標的8 ご都合主義に都合のいい展開
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《視点:×××× 場所:ボンゴレファミリー本部ミーティングルーム》
「今すぐ処分だっ!! それ以外あり得ん!!」
怒声の主が力任せに机を叩いた振動が、部屋の空気を震わせた。
トーロファミリーが文字通り消滅してから一週間、宮野アゲハはファミリーにとって危険な存在とされ地下牢に幽閉された。
そして、彼女の今後の進退を決める重要な会議が開かれ、そこには錚々たる面々が顔を揃えることになった。
ボンゴレ九代目ボスは勿論、幹部クラスの上層部も集結しているが、なかには宮野アゲハと同世代くらいの少年や赤ん坊も交じっている。
先ほどの怒声をきっかけに、あちこちでアゲハに対して否定的な意見が溢れ出した。
「確かに、単独でファミリーを跡形もなく消滅させるほどの能力を有する奴を生かしておくのは危険かもしれないな」
「もし我らに牙を向いた場合、現状対抗しうる抑止力がない。下手したら壊滅を招くぞ」
「そもそも出自の不明な少女をファミリーに加えること自体反対だったんだ! 九代目のご判断には従ったが……、あんな奴が連れて来た娘など――」
そこで苛立たしげに口を閉ざした男は、ミーティングルームの一角に鎮座する少年を睨みつける。
すると、少年の隣にいる一人の人物が立ち上がった。
「おい。九条 は九代目が信頼するファミリーの相談役だぞ。それに、宮野アゲハの加入は九代目のご意思だ。それを否定するような発言は慎め」
その言葉にばつが悪そうに黙り込むのを確認した後、男の近くで別の声が上がった。
「それに、頭ごなしに否定するのもどうかと思うぞ。あの力は使いようによっては、将来ボンゴレの繁栄に繋がるかもしれない」
「しかも、あの娘を讃える信仰団体のようなものまで存在しているようだ」
「ああ。あの少女のカリスマ性は異常だ。既に巷では“ボンゴレの守護神”だのと崇められているらしい。もし殺せば暴動が起きるぞ」
「だからこそ、いずれあの娘が裏切った時に我々が危険に晒される恐れがあるというんだ!!」
「それはないと思いますよぉ」
白熱した議論に水を差すように、間延びした調子の声が響いた。
その場にいた者全員が、机に置かれたパソコンに注目する。
パソコン画面には、猫のカチューシャをしたピンク髪の少女――情報屋兼武器職人・黒猫の姿が映っていた。
本来であれば部外者である彼女の参加資格はないのだが、宮野アゲハを最もよく知る人物の一人として特別に認められた経緯がある。
黒猫は会議参加者全員分の視線を浴びても物怖じせず、白い包み紙でコーティングされた飴玉を手で弄びながらマイペースに語る。
「宮野アゲハは初代ファミリーの時代に、ボンゴレと初代ボスに仕えていたんだもん。生まれ変わってもその忠誠心は健在だよぉ。だから、あの娘 がボンゴレに危害を加える可能性はほとんどゼロだと思うなぁ」
彼女が喋った途端、ミーティングルームが水を打ったように静まり返った。
彼女の“呪い”に縛られないよう機械を通しての参加ではあるものの、声を聞くだけで青ざめる者まで存在する。
「あと、さっき『ファミリーを跡形もなく消滅させるほどの能力を有する』とか言った奴がいたけど、逆に言えば今のアゲハちゃんはその程度の力しか持ってないんだよぉ」
「……その程度だと?」
「実は、今のあの娘 のスペックは全盛期の僅か0.0003%しかないんだ。いざとなったら九条さんやアルコバレーノ総動員で止められるよぉ、ねっ、リボーン♪」
黒猫は会議に参加している赤ん坊に同意を求めたが、彼は微動だにしない。
どころか、黒猫を視界にすら入れていないようだ。
「にゃはは、つれないなぁ。ま、いいや。そんなわけで、そんなことより問題なのは、折角ボンゴレで飼ってるアゲハちゃんを解放しちゃうことだよぉ」
