中学一年生
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「それで話を戻すが、緑間をどうするつもりだ?」
「勿論、今日中に彼と話し合って誤解を解くつもりだ」
そううまくいくかは分からないが、とにかく彼の貴重な中学時代をこれ以上浪費させるわけにはいかない。
こんな不毛な因縁は早々に断ち切るに限る。
「オレから説明しておこうか?」
「いや、自分で蒔いた種だ。自分でなんとかするよ」
赤司君の提案を今度こそきちんと断った。
さすがにそこまで彼に甘えるわけにはいかない。
今の状況でさえ、罪悪感で押し潰されそうなのだ。
「だが、今日の緑間の態度を鑑みると、藍良の説得にそう簡単に応じないと思うんだが」
「だよなあ。やはり、あの時きちんと弁明しておくべきだった」
彼の圧力とラッキーアイテムの可愛さに流されてしまったのが敗因だ。
特に後者は我ながら馬鹿な理由だと思う。
でも、あのぬいぐるみ可愛かったな。
何処で売ってるんだろう。
「その上、緑間はプライドが高い。普通に説明しただけでは納得してくれないだろうな」
「そうだな」
「ある程度親交が深い者の言葉なら話は別だろうが」
「一理あるな。けれど、私は今日話したばかりだからな」
「もしかしたら、第三者の言葉の方が聞き入れやすいかもしれない」
「そういう見方もあるな」
「そういうわけで、やはりオレから緑間に伝えておこう」
「そうだ……え?」
あれ?
今、何が起きた?
聞き間違いでなければ、先ほど断ったはずの案件が舞い戻って来たぞ。
「あの、赤司君――」
「あ、ここじゃないか、次の掲示板は」
赤司君が指した方向に目を向けると、確かに次にチラシを貼るべき掲示板がある。
いつの間にか、目的の場所に辿り着いていたらしい。
……いや、今はそんなことはどうでもいいのだが。
なんだか、先ほどに引き続き取り返しのつかない事態に見舞われた気がするのだが。
マイペースにチラシを貼る赤司君に、慌てて反論を試みる。
「赤司君、今のは一体どういう――」
「言葉通りの意味だよ。それはそうと、画鋲を貸してくれるか」
「え、あ、はいどうぞ。……いや、さすがにそこまで赤司君に甘えるわけにはいかないよ。これは私の問題だから、ちゃんと自分で――」
「藍良、そっちの掲示板に貼る分は任せてもいいか?」
「ああ。承った。……だからな、関係ない君をこれ以上巻き込むわけには――」
「このチラシもこっちに貼ればいいのか?」
「うん。その隣に頼むよ。……そうじゃなくて、なあ、赤司君――」
「藍良」
必死に突破口を模索していると、赤司君は穏やかな口調で呼びかけた。
期待を込めて次の言葉を待っていると、赤司君は一縷の容赦もなくぴしゃりと言い放ったのだ。
「諦めろ」
「………っ!」
無情に告げられた台詞に、耐えきれず壁をばんっと叩いてしまった。
結構音が響いたが、周囲に他の人がいないことが幸いした。
「何をしてるんだ。早く終わらせよう」
「……そうだな」
なんとか声を絞り出し、打ちひしがれながら作業を再開する。
――いや、もう無意味な張り合いはやめよう。
黙々と手を動かしながら、弱々しくそんな風に思い至った。
彼が途方もなくすごい人物なのは自明だし、私は彼に一泡吹かせるために生きているのではない。
彼の手腕を素直に認め、この鮮やかな手口を存分に参考にすることこそが、今私が成すべきことだ。
敗北を自分の糧にしよう。
それに、話術や緑間君からの信頼度は、赤司君の方がはるかに上なのだ。
緑間君のことを考えれば、彼に一任するのが正解かもしれない。
そこまで考えて、横目で赤司君を盗み見る。
私の仕事に付き合わせてしまい、目下雑用に取り組んでいる彼を視認する。
