中学一年生
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「随分浮かない顔をしているな」
昼休みに廊下で作業する私に、赤司君が近づいてきてそう言った。
今日は廊下での“キセキの世代”エンカウント率が高いな。
一旦手を止め、優雅に腕を組んで佇む彼に顔を向けた。
「赤司君」
「緑間のことで悩んでいるのか?」
「えっ」
唐突に核心を突かれ、言葉を失った。
心を読まれたのかと一瞬焦ったが、常識的に考えて今日の話を人づてに聞いたのだろう。
確認してみると、案の定そのようだった。
「廊下で喧嘩を売られたんだろう? もう噂になっているよ」
黄瀬君よりは正確な情報だ。
それにしても、そろそろ周囲の情報網が本気で恐ろしいな。
芸能人か何かか、私は。
頬を引き攣らせる私に、赤司君はくすり、と口元だけで微笑んだ。
その仕草が酷く上品で美しく、漫画より絵になっている。
……やはり、絶対にこの人の方が目立つと思うんだがな。
作業を忘れて魅入っていると、赤司君はところで、と会話を区切った。
「藍良は何をしているんだ?」
「見ての通り、掲示板に年間行事のチラシを貼っているんだ。職員室へ行った時、ついでに先生に頼まれてな」
「……ちなみに、あとどれくらい残ってる?」
「ここを除けば、あと五か所だな」
先ほどチラシを必要枚数分コピーし終えたばかりなので、まだ仕事は結構残っている。
もう少し効率よく働かないと、昼食をとり損ねそうだ。
「……ということは、休み時間を返上して働いているのか?」
私の話を聞いた彼は目を見開き、僅かに声を荒らげた。
赤司君にしてはなかなか大仰な表現と反応だった。
確かに勤務時間だけ見ればブラック企業のそれだが、やっていることは中学生のボランティアなので充分セーフだ。
そもそも、多くの人を救うことが私の使命。
先生のパシリも立派な業務の一貫だ。
「……そうか」
赤司君は暫く顎に手を当てて考え込んでいたが、何かを思いついたのか組んだ腕を解いて言った。
「なら、オレも手伝おう」
寝耳に水の発言だった。
思わず声を上げそうになるのをぎりぎりで堪え、努めて冷静に返答する。
「ありがとう。気持ちだけ頂くよ。大した業務じゃないし、この程度ならすぐ終わるから」
というか、赤司君にこんな雑用はさせられない、ファン的に。
しかし、私が断ることは想定済みとばかりに、赤司君はすぐに言葉を続けた。
「ならこうしよう。代わりに藍良は空いた時間でオレの方の仕事を手伝ってくれないか? 勿論、昼食をとった後で」
寝耳に水の提案だった。
普段なら絶対に応じない交換条件だが、私は驚きのあまり決定的な言葉を口走ってしまったのだった。
「いや、赤司君の仕事を手伝うのは全然構わないんだが――」
「よし。交渉成立だ」
反論を途中で遮られ、抱えていたチラシを半分奪われた。
その間は数秒もなかった。
体感にして一瞬の出来事だった。
そして、目の前の掲示板を終えた後、どういうわけか赤司君と並んで次の場所に移動することになったのである。
まさに寝耳に水の展開だ。
同時に、赤司君には敵わないと実感した瞬間でもある。
「……ありがとう、赤司君」
「礼には及ばない」
色々な感情がこもった感謝の言葉は、勝者の余裕でさらりと流された。
なんとなく悔しかったので、意趣返しのつもりで付け加える。
「代わりというわけではないが、君の仕事は最優先で手伝うから、思う存分こき使ってくれ」
「そうか? じゃあそうさせてもらおう」
赤司君はそう言って穏やかに微笑んだ。
ここまで彼の計算通りだったことを、私はこの後存分に思い知る。
昼休みに廊下で作業する私に、赤司君が近づいてきてそう言った。
今日は廊下での“キセキの世代”エンカウント率が高いな。
一旦手を止め、優雅に腕を組んで佇む彼に顔を向けた。
「赤司君」
「緑間のことで悩んでいるのか?」
「えっ」
唐突に核心を突かれ、言葉を失った。
心を読まれたのかと一瞬焦ったが、常識的に考えて今日の話を人づてに聞いたのだろう。
確認してみると、案の定そのようだった。
「廊下で喧嘩を売られたんだろう? もう噂になっているよ」
黄瀬君よりは正確な情報だ。
それにしても、そろそろ周囲の情報網が本気で恐ろしいな。
芸能人か何かか、私は。
頬を引き攣らせる私に、赤司君はくすり、と口元だけで微笑んだ。
その仕草が酷く上品で美しく、漫画より絵になっている。
……やはり、絶対にこの人の方が目立つと思うんだがな。
作業を忘れて魅入っていると、赤司君はところで、と会話を区切った。
「藍良は何をしているんだ?」
「見ての通り、掲示板に年間行事のチラシを貼っているんだ。職員室へ行った時、ついでに先生に頼まれてな」
「……ちなみに、あとどれくらい残ってる?」
「ここを除けば、あと五か所だな」
先ほどチラシを必要枚数分コピーし終えたばかりなので、まだ仕事は結構残っている。
もう少し効率よく働かないと、昼食をとり損ねそうだ。
「……ということは、休み時間を返上して働いているのか?」
私の話を聞いた彼は目を見開き、僅かに声を荒らげた。
赤司君にしてはなかなか大仰な表現と反応だった。
確かに勤務時間だけ見ればブラック企業のそれだが、やっていることは中学生のボランティアなので充分セーフだ。
そもそも、多くの人を救うことが私の使命。
先生のパシリも立派な業務の一貫だ。
「……そうか」
赤司君は暫く顎に手を当てて考え込んでいたが、何かを思いついたのか組んだ腕を解いて言った。
「なら、オレも手伝おう」
寝耳に水の発言だった。
思わず声を上げそうになるのをぎりぎりで堪え、努めて冷静に返答する。
「ありがとう。気持ちだけ頂くよ。大した業務じゃないし、この程度ならすぐ終わるから」
というか、赤司君にこんな雑用はさせられない、ファン的に。
しかし、私が断ることは想定済みとばかりに、赤司君はすぐに言葉を続けた。
「ならこうしよう。代わりに藍良は空いた時間でオレの方の仕事を手伝ってくれないか? 勿論、昼食をとった後で」
寝耳に水の提案だった。
普段なら絶対に応じない交換条件だが、私は驚きのあまり決定的な言葉を口走ってしまったのだった。
「いや、赤司君の仕事を手伝うのは全然構わないんだが――」
「よし。交渉成立だ」
反論を途中で遮られ、抱えていたチラシを半分奪われた。
その間は数秒もなかった。
体感にして一瞬の出来事だった。
そして、目の前の掲示板を終えた後、どういうわけか赤司君と並んで次の場所に移動することになったのである。
まさに寝耳に水の展開だ。
同時に、赤司君には敵わないと実感した瞬間でもある。
「……ありがとう、赤司君」
「礼には及ばない」
色々な感情がこもった感謝の言葉は、勝者の余裕でさらりと流された。
なんとなく悔しかったので、意趣返しのつもりで付け加える。
「代わりというわけではないが、君の仕事は最優先で手伝うから、思う存分こき使ってくれ」
「そうか? じゃあそうさせてもらおう」
赤司君はそう言って穏やかに微笑んだ。
ここまで彼の計算通りだったことを、私はこの後存分に思い知る。