「……は?」
誰かが呆気に取られたような声を漏らしたのに対し、黒猫はいつものように独特な笑い声を響かせる。
「分かんない? 言った通り、アゲハちゃんはボンゴレに恩義があるから滅多なことでは反抗しないよ、現段階では。でも、もしボンゴレがあの娘 を手放して、ボンゴレに都合の悪い誰かがあの娘 をいいように洗脳しちゃったら――さっき君達が言った、ボンゴレ壊滅が現実になっちゃうかもよ」
「……そんなことが――」
「あるんだよぉ。今のアゲハちゃんは特別染まりやすいんだから。誰かが手綱を握ってなきゃ、最悪世界の破滅もありうるよ」
沈黙するミーティングルームに、楽しそうに笑う黒猫の声だけが聞こえる。
黒猫の言葉を冗談だと笑い飛ばす者はいない――彼らにとって先日の事件はそれほどまでにショッキングだったのだ。
誰もが最悪の事態を頭に浮かべ、冷や汗を流す。
すると、最初に怒号を発した人物が焦ったように声を荒げた。
「だ、だったら尚更殺処分した方が――」
「あのさぁ、ボクの話聞いてた? 今下手にあの娘 を刺激して敵と見なされたら、その時点でボンゴレの終わりだよぉ。……それに、今のところアゲハちゃんを殺せる人間なんていないし」
断定的な表現と力強い口調に、今度こそ全員が沈黙した。
すべてを知る彼女の言葉は、他の者とは重みが違う。
会議が完全に膠着したと思われた時、狙い澄ませたように静観していた少年が挙手した。
「じゃあ、オレがやりましょうか」
その発言に、部屋中の視線が一斉に黒猫から少年に移った。
誰かが少年の名前をうわ言のように呟いたのを、彼は笑顔で受け答える。
「そんなに皆さんが不安がるなら、オレがあいつの手綱を握る係をやります。オレがあいつの枷になりますよ」
まるで雑務を引き受けるかのように、彼はあっさりと告げた。
その上、旧友を呼ぶかのように優しい声色でアゲハを『あいつ』と表したのだ。
「それに、ある意味チャンスだと思うんです。さっき指摘されたように、あいつは今後ボンゴレにとって重要な戦力になるかもしれない。今のうちから手元に置いて、ボンゴレが正義だって刷り込ませればいいんですよ。反乱の意志も反抗の余地もないくらい、飼い慣らせばいいんですよ」
「……は? 飼い慣らすって……」
「簡単だと思いますよ。黒猫が言ったように、今のあいつは不都合な記憶を初期化してあるから洗脳しやすい。オレは多少あいつに信頼されてるし、ボンゴレに都合のいい兵器にするのは案外楽な作業かもしれませんよ」
戸惑う声に、彼は平然とそう言い放ったのだ。
先ほど『あいつ』と呼んだのと同じ声で、今度は彼女を『兵器』と呼び捨てた。
その一貫性のない台詞の数々に、参加者達が顔を見合わせる。
「それに、今まで話題に上りませんでしたけど、トーロファミリーを壊滅させた技はオレが考えたんですからね。あいつのストッパーとしては適役だと思いますよ。まあ、他にあの化物と対峙したいっていう勇者がいるなら、オレは身を引きますけど」
そこで、周囲の反応を窺うように言葉を止めた。
しかし、誰もが話の展開についていけず、混乱したように口を噤んでいる。
そうして暫く沈黙が続いた後、少年の隣に座っていた男が心配そうに声を掛けた。
「だが……万が一の時、君が危険に晒されるんじゃないか?」
「問題ないですよ。あいつはあくまで人間ですから」
少年はきっぱりとそう返答した。
今度は『人間』だと言い切った。
にゃはは、と特徴的な声で嘲笑ってから、黒猫は総括するように発言した。
「人間かどうかはともかく、アゲハちゃんもこれで思い知ったんじゃない? 自分がどれだけ周りから外れているか。一度転生した程度では、歪みは直せないことを」
こうして、対策会議は終了した。
