標的12 夏の課題と千客万来
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《視点:宮野アゲハ 場所:同玄関》
ハルが音を上げてから少しして、再び来客が――間違えた、客ではない。
とにかくその人物の気配が沢田家に迫っていることを素早く察知した私は、静かに自室を出て玄関で待ち構えたのだった。
待機してから数十秒後、その人物――ビアンキは自転車のベルを鳴らしながら沢田家に接近してきた。
そして、玄関前の道路でブレーキ音とスタンドを立てる音がし、ビアンキがサドルから下りて玄関へ歩いて来る気配がした。
以前乗っていたママチャリは最近二度と使えないよう粉砕したので、新しい自転車を購入したのだろう。
相手の出方次第では再び破壊することになるかもしれない。
ビアンキが玄関ドアの前に立ったのを確認し、ひとまず用件を聞こうと鍵を開けた直後、獄寺が物凄い速度で階段を駆け下りてきた。
駆け下りるというより、もはや駆け落ちると表現した方がしっくり来る勢いだ。
何より獄寺の尋常でない気迫を感じ取り、ドアの前から半歩右にずれて通路を開けた。
「おじゃましま……」
そうこうしているうちにドアが開きビアンキの半身が見えた瞬間、獄寺が一階に到着しドアに飛びついた。
移動速度と体重を利用して開きかけたドアを力づくで閉め、同時に素早く鍵とドアチェーンを掛けた。
獄寺が階段を下りる音を聞いてから、僅か数秒の出来事である。
「う、少し……見ちまった……」
「……ちょっと、どういうこと? 貴方達がビアンキを呼んだんじゃないの?」
「アホ女が勝手に呼んだんだよ……」
獄寺は腹を押さえながら息も絶え絶えに吐き捨てた。
ビアンキとハル、あれから連絡先を交換するほど親密になったのか。
ハルの交友関係がどんどん特殊になっていくが、親御さんに心配されないだろうか。
するとドアの向こうで、ビアンキの呑気な声がした。
「その照れ方は隼人ね。私は問七を解きに来ただけなの。貴方は姉を異性として意識しすぎよ」
絶対に違うと私でも分かる。
どう解釈すればそんな勘違いが生まれるのだろう。
ともかく、このまま玄関に居座られても迷惑なので、一旦ビアンキを中に入れようと獄寺を押しのけてドアノブに手を掛けた。
直後、猛烈に嫌な予感がした。
慌てて手を引っ込めると、ドア越しにビアンキが自身の技名を言った。
「ポイズンクッキング溶解さくらもち」
その台詞と同時に毒煙を上げながらドアノブが溶け出し、その部分に穴が開いた。
これではもう鍵の意味はない。
ビアンキはドアを難なく突破し、姉を見た獄寺は悲鳴を上げながら仰向けに倒れ込んだ。
玄関に現れたビアンキの瞳は、床で泡を吹く獄寺ではなく無意識に殺気を放つ私を捉えた。
「あら、宮野アゲハ。そんなところでどうしたの?」
「貴女が何かしでかす前に先制したかったのだけれど……遅かったわね」
風穴の開いたドアを睨みつけると、ビアンキは弁解するように両手を顔の横に挙げた。
「安心しなさい、宮野アゲハ。今日は問七を解きにきただけ。むしろ沢田綱吉の味方よ」
「問七の前にドアを弁償しなさい」
「それは仕方ないわ。鍵がかかっていたもの」
「もう少し待っていたら開けていたわよ」
やはり少し痛めつけようかと構えると、肩の上に“何か”が乗った。
「落ち着け、アゲハ」
「リボーン!!」
ビアンキが頬を染めて私の肩の上に向かって――正確にはその上に座るリボーンを呼んだ。
よく見ると、寝巻きに着替えナイトキャップを被り既に寝る気満々である。
彼はまたしてもタイミング良く私の邪魔をするようだ。
「ビアンキ、さっさと二階のツナのところに行ってやれ」
「分かったわ」
私が何か言う前にリボーンはそう先んじ、ビアンキはそそくさと私の横をすり抜けた。
その際に獄寺のシャツを掴み、そのまま意識のない彼を引きずりながら二階へ移動していったのを見て、目の前で昏倒した弟をもう少し心配してもいいのではないだろうかと思ってしまった。
ビアンキを見送ったところで、リボーンはこちらに視線を移した。
その目には呆れの色がありありと見える。
「お前、相変わらずビアンキに容赦ねーな。ドアはボンゴレの工作員に連絡して直してもらえばいいだろ」
「だからと言ってお咎めなしでいいわけないでしょう」
「お前だってオレの部屋のドア蹴り抜いたことあるだろ」
あの時は鍵すらかかってなかったぞ、と責めるように言われたが、あれは直前に変な工作をしたリボーンが悪い。
「それに、ここで争ってる時間はねーぞ。すぐにまた人が来るからな」
「え?」
「そいつは一般人だから気をつけろよ」
そう言い残すと肩から軽々と飛び降り、ビアンキの後を追って階段を上っていった。
彼は報連相を学ぶ気がないのだと思った――あるいは、そう悟るのが遅すぎたかもしれない。
そして予言通り、リボーンが二階に消えた直後、開けっ放しの玄関をスーツ姿の中年男性が覗き込んだのだった。
見覚えはない。
リボーンの言う通り一般人ならば、見覚えがあるはずない。
その男性は私の姿を見て一瞬怯んだようだが、すぐに咳払いしてこう言った。
「私、三浦ハルの父です。沢田さんのお宅で合ってますか?」
「……ええ、合っています」
ハルの父親?
