中学一年生
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校門をくぐったところで、赤司君の携帯電話に着信が入ったらしく、私達は別れた。
颯爽と去っていく彼の背中が小さくなったところで、こっそり息を吐き出した。
短い時間、僅かな会話だったが、思った以上に緊張していたようで、春にも関わらず背中にはじっとり汗をかいていた。
これからあの人と同じ学校に通うのかと考えると恐ろしい。
ともかく気を取り直し、気合を入れ直し、帝光中学校の敷地内を歩いていく。
しかし、校内は新入生だけでなく部活勧誘に勤しむ上級生でも溢れかえり、全く思うように進めない。
数歩進めば人の波に阻まれ、勧誘のチラシに捕まってしまう。
普段なら歩くのに一分もかからないであろう距離が、果てしなく遠く感じる。
この人混みの中で誰からも声を掛けられない、誰の視線にも留まらないというのだから、やはり黒子テツヤは並外れている。
苦労しながらなんとか校舎まで辿り着き、校舎前の掲示板に貼られたクラス名簿を見つけた。
自分のクラスとクラスメイトの名前を確認し、ついでに他クラスの生徒も把握したところで、踵を返し人混みから離れた位置まで移動した。
掲示板に書かれた指示によると、新入生は自分のクラスを確認したら教室に入り、入学式開始時刻まで待機することになっている。
逆に言えば、入学式が始まるまでに教室に入ればいいのだ。
時計を確認すると、入学式開始まで二十分近く余裕がある。
本来はクラスメイト同士の交流を目的とした時間だろうが、別に友達作りは今日でなくても構わない。
クラスメイトを確認したが、赤司君以外に攻略が難しそうなキャラクターはいなかった。
そして、その赤司君は先ほど予想外の交流を果たしたし、現段階ではそれ以上の親交は望めないだろう。
ならば、他に難易度の高い人物に先に会っておきたい。
教室に入るのはぎりぎりでも問題ないだろう。
今日の予定は、入学式後、各自のクラスでホームルームが終われば自由解散となっている。
しかし、今日から一週間部活見学の期間でもあるので、大半の生徒は興味のある部活を見学したり部の説明を聞いたりするために学校に残る流れになりそうだ。
私もそれに倣うつもりだが、ホームルームが終わり次第バスケ部に直行しなければならないし、いざ部活が始まればとても他のことに気を取られている暇はなくなるだろう。
つまり、事実上今日はこれが主要キャラクターと交流を深める最後の機会なのだ。
この時間内にできればあと一人くらいと面識を持っておきたい。
あと一人くらい、と曖昧な表現を使ったものの、会いたい人物は既に決まっている。
主人公の黒子テツヤは確かに重要人物だし彼らの中では一番とっつきやすいだろうが、この人混みの中から見つけ出すのは難易度が高すぎる。
勿論いずれは人混みの中だろうが問題なく彼を発見できるようにする心積もりだが、そしてその努力は惜しまないつもりだが、今ではまず無理だ。
また、エンカウントする確率も極めて低い上、たとえ出会ったとしてもこちらが気づかない可能性の方が高い。
なので、黒子テツヤはひとまず除外だ。
そして、今後バスケ部で交流がありそうな人もとりあえず保留にする。
よって、黒子テツヤよりずっと難易度の低い、むしろ普通の人よりはるかに目立ち、かつバスケ部への入部予定が一年後のあの人を探すことにした。
周囲を見渡し、ものの三秒で発見できた。
むしろここまでの行程で何故見つけられなかったかと首を傾げたくなるくらい目立っている。
異彩を放っている。
人の波でごった返す中で何故か女子人口の多い一角、その中心に彼はいた。
群衆から頭一つ分抜き出た身長に、太陽の光を浴びてきらきら輝く金髪。
女子からの黄色い声に困ったように笑う彼。
後の“キセキの世代”黄瀬涼太――を、発見したのだった。
しかし、まさかここまで簡単に見つかるとは思っていなかった。
今日は予想外の事態がよく起こる日だ。
いや、彼らが予想しにくい人達なのか。
この上、さてここからどうしようか、と頭を悩ませることになった。
あの女子の群れの中心にいる彼と、どうやって会話するまでこぎつけようか。
それどころか、どうやって彼と接触しようか。
最初の計画ではあの人混みの中を突っ切って会いに行く予定だったが、実際に目にすると彼の求心力は想像を超えていた。
たとえあの群れの中に紛れたとしても、向こうに気づかれる可能性は低いだろう。
というか、あの中に好んで入りたくないというのが正直な本音である。
黒子テツヤとは違った意味で扱いづらい人だ。
腕を組んで、彼と群衆を観察しながら考える。
どうにか一人になる隙を狙う、というのが一番現実的な案ではあるだろう。
しかし、入学式までの限られた時間内にそんな機会があったとして、彼にどうやって話しかければいいだろうか。
下手な近づき方をすれば、ファンの女子と思われ第一印象は良くないだろう。
