君がにこやかに菓子を渡してくれると本気で信じていたのか、あるいは紫原君にとって話し掛ける相手は誰でも良かったのか。
緑間君の説教が始まっても飄々としている彼を見て、後者の可能性を濃厚に感じた。
誰でもいい、あるいは、どうでもいい。
そういうことなのだろう。
ふと頭に浮かんだ可能性にそれらしい根拠が見つかった途端、先ほどの違和感が確信に変わった。
誰でも良かったのだ。
あんな風に親しげに声を掛けるのは、私でなくても別に良かったのだ。
私にとっては生涯決して忘れることのない青春の一ページでも、紫原君にとっては日常ですらない当たり前だった。
そりゃあ、後に思い出話をして噛み合わなくなるのは無理もない。
彼にとっては、別段意識するほどでも記憶するほどでもない出来事なのだから。
この日の出会いが私にとってどれほど劇的だったかを一生懸命語ったところで、彼には微塵も伝わらないのだ。
価値観が違う。
もっと言えば、次元が違う。
言葉が通じないほどに。
そうは言っても、彼のそんなスタンスは私のスタイルと非常に相性が良かったのである。
まるで旧友のように支配的で赤の他人のように排他的な対応は、私にとってこの上なく理想的だった。
私の理想――その詳細を語るのは後の機会に回すが、端的に言ってしまえば藍良莉乃を何の感慨も躊躇いもなく利用してくれることだ。
まるでそうすることが当たり前のように人を支え、意識されないほど当たり前のように人に受け入れられる。
そんな理想を初対面で叶えてくれた最高の利用者である紫原敦だが、皮肉なことに彼にはその翌日に嫌われた。
当然のように受け入れられ、必然のように嫌われた。
「藍ちんさあ、そういうのウザいんだけど。多くの人を救うのが目標だとか、本気で言ってんの? そんな綺麗事叶うわけないじゃん」
イラつくんだよね、と吐き捨てたその言葉を、私は比較的冷静に受け止めていた。
まあ、ここまではっきり否定されて何も感じないと言えば嘘になるが、否定されても馬鹿にされてもこの目標を取り下げるつもりはないので、あまり気にしても仕方のないことである。
価値観が違い、次元が違うのだから。
言葉が通じないのだから。
仕方がないだろう。
それに、好かれなくても嫌われても、必要とされればそれでいいのだ。
「なんで他人のためにここまでできんの? すげーとは思うけど、ここまで行くと正直気持ち悪いよ」
そして、これらの辛辣な発言を受け入れることができた最大の理由は、この展開をある程度予想していたからだ。
努力や根性や信念を嫌い、それらを掲げる人間を嫌う紫原君相手に好かれるはずはないと、予め覚悟していたことが大きいと思う。
そうでなければ――
そうでなければ、ここまで頭越しに嫌われても何も感じないなんてことはないはずだ。
「誰にでも都合が良すぎて、気持ち悪い」
その意見に、私はこう返した。
そうか、と。
たった一言そう返して、頷いた。
紫原君の意見は理解できるし、私も転生しなければ一生こんな志など抱かなかった。
私だって生まれた時からこういう性格をしていたわけではないのだ。
凡人だった頃を記憶している分、体験している分、今が色々な面で逸脱していることくらいは自覚している。
だから同意することで、充分に共感を示したのだが――
「そういうのもウザいんだけど」
対する紫原君の共感は全く得られなかった。
残念だが、これも仕方がない。
嫌われても気持ち悪くても受け入れてほしい、幸せになりたい気持ちは、やはりこの世界の人々には理解しがたいのだろう。