頷きながら失礼にならない程度に観察してみたが、ハルとは全く似ていない。
しかし、嘘を吐いているような不自然な仕草は見えない。
とりあえず今は彼の自己紹介を信じ、念のためハルの確認が取れるまで彼を監視しておくのがいいだろう。
腹の中で対応を決めたところでこちらを凝視する目線に気づいたので、口の端を緩めた。
「私はハルさんの友人でこの家に住んでいるアゲハです。娘さんにはいつもお世話になっております」
目上の一般人ということで一応敬語を使っている。
ハルの父親というのが本当だとしても、このタイミングで訪れる心当たりがない。
まさかあの少女、補習の宿題を解くためにわざわざ父親を呼んだのだろうか。
その可能性は低いだろうが、それ以外に理由が思いつかない。
「夜分遅くにすみません。私は大学で数学を教えているのですが、ハルに分からない問題があると呼び出されまして」
「なるほど、そうでしたか。ようこそいらっしゃいました」
平然と受け答えたが、内心予想が的中してしまったと冷や汗をかいた。
わざわざ呼ばなくても、問題を写真に撮って送るなり電話で聞くなり簡単な方法はいくらでもあるのに、大胆なことをする娘 だ。
「ハルさんは二階の部屋にいますので、ご案内いたします」
壊れたドアを放置し(今はこの男の方が優先順位は高い)、ハルの父を先導して階段を上っていく。
彼が後からついてくるのを確認してから、状況に動揺しつつも密かに安堵した。
ビアンキはともかく、大学の現役教師であればあの問題は難なく解答できるはずだ。
これで長かった勉強会に決着がつくだろう。
それにしても、たかが問題一つに随分大仰な有様である。
ハルが音を上げてから少しして、再び来客が――間違えた、客ではない。
とにかくその人物の気配が沢田家に迫っていることを素早く察知した私は、静かに自室を出て玄関で待ち構えたのだった。
待機してから数十秒後、その人物――ビアンキは自転車のベルを鳴らしながら沢田家に接近してきた。
そして、玄関前の道路でブレーキ音とスタンドを立てる音がし、ビアンキがサドルから下りて玄関へ歩いて来る気配がした。
以前乗っていたママチャリは最近二度と使えないよう粉砕したので、新しい自転車を購入したのだろう。
相手の出方次第では再び破壊することになるかもしれない。
ビアンキが玄関ドアの前に立ったのを確認し、ひとまず用件を聞こうと鍵を開けた直後、獄寺が物凄い速度で階段を駆け下りてきた。
駆け下りるというより、もはや駆け落ちると表現した方がしっくり来る勢いだ。
何より獄寺の尋常でない気迫を感じ取り、ドアの前から半歩右にずれて通路を開けた。
「おじゃましま……」
そうこうしているうちにドアが開きビアンキの半身が見えた瞬間、獄寺が一階に到着しドアに飛びついた。
移動速度と体重を利用して開きかけたドアを力づくで閉め、同時に素早く鍵とドアチェーンを掛けた。
獄寺が階段を下りる音を聞いてから、僅か数秒の出来事である。
「う、少し……見ちまった……」
「……ちょっと、どういうこと? 貴方達がビアンキを呼んだんじゃないの?」
「アホ女が勝手に呼んだんだよ……」
獄寺は腹を押さえながら息も絶え絶えに吐き捨てた。
ビアンキとハル、あれから連絡先を交換するほど親密になったのか。
ハルの交友関係がどんどん特殊になっていくが、親御さんに心配されないだろうか。
するとドアの向こうで、ビアンキの呑気な声がした。
「その照れ方は隼人ね。私は問七を解きに来ただけなの。貴方は姉を異性として意識しすぎよ」
絶対に違うと私でも分かる。
どう解釈すればそんな勘違いが生まれるのだろう。
ともかく、このまま玄関に居座られても迷惑なので、一旦ビアンキを中に入れようと獄寺を押しのけてドアノブに手を掛けた。
直後、猛烈に嫌な予感がした。
慌てて手を引っ込めると、ドア越しにビアンキが自身の技名を言った。
「ポイズンクッキング溶解さくらもち」
その台詞と同時に毒煙を上げながらドアノブが溶け出し、その部分に穴が開いた。
これではもう鍵の意味はない。
ビアンキはドアを難なく突破し、姉を見た獄寺は悲鳴を上げながら仰向けに倒れ込んだ。
