標的9 毒々しい排他主義
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛中学校家庭科室》
日付は変わり、この学校に入って初めての家庭科実習。
授業で説明を受けた時はそれなりに楽しみにしていたのだが、リボーンの所為でぶち壊されてしまった。
浮かない気分で炊き立てのご飯を手に取る。
「おにぎり実習ねえ……。ストレス解消になるかしら」
「あんまり力を込めたら潰れるからね」
私の独り言に、隣で作業していた花が苦笑しながら口を挟んできた。
「何? なんか嫌なことでもあったの?」
「まあね」
「珍しいじゃん、アンタがそんな風に荒れるなんて」
荒れているという自覚はないが、確かにここまで感情をコントロールできないのは珍しいことかもしれない。
すると、同じテーブルで調理していた京子がぽつりと呟いた。
「もしかして、ツナ君と喧嘩したの?」
「え、そうなの?」
「……まあ、そんなところよ」
京子と花の視線を受けて曖昧に頷いた。
実際の相手は綱吉ではなくリボーンなのだが、事情を知らない二人に赤ん坊相手に喧嘩(と呼べるかも定かではないが)しているとはとても言えない。
「へえー、原因は?」
「……さあ」
花の質問に首を傾げると、二人は揃って怪訝な表情を浮かべた。
決してはぐらかしているのではない。
本当に、何故自分がこれほど苛立っているのか自覚できていないのだ。
いつもと変わらないリボーンの教育。
いつもと変わらない綱吉の反応。
そして、いつもと異なる私の心情。
その原因は一体何なのだろうか。
「よく、分からないのよ」
私の言葉を受けて、京子と花は互いに顔を見合わせてから優しく微笑んだ。
「ま、そういうこともあるわよ」
「うん。それに、二人ならすぐに仲直りできると思うよ」
「……ありがとう」
それから二人はそれ以上追及せず、現在製作中のおにぎりに話題を移した。
「そういえば、アゲハちゃんは誰におにぎりあげるかもう決めた?」
「自分で食べるものじゃないの?」
「それでもいいけど、女子は作ったおにぎりを気になる男子にあげる風習みたいなのがあんのよ」
「……変わった風習ね」
日本ではバレンタインデーに女子が男子にチョコレートを渡す習慣があるのは知っていたが、おにぎりでも同様の行事が存在するのか。
カルチャーショックを受けていると、花は興味津々な様子で私に尋ねた。
「アンタが今仲良い男子っていうと、沢田か獄寺か山本よね。その中で誰か候補はいる?」
「ちょっと、花!」
「いいじゃない、別に。ねえ、アゲハ。それとも他に気になる男子がいるとか?」
「気になる男子ねえ……」
そもそも『気になる』って何だ。
綱吉のファミリー候補として目をつけている、という解釈でもいいのだろうか。
「もしくは日頃の感謝を込めて、っていうのでもいいんじゃない?」
「……なるほどね」
京子の助言に、出来上がった三つのおにぎりに視線を落とした。
咄嗟に思い浮かんだ顔は、綱吉、獄寺、山本の三人だ。
日頃の感謝というなら綱吉達が私に渡すのが筋だとも思うが、彼ら以外に候補もいないのでちょうどいい。
「なら、やっぱりツナ達に渡そうかしら」
「うん、いいと思うよ。仲直りのきっかけにもなるんじゃない?」
「はー、なんかつまんないわね」
花だけは納得していないようだが、おにぎりを渡すのは綱吉、獄寺、山本の三人に決定した。
おにぎりを丁寧にラッピングしながら、リボーンのことを思い出す。
今回のように意見がぶつかるのは別に珍しいことではない。
ただ、腐れ縁故に互いの事情や手の内を把握しているから、リボーンは厄介なのだ。
――お前だって、完璧なわけじゃねーんだから。
私の全盛期と称される時代に、沢田綱吉によく似た人物に出会い、彼やその仲間達と共に過ごしていたことがある。
彼らのことを心から大事にしたいと思っていたのに、結局は守り切ることができなかった。
私は完璧ではなかった。
選ばれていたのではなく、ただ外れていただけだった。
――オレやお前じゃできないことだぞ。
リボーンの言ったように、ビアンキは本当に私にできないことをやってくれるのだろうか。
もしビアンキを受け入れれば――私の理解できない感情を取り込めば、あの頃より成長することができるだろうか。
今度こそ、彼らを守ることができるだろうか。
理解できない領域の先に何が待ち受けているかも知らずに、呑気にそんな希望を抱いた。
日付は変わり、この学校に入って初めての家庭科実習。
授業で説明を受けた時はそれなりに楽しみにしていたのだが、リボーンの所為でぶち壊されてしまった。
浮かない気分で炊き立てのご飯を手に取る。
「おにぎり実習ねえ……。ストレス解消になるかしら」
「あんまり力を込めたら潰れるからね」
私の独り言に、隣で作業していた花が苦笑しながら口を挟んできた。
「何? なんか嫌なことでもあったの?」
「まあね」
「珍しいじゃん、アンタがそんな風に荒れるなんて」
荒れているという自覚はないが、確かにここまで感情をコントロールできないのは珍しいことかもしれない。
すると、同じテーブルで調理していた京子がぽつりと呟いた。
「もしかして、ツナ君と喧嘩したの?」
「え、そうなの?」
「……まあ、そんなところよ」
京子と花の視線を受けて曖昧に頷いた。
実際の相手は綱吉ではなくリボーンなのだが、事情を知らない二人に赤ん坊相手に喧嘩(と呼べるかも定かではないが)しているとはとても言えない。
「へえー、原因は?」
「……さあ」
花の質問に首を傾げると、二人は揃って怪訝な表情を浮かべた。
決してはぐらかしているのではない。
本当に、何故自分がこれほど苛立っているのか自覚できていないのだ。
いつもと変わらないリボーンの教育。
いつもと変わらない綱吉の反応。
そして、いつもと異なる私の心情。
その原因は一体何なのだろうか。
「よく、分からないのよ」
私の言葉を受けて、京子と花は互いに顔を見合わせてから優しく微笑んだ。
「ま、そういうこともあるわよ」
「うん。それに、二人ならすぐに仲直りできると思うよ」
「……ありがとう」
それから二人はそれ以上追及せず、現在製作中のおにぎりに話題を移した。
「そういえば、アゲハちゃんは誰におにぎりあげるかもう決めた?」
「自分で食べるものじゃないの?」
「それでもいいけど、女子は作ったおにぎりを気になる男子にあげる風習みたいなのがあんのよ」
「……変わった風習ね」
日本ではバレンタインデーに女子が男子にチョコレートを渡す習慣があるのは知っていたが、おにぎりでも同様の行事が存在するのか。
カルチャーショックを受けていると、花は興味津々な様子で私に尋ねた。
「アンタが今仲良い男子っていうと、沢田か獄寺か山本よね。その中で誰か候補はいる?」
「ちょっと、花!」
「いいじゃない、別に。ねえ、アゲハ。それとも他に気になる男子がいるとか?」
「気になる男子ねえ……」
そもそも『気になる』って何だ。
綱吉のファミリー候補として目をつけている、という解釈でもいいのだろうか。
「もしくは日頃の感謝を込めて、っていうのでもいいんじゃない?」
「……なるほどね」
京子の助言に、出来上がった三つのおにぎりに視線を落とした。
咄嗟に思い浮かんだ顔は、綱吉、獄寺、山本の三人だ。
日頃の感謝というなら綱吉達が私に渡すのが筋だとも思うが、彼ら以外に候補もいないのでちょうどいい。
「なら、やっぱりツナ達に渡そうかしら」
「うん、いいと思うよ。仲直りのきっかけにもなるんじゃない?」
「はー、なんかつまんないわね」
花だけは納得していないようだが、おにぎりを渡すのは綱吉、獄寺、山本の三人に決定した。
おにぎりを丁寧にラッピングしながら、リボーンのことを思い出す。
今回のように意見がぶつかるのは別に珍しいことではない。
ただ、腐れ縁故に互いの事情や手の内を把握しているから、リボーンは厄介なのだ。
――お前だって、完璧なわけじゃねーんだから。
私の全盛期と称される時代に、沢田綱吉によく似た人物に出会い、彼やその仲間達と共に過ごしていたことがある。
彼らのことを心から大事にしたいと思っていたのに、結局は守り切ることができなかった。
私は完璧ではなかった。
選ばれていたのではなく、ただ外れていただけだった。
――オレやお前じゃできないことだぞ。
リボーンの言ったように、ビアンキは本当に私にできないことをやってくれるのだろうか。
もしビアンキを受け入れれば――私の理解できない感情を取り込めば、あの頃より成長することができるだろうか。
今度こそ、彼らを守ることができるだろうか。
理解できない領域の先に何が待ち受けているかも知らずに、呑気にそんな希望を抱いた。
