中学一年生
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なだれ込むように帰宅すると、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
倦怠感が身体を支配し、動くことすらままならない。
まだ初日だというのにとんでもなく疲れた。
いや、初日だからこそだろうか。
しかし、一度目の中学校の入学式はここまで疲れなかったはずだ。
思い返せば、今日一日だけで前世での一か月分に相当する濃度だった。
胃もたれしそうだ。
濃ければいいってもんじゃない。
無意識にため息が出たが、同時に口元が緩むのを抑えきれなかった。
そのうち意味もなく笑い声が漏れた。
第三者に今の様子を目撃されたら、頭がおかしいと思われても不思議ではない。
しかし、それでも堪え切れなかった。
堪え切れないほど、この世界は楽しかった。
楽しくて仕方がない。
嬉しくて仕方がない。
何せ、私が今日得たものは、前世では決して手に入らなかったものばかりなのだ。
目まぐるしい非日常に対する高揚感。
彼らと同じ世界を生きられる。
彼らと関わりながら生きられる。
彼らのために努力できる。
彼らの幸せに繋がるかもしれない努力ができる。
だから、今は身体を支配するこの倦怠感すら愛おしいのだ。
この世界が愛おしい。
この世界を愛している。
そう実感しながら生きている私は、きっと誰より幸せ者だ。
暫くにやけながらベッドに身を沈ませていたが、ふと大事なことを思い出し、勢いよく顔を起こした。
「そうだ! 今日のことを書き留めておかなければ」
忘れないうちにと、重い身体に鞭を打ち、部屋の中央のローテーブルの前まで這うように移動した。
テーブルの上に置かれたノートの新しいページを捲り、近くにあったペンを手に取った。
そして、記憶している限りの情報を書き留めていく。
今日あった出来事、出会った人物、交わした会話、相手の反応、私の感想、原作との共通点、相違点、エトセトラ。
一通り書き終えると、一息吐いて書いたばかりの文章を眺めた。
そして、誰もいない部屋で呟いた。
「やはり、一番気になるのは黄瀬君のことだよなあ」
黄瀬君との会話を記した部分を指でなぞる。
書いている間もずっと頭を巡らせていたが、彼の態度は全く説明がつかない。
やはり、本人に直接訊くしかないのだろう。
もしかしたら、今後の生き方の指針のヒントになるかもしれない。
残りの“キセキの世代”は今後挨拶する機会もあるだろうから、ひとまず保留。
しかし、黒子テツヤは要観察。
物語の本筋に影響が出ない程度にアドバイスくらいは出せるようにしよう。
特に、今日のような思いはしないですむように、万全の態勢を整えなくてはならない。
「万全――ならば、やはり“これ”も必要だよな」
ノートに、『バスケットスキルの向上』と書き加えた。
入学する前にあらかたスポーツは極めたし、当然バスケも例外ではない。
どころか、恐らく覚醒する前の彼らならば抑えることはできると自負している。
しかし、もしかしたらそれではまだ甘いのかもしれない。
後に“キセキの世代”と謳われる、十年に一人の天才達。
そして、その天才達から一目置かれる“幻の六人目 ”。
今日、実際にあの人数のライバル達を押しのけ頂点に立つ人間を目の当たりにした時、自分の認識が甘かったと確信した。
全国の猛者が凡百と変わらず霞むほどの天才性。
そして、それを支える凄まじい努力。
まさに次元が違う。
レベルが違う。
それらを理解した上で、今のレベルで満足しているだけでは駄目だと思い知った。
抑えるだけでは駄目だ。
紫原君風に言うなら、『ヒネリつぶす』くらいでなくては。
そもそも、私が真価を発揮しなければならないのは、具体的に彼らの歯車が狂い出すのは、彼らが覚醒した後の話である。
今の段階で満足しているようでは到底足りない。
自分への過信と慢心と油断が、今日のような出来事を生んでしまうのだ。
黒子君を救えなかった時のように、自分の無能さを思い知ることになるのだ。
そういうわけで、早速明日から始める新しいトレーニングをノートに書き記した。
二十分後、完成したトレーニングメニューを眺めながら、いつの間にか額にかいた汗をぬぐった。
知識を集約してメニューを作成するという作業は、相当頭と体力を酷使する。
それを踏まえると、バスケ部監督を担う相田リコは尊敬に値する女子高生だ。
私もあんな風に他人に尽くせる人間になりたいものである。
ともあれ、完成したメニューは贔屓目に見てもとても女子中学生がこなすような内容ではないが、この世界に生まれた以上は不可欠な努力に違いない。
人事を尽くし、他人に尽くせ。
自分の力のすべてをもって。
「――あ、いけない。忘れるところだった」
ふとあることを思い出し、急いでペンを取り上げると、ページの最後にこう付け加えた。
『本日の教訓:自宅以外、決して気を抜いてはいけない』
本日というか、永遠の教訓だろう。
今日の反省は多々あるが、その原因は主に“これ”だ。
赤司君との邂逅は仕方ないとしても、黄瀬君の時はあまりにみっともない対応だった。
黄瀬君が私にあんな態度を取る理由も、あの時訊いておくのがベストだったのだ。
黒子君の場合にいたっては弁解のしようもない。
とりあえず、あそこのバスケットコートは今後も要注意だ。
近所に他のコートがない以上、何かあればあそこに人が集中することがあるかもしれない。
誰があの場所に現れてもいいように、心の準備を整えておくべきだ。
色々浮かんできた対策をまとめるように、一旦息を吐いた。
そして、最後にノートを読み返し、書き終えたペンをテーブルの上に放り投げた。
