標的9 毒々しい排他主義
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《視点:宮野アゲハ 場所:同応接室》
家庭科実習が終わり、バレンタインのような謎の行事も終わり――ビアンキの暗殺も終わった。
すべてが終わった。
そして、死ぬ気になった綱吉がビアンキを退けたのを確認したところで、こっそり教室を抜け出したのだった。
その後、誰にも告げず向かった先は――
「……何、君。今は授業中のはずだけど」
応接室のドアをノックもせずに勢いよく開けると、彼は書類を整理する手を止めて顔を顰めた。
授業中のはずだというのに、雲雀恭弥はそこにいた。
私を見ても不機嫌な態度を崩さないということは、学校愛に溢れる彼はとにかく授業をサボったことが気に食わないようだ。
ならば何故彼は今ここにいるのかという疑問に立ち返ってしまうが、どうでもいいので追及はしない。
今の状況や雲雀の心理状態はどうでもいい。
今この場に、雲雀恭弥がいるということが重要なのだ。
無言で部屋の中央のテーブルを飛び越え、彼が作業する窓際の机の前に着地する。
そして、椅子に座る雲雀を見下ろしながら手に持っていたものを彼の前に差し出した。
雲雀の視線がゆっくり私から眼前の“それ”に移る。
「……何これ?」
「おにぎりよ」
初めての家庭科実習で作ったおにぎり。
日頃の感謝にと、本来綱吉達にあげるはずだったラッピングされたおにぎりを、机の上の空いたスペースに置いた。
「これ、あげるわ」
「は?」
「今日、家庭科実習で作ったの。とにかくあげるわ。いらなかったら捨てていいから」
「ちょっと」
慌てて腰を浮かそうとした雲雀は、私の顔を見ると突然動きを止めた。
そして、驚きに固まった表情で信じられないものを見るような目で、呆然と呟いたのだ。
「君、なんて顔してるの?」
雲雀にさえ気づかれるとは、よほど酷い顔をしているのだろうか。
――私は今、どんな顔をしているのだろうか。
雲雀の発言には応じず、机の上のおにぎりに視線を落とす。
家庭科実習の後、教室で女子が男子におにぎりを渡している最中――ビアンキは現れた。
彼女は毒々しい自分のおにぎりと京子のおにぎりを入れ替え、綱吉にポイズンクッキングを食べさせようとしたのだ。
そして、何も知らない京子が勧めた毒おにぎりを何も気づかない獄寺と山本が口にしようとした時、綱吉はおにぎりを払い落とし二人の命を守った。
身を挺してファミリーを守ること――それが、今回リボーンが見たかった綱吉の成長だろう。
その後死ぬ気になった綱吉は、追加でヘソに死ぬ気弾を撃たれたことによる“鉄の胃袋 ”でポイズンクッキングを無効化――ビアンキの撃退に成功したのだった。
万事解決、一件落着。
いつもと変わらない展開で、いつもと変わらない結末。
いつもと違ったのは、私の心情だった。
すべてが終わったのを見届けた時、突然思ってしまったのだ。
私が何もしなくてもビアンキの問題が解決したことで、ふと思いついてしまったのだ。
――もしかしたら、あの人に護衛 はいらないのかもしれない。
一度頭に浮かんだ考えは、消えるどころか悪い方へと増殖していった。
同時に、昨日からあれほど苛立っていた理由もはっきりした。
昨日ビアンキに対して起こした行為はすべて水泡に帰したが、それは無意味で無駄だったからではないのか。
努力が報われないどころか、最初から私の存在意義などなかったのではないか。
むしろ、私は沢田綱吉にとって邪魔な存在なのではないか――
その言葉が頭の中で、パズルのピースのようにかちりと嵌った。
最初から、違和感はあったのだ。
平和なこの世界で、彼を一体何から守らなければいけないのか。
本当に護衛が必要なのか。
以前そんな疑問を口にしたら、リボーンから『綱吉の命に直接関わる原因は消せばいい』とアドバイスされた。
その言葉に従い、今回条件にぴったり当てはまる存在が現れた時、やっと任務を全うできると思った。
しかし、あろうことかリボーンにそれを阻まれ、こう告げられたのだ。
多少の障害は自分で解決させなければ成長しない、と。
私は過保護で、綱吉を箱庭で囲うだけでは絶対に成長しない、と。
挙句ビアンキは綱吉の成長に必要だとも言われたが、結果的にそれは正しかったのだ。
ビアンキが彼の成長に役立ったことで、リボーンの正しさは証明された。
では、邪魔だったのは誰だろう。
綱吉の成長に必要な道具を処分しようとしたのは、綱吉の成長を阻もうとしたのは、一体誰だったか。
「いらなかったら、いつでも捨てていいのよ」
