標的11 想像と理解を超えた存在
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女子中学生が塀の上を歩いている。
文字に起こしても信じられないが、確かに私の両目には制服姿の少女が映っている。
両手でバランスを取りながら、覚束ない足取りでじりじりとこちらに近づいてきているのだ。
眼前のある意味恐怖すら覚える光景に、私と綱吉は足を止めて凝視してしまう。
「最近の女子中学生も理解不能だわ……」
思わず零れた呟きに、綱吉が静かに頷いた。
彼女は毎朝あんな風に登校しているのだろうかと思うと、日本の将来が不安になる。
やがて同じ塀の上を危なげなく進むリボーンの前まで辿り着き、彼女は足を止めた。
その後どうするのかと思えば、なんと平然とリボーンに挨拶したのだった。
塀の上で。
「こんにちはーっ」
「ちゃおっス!」
「私……三浦ハルと申します」
自己紹介が始まった、塀の上で。
「知ってるぞ。ここんちの奴だろ?」
リボーンが塀越しの家を指し示すと(何故知っているのだろう)、三浦ハルと名乗った少女は心底嬉しそうに頬を染めたのだった。
「お友達になってくれませんか?」
「いいぞ」
どういう意図かリボーンがあっさりと承諾してしまった。
すると少女は、はひーっ、と謎の叫び声を上げ、ぐらりと塀の上から崩れ落ちたのだ。
受け止めようかと足を踏み出したが、それより先に彼女は空中で体勢を立て直し、綺麗に地面に着地した。
「やったあーっ!!」
道路の真ん中で大声で叫び、両腕を頭上に掲げガッツポーズをする彼女を白い目で見てしまう。
そんなに嬉しいか、この怪しい赤ん坊と友達になることが。
ひとしきり喜びを表現した後は、照れたように自分の身体を抱いて次の要求を告げた。
「あ……あの……、早速なんですが、こう……ギュ……っってさせてもらえませんか?」
何だそれは。
隣で綱吉が完全に引いている。
顔には出さないが、同感だ。
そんな彼女に、リボーンは気安く触るな、と冷たく言い放った。
それどころか、懐から拳銃を取り出して、
「オレは殺し屋だからな」
と余計な一言まで付け加えたのだ。
普段『女を大事にしろ』と口を酸っぱくしている男と同一人物とは思えない――いや、ある意味それが優しさか?
しかしあまりに無下な態度に彼女も激怒するのではないかと思ったが、ショックから立ち直った彼女は思いもよらぬ行動に出た。
リボーンから視線を外すと、静観していた綱吉に向かって平手打ちしようとしたのだ。
一般人の、しかも女子中学生の平手打ちなど放っておいても良かったが、驚きのあまり思わず彼女の手首を掴んでしまった。
驚いた表情で私を見る少女を無言で見つめ返す。
何故無関係の綱吉に手を上げるのか、という意味を込めて視線を送るが、彼女は突然のことに唖然とするばかりだ。
ひとまず第二撃が来ないと判断し手を離すと、彼女は綱吉を鋭く睨みつけた。
「最っ低です!! なんてこと教えてるんですか!? 殺しなんて……」
「はあ!!?」
何故か綱吉が悪者にされている。
どうやら綱吉がリボーンに殺しを教えていると思われているらしい――事実は真逆なのだが。
「赤ちゃんは真っ白なハートを持った天使なんですよ!!」
思わず天使と称された赤ん坊を凝視する。
すると、リボーンが勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見ていた。
私達が無言のやり取りをしている間に、綱吉は女子に胸倉を掴まれていた。
「貴方はそんな幼気な純情を腐ったハートでデストロイですか!?」
「違うって……。何か誤解してるよ!!」
「何が違うのよ!」
「オレはリボーンに殺しなんて教えてない!!」
「嘘吐きです! 貴方リボーンちゃんのお兄ちゃんでしょ? よく一緒にいるの見てるんだから!」
「兄弟じゃないんだって!」
「じゃあ尚更最悪じゃないですか! 他人の赤ちゃんをデビル化なんてー!!」
随分エキサイトしているが、あまり会話が噛み合っているとは言い難い。
そろそろ仲裁に入った方がいいだろうか、と思い始めたところで、綱吉がとんでもないことを言い出した。
「だったら、こいつだって同罪だろ!?」
私に向かって指差した挙げ句、私を巻き込もうとしている。
当然、彼女の追及の視線が私に移る。
どう切り抜けようかと彼女を観察していると、ぱっと顔を赤くして向こうから目を逸らした。
そして、綱吉に向き直ると再び平手打ちを繰り出したのだった。
今度は綱吉の左頬に直撃した。
