標的10 欠落の意味を考える
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛神社境内》
玄関でビアンキを目にした途端腹を押さえて出て行った獄寺を追って、綱吉は並盛神社へ辿り着いた。
そして私は彼らの後をこっそりつけ、気配を消して遠くから様子を窺っている。
ちなみに、浴衣は家を出る前に制服に着替えてきた。
似合う似合わない以前に、動きづらいので。
「獄寺君……」
大木の幹に身体を預け疲弊した様子の獄寺に、綱吉が心配そうに声を掛ける。
「あ……あの……ごめんね、折角持って来てくれたスイカ……あんなことになっちゃって」
獄寺が沢田家を訪れた時手土産にスイカを持参したのだが、ビアンキを見たショックで床に落として台無しにしてしまったのだ。
スイカの中身が飛び散って汚れた玄関はママンが帰宅する前に獄寺に掃除させるとして、ひとまず獄寺の言い分を聞くと、苦痛の表情でビアンキとの確執を語り出した。
要約すると、彼は幼少期に何度もポイズンクッキングのクッキーを食べさせられたトラウマにより、姉の姿を見るだけで腹痛がするほどの苦手意識を抱いているそうだ。
その上、ビアンキには弟に嫌われている自覚すらないという――当時のクッキーの差し入れは、あくまで彼女の善意なのだ。
腹違いとは言えそんな質の悪い人間を身内に持つなんて、獄寺にとって悲劇と言う他ない。
しかし、そうか、と静かに納得した。
彼の話によると、獄寺は八歳まであの城にいたそうだ。
つまり、私が城の医務室で会ったのは獄寺が家を出る直前ということである。
六年前――彼が七歳の時だ。
ならばあの時医務室にいたのも、姉のポイズンクッキングから逃れるためだったのかもしれない。
「薄々感づいてたけど、強烈なお姉さんだね」
「ええ。大嫌いです」
折角綱吉がオブラートに包んだフォローをばっさり切り捨てた獄寺。
私には家族がいないのでよく分からないが、世の中にはこういう姉弟関係もあるのか。
もしかしたら彼らが特殊なだけかもしれないが、家族だからと言って必ずしも和気あいあいとしているわけでないことは事実なのだろう。
そんな風に解釈していると、携帯電話にボンゴレ本部からのメールが届いた。
家を出る前に諜報部に照会した、ビアンキに関する調査結果である。
実は、獄寺の資料は日本で彼に会う前に目を通していたものの、ビアンキは(当初殺すつもりだったので)ほとんど調査していなかったのだ。
――ビアンキと獄寺が腹違いの姉弟だって知ってるか?
今更調査する気になったのはリボーンの台詞がきっかけだが、彼女は今後沢田家に出入りする機会が増えるのでちょうどいい。
獄寺がなんとか姉をこの町から追い出してくれないか、と綱吉に頼むのを聞きながらデータに目を通す。
「そ……そりゃあ、どちらかと言えばオレもビアンキがいない方がすごく嬉しいけど……。でも……オレじゃあ……」
「作戦があります!」
余談になるが、データによるとどうやら私と彼女の共通の知り合いは二人どころではないようだ。
たとえば、あの城の元専属医。
てっきりビアンキとは獄寺の実家が没落した後関係が途切れていると思ったが、何度か一緒に仕事をしたことがあるらしい。
ちなみにその専属医は、私にとって獄寺と出会う前から世話になっている恩人である。
さすがの私も恩人を敵に回したくはないので、リボーンの采配はある意味私が助かっていたのかもしれない。
もっともリボーンにそんな気は微塵もなかっただろうが。
あの人は、私を庇うような殊勝な性格はしていない。
「実は、アネキにはリボーンさんに惚れる前にメロメロだった男がいたんです。そいつは事故で死んじまったんですが、未だにアネキはそいつのことが忘れられないみたいなんです」
ビアンキと彼が繋がっている可能性を考慮しなかったのは確かに早計だったが、言い訳をすれば、そもそもあの人の経歴自体がなかなか謎に包まれているのだ。
それに、恩人で定期的に会う仲とは言え、事務的な会話しか交わさなかったのだから互いの人間関係など知るはずがない。
――いや、どうなのだろう。
ふと我に返って思い起こしてみると、これまでに知る機会はいくらでもあった。
もしかして、他人の交友関係に全く興味がなく恋愛沙汰を全く理解できないというのは、組織人として深刻な欠落なのではないだろうか?