結論として、宮野アゲハは幽閉が解かれ、今まで通りファミリーの在籍を認められた。
そして、九条雅也 が彼女の教育係を務め、有事の際はアルコバレーノがボンゴレに全面協力することになった。
さらに黒猫の予想通り、この件でアゲハは自分の異常性を痛いほど思い知り、その後は特に大きな問題を起こすことはなかった。
そうして、異常なカリスマ性でファミリーの信頼と部下を得た彼女は、数年後にボス補佐の地位を確立したのだった。
ここまですべてが、“ご都合主義”九条雅也の思い通りの展開であった。
(標的8 了)
「今すぐ処分だっ!! それ以外あり得ん!!」
怒声の主が力任せに机を叩いた振動が、部屋の空気を震わせた。
トーロファミリーが文字通り消滅してから一週間、宮野アゲハはファミリーにとって危険な存在とされ地下牢に幽閉された。
そして、彼女の今後の進退を決める重要な会議が開かれ、そこには錚々たる面々が顔を揃えることになった。
ボンゴレ九代目ボスは勿論、幹部クラスの上層部も集結しているが、なかには宮野アゲハと同世代くらいの少年や赤ん坊も交じっている。
先ほどの怒声をきっかけに、あちこちでアゲハに対して否定的な意見が溢れ出した。
「確かに、単独でファミリーを跡形もなく消滅させるほどの能力を有する奴を生かしておくのは危険かもしれないな」
「もし我らに牙を向いた場合、現状対抗しうる抑止力がない。下手したら壊滅を招くぞ」
「そもそも出自の不明な少女をファミリーに加えること自体反対だったんだ! 九代目のご判断には従ったが……、あんな奴が連れて来た娘など――」
そこで苛立たしげに口を閉ざした男は、ミーティングルームの一角に鎮座する少年を睨みつける。
すると、少年の隣にいる一人の人物が立ち上がった。
「おい。
その言葉にばつが悪そうに黙り込むのを確認した後、男の近くで別の声が上がった。
「それに、頭ごなしに否定するのもどうかと思うぞ。あの力は使いようによっては、将来ボンゴレの繁栄に繋がるかもしれない」
「しかも、あの娘を讃える信仰団体のようなものまで存在しているようだ」
「ああ。あの少女のカリスマ性は異常だ。既に巷では“ボンゴレの守護神”だのと崇められているらしい。もし殺せば暴動が起きるぞ」
「だからこそ、いずれあの娘が裏切った時に我々が危険に晒される恐れがあるというんだ!!」
「それはないと思いますよぉ」
白熱した議論に水を差すように、間延びした調子の声が響いた。
その場にいた者全員が、机に置かれたパソコンに注目する。
パソコン画面には、猫のカチューシャをしたピンク髪の少女――情報屋兼武器職人・黒猫の姿が映っていた。
本来であれば部外者である彼女の参加資格はないのだが、宮野アゲハを最もよく知る人物の一人として特別に認められた経緯がある。
黒猫は会議参加者全員分の視線を浴びても物怖じせず、白い包み紙でコーティングされた飴玉を手で弄びながらマイペースに語る。
「宮野アゲハは初代ファミリーの時代に、ボンゴレと初代ボスに仕えていたんだもん。生まれ変わってもその忠誠心は健在だよぉ。だから、あの
彼女が喋った途端、ミーティングルームが水を打ったように静まり返った。
彼女の“呪い”に縛られないよう機械を通しての参加ではあるものの、声を聞くだけで青ざめる者まで存在する。
「あと、さっき『ファミリーを跡形もなく消滅させるほどの能力を有する』とか言った奴がいたけど、逆に言えば今のアゲハちゃんはその程度の力しか持ってないんだよぉ」
「……その程度だと?」
「実は、今のあの
黒猫は会議に参加している赤ん坊に同意を求めたが、彼は微動だにしない。
どころか、黒猫を視界にすら入れていないようだ。
「にゃはは、つれないなぁ。ま、いいや。そんなわけで、そんなことより問題なのは、折角ボンゴレで飼ってるアゲハちゃんを解放しