標的9 毒々しい排他主義
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛中学校家庭科室》
日付は変わり、この学校に入って初めての家庭科実習。
授業で説明を受けた時はそれなりに楽しみにしていたのだが、リボーンの所為でぶち壊されてしまった。
浮かない気分で、炊き立てのご飯を手に取る。
「おにぎり実習ねえ……。ストレス解消になるかしら」
「あんまり力を込めたら潰れるからね」
私の独り言に、隣で作業していた花が苦笑しながら口を挟んできた。
「何? なんか嫌なことでもあったの?」
「まあね」
「珍しいじゃん、アンタがそんな風に荒れるなんて」
荒れているという自覚はないが、確かにここまで何かに取り乱されるのは珍しいことかもしれない。
ここまで感情をコントロールできないのは――珍しいことかもしれない。
すると、同じテーブルで調理していた京子がぽつりと呟いた。
「もしかして、ツナ君と喧嘩したの?」
「え、そうなの?」
京子の言葉に、花が反応して目を丸くした。
実は、今朝通学途中で偶然京子と合流したのだ。
普段通り綱吉と登校し会話もしたのだが、その時私達に違和感を――主に、私の綱吉への対応に違和感を覚えたらしい。
ちなみに、今朝から現在に至るまで、ビアンキに目立った動きは見られない。
ただ、校舎内に彼女が潜伏しているのは確認済みであり、リボーンの宣言通りなら気を張らなくてはいけないのはこれからだ。
そして、予定の時間が迫るにつれ、私の中で苛立ちが膨れ上がっていくのだ。
「……まあ、そんなところよ」
二人の視線を受けて曖昧に頷いた。
実際の相手は綱吉ではなくリボーンだが、事情を知らない二人に赤ん坊相手に喧嘩(と呼べるかも定かではないが)しているとはとても言えない。
「へえー、原因は?」
「……さあ」
花の質問に首を傾げると、二人は揃って怪訝な表情を浮かべた。
決してはぐらかしているのではない。
本当に、何故自分がこれほど苛立っているのか把握できていないのだ。
いつもと変わらないリボーンの教育。
いつもと変わらない綱吉の反応。
そして、いつもと違う私の心情。
その原因は一体何なのだろうか。
「よく、分からないのよ」
一番考えられるのは、昨日のリボーンの発言だろう。
電話での、あの一言。
――お前だって、完璧なわけじゃねーんだから。
思わず冷静さを欠いて自転車に八つ当たりしてしまった、あれが原因だろうか。
今思い出しただけでも、折角作ったおにぎりを握り潰してしまいそうになるほど不愉快な発言だ。
私のトラウマを知っているくせに。
どうして、平気であんなことが言えるのだろう。
私の言葉を受けて、京子と花は互いに顔を見合わせてから優しく微笑んだ。
「ま、そういうこともあるわよ」
「うん。それに、二人ならすぐに仲直りできると思うよ」
「……ありがと」
変に気を遣わせてしまっただろうか。
今後はこの二人の前で不用意に悩みを見せるのは控えよう。
二人はそれ以上追及せず、話題は現在製作中のおにぎりに移った。
「そういえば、アゲハちゃんは誰におにぎりあげるかもう決めた?」
「自分で食べるものじゃないの?」
「それでもいいけど、女子は作ったおにぎりを気になる男子にあげる風習みたいなのがあんのよ」
「……変わった風習ね」
バレンタインデーに女子が男子にチョコレートを渡す習慣があるのは知っていたが、まさかおにぎりでも同様の行事が存在するとは。
カルチャーショックを受けていると、花は一瞬京子に視線を投げてから、興味津々な様子で尋ねた。
「アンタが今仲良い男子っていうと、沢田か獄寺か山本よね。その中で誰か候補はいる?」
「ちょっと、花!」
「いいじゃない、別に。ねえ、アゲハ。それとも他に気になる男子がいるとか?」
「気になる男子ねえ……」
そもそも、『気になる』って何だ。
綱吉のファミリー候補として目をつけている、という解釈でもいいのだろうか。
「もしくは日頃の感謝を込めて、っていうのでもいいんじゃない?」
「……なるほどね」
