標的9 毒々しい排他主義
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《視点:宮野アゲハ 場所:沢田家綱吉の自室》
家に帰ると、玄関で今日に限って私を出迎えてくれた綱吉と遭遇してしまい、あれほど隠したかった暗殺者 の存在はあっさり発覚してしまった。
一応脅しが効いているのか綱吉を殺そうとはしなかったものの、綱吉を狙う理由を本人の前で公言した挙げ句、リボーンにあしらわれ堂々と玄関から帰っていった。
そして現在、鉢合わせてしまった綱吉は私とリボーン相手に大騒ぎしている。
「何なんだよ、あの女は~~!!?」
「あいつは“毒サソリ・ビアンキ”っていうフリーの殺し屋だ。あいつの得意技は毒入りの食い物を食わす“ポイズンクッキング”だ」
「また変なの来たなーっ!! どーなってんだよ、お前達んとこの業界!!」
絶叫しながら頭を抱える綱吉に、本当にこの選択が正しかったのか心配になってくる。
そして、『また』とは一体どういう意味だろうか。
まさか、私もその『変なの』に分類されているのか?
「ってか、お前あいつに気に入られてるっぽいよな」
「ビアンキはオレにゾッコンだぞ。付き合ってたこともあるしな」
「はあ!? つ……付き合ってたって、あの女がお前の彼女だったってこと……!?」
「オレはモテモテなんだぞ。ビアンキは愛人だ」
「お前意味分かって言ってんのかー!!?」
四番目、と指を立てるリボーンを一瞥し、ふとどうでもいい疑問が頭に浮かんだ。
そういえば、ビアンキは私のことをリボーンの恋人だと勘違いしてかなり嫉妬していたが、他の愛人に対してはどうなのだろうか。
私のようなただの仕事仲間にまでああだったことを鑑みると、泥沼な事態が容易に想像できてしまうのだが……。
いずれにしても、リボーンには少なくとも私や綱吉に迷惑が掛からない程度に一度女性関係をきちんと清算してほしいものだ。
すると、綱吉が突然顔を引き攣らせて私を凝視した。
「って、もしかして、アゲハも愛人に入ってるのか!?」
「ツナまで何を言っているの?」
あまりに論拠のない言い掛かりに冷ややかな視線を送ると、少したじろぎながら弁解した。
「だって、いつも二人で一緒にいるし……」
「仕事だからに決まっているでしょう」
「なんか気心知れない雰囲気だし」
「そう感じるのはきっとツナだけよ」
綱吉の意見をばっさり切り捨てると、リボーンが付き合いは長いけどな、と口を挟んできた。
「え、そうなのか?」
「長いだけよ。腐れ縁ね」
仲がいいわけでも気が合うわけでもないので、何を根拠にそんな勘違いが生まれるのか本当に理解できない。
綱吉はふうん、と納得したように相槌を打ったところでふと我に返ったのか、険しい顔でリボーンに詰め寄った。
「と……とにかくなんとかしろよ!! あいつオレの命狙ってんだぞ!」
「ツナ……人はいずれ死ぬ生き物だぞ」
「急に悟るなーっ!!!」
綱吉には、ビアンキは私が脅したので当分は無害であることを伝えなくてもいいのだろうか。
顔を起こし、騒いでいる綱吉の顔を見つめる。
「ツナ」
「な、何だよ」
「カフェオレが欲しいわ。今すぐ持って来て」
「はあ!?」
「じゃあ、オレはエスプレッソ」
「お前ら……あーもう、分かったよ」
綱吉は脱力したように嘆息すると、腑に落ちない表情を浮かべたまま渋々部屋を出て行った。
部屋にリボーンと二人きりになったところで、ようやく本題を切り出した。
「で、私が納得するようなビアンキの利用価値は思いついた?」
「ああ」
リボーンはにっと微笑み、自信満々に頷いた。
「オレの家庭教師の一部をビアンキに任せるつもりだ」
「……私ではいけないの?」
「お前に人なんか教えられるのか?」
「無理ね、残念だけど」
これでもボンゴレファミリーに加入してからさまざまなカリキュラムをこなしてきたが、他人の教育に関する指導はほとんど受けていない。
“最終兵器”の後任を育成する機会も人材も時間も存在しないため、私には不要な機能だと判断されたのだろう。
ちなみに、ビアンキには家庭科と美術を任せる予定らしい。
逆立ちしても私が受け持つのは不可能そうだ。
「私はともかく、リボーンでも駄目なの?」