玄関に現れたビアンキの瞳は、床で泡を吹く獄寺ではなく無意識に殺気を放つ私を捉えた。
「あら、宮野アゲハ。そんなところでどうしたの?」
「貴女が何かしでかす前に先制したかったのだけれど……遅かったわね」
風穴の開いたドアを睨みつけると、ビアンキは弁解するように両手を顔の横に挙げた。
「安心しなさい、宮野アゲハ。今日は問七を解きにきただけ。むしろ沢田綱吉の味方よ」
「問七の前にドアを弁償しなさい」
「それは仕方ないわ。鍵がかかっていたもの」
「もう少し待っていたら開けていたわよ」
やはり少し痛めつけようかと構えると、肩の上に“何か”が乗った。
「落ち着け、アゲハ」
「リボーン!!」
ビアンキが頬を染めて私の肩の上に向かって――正確にはその上に座るリボーンを呼んだ。
よく見ると、寝巻きに着替えナイトキャップを被り既に寝る気満々である。
彼はまたしてもタイミング良く私の邪魔をするようだ。
「ビアンキ、さっさと二階のツナのところに行ってやれ」
「分かったわ」
私が何か言う前にリボーンはそう先んじ、ビアンキはそそくさと私の横をすり抜けた。
その際に獄寺のシャツを掴み、そのまま意識のない彼を引きずりながら二階へ移動していったのを見て、目の前で昏倒した弟をもう少し心配してもいいのではないだろうかと思ってしまった。
ビアンキを見送ったところで、リボーンはこちらに視線を移した。
その目には呆れの色がありありと見える。
「お前、相変わらずビアンキに容赦ねーな。ドアはボンゴレの工作員に連絡して直してもらえばいいだろ」
「だからと言ってお咎めなしでいいわけないでしょう」
「お前だってオレの部屋のドア蹴り抜いたことあるだろ」
あの時は鍵すらかかってなかったぞ、と責めるように言われたが、あれは直前に変な工作をしたリボーンが悪い。
「それに、ここで争ってる時間はねーぞ。すぐにまた人が来るからな」
「え?」
「そいつは一般人だから気をつけろよ」
そう言い残すと肩から軽々と飛び降り、ビアンキの後を追って階段を上っていった。
彼は報連相を学ぶ気がないのだと思った――あるいは、そう悟るのが遅すぎたかもしれない。
そして予言通り、リボーンが二階に消えた直後、開けっ放しの玄関をスーツ姿の中年男性が覗き込んだのだった。
見覚えはない。
リボーンの言う通り一般人ならば、見覚えがあるはずない。
その男性は私の姿を見て一瞬怯んだようだが、すぐに咳払いしてこう言った。
「私、三浦ハルの父です。沢田さんのお宅で合ってますか?」
「……ええ、合っています」
ハルの父親?
頷きながら失礼にならない程度に観察してみたが、ハルとは全く似ていない。
しかし、嘘を吐いているような不自然な仕草は見えない。
とりあえず今は彼の自己紹介を信じ、念のためハルの確認が取れるまで彼を監視しておくのがいいだろう。
腹の中で対応を決めたところでこちらを凝視する目線に気づいたので、口の端を緩めた。
「私はハルさんの友人でこの家に住んでいるアゲハです。娘さんにはいつもお世話になっております」
目上の一般人ということで一応敬語を使っている。
ハルの父親というのが本当だとしても、このタイミングで訪れる心当たりがない。
まさかあの少女、補習の宿題を解くためにわざわざ父親を呼んだのだろうか。
その可能性は低いだろうが、それ以外に理由が思いつかない。
「夜分遅くにすみません。私は大学で数学を教えているのですが、ハルに分からない問題があると呼び出されまして」
「なるほど、そうでしたか。ようこそいらっしゃいました」
平然と受け答えたが、内心予想が的中してしまったと冷や汗をかいた。
わざわざ呼ばなくても、問題を写真に撮って送るなり電話で聞くなり簡単な方法はいくらでもあるのに、大胆なことをする
「ハルさんは二階の部屋にいますので、ご案内いたします」
壊れたドアを放置し(今はこの男の方が優先順位は高い)、ハルの父を先導して階段を上っていく。
彼が後からついてくるのを確認してから、状況に動揺しつつも密かに安堵した。
ビアンキはともかく、大学の現役教師であればあの問題は難なく解答できるはずだ。
これで長かった勉強会に決着がつくだろう。
それにしても、たかが問題一つに随分大仰な有様である。