「これでよし。さて、今日の仕事は終了っと」
中学生活一日目。
正真正銘、長い一日が終わった。
明日も頑張って生きよう。
倦怠感が身体を支配し、動くことすらままならない。
まだ初日だというのにとんでもなく疲れた。
いや、初日だからこそだろうか。
しかし、一度目の中学校の入学式はここまで疲れなかったはずだ。
思い返せば、今日一日だけで前世での一か月分に相当する濃度だった。
胃もたれしそうだ。
濃ければいいってもんじゃない。
無意識にため息が出たが、同時に口元が緩むのを抑えきれなかった。
そのうち意味もなく笑い声が漏れた。
第三者に今の様子を目撃されたら、頭がおかしいと思われても不思議ではない。
しかし、それでも堪え切れなかった。
堪え切れないほど、この世界は楽しかった。
楽しくて仕方がない。
嬉しくて仕方がない。
何せ、私が今日得たものは、前世では決して手に入らなかったものばかりなのだ。
目まぐるしい非日常に対する高揚感。
彼らと同じ世界を生きられる。
彼らと関わりながら生きられる。
彼らのために努力できる。
彼らの幸せに繋がるかもしれない努力ができる。
だから、今は身体を支配するこの倦怠感すら愛おしいのだ。
この世界が愛おしい。
この世界を愛している。
そう実感しながら生きている私は、きっと誰より幸せ者だ。
暫くにやけながらベッドに身を沈ませていたが、ふと大事なことを思い出し、勢いよく顔を起こした。
「そうだ! 今日のことを書き留めておかなければ」
忘れないうちにと、重い身体に鞭を打ち、部屋の中央のローテーブルの前まで這うように移動した。
テーブルの上に置かれたノートの新しいページを捲り、近くにあったペンを手に取った。
そして、記憶している限りの情報を書き留めていく。
今日あった出来事、出会った人物、交わした会話、相手の反応、私の感想、原作との共通点、相違点、エトセトラ。
一通り書き終えると、一息吐いて書いたばかりの文章を眺めた。
そして、誰もいない部屋で呟いた。
「やはり、一番気になるのは黄瀬君のことだよなあ」
黄瀬君との会話を記した部分を指でなぞる。
書いている間もずっと頭を巡らせていたが、彼の態度は全く説明がつかない。
やはり、本人に直接訊くしかないのだろう。
もしかしたら、今後の生き方の指針のヒントになるかもしれない。
残りの“キセキの世代”は今後挨拶する機会もあるだろうから、ひとまず保留。
しかし、黒子テツヤは要観察。
物語の本筋に影響が出ない程度にアドバイスくらいは出せるようにしよう。
特に、今日のような思いはしないですむように、万全の態勢を整えなくてはならない。
「万全――ならば、やはり“これ”も必要だよな」
ノートに、『バスケットスキルの向上』と書き加えた。
入学する前にあらかたスポーツは極めたし、当然バスケも例外ではない。
どころか、恐らく覚醒する前の彼らならば抑えることはできると自負している。
しかし、もしかしたらそれではまだ甘いのかもしれない。
後に“キセキの世代”と謳われる、十年に一人の天才達。
そして、その天才達から一目置かれる“幻の
今日、実際にあの人数のライバル達を押しのけ頂点に立つ人間を目の当たりにした時、自分の認識が甘かったと確信した。
全国の猛者が凡百と変わらず霞むほどの天才性。
そして、それを支える凄まじい努力。
まさに次元が違う。
レベルが違う。
それらを理解した上で、今のレベルで満足しているだけでは駄目だと思い知った。
抑えるだけでは駄目だ。
紫原君風に言うなら、『ヒネリつぶす』くらいでなくては。
そもそも、私が真価を発揮しなければならないのは、具体的に彼らの歯車が狂い出すのは、彼らが覚醒した後の話である。
今の段階で満足しているようでは到底足りない。
自分への過信と慢心と油断が、今日のような出来事を生んでしまうのだ。
黒子君を救えなかった時のように、自分の無能さを思い知ることになるのだ。
そういうわけで、早速明日から始める新しいトレーニングをノートに書き記した。
二十分後、完成したトレーニングメニューを眺めながら、いつの間にか額にかいた汗をぬぐった。
知識を集約してメニューを作成するという作業は、相当頭と体力を酷使する。
それを踏まえると、バスケ部監督を担う相田リコは尊敬に値する女子高生だ。
私もあんな風に他人に尽くせる人間になりたいものである。
ともあれ、完成したメニューは贔屓目に見てもとても女子中学生がこなすような内容ではないが、この世界に生まれた以上は不可欠な努力に違いない。
人事を尽くし、他人に尽くせ。
自分の力のすべてをもって。
「――あ、いけない。忘れるところだった」
ふとあることを思い出し、急いでペンを取り上げると、ページの最後にこう付け加えた。
『本日の教訓:自宅以外、決して気を抜いてはいけない』
本日というか、永遠の教訓だろう。
今日の反省は多々あるが、その原因は主に“これ”だ。
赤司君との邂逅は仕方ないとしても、黄瀬君の時はあまりにみっともない対応だった。
黄瀬君が私にあんな態度を取る理由も、あの時訊いておくのがベストだったのだ。
黒子君の場合にいたっては弁解のしようもない。
とりあえず、あそこのバスケットコートは今後も要注意だ。
近所に他のコートがない以上、何かあればあそこに人が集中することがあるかもしれない。
誰があの場所に現れてもいいように、心の準備を整えておくべきだ。
色々浮かんできた対策をまとめるように、一旦息を吐いた。
そして、最後にノートを読み返し、書き終えたペンをテーブルの上に放り投げた。
「これでよし。さて、今日の仕事は終了っと」
中学生活一日目。
正真正銘、長い一日が終わった。
明日も頑張って生きよう。