「オレもできるが、やっぱそういうのは得意な奴に任せようと思ってな」
「ふうん、まあいいけれど。九代目には自分で許可を取ってね」
「反対しねーのか?」
「とぼけないでよ。ツナにビアンキの存在を知られた以上、下手に始末もできなくなったんじゃない」
家庭教師の一部を任せるということは綱吉への接近を許すことになるが、私が目を光らせていれば問題ないだろう。
私の賛同を得られると、そうか、と満足そうに笑った。
「そういえば、明日おにぎり実習なんてのがあるんだってな」
「……? ええ。そうだけど」
突然の話題転換に、戸惑いを隠しながら首肯する。
リボーンが授業内容を把握していることに驚きはしないが、今このタイミングで切り出したことに違和感以上に嫌な予感がする。
そして、恐らく長年の付き合いだからこそ察知することができたそれは、見事に的中してしまった。
「その時、ビアンキにツナを襲わせる予定でいるから、アゲハはぎりぎりまで手を出すなよ」
「は?」
まるで雑談の延長のように軽い調子で告げられた重大発表に、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
ビアンキに綱吉を襲わせる――つまり、ビアンキが綱吉を殺そうとする。
それは、私が何としてでも止めたかった事態で、実際回避されたはずの未来だ。
それを彼自らの手で実行しようというのか?
「安心しろ。ただの家庭教師の延長だ」
「家庭科と美術を教えるのに、何故そんな必要があるのよ」
「ツナの成長のために必要なことだぞ」
「……それ、前にも聞いた気がするんだけど」
ただし、その言葉に嘘偽りはないことは知っている。
リボーンの行動原理は、いつだって綱吉を立派なボスにすることである。
しかし、だからと言って、さすがに二つ返事で了承するわけにはいかない。
「分かってるの? あの女は本気でツナの命を狙っているのよ」
「ああ。だからこそあいつが相応しいんだ。オレやお前じゃできないことだぞ」
「……!」
――案外、ビアンキはお前にできないことをやってくれるかもしんねーぞ。お前だって、完璧なわけじゃねーんだから。
瞬時に電話でのリボーンの発言が蘇り、観念して目を閉じた。
異論を認めない姿勢の彼に何を言っても、もう意見が覆ることはないのだろう。
あの時ビアンキを見逃した時点で、私の敗北は決定していたのだ。
「やっぱり殺しておけば良かった……」
思わず漏れた本音に、リボーンは静かに勝ち誇った笑みを浮かべた。
その時、ちょうど綱吉が飲み物を持ってドアを開けたのだ。
「持って来たぞー……あれ、アゲハどうしたんだ?」
「煩い」
「はあっ!?」
カフェオレの入ったコップを半ば奪うように受け取り、中身を一気に飲み干した。
綱吉はその様子を呆然と見つめながら、怪訝そうに私の正面に腰を下ろす。
「いきなりどうしたんだよ。機嫌悪いのか?」
「煩いのよ。ツナなんてあの女に殺されればいいのに」
「なんでだー!? しかもお前オレの護衛だろ!?」
「知らないわ。そもそも自分の身くらい自分で守りなさいよ」
「自分の仕事全否定したー!!」
ショックを受ける綱吉に、リボーンが笑いを堪えながらフォローを入れる。
「気にすんな。アゲハがツナを守ろうとしたのをオレが止めたもんだから、今苛立ってんだ」
「めちゃくちゃ気にするよ!! なんでそんな余計なことしたんだお前!!」
綱吉の矛先が私からリボーンに変わったところで、空のコップをテーブルに置いて思考する。
ビアンキに綱吉を襲わせるとなると、綱吉に求められる行動は自ずと限られてくる。
そのどれもが、リボーンが『綱吉の成長のため』と計画するのに充分な結果を得られるはずだ。
その上、たとえビアンキが暴走したり求める結果が得られなかったりしても、本気で危なくなれば死ぬ気弾があるし、そうでなくても護衛 がいる――つまり、私が問題視するべき『綱吉の命に直接関わる』事態に発展する可能性は限りなくゼロに近い。
要するに、今回の計画はこれまでのリボーンの無茶振りと大して変わりない――はずなのだ。
なのに、何故か釈然としない。
カフェオレを流し込んでも冷静に熟考しても、胸中に広がる不快感は収まらない。
何故だろうか。
今日の自分の行動がすべて無に帰すように感じるからだろうか?