小学校の時同じクラスだったんだけど、と言ってアピールしたとしたら、どう反応してくれるだろうか。
少しぎこちなくなるだろうが、とりあえず声を掛けてみた、という体を装うか。
とにかく彼の中に私の存在を残せればいいということにして、現段階の好感度は置いておこう。
そう心に決めた、その時。
群衆の中の黄瀬涼太と、目が合った。
一瞬どきりとしたが、こちらはずっと彼を見ているわけだし、偶然目が合うこともあるだろう。
携帯電話で時間を確認する振りをして視線を逸らした。
自然に見えたはずだし、多少違和感があってもあの距離からでは気に留めないだろう。
とは言え、確かにずっと見られては心地良くないだろうから、もう少し気をつけて見張らなくてはいけない。
あちこちから聞こえる雑音を聞き流しながら、携帯を適当にいじる。
心配しなくても、少し目を離したところで何処かに消えるような人ではない。
画面をスワイプしながら今後の予定を組み立てていると、遠くで聞き覚えのある声がした、気がした。
……いや、気のせいだろう。
これだけ人が多いのだから、似た声が聞こえたところで何の不思議もない。
「莉乃っち!」
そう、たとえ黄瀬涼太に似た声質の人間がいたところで何の違和感もない。
さて、あと少ししたらもう一度彼の観察を再開しようか。
いくら影が薄いわけではないとは言え、万が一見失っては元も子もないわけだし。
「莉乃っち! 莉乃っちってば!! おーい」
それにしても、先ほどから私と同じ名前を呼ぶ人の声が煩いな。
誰か知り合いに会って高揚する気持ちは分かるが、自分と同名で呼ばれると心臓に悪い。
何処ぞの『莉乃っち』さんも早く返事をしてあげればいいのに。
「ねえってば!」
目の前でいきなりそんな大声が聞こえたかと思うと、突然誰かに携帯を持った右手を掴まれた。
「ひっ!」
思わず情けない声を漏らし、弾かれたように顔を上げた。
すると、黄瀬涼太に似た声で黄瀬涼太に似た容姿をした少年が――いや、紛うことなく黄瀬涼太本人が立っていた。
状況把握が完了した直後、脳内が思考停止した。
いや、ちょっと待て。
本人なら、何故ここにいる。
というか、何故私の名前を知っている。
「良かった。やっぱり莉乃っちだ。もう、無視するなんて酷いっスよ。人違いかと思ったじゃないスか」
「……ああ。ごめん」
とりあえず謝った。
しかし、謝る意味が分からなかった。
形ばかりの謝罪に彼は気を良くしたようで、嬉しそうに破顔した。
「久しぶりっスね。莉乃っち」
とにかく、言いたいことは山ほどあるが。
誰だお前は。
颯爽と去っていく彼の背中が小さくなったところで、こっそり息を吐き出した。
短い時間、僅かな会話だったが、思った以上に緊張していたようで、春にも関わらず背中にはじっとり汗をかいていた。
これからあの人と同じ学校に通うのかと考えると恐ろしい。
ともかく気を取り直し、気合を入れ直し、帝光中学校の敷地内を歩いていく。
しかし、校内は新入生だけでなく部活勧誘に勤しむ上級生でも溢れかえり、全く思うように進めない。
数歩進めば人の波に阻まれ、勧誘のチラシに捕まってしまう。
普段なら歩くのに一分もかからないであろう距離が、果てしなく遠く感じる。
この人混みの中で誰からも声を掛けられない、誰の視線にも留まらないというのだから、やはり黒子テツヤは並外れている。
苦労しながらなんとか校舎まで辿り着き、校舎前の掲示板に貼られたクラス名簿を見つけた。
自分のクラスとクラスメイトの名前を確認し、ついでに他クラスの生徒も把握したところで、踵を返し人混みから離れた位置まで移動した。
掲示板に書かれた指示によると、新入生は自分のクラスを確認したら教室に入り、入学式開始時刻まで待機することになっている。
逆に言えば、入学式が始まるまでに教室に入ればいいのだ。
時計を確認すると、入学式開始まで二十分近く余裕がある。
本来はクラスメイト同士の交流を目的とした時間だろうが、別に友達作りは今日でなくても構わない。
クラスメイトを確認したが、赤司君以外に攻略が難しそうなキャラクターはいなかった。
そして、その赤司君は先ほど予想外の交流を果たしたし、現段階ではそれ以上の親交は望めないだろう。
ならば、他に難易度の高い人物に先に会っておきたい。
教室に入るのはぎりぎりでも問題ないだろう。
今日の予定は、入学式後、各自のクラスでホームルームが終われば自由解散となっている。
しかし、今日から一週間部活見学の期間でもあるので、大半の生徒は興味のある部活を見学したり部の説明を聞いたりするために学校に残る流れになりそうだ。
私もそれに倣うつもりだが、ホームルームが終わり次第バスケ部に直行しなければならないし、いざ部活が始まればとても他のことに気を取られている暇はなくなるだろう。
つまり、事実上今日はこれが主要キャラクターと交流を深める最後の機会なのだ。
この時間内にできればあと一人くらいと面識を持っておきたい。