私は止めなかった。
「嘘吐かないで下さい! こんな女神みたいな人がそんな酷いことするわけないじゃないですか!」
「騙されてるよ!!」
まさか第一印象で救われた。
普段あまりいい印象で見られたことがないので、これは素直に嬉しい。
綱吉の『騙されている』という言葉が妙に引っ掛かるが……。
「とにかくいいですか? 貴方はもーリボーンちゃんに会っちゃ駄目ですよ! 悪影響です」
「そーはいかねーぞ」
綱吉が一方的に責められていると、何を思ったかリボーンからフォローが入った。
ようやく少女は口論を止め、リボーンに視線を向ける。
その隙に綱吉は殴られた頬をさすりながらぼやいた。
「そーだよ。お前説明しろよ。なんでオレが殴られなきゃいけないんだよ!!」
「私の所為にしたからじゃない?」
「う……」
じろりと横目で睨むと、途端に言葉を詰まらせた。
今の仕打ち、半日は忘れない。
「ツナをマフィアの十代目ボスに育てるのがオレの仕事だ。それまでツナから離れられないんだ」
今度はちゃんと説明したリボーン。
しかし私はすっかり失念していた。
いくら事実とは言え、こんな内容が一般人に受け入れられるわけがないということを。
今度は綱吉の左頬に平手打ちではなく強烈な拳が叩きつけられた。
女子中学生の拳とは言え、さすがに見ていて痛々しい(それでも止めない)。
「何がマフィアですか、不良の遊びにも程があります! リボーンちゃんの自由まで奪って」
ママンや山本、京子は冗談だと笑って流してくれたが、彼女の場合は頭に血が上っている。
綱吉とリボーンの言葉がすべて悪い意味に捉えられていた。
まあ、正しい意味に捉えられたとしても猛反発されるかもしれないが。
それにしても、依然少女は綱吉を恐ろしい形相で睨みつけている。
きっと、自分がリボーンを守らなくては、というようなことを心に誓っていると思われる。
ところが、少女はやけにあっさり踵を返していった。
去り際にリボーンに対してまたね、と笑顔で挨拶していったところが徹底している。
彼女が見えなくなった後、リボーンが楽しそうに綱吉をからかった。
「お前ら息ぴったりだな。夫婦みたいだぞ」
「離婚寸前のな!」
二人が言い合っている間、私は三浦ハルについて思考する。
あの様子では、再び綱吉の前に姿を現す日も遠くないだろう。
その時また彼女が暴挙に出た場合に護衛としてどう対応するかは、今日の綱吉の所業を鑑みながらじっくり判断するとしよう。
文字に起こしても信じられないが、確かに私の両目には制服姿の少女が映っている。
両手でバランスを取りながら、覚束ない足取りでじりじりとこちらに近づいてきているのだ。
眼前のある意味恐怖すら覚える光景に、私と綱吉は足を止めて凝視してしまう。
「最近の女子中学生も理解不能だわ……」
思わず零れた呟きに、綱吉が静かに頷いた。
彼女は毎朝あんな風に登校しているのだろうかと思うと、日本の将来が不安になる。
やがて同じ塀の上を危なげなく進むリボーンの前まで辿り着き、彼女は足を止めた。
その後どうするのかと思えば、なんと平然とリボーンに挨拶したのだった。
塀の上で。
「こんにちはーっ」
「ちゃおっス!」
「私……三浦ハルと申します」
自己紹介が始まった、塀の上で。
「知ってるぞ。ここんちの奴だろ?」
リボーンが塀越しの家を指し示すと(何故知っているのだろう)、三浦ハルと名乗った少女は心底嬉しそうに頬を染めたのだった。
「お友達になってくれませんか?」
「いいぞ」
どういう意図かリボーンがあっさりと承諾してしまった。
すると少女は、はひーっ、と謎の叫び声を上げ、ぐらりと塀の上から崩れ落ちたのだ。
受け止めようかと足を踏み出したが、それより先に彼女は空中で体勢を立て直し、綺麗に地面に着地した。
「やったあーっ!!」
道路の真ん中で大声で叫び、両腕を頭上に掲げガッツポーズをする彼女を白い目で見てしまう。
そんなに嬉しいか、この怪しい赤ん坊と友達になることが。
ひとしきり喜びを表現した後は、照れたように自分の身体を抱いて次の要求を告げた。
「あ……あの……、早速なんですが、こう……ギュ……っってさせてもらえませんか?」
何だそれは。
隣で綱吉が完全に引いている。
顔には出さないが、同感だ。
そんな彼女に、リボーンは気安く触るな、と冷たく言い放った。
それどころか、懐から拳銃を取り出して、
「オレは殺し屋だからな」
と余計な一言まで付け加えたのだ。
普段『女を大事にしろ』と口を酸っぱくしている男と同一人物とは思えない――いや、ある意味それが優しさか?