努力が報われないことなど、今に始まったわけではないのに。
どうして、こんなに居ても立っても居られないのだろう。
家に帰ると、玄関で今日に限って私を出迎えてくれた綱吉と遭遇してしまい、あれほど隠したかった
一応脅しが効いているのか綱吉を殺そうとはしなかったものの、綱吉を狙う理由を本人の前で公言した挙げ句、リボーンにあしらわれ堂々と玄関から帰っていった。
そして現在、鉢合わせてしまった綱吉は私とリボーン相手に大騒ぎしている。
「何なんだよ、あの女は~~!!?」
「あいつは“毒サソリ・ビアンキ”っていうフリーの殺し屋だ。あいつの得意技は毒入りの食い物を食わす“ポイズンクッキング”だ」
「また変なの来たなーっ!! どーなってんだよ、お前達んとこの業界!!」
絶叫しながら頭を抱える綱吉に、本当にこの選択が正しかったのか心配になってくる。
そして、『また』とは一体どういう意味だろうか。
まさか、私もその『変なの』に分類されているのか?
「ってか、お前あいつに気に入られてるっぽいよな」
「ビアンキはオレにゾッコンだぞ。付き合ってたこともあるしな」
「はあ!? つ……付き合ってたって、あの女がお前の彼女だったってこと……!?」
「オレはモテモテなんだぞ。ビアンキは愛人だ」
「お前意味分かって言ってんのかー!!?」
四番目、と指を立てるリボーンを一瞥し、ふとどうでもいい疑問が頭に浮かんだ。
そういえば、ビアンキは私のことをリボーンの恋人だと勘違いしてかなり嫉妬していたが、他の愛人に対してはどうなのだろうか。
私のようなただの仕事仲間にまでああだったことを鑑みると、泥沼な事態が容易に想像できてしまうのだが……。
いずれにしても、リボーンには少なくとも私や綱吉に迷惑が掛からない程度に一度女性関係をきちんと清算してほしいものだ。
すると、綱吉が突然顔を引き攣らせて私を凝視した。
「って、もしかして、アゲハも愛人に入ってるのか!?」
「ツナまで何を言っているの?」
あまりに論拠のない言い掛かりに冷ややかな視線を送ると、少したじろぎながら弁解した。
「だって、いつも二人で一緒にいるし……」
「仕事だからに決まっているでしょう」
「なんか気心知れない雰囲気だし」
「そう感じるのはきっとツナだけよ」
綱吉の意見をばっさり切り捨てると、リボーンが付き合いは長いけどな、と口を挟んできた。
「え、そうなのか?」
「長いだけよ。腐れ縁ね」
仲がいいわけでも気が合うわけでもないので、何を根拠にそんな勘違いが生まれるのか本当に理解できない。
綱吉はふうん、と納得したように相槌を打ったところでふと我に返ったのか、険しい顔でリボーンに詰め寄った。
「と……とにかくなんとかしろよ!! あいつオレの命狙ってんだぞ!」
「ツナ……人はいずれ死ぬ生き物だぞ」
「急に悟るなーっ!!!」
綱吉には、ビアンキは私が脅したので当分は無害であることを伝えなくてもいいのだろうか。
顔を起こし、騒いでいる綱吉の顔を見つめる。
「ツナ」
「な、何だよ」
「カフェオレが欲しいわ。今すぐ持って来て」
「はあ!?」
「じゃあ、オレはエスプレッソ」
「お前ら……あーもう、分かったよ」
綱吉は脱力したように嘆息すると、腑に落ちない表情を浮かべたまま渋々部屋を出て行った。
部屋にリボーンと二人きりになったところで、ようやく本題を切り出した。
「で、私が納得するようなビアンキの利用価値は思いついた?」
「ああ」
リボーンはにっと微笑み、自信満々に頷いた。
「オレの家庭教師の一部をビアンキに任せるつもりだ」
「……私ではいけないの?」
「お前に人なんか教えられるのか?」
「無理ね、残念だけど」
これでもボンゴレファミリーに加入してからさまざまなカリキュラムをこなしてきたが、他人の教育に関する指導はほとんど受けていない。
“最終兵器”の後任を育成する機会も人材も時間も存在しないため、私には不要な機能だと判断されたのだろう。
ちなみに、ビアンキには家庭科と美術を任せる予定らしい。
逆立ちしても私が受け持つのは不可能そうだ。
「私はともかく、リボーンでも駄目なの?」
「オレもできるが、やっぱそういうのは得意な奴に任せようと思ってな」
