中学一年生
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赤司君の計画の全容を知ったのは、その日の放課後――部活が始まる直前のことだ。
いつも通りマネージャーの先輩から指示を仰ごうとすると、突然驚愕の宣告を受けたのだ。
「藍良ちゃん、なんか貴女、今日から一軍専属になるみたいだよ」
「はい?」
思わず聞き返してしまったのは仕方がないだろう。
色々言いたいことはあるが、そもそも何だ、一軍専属って。
原作にそんな制度あったか?
「一年生のマネージャーって、今まで色んな雑用を幅広くやってきたじゃない?」
「はい」
「それを、今日から一軍選手のトレーニングメニュー作成とか体調管理とか、直接的なサポートに専念してほしいんだって。今後の業務内容はコーチや主将から直接指示されるらしいよ」
先輩の説明を噛み砕くと、察するに私が任されようとしている仕事は、原作でデータ収集をしていたさつきちゃんと同格の役職なのだと思われる。
……え、まじで?
指示を反芻し理解したことで、一気に頭が冷えた。
「良かったね、大出世じゃん」
大出世すぎるだろ、と声を大にして突っ込みたい。
わざわざ注釈するまでもないことが、一軍とは公式戦のレギュラーを擁する、言うなれば部の大切な要なのだ。
それを、つい先日まで小学生だった奴に任せるつもりか?
現段階では、さつきちゃんだってまだ普通のマネージャー業しか任されていないというのに。
「あれ、藍良ちゃん嬉しくないの?」
「嬉しいというより戸惑っております」
果たして認められているのか、試されているのか。
特に、今日は赤司君のことがあったので、余計に疑心暗鬼になっているのかもしれない。
「お言葉ですが、私にはまだ実力不足かと思います」
「藍良ちゃんで実力不足なら、この学校に相応しい人いないよ」
「私はまだ一年です」
「充分だって」
「まだ入部して二週間も経ってません」
「遅いくらいじゃない?」
なんだこの先輩、私の評価が甘すぎないか?
確かに私も最終的にはすべての選手を支えられるようになるつもりでいるが、それには最低でも一年はかかると踏んでいたのだ。
踏んでいたのだが。
「……しかし、何故今日突然――」
疑問を口に出そうとした瞬間、とんでもない可能性が頭をよぎった。
今日は一体何があったか。
この人事異動を指示したであろうバスケ部の主要人物達と、今日とんでもないイベントがあったじゃないか。
もしも“あれ”が元凶だとしたら――仕組んだのは、一体誰だったか。
脳内で恐ろしい憶測が構築され冷や汗を流す私に、先輩は容赦ない事実を告げた。
「あたしもよく分かんないんだけど、今日の昼休みに一軍練習メニューの助言が的確で適切だったから――って、主将が言ってたよ」
「………」
頭の中で、すべてのピースがぴったり当てはまった。
つまり、赤司君は、最初から私を一軍専属 する気だったのだ。
最初から――前からずっとその機会を狙っていたのか、今日私と会話している時に思いついたのかは判断しかねるが。
どちらにせよ、つくづく隙のない中学生だと実感する。
何においても無敗であることより、この完成度の高さこそ赤司征十郎の真髄だろう。
やはり一度や二度敗北した程度で揺らぐものではないのだ。
閑話休題。
先述したように、いずれ一軍専属 なる気でいたので赤司君の企ては全く迷惑ではないのだが、やはり時期尚早ではないか、という不安がつきまとう。
そんな複雑な心情で第一体育館に辿り着き、やっと腹を括ったところで扉を開けた。
「失礼します。藍良莉乃です」
体育館の中を見渡して、ごくりと息をのむ。
登場した途端、張り詰めた空気が肌に刺さるような錯覚を起こした。
当然だがこの時期の一軍はほとんどが上級生だし、壁際では真田コーチが常に目を光らせているので、室内の緊張感は並ではない。
そういえば、まだ一軍の体育館に入ったことはなかったな。
やはり何かの手違いではないか、と危惧する前に主将から入室の許可が下りたので、主将とコーチの元へ歩み寄っていく。
「お、来たか莉乃!」
扉から一番近くにいた青峰君が嬉しそうに声を掛けてきた。
「今日から一軍専属になったんだって? さすがだな」
「ああ。よろしくな」
「折角だし、部活終わったらワンオンワンしよーぜ!」
「……考えておくよ」
こんな具合に一年生も上級生も温かく迎え入れてくれたが、唯一緑間君だけは鋭い視線でこちらを凝視している。
まあ、今日いざこざがあったばかりなので、当然と言えば当然か。
主将とコーチの前で立ち止まると、主将が優しく声を掛けた。
「急な話で悪いな、藍良。だがこれは監督による決定事項だ」
「はい。精一杯務めさせて頂く所存です」
既に覚悟を決めた後だったので、すんなりと答えることができた。
すると、その態度をじっと観察していたコーチが厳かに口を開いた。
「一年で一軍専属のマネージャーになるというのは極めて異例なことだ。だが能力は申し分ないし私も異論はない」
「ありがとうございます」
「藍良、一軍選手の使命を知っているか?」
「勝つことです」
「そうだ。そして、今日からお前の使命は選手を勝たせることだ。肝に銘じておけ」
「――はい!」
威勢よく返事をしたのだが、まあ、人生とは思い通りにいかないものだ。
私の使命。
“藍良莉乃”の使命。
黒子テツヤは『勝つこと』という使命の果てに『“勝利”とは何か』という壁にぶつかった。
ならば。
“幸福”とは一体何か、“救済”とはどういうことか。
いずれ“私”がそんな疑問に悩まされることになるのは、きっと必然だったのだろう。
「ようこそ、帝光バスケ部一軍へ」
いつも通りマネージャーの先輩から指示を仰ごうとすると、突然驚愕の宣告を受けたのだ。
「藍良ちゃん、なんか貴女、今日から一軍専属になるみたいだよ」
「はい?」
思わず聞き返してしまったのは仕方がないだろう。
色々言いたいことはあるが、そもそも何だ、一軍専属って。
原作にそんな制度あったか?