あと一人くらい、と曖昧な表現を使ったものの、会いたい人物は既に決まっている。
主人公の黒子テツヤは確かに重要人物だし彼らの中では一番とっつきやすいだろうが、この人混みの中から見つけ出すのは難易度が高すぎる。
勿論いずれは人混みの中だろうが問題なく彼を発見できるようにする心積もりだが、そしてその努力は惜しまないつもりだが、今ではまず無理だ。
また、エンカウントする確率も極めて低い上、たとえ出会ったとしてもこちらが気づかない可能性の方が高い。
なので、黒子テツヤはひとまず除外だ。
そして、今後バスケ部で交流がありそうな人もとりあえず保留にする。
よって、黒子テツヤよりずっと難易度の低い、むしろ普通の人よりはるかに目立ち、かつバスケ部への入部予定が一年後のあの人を探すことにした。
周囲を見渡し、ものの三秒で発見できた。
むしろここまでの行程で何故見つけられなかったかと首を傾げたくなるくらい目立っている。
異彩を放っている。
人の波でごった返す中で何故か女子人口の多い一角、その中心に彼はいた。
群衆から頭一つ分抜き出た身長に、太陽の光を浴びてきらきら輝く金髪。
女子からの黄色い声に困ったように笑う彼。
後の“キセキの世代”黄瀬涼太――を、発見したのだった。
しかし、まさかここまで簡単に見つかるとは思っていなかった。
今日は予想外の事態がよく起こる日だ。
いや、彼らが予想しにくい人達なのか。
この上、さてここからどうしようか、と頭を悩ませることになった。
あの女子の群れの中心にいる彼と、どうやって会話するまでこぎつけようか。
それどころか、どうやって彼と接触しようか。
最初の計画ではあの人混みの中を突っ切って会いに行く予定だったが、実際に目にすると彼の求心力は想像を超えていた。
たとえあの群れの中に紛れたとしても、向こうに気づかれる可能性は低いだろう。
というか、あの中に好んで入りたくないというのが正直な本音である。
黒子テツヤとは違った意味で扱いづらい人だ。
腕を組んで、彼と群衆を観察しながら考える。
どうにか一人になる隙を狙う、というのが一番現実的な案ではあるだろう。
しかし、入学式までの限られた時間内にそんな機会があったとして、彼にどうやって話しかければいいだろうか。
下手な近づき方をすれば、ファンの女子と思われ第一印象は良くないだろう。
小学校の時同じクラスだったんだけど、と言ってアピールしたとしたら、どう反応してくれるだろうか。
少しぎこちなくなるだろうが、とりあえず声を掛けてみた、という体を装うか。
とにかく彼の中に私の存在を残せればいいということにして、現段階の好感度は置いておこう。
そう心に決めた、その時。
群衆の中の黄瀬涼太と、目が合った。
一瞬どきりとしたが、こちらはずっと彼を見ているわけだし、偶然目が合うこともあるだろう。
携帯電話で時間を確認する振りをして視線を逸らした。
自然に見えたはずだし、多少違和感があってもあの距離からでは気に留めないだろう。
とは言え、確かにずっと見られては心地良くないだろうから、もう少し気をつけて見張らなくてはいけない。
あちこちから聞こえる雑音を聞き流しながら、携帯を適当にいじる。
心配しなくても、少し目を離したところで何処かに消えるような人ではない。
画面をスワイプしながら今後の予定を組み立てていると、遠くで聞き覚えのある声がした、気がした。
……いや、気のせいだろう。
これだけ人が多いのだから、似た声が聞こえたところで何の不思議もない。
「莉乃っち!」
そう、たとえ黄瀬涼太に似た声質の人間がいたところで何の違和感もない。
さて、あと少ししたらもう一度彼の観察を再開しようか。
いくら影が薄いわけではないとは言え、万が一見失っては元も子もないわけだし。
「莉乃っち! 莉乃っちってば!! おーい」
それにしても、先ほどから私と同じ名前を呼ぶ人の声が煩いな。
誰か知り合いに会って高揚する気持ちは分かるが、自分と同名で呼ばれると心臓に悪い。
何処ぞの『莉乃っち』さんも早く返事をしてあげればいいのに。
「ねえってば!」
目の前でいきなりそんな大声が聞こえたかと思うと、突然誰かに携帯を持った右手を掴まれた。
「ひっ!」
思わず情けない声を漏らし、弾かれたように顔を上げた。
すると、黄瀬涼太に似た声で黄瀬涼太に似た容姿をした少年が――いや、紛うことなく黄瀬涼太本人が立っていた。
状況把握が完了した直後、脳内が思考停止した。
いや、ちょっと待て。
本人なら、何故ここにいる。
というか、何故私の名前を知っている。
「良かった。やっぱり莉乃っちだ。もう、無視するなんて酷いっスよ。人違いかと思ったじゃないスか」
「……ああ。ごめん」
とりあえず謝った。
しかし、謝る意味が分からなかった。
形ばかりの謝罪に彼は気を良くしたようで、嬉しそうに破顔した。
「久しぶりっスね。莉乃っち」
とにかく、言いたいことは山ほどあるが。
誰だお前は。