「ふうん、まあいいけれど。九代目には自分で許可を取ってね」
「反対しねーのか?」
「とぼけないでよ。ツナにビアンキの存在を知られた以上、下手に始末もできなくなったんじゃない」
家庭教師の一部を任せるということは綱吉への接近を許すことになるが、私が目を光らせていれば問題ないだろう。
私の賛同を得られると、そうか、と満足そうに笑った。
「そういえば、明日おにぎり実習なんてのがあるんだってな」
「……? ええ。そうだけど」
突然の話題転換に、戸惑いを隠しながら首肯する。
リボーンが授業内容を把握していることに驚きはしないが、今このタイミングで切り出したことに違和感以上に嫌な予感がする。
そして、恐らく長年の付き合いだからこそ察知することができたそれは、見事に的中してしまった。
「その時、ビアンキにツナを襲わせる予定でいるから、アゲハはぎりぎりまで手を出すなよ」
「は?」
まるで雑談の延長のように軽い調子で告げられた重大発表に、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
ビアンキに綱吉を襲わせる――つまり、ビアンキが綱吉を殺そうとする。
それは、私が何としてでも止めたかった事態で、実際回避されたはずの未来だ。
それを彼自らの手で実行しようというのか?
「安心しろ。ただの家庭教師の延長だ」
「家庭科と美術を教えるのに、何故そんな必要があるのよ」
「ツナの成長のために必要なことだぞ」
「……それ、前にも聞いた気がするんだけど」
ただし、その言葉に嘘偽りはないことは知っている。
リボーンの行動原理は、いつだって綱吉を立派なボスにすることである。
しかし、だからと言って、さすがに二つ返事で了承するわけにはいかない。
「分かってるの? あの女は本気でツナの命を狙っているのよ」
「ああ。だからこそあいつが相応しいんだ。オレやお前じゃできないことだぞ」
「……!」
――案外、ビアンキはお前にできないことをやってくれるかもしんねーぞ。お前だって、完璧なわけじゃねーんだから。
瞬時に電話でのリボーンの発言が蘇り、観念して目を閉じた。
異論を認めない姿勢の彼に何を言っても、もう意見が覆ることはないのだろう。
あの時ビアンキを見逃した時点で、私の敗北は決定していたのだ。
「やっぱり殺しておけば良かった……」
思わず漏れた本音に、リボーンは静かに勝ち誇った笑みを浮かべた。
その時、ちょうど綱吉が飲み物を持ってドアを開けたのだ。
「持って来たぞー……あれ、アゲハどうしたんだ?」
「煩い」
「はあっ!?」
カフェオレの入ったコップを半ば奪うように受け取り、中身を一気に飲み干した。
綱吉はその様子を呆然と見つめながら、怪訝そうに私の正面に腰を下ろす。
「いきなりどうしたんだよ。機嫌悪いのか?」
「煩いのよ。ツナなんてあの女に殺されればいいのに」
「なんでだー!? しかもお前オレの護衛だろ!?」
「知らないわ。そもそも自分の身くらい自分で守りなさいよ」
「自分の仕事全否定したー!!」
ショックを受ける綱吉に、リボーンが笑いを堪えながらフォローを入れる。
「気にすんな。アゲハがツナを守ろうとしたのをオレが止めたもんだから、今苛立ってんだ」
「めちゃくちゃ気にするよ!! なんでそんな余計なことしたんだお前!!」
綱吉の矛先が私からリボーンに変わったところで、空のコップをテーブルに置いて思考する。
ビアンキに綱吉を襲わせるとなると、綱吉に求められる行動は自ずと限られてくる。
そのどれもが、リボーンが『綱吉の成長のため』と計画するのに充分な結果を得られるはずだ。
その上、たとえビアンキが暴走したり求める結果が得られなかったりしても、本気で危なくなれば死ぬ気弾があるし、そうでなくても
要するに、今回の計画はこれまでのリボーンの無茶振りと大して変わりない――はずなのだ。
なのに、何故か釈然としない。
カフェオレを流し込んでも冷静に熟考しても、胸中に広がる不快感は収まらない。
何故だろうか。
今日の自分の行動がすべて無に帰すように感じるからだろうか?
努力が報われないことなど、今に始まったわけではないのに。
どうして、こんなに居ても立っても居られないのだろう。