「一年生のマネージャーって、今まで色んな雑用を幅広くやってきたじゃない?」
「はい」
「それを、今日から一軍選手のトレーニングメニュー作成とか体調管理とか、直接的なサポートに専念してほしいんだって。今後の業務内容はコーチや主将から直接指示されるらしいよ」
先輩の説明を噛み砕くと、察するに私が任されようとしている仕事は、原作でデータ収集をしていたさつきちゃんと同格の役職なのだと思われる。
……え、まじで?
指示を反芻し理解したことで、一気に頭が冷えた。
「良かったね、大出世じゃん」
大出世すぎるだろ、と声を大にして突っ込みたい。
わざわざ注釈するまでもないことが、一軍とは公式戦のレギュラーを擁する、言うなれば部の大切な要なのだ。
それを、つい先日まで小学生だった奴に任せるつもりか?
現段階では、さつきちゃんだってまだ普通のマネージャー業しか任されていないというのに。
「あれ、藍良ちゃん嬉しくないの?」
「嬉しいというより戸惑っております」
果たして認められているのか、試されているのか。
特に、今日は赤司君のことがあったので、余計に疑心暗鬼になっているのかもしれない。
「お言葉ですが、私にはまだ実力不足かと思います」
「藍良ちゃんで実力不足なら、この学校に相応しい人いないよ」
「私はまだ一年です」
「充分だって」
「まだ入部して二週間も経ってません」
「遅いくらいじゃない?」
なんだこの先輩、私の評価が甘すぎないか?
確かに私も最終的にはすべての選手を支えられるようになるつもりでいるが、それには最低でも一年はかかると踏んでいたのだ。
踏んでいたのだが。
「……しかし、何故今日突然――」
疑問を口に出そうとした瞬間、とんでもない可能性が頭をよぎった。
今日は一体何があったか。
この人事異動を指示したであろうバスケ部の主要人物達と、今日とんでもないイベントがあったじゃないか。
もしも“あれ”が元凶だとしたら――仕組んだのは、一体誰だったか。
脳内で恐ろしい憶測が構築され冷や汗を流す私に、先輩は容赦ない事実を告げた。
「あたしもよく分かんないんだけど、今日の昼休みに一軍練習メニューの助言が的確で適切だったから――って、主将が言ってたよ」
「………」
頭の中で、すべてのピースがぴったり当てはまった。
つまり、赤司君は、最初から私を
最初から――前からずっとその機会を狙っていたのか、今日私と会話している時に思いついたのかは判断しかねるが。
どちらにせよ、つくづく隙のない中学生だと実感する。
何においても無敗であることより、この完成度の高さこそ赤司征十郎の真髄だろう。
やはり一度や二度敗北した程度で揺らぐものではないのだ。
閑話休題。
先述したように、いずれ
そんな複雑な心情で第一体育館に辿り着き、やっと腹を括ったところで扉を開けた。
「失礼します。藍良莉乃です」
体育館の中を見渡して、ごくりと息をのむ。
登場した途端、張り詰めた空気が肌に刺さるような錯覚を起こした。
当然だがこの時期の一軍はほとんどが上級生だし、壁際では真田コーチが常に目を光らせているので、室内の緊張感は並ではない。
そういえば、まだ一軍の体育館に入ったことはなかったな。
やはり何かの手違いではないか、と危惧する前に主将から入室の許可が下りたので、主将とコーチの元へ歩み寄っていく。
「お、来たか莉乃!」
扉から一番近くにいた青峰君が嬉しそうに声を掛けてきた。
「今日から一軍専属になったんだって? さすがだな」
「ああ。よろしくな」
「折角だし、部活終わったらワンオンワンしよーぜ!」
「……考えておくよ」
こんな具合に一年生も上級生も温かく迎え入れてくれたが、唯一緑間君だけは鋭い視線でこちらを凝視している。
まあ、今日いざこざがあったばかりなので、当然と言えば当然か。
主将とコーチの前で立ち止まると、主将が優しく声を掛けた。
「急な話で悪いな、藍良。だがこれは監督による決定事項だ」
「はい。精一杯務めさせて頂く所存です」
既に覚悟を決めた後だったので、すんなりと答えることができた。
すると、その態度をじっと観察していたコーチが厳かに口を開いた。
「一年で一軍専属のマネージャーになるというのは極めて異例なことだ。だが能力は申し分ないし私も異論はない」
「ありがとうございます」
「藍良、一軍選手の使命を知っているか?」
「勝つことです」
「そうだ。そして、今日からお前の使命は選手を勝たせることだ。肝に銘じておけ」
「――はい!」
威勢よく返事をしたのだが、まあ、人生とは思い通りにいかないものだ。
私の使命。
“藍良莉乃”の使命。
黒子テツヤは『勝つこと』という使命の果てに『“勝利”とは何か』という壁にぶつかった。
ならば。
“幸福”とは一体何か、“救済”とはどういうことか。
いずれ“私”がそんな疑問に悩まされることになるのは、きっと必然だったのだろう。
「ようこそ、帝光バスケ部一軍へ」