京子の助言に、出来上がった三つのおにぎりに視線を落とす。
「なら、やっぱりツナ達に渡そうかしら」
「うん、いいと思うよ。仲直りのきっかけにもなるんじゃない?」
「はー、なんかつまんないわね」
花だけが納得いかないようだが、おにぎりを渡すのは綱吉、獄寺、山本の三人に決定した。
日頃の感謝というなら綱吉達が私に渡すのが筋だとも思うが、京子の言う通りこれはいい機会かもしれない。
喧嘩とは言わないまでも、昨日綱吉に冷たい態度を取ってしまったことは頭の片隅で気になっていたのだ。
……リボーンに関しては、私の知ったことではない。
そもそも、彼と意見がぶつかることは日常茶飯事で、今更大した話ではないのだ。
意見を違えても気が合わなくても、私達はずっと一緒にいるのだから。
いつもと変わらないリボーンとの関係は、きっとこれからも変わることはない。
ただ、そういう腐れ縁が今回のようないざこざの要因とも言える。
私が怒りを露わにした先述の台詞は、私との付き合いが長いからこそ言えたものだ。
私のトラウマ、弱点、闇、失敗、後悔――それらを知り尽くしている者の発言である。
昔、沢田綱吉によく似た人に出会い、彼とその仲間達と共に過ごし、彼らに忠誠を誓っていた。
けれど結局、最後は彼らを守り切ることができなかった。
あの頃の私は今よりもはるかに多くのことができたのに、肝心の使命を貫くことはできなかった。
世界を滅ぼすことだって容易にできたのに、大好きな人を守ることはできなかった。
私は完璧ではなかったのだ。
選ばれていたのではなく、ただ外れていただけだった。
――オレやお前じゃできないことだぞ。
彼の言葉を思い返しながら、おにぎりを丁寧にラッピングしていく。
リボーンの言ったように、ビアンキは本当に私にできないことをやってくれるのだろうか。
もし、ビアンキを取り込めば――私の理解できない感情を取り込めば、あの頃より成長することができるだろうか。
今度こそ、彼らを守ることができるだろうか。
理解できない領域の先に何が待ち受けているかも知らずに、呑気にそんな希望を抱いた。
日付は変わり、この学校に入って初めての家庭科実習。
授業で説明を受けた時はそれなりに楽しみにしていたのだが、リボーンの所為でぶち壊されてしまった。
浮かない気分で、炊き立てのご飯を手に取る。
「おにぎり実習ねえ……。ストレス解消になるかしら」
「あんまり力を込めたら潰れるからね」
私の独り言に、隣で作業していた花が苦笑しながら口を挟んできた。
「何? なんか嫌なことでもあったの?」
「まあね」
「珍しいじゃん、アンタがそんな風に荒れるなんて」
荒れているという自覚はないが、確かにここまで何かに取り乱されるのは珍しいことかもしれない。
ここまで感情をコントロールできないのは――珍しいことかもしれない。
すると、同じテーブルで調理していた京子がぽつりと呟いた。
「もしかして、ツナ君と喧嘩したの?」
「え、そうなの?」
京子の言葉に、花が反応して目を丸くした。
実は、今朝通学途中で偶然京子と合流したのだ。
普段通り綱吉と登校し会話もしたのだが、その時私達に違和感を――主に、私の綱吉への対応に違和感を覚えたらしい。
ちなみに、今朝から現在に至るまで、ビアンキに目立った動きは見られない。
ただ、校舎内に彼女が潜伏しているのは確認済みであり、リボーンの宣言通りなら気を張らなくてはいけないのはこれからだ。
そして、予定の時間が迫るにつれ、私の中で苛立ちが膨れ上がっていくのだ。
「……まあ、そんなところよ」
二人の視線を受けて曖昧に頷いた。
実際の相手は綱吉ではなくリボーンだが、事情を知らない二人に赤ん坊相手に喧嘩(と呼べるかも定かではないが)しているとはとても言えない。
「へえー、原因は?」
「……さあ」
花の質問に首を傾げると、二人は揃って怪訝な表情を浮かべた。
決してはぐらかしているのではない。
本当に、何故自分がこれほど苛立っているのか把握できていないのだ。
いつもと変わらないリボーンの教育。