……やはり、いくらなんでも甘えすぎだよな。
赤司君にどんな意図があるか知らないが、ただでさえ多忙な彼にこれ以上迷惑をかけてはいけない。
思い切って断ろうと息を吸った時、赤司君は作業を続けながら思い出したように付け加えた。
「それにオレにも関係はある。何しろ青峰との試合の後、緑間に藍良のことを色々訊かれたからな」
思えばあの時きちんと説明しなかったのが原因だな、と赤司君は呟いた。
「オレだって、初めて会った時に藍良から決意表明を聞いていなければ、緑間のように闘争心を燃やしていただろう。緑間のように、お前のことを勘違いしていた」
赤司君は出会った頃を思い出すように目を細めながら語った。
勘違い。
人のために生きる私を敵 だと思い込む。
皆のために尽くす私を敵対視する。
読者 を登場人物と勘違いし、異端者 を仲間と勘違いする。
私に対抗心を燃やしたところで、得るものは何もない。
勝利は何の自慢にもならないし、敗北は何の糧にもならない。
いくら好かれても尊敬されても、嫌われても敵対されても、私と彼らは決して交わらない。
文字通り、次元が違うのだから。
それはさておき、緑間君の話はそこで有耶無耶になり、赤司君のおかげで私の仕事はすべて終了した。
そして、約束通り赤司君の仕事を手伝うことになった時である――赤司君の本当の計画が発動したのは。
赤司君に先導される形で辿り着いた先は、部室棟にあるバスケ部のミーティングルームだった。
この時点で猛烈に嫌な予感がしたのだが、赤司君がドアをノックして開けた瞬間、予感は確信に変わった。
ミーティングルームには白金監督、真田コーチ、虹村先輩、久保田先輩など、バスケ部の重鎮達が勢揃いしていたのだ。
「お前に頼みたい仕事は、オレ達と一緒に一軍の練習メニューの改善点を考えてほしいんだ」
振り返った赤司君は、実に美しい笑みを湛えていた。
それは勝者の笑みだったかもしれない。
――私の使命は多くの人を救うこと。
先生のパシリも友達の依頼も立派な業務の一貫だ。
だが、一体誰がこんな大仕事を予想できただろうか。
赤司君、君は一日に何度私を負かしたら気が済むんだ?
立ち尽くす私の背中を押しながら、彼は耳元で囁いた。
「代わりというわけじゃないが、緑間のことは任せてくれ」
そう、意趣返しされた。
ちくしょう。
すべては赤司征十郎の手の平の上。
漫画の中で誰かが言った台詞を、私はこの身をもって思い知った。
「勿論、今日中に彼と話し合って誤解を解くつもりだ」
そううまくいくかは分からないが、とにかく彼の貴重な中学時代をこれ以上浪費させるわけにはいかない。
こんな不毛な因縁は早々に断ち切るに限る。
「オレから説明しておこうか?」
「いや、自分で蒔いた種だ。自分でなんとかするよ」
赤司君の提案を今度こそきちんと断った。
さすがにそこまで彼に甘えるわけにはいかない。
今の状況でさえ、罪悪感で押し潰されそうなのだ。
「だが、今日の緑間の態度を鑑みると、藍良の説得にそう簡単に応じないと思うんだが」
「だよなあ。やはり、あの時きちんと弁明しておくべきだった」
彼の圧力とラッキーアイテムの可愛さに流されてしまったのが敗因だ。
特に後者は我ながら馬鹿な理由だと思う。
でも、あのぬいぐるみ可愛かったな。
何処で売ってるんだろう。
「その上、緑間はプライドが高い。普通に説明しただけでは納得してくれないだろうな」
「そうだな」
「ある程度親交が深い者の言葉なら話は別だろうが」
「一理あるな。けれど、私は今日話したばかりだからな」
「もしかしたら、第三者の言葉の方が聞き入れやすいかもしれない」
「そういう見方もあるな」
「そういうわけで、やはりオレから緑間に伝えておこう」
「そうだ……え?」
あれ?
今、何が起きた?