邪魔になるくらいなら、捨ててくれて良かったのに。
踵を返し、絶句する雲雀を残して素早く応接室を出た。
振り返ることはしなかった。
家庭科実習が終わり、バレンタインのような謎の行事も終わり――ビアンキの暗殺も終わった。
すべてが終わった。
そして、死ぬ気になった綱吉がビアンキを退けたのを確認したところで、こっそり教室を抜け出したのだった。
その後、誰にも告げず向かった先は――
「……何、君。今は授業中のはずだけど」
応接室のドアをノックもせずに勢いよく開けると、彼は書類を整理する手を止めて顔を顰めた。
授業中のはずだというのに、雲雀恭弥はそこにいた。
私を見ても不機嫌な態度を崩さないということは、学校愛に溢れる彼はとにかく授業をサボったことが気に食わないようだ。
ならば何故彼は今ここにいるのかという疑問に立ち返ってしまうが、どうでもいいので追及はしない。
今の状況や雲雀の心理状態はどうでもいい。
今この場に、雲雀恭弥がいるということが重要なのだ。
無言で部屋の中央のテーブルを飛び越え、彼が作業する窓際の机の前に着地する。
そして、椅子に座る雲雀を見下ろしながら手に持っていたものを彼の前に差し出した。
雲雀の視線がゆっくり私から眼前の“それ”に移る。
「……何これ?」
「おにぎりよ」
初めての家庭科実習で作ったおにぎり。
日頃の感謝にと、本来綱吉達にあげるはずだったラッピングされたおにぎりを、机の上の空いたスペースに置いた。
「これ、あげるわ」
「は?」
「今日、家庭科実習で作ったの。とにかくあげるわ。いらなかったら捨てていいから」
「ちょっと」
慌てて腰を浮かそうとした雲雀は、私の顔を見ると突然動きを止めた。
そして、驚きに固まった表情で信じられないものを見るような目で、呆然と呟いたのだ。
「君、なんて顔してるの?」
雲雀にさえ気づかれるとは、よほど酷い顔をしているのだろうか。
――私は今、どんな顔をしているのだろうか。
雲雀の発言には応じず、机の上のおにぎりに視線を落とす。
家庭科実習の後、教室で女子が男子におにぎりを渡している最中――ビアンキは現れた。
彼女は毒々しい自分のおにぎりと京子のおにぎりを入れ替え、綱吉にポイズンクッキングを食べさせようとしたのだ。
そして、何も知らない京子が勧めた毒おにぎりを何も気づかない獄寺と山本が口にしようとした時、綱吉はおにぎりを払い落とし二人の命を守った。
身を挺してファミリーを守ること――それが、今回リボーンが見たかった綱吉の成長だろう。
その後死ぬ気になった綱吉は、追加でヘソに死ぬ気弾を撃たれたことによる“
万事解決、一件落着。
いつもと変わらない展開で、いつもと変わらない結末。
いつもと違ったのは、私の心情だった。
すべてが終わったのを見届けた時、突然思ってしまったのだ。
私が何もしなくてもビアンキの問題が解決したことで、ふと思いついてしまったのだ。
――もしかしたら、あの人に
一度頭に浮かんだ考えは、消えるどころか悪い方へと増殖していった。
同時に、昨日からあれほど苛立っていた理由もはっきりした。
昨日ビアンキに対して起こした行為はすべて水泡に帰したが、それは無意味で無駄だったからではないのか。
努力が報われないどころか、最初から私の存在意義などなかったのではないか。
むしろ、私は沢田綱吉にとって邪魔な存在なのではないか――
その言葉が頭の中で、パズルのピースのようにかちりと嵌った。
最初から、違和感はあったのだ。
平和なこの世界で、彼を一体何から守らなければいけないのか。
本当に護衛が必要なのか。
以前そんな疑問を口にしたら、リボーンから『綱吉の命に直接関わる原因は消せばいい』とアドバイスされた。
その言葉に従い、今回条件にぴったり当てはまる存在が現れた時、やっと任務を全うできると思った。
しかし、あろうことかリボーンにそれを阻まれ、こう告げられたのだ。
多少の障害は自分で解決させなければ成長しない、と。
私は過保護で、綱吉を箱庭で囲うだけでは絶対に成長しない、と。
挙句ビアンキは綱吉の成長に必要だとも言われたが、結果的にそれは正しかったのだ。
ビアンキが彼の成長に役立ったことで、リボーンの正しさは証明された。
では、邪魔だったのは誰だろう。
綱吉の成長に必要な道具を処分しようとしたのは、綱吉の成長を阻もうとしたのは、一体誰だったか。
「いらなかったら、いつでも捨てていいのよ」
邪魔になるくらいなら、捨ててくれて良かったのに。
踵を返し、絶句する雲雀を残して素早く応接室を出た。
振り返ることはしなかった。