しかしあまりに無下な態度に彼女も激怒するのではないかと思ったが、ショックから立ち直った彼女は思いもよらぬ行動に出た。
リボーンから視線を外すと、静観していた綱吉に向かって平手打ちしようとしたのだ。
一般人の、しかも女子中学生の平手打ちなど放っておいても良かったが、驚きのあまり思わず彼女の手首を掴んでしまった。
驚いた表情で私を見る少女を無言で見つめ返す。
何故無関係の綱吉に手を上げるのか、という意味を込めて視線を送るが、彼女は突然のことに唖然とするばかりだ。
ひとまず第二撃が来ないと判断し手を離すと、彼女は綱吉を鋭く睨みつけた。
「最っ低です!! なんてこと教えてるんですか!? 殺しなんて……」
「はあ!!?」
何故か綱吉が悪者にされている。
どうやら綱吉がリボーンに殺しを教えていると思われているらしい――事実は真逆なのだが。
「赤ちゃんは真っ白なハートを持った天使なんですよ!!」
思わず天使と称された赤ん坊を凝視する。
すると、リボーンが勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見ていた。
私達が無言のやり取りをしている間に、綱吉は女子に胸倉を掴まれていた。
「貴方はそんな幼気な純情を腐ったハートでデストロイですか!?」
「違うって……。何か誤解してるよ!!」
「何が違うのよ!」
「オレはリボーンに殺しなんて教えてない!!」
「嘘吐きです! 貴方リボーンちゃんのお兄ちゃんでしょ? よく一緒にいるの見てるんだから!」
「兄弟じゃないんだって!」
「じゃあ尚更最悪じゃないですか! 他人の赤ちゃんをデビル化なんてー!!」
随分エキサイトしているが、あまり会話が噛み合っているとは言い難い。
そろそろ仲裁に入った方がいいだろうか、と思い始めたところで、綱吉がとんでもないことを言い出した。
「だったら、こいつだって同罪だろ!?」
私に向かって指差した挙げ句、私を巻き込もうとしている。
当然、彼女の追及の視線が私に移る。
どう切り抜けようかと彼女を観察していると、ぱっと顔を赤くして向こうから目を逸らした。
そして、綱吉に向き直ると再び平手打ちを繰り出したのだった。
今度は綱吉の左頬に直撃した。
私は止めなかった。
「嘘吐かないで下さい! こんな女神みたいな人がそんな酷いことするわけないじゃないですか!」
「騙されてるよ!!」
まさか第一印象で救われた。
普段あまりいい印象で見られたことがないので、これは素直に嬉しい。
綱吉の『騙されている』という言葉が妙に引っ掛かるが……。
「とにかくいいですか? 貴方はもーリボーンちゃんに会っちゃ駄目ですよ! 悪影響です」
「そーはいかねーぞ」
綱吉が一方的に責められていると、何を思ったかリボーンからフォローが入った。
ようやく少女は口論を止め、リボーンに視線を向ける。
その隙に綱吉は殴られた頬をさすりながらぼやいた。
「そーだよ。お前説明しろよ。なんでオレが殴られなきゃいけないんだよ!!」
「私の所為にしたからじゃない?」
「う……」
じろりと横目で睨むと、途端に言葉を詰まらせた。
今の仕打ち、半日は忘れない。
「ツナをマフィアの十代目ボスに育てるのがオレの仕事だ。それまでツナから離れられないんだ」
今度はちゃんと説明したリボーン。
しかし私はすっかり失念していた。
いくら事実とは言え、こんな内容が一般人に受け入れられるわけがないということを。
今度は綱吉の左頬に平手打ちではなく強烈な拳が叩きつけられた。
女子中学生の拳とは言え、さすがに見ていて痛々しい(それでも止めない)。
「何がマフィアですか、不良の遊びにも程があります! リボーンちゃんの自由まで奪って」
ママンや山本、京子は冗談だと笑って流してくれたが、彼女の場合は頭に血が上っている。
綱吉とリボーンの言葉がすべて悪い意味に捉えられていた。
まあ、正しい意味に捉えられたとしても猛反発されるかもしれないが。
それにしても、依然少女は綱吉を恐ろしい形相で睨みつけている。
きっと、自分がリボーンを守らなくては、というようなことを心に誓っていると思われる。
ところが、少女はやけにあっさり踵を返していった。
去り際にリボーンに対してまたね、と笑顔で挨拶していったところが徹底している。
彼女が見えなくなった後、リボーンが楽しそうに綱吉をからかった。
「お前ら息ぴったりだな。夫婦みたいだぞ」
「離婚寸前のな!」
二人が言い合っている間、私は三浦ハルについて思考する。
あの様子では、再び綱吉の前に姿を現す日も遠くないだろう。
その時また彼女が暴挙に出た場合に護衛としてどう対応するかは、今日の綱吉の所業を鑑みながらじっくり判断するとしよう。