後で聞いてみようか。
「そこで、その元彼とそっくりな奴を捜すんです。アネキをそいつに会わせれば、地の果てまでそいつを追いかけるはずです」
それは無理があるだろ。
それまでの思考を忘れ、聞き流していた獄寺の発言に思わず(心の中で)突っ込んでしまった。
その直後「またぶっ飛んだ作戦だー!!!」と私の思いを言葉にしてくれた綱吉に拍手を送りたい。
私に言わせれば、それは作戦と呼べるほど大層なものではない――ビアンキの元彼にそっくりな人物を見つけるという段階で既に無理がある。
そんな天文学的確率に頼るくらいなら、力づくで追い出す方がずっと現実的である。
しかし、獄寺に元彼の写真を見せられた綱吉はすぐにこう叫んだのだ。
「こんな牛男見たことあるー!!!」
ちょうどその時、私が見ていた調査資料でもその元彼の情報に行き当たった。
ビアンキとツーショットで写っているロメオというその男は、なんと十年後のランボに瓜二つだったのだ。
「……ああ」
天文学的確率が、ここにあった。
しかし、写真以上に気になったのは彼の死因である。
獄寺は『事故で死んだ』と言っていたが、データでは食中毒となっているのだ。
ポイズンクッキングの使い手であるビアンキの元彼の死因が、食中毒。
最悪の想像が嫌でも浮かんでくる。
深読みせざるを得ない。
もしこの予想が真実だとすれば、獄寺の作戦は段階どころか前提から覆ることになってしまう。
何より、餌にされる十年後ランボの命が危ない。
果たして獄寺はこの事実を知らないのだろうか――知らないのだろう、嬉々として作戦を立てているくらいなのだから。
「ランボに十年バズーカを使ってもらって、十年後のランボを呼ぶしかないか……」
「たとえそっくりな奴が現れるのが一瞬でもいいんです。アネキはそいつを捜しに出て行くでしょうから」
私の危惧とは裏腹に、二人の間では着々と作戦の概要が固まっている。
彼らを止める義理はないが、せめてランボが死なないことを祈ろう。
玄関でビアンキを目にした途端腹を押さえて出て行った獄寺を追って、綱吉は並盛神社へ辿り着いた。
そして私は彼らの後をこっそりつけ、気配を消して遠くから様子を窺っている。
ちなみに、浴衣は家を出る前に制服に着替えてきた。
似合う似合わない以前に、動きづらいので。
「獄寺君……」
大木の幹に身体を預け疲弊した様子の獄寺に、綱吉が心配そうに声を掛ける。
「あ……あの……ごめんね、折角持って来てくれたスイカ……あんなことになっちゃって」
獄寺が沢田家を訪れた時手土産にスイカを持参したのだが、ビアンキを見たショックで床に落として台無しにしてしまったのだ。
スイカの中身が飛び散って汚れた玄関はママンが帰宅する前に獄寺に掃除させるとして、ひとまず獄寺の言い分を聞くと、苦痛の表情でビアンキとの確執を語り出した。
要約すると、彼は幼少期に何度もポイズンクッキングのクッキーを食べさせられたトラウマにより、姉の姿を見るだけで腹痛がするほどの苦手意識を抱いているそうだ。
その上、ビアンキには弟に嫌われている自覚すらないという――当時のクッキーの差し入れは、あくまで彼女の善意なのだ。
腹違いとは言えそんな質の悪い人間を身内に持つなんて、獄寺にとって悲劇と言う他ない。
しかし、そうか、と静かに納得した。
彼の話によると、獄寺は八歳まであの城にいたそうだ。
つまり、私が城の医務室で会ったのは獄寺が家を出る直前ということである。
六年前――彼が七歳の時だ。
ならばあの時医務室にいたのも、姉のポイズンクッキングから逃れるためだったのかもしれない。
「薄々感づいてたけど、強烈なお姉さんだね」
「ええ。大嫌いです」
折角綱吉がオブラートに包んだフォローをばっさり切り捨てた獄寺。
私には家族がいないのでよく分からないが、世の中にはこういう姉弟関係もあるのか。
もしかしたら彼らが特殊なだけかもしれないが、家族だからと言って必ずしも和気あいあいとしているわけでないことは事実なのだろう。
そんな風に解釈していると、携帯電話にボンゴレ本部からのメールが届いた。
家を出る前に諜報部に照会した、ビアンキに関する調査結果である。
実は、獄寺の資料は日本で彼に会う前に目を通していたものの、ビアンキは(当初殺すつもりだったので)ほとんど調査していなかったのだ。
――ビアンキと獄寺が腹違いの姉弟だって知ってるか?