いつもと変わらない綱吉の反応。
そして、いつもと違う私の心情。
その原因は一体何なのだろうか。
「よく、分からないのよ」
一番考えられるのは、昨日のリボーンの発言だろう。
電話での、あの一言。
――お前だって、完璧なわけじゃねーんだから。
思わず冷静さを欠いて自転車に八つ当たりしてしまった、あれが原因だろうか。
今思い出しただけでも、折角作ったおにぎりを握り潰してしまいそうになるほど不愉快な発言だ。
私のトラウマを知っているくせに。
どうして、平気であんなことが言えるのだろう。
私の言葉を受けて、京子と花は互いに顔を見合わせてから優しく微笑んだ。
「ま、そういうこともあるわよ」
「うん。それに、二人ならすぐに仲直りできると思うよ」
「……ありがと」
変に気を遣わせてしまっただろうか。
今後はこの二人の前で不用意に悩みを見せるのは控えよう。
二人はそれ以上追及せず、話題は現在製作中のおにぎりに移った。
「そういえば、アゲハちゃんは誰におにぎりあげるかもう決めた?」
「自分で食べるものじゃないの?」
「それでもいいけど、女子は作ったおにぎりを気になる男子にあげる風習みたいなのがあんのよ」
「……変わった風習ね」
バレンタインデーに女子が男子にチョコレートを渡す習慣があるのは知っていたが、まさかおにぎりでも同様の行事が存在するとは。
カルチャーショックを受けていると、花は一瞬京子に視線を投げてから、興味津々な様子で尋ねた。
「アンタが今仲良い男子っていうと、沢田か獄寺か山本よね。その中で誰か候補はいる?」
「ちょっと、花!」
「いいじゃない、別に。ねえ、アゲハ。それとも他に気になる男子がいるとか?」
「気になる男子ねえ……」
そもそも、『気になる』って何だ。
綱吉のファミリー候補として目をつけている、という解釈でもいいのだろうか。
「もしくは日頃の感謝を込めて、っていうのでもいいんじゃない?」
「……なるほどね」
京子の助言に、出来上がった三つのおにぎりに視線を落とす。
「なら、やっぱりツナ達に渡そうかしら」
「うん、いいと思うよ。仲直りのきっかけにもなるんじゃない?」
「はー、なんかつまんないわね」
花だけが納得いかないようだが、おにぎりを渡すのは綱吉、獄寺、山本の三人に決定した。
日頃の感謝というなら綱吉達が私に渡すのが筋だとも思うが、京子の言う通りこれはいい機会かもしれない。
喧嘩とは言わないまでも、昨日綱吉に冷たい態度を取ってしまったことは頭の片隅で気になっていたのだ。
……リボーンに関しては、私の知ったことではない。
そもそも、彼と意見がぶつかることは日常茶飯事で、今更大した話ではないのだ。
意見を違えても気が合わなくても、私達はずっと一緒にいるのだから。
いつもと変わらないリボーンとの関係は、きっとこれからも変わることはない。
ただ、そういう腐れ縁が今回のようないざこざの要因とも言える。
私が怒りを露わにした先述の台詞は、私との付き合いが長いからこそ言えたものだ。
私のトラウマ、弱点、闇、失敗、後悔――それらを知り尽くしている者の発言である。
昔、沢田綱吉によく似た人に出会い、彼とその仲間達と共に過ごし、彼らに忠誠を誓っていた。
けれど結局、最後は彼らを守り切ることができなかった。
あの頃の私は今よりもはるかに多くのことができたのに、肝心の使命を貫くことはできなかった。
世界を滅ぼすことだって容易にできたのに、大好きな人を守ることはできなかった。
私は完璧ではなかったのだ。
選ばれていたのではなく、ただ外れていただけだった。
――オレやお前じゃできないことだぞ。
彼の言葉を思い返しながら、おにぎりを丁寧にラッピングしていく。
リボーンの言ったように、ビアンキは本当に私にできないことをやってくれるのだろうか。
もし、ビアンキを取り込めば――私の理解できない感情を取り込めば、あの頃より成長することができるだろうか。
今度こそ、彼らを守ることができるだろうか。
理解できない領域の先に何が待ち受けているかも知らずに、呑気にそんな希望を抱いた。