聞き間違いでなければ、先ほど断ったはずの案件が舞い戻って来たぞ。
「あの、赤司君――」
「あ、ここじゃないか、次の掲示板は」
赤司君が指した方向に目を向けると、確かに次にチラシを貼るべき掲示板がある。
いつの間にか、目的の場所に辿り着いていたらしい。
……いや、今はそんなことはどうでもいいのだが。
なんだか、先ほどに引き続き取り返しのつかない事態に見舞われた気がするのだが。
マイペースにチラシを貼る赤司君に、慌てて反論を試みる。
「赤司君、今のは一体どういう――」
「言葉通りの意味だよ。それはそうと、画鋲を貸してくれるか」
「え、あ、はいどうぞ。……いや、さすがにそこまで赤司君に甘えるわけにはいかないよ。これは私の問題だから、ちゃんと自分で――」
「藍良、そっちの掲示板に貼る分は任せてもいいか?」
「ああ。承った。……だからな、関係ない君をこれ以上巻き込むわけには――」
「このチラシもこっちに貼ればいいのか?」
「うん。その隣に頼むよ。……そうじゃなくて、なあ、赤司君――」
「藍良」
必死に突破口を模索していると、赤司君は穏やかな口調で呼びかけた。
期待を込めて次の言葉を待っていると、赤司君は一縷の容赦もなくぴしゃりと言い放ったのだ。
「諦めろ」
「………っ!」
無情に告げられた台詞に、耐えきれず壁をばんっと叩いてしまった。
結構音が響いたが、周囲に他の人がいないことが幸いした。
「何をしてるんだ。早く終わらせよう」
「……そうだな」
なんとか声を絞り出し、打ちひしがれながら作業を再開する。
――いや、もう無意味な張り合いはやめよう。
黙々と手を動かしながら、弱々しくそんな風に思い至った。
彼が途方もなくすごい人物なのは自明だし、私は彼に一泡吹かせるために生きているのではない。
彼の手腕を素直に認め、この鮮やかな手口を存分に参考にすることこそが、今私が成すべきことだ。
敗北を自分の糧にしよう。
それに、話術や緑間君からの信頼度は、赤司君の方がはるかに上なのだ。
緑間君のことを考えれば、彼に一任するのが正解かもしれない。
そこまで考えて、横目で赤司君を盗み見る。
私の仕事に付き合わせてしまい、目下雑用に取り組んでいる彼を視認する。
……やはり、いくらなんでも甘えすぎだよな。
赤司君にどんな意図があるか知らないが、ただでさえ多忙な彼にこれ以上迷惑をかけてはいけない。
思い切って断ろうと息を吸った時、赤司君は作業を続けながら思い出したように付け加えた。
「それにオレにも関係はある。何しろ青峰との試合の後、緑間に藍良のことを色々訊かれたからな」
思えばあの時きちんと説明しなかったのが原因だな、と赤司君は呟いた。
「オレだって、初めて会った時に藍良から決意表明を聞いていなければ、緑間のように闘争心を燃やしていただろう。緑間のように、お前のことを勘違いしていた」
赤司君は出会った頃を思い出すように目を細めながら語った。
勘違い。
人のために生きる私を
皆のために尽くす私を敵対視する。
私に対抗心を燃やしたところで、得るものは何もない。
勝利は何の自慢にもならないし、敗北は何の糧にもならない。
いくら好かれても尊敬されても、嫌われても敵対されても、私と彼らは決して交わらない。
文字通り、次元が違うのだから。
それはさておき、緑間君の話はそこで有耶無耶になり、赤司君のおかげで私の仕事はすべて終了した。
そして、約束通り赤司君の仕事を手伝うことになった時である――赤司君の本当の計画が発動したのは。
赤司君に先導される形で辿り着いた先は、部室棟にあるバスケ部のミーティングルームだった。
この時点で猛烈に嫌な予感がしたのだが、赤司君がドアをノックして開けた瞬間、予感は確信に変わった。
ミーティングルームには白金監督、真田コーチ、虹村先輩、久保田先輩など、バスケ部の重鎮達が勢揃いしていたのだ。
「お前に頼みたい仕事は、オレ達と一緒に一軍の練習メニューの改善点を考えてほしいんだ」
振り返った赤司君は、実に美しい笑みを湛えていた。
それは勝者の笑みだったかもしれない。
――私の使命は多くの人を救うこと。
先生のパシリも友達の依頼も立派な業務の一貫だ。
だが、一体誰がこんな大仕事を予想できただろうか。
赤司君、君は一日に何度私を負かしたら気が済むんだ?
立ち尽くす私の背中を押しながら、彼は耳元で囁いた。
「代わりというわけじゃないが、緑間のことは任せてくれ」
そう、意趣返しされた。
ちくしょう。
すべては赤司征十郎の手の平の上。
漫画の中で誰かが言った台詞を、私はこの身をもって思い知った。