今更調査する気になったのはリボーンの台詞がきっかけだが、彼女は今後沢田家に出入りする機会が増えるのでちょうどいい。
獄寺がなんとか姉をこの町から追い出してくれないか、と綱吉に頼むのを聞きながらデータに目を通す。
「そ……そりゃあ、どちらかと言えばオレもビアンキがいない方がすごく嬉しいけど……。でも……オレじゃあ……」
「作戦があります!」
余談になるが、データによるとどうやら私と彼女の共通の知り合いは二人どころではないようだ。
たとえば、あの城の元専属医。
てっきりビアンキとは獄寺の実家が没落した後関係が途切れていると思ったが、何度か一緒に仕事をしたことがあるらしい。
ちなみにその専属医は、私にとって獄寺と出会う前から世話になっている恩人である。
さすがの私も恩人を敵に回したくはないので、リボーンの采配はある意味私が助かっていたのかもしれない。
もっともリボーンにそんな気は微塵もなかっただろうが。
あの人は、私を庇うような殊勝な性格はしていない。
「実は、アネキにはリボーンさんに惚れる前にメロメロだった男がいたんです。そいつは事故で死んじまったんですが、未だにアネキはそいつのことが忘れられないみたいなんです」
ビアンキと彼が繋がっている可能性を考慮しなかったのは確かに早計だったが、言い訳をすれば、そもそもあの人の経歴自体がなかなか謎に包まれているのだ。
それに、恩人で定期的に会う仲とは言え、事務的な会話しか交わさなかったのだから互いの人間関係など知るはずがない。
――いや、どうなのだろう。
ふと我に返って思い起こしてみると、これまでに知る機会はいくらでもあった。
もしかして、他人の交友関係に全く興味がなく恋愛沙汰を全く理解できないというのは、組織人として深刻な欠落なのではないだろうか?
後で聞いてみようか。
「そこで、その元彼とそっくりな奴を捜すんです。アネキをそいつに会わせれば、地の果てまでそいつを追いかけるはずです」
それは無理があるだろ。
それまでの思考を忘れ、聞き流していた獄寺の発言に思わず(心の中で)突っ込んでしまった。
その直後「またぶっ飛んだ作戦だー!!!」と私の思いを言葉にしてくれた綱吉に拍手を送りたい。
私に言わせれば、それは作戦と呼べるほど大層なものではない――ビアンキの元彼にそっくりな人物を見つけるという段階で既に無理がある。
そんな天文学的確率に頼るくらいなら、力づくで追い出す方がずっと現実的である。
しかし、獄寺に元彼の写真を見せられた綱吉はすぐにこう叫んだのだ。
「こんな牛男見たことあるー!!!」
ちょうどその時、私が見ていた調査資料でもその元彼の情報に行き当たった。
ビアンキとツーショットで写っているロメオというその男は、なんと十年後のランボに瓜二つだったのだ。
「……ああ」
天文学的確率が、ここにあった。
しかし、写真以上に気になったのは彼の死因である。
獄寺は『事故で死んだ』と言っていたが、データでは食中毒となっているのだ。
ポイズンクッキングの使い手であるビアンキの元彼の死因が、食中毒。
最悪の想像が嫌でも浮かんでくる。
深読みせざるを得ない。
もしこの予想が真実だとすれば、獄寺の作戦は段階どころか前提から覆ることになってしまう。
何より、餌にされる十年後ランボの命が危ない。
果たして獄寺はこの事実を知らないのだろうか――知らないのだろう、嬉々として作戦を立てているくらいなのだから。
「ランボに十年バズーカを使ってもらって、十年後のランボを呼ぶしかないか……」
「たとえそっくりな奴が現れるのが一瞬でもいいんです。アネキはそいつを捜しに出て行くでしょうから」
私の危惧とは裏腹に、二人の間では着々と作戦の概要が固まっている。
彼らを止める義理はないが、せめてランボが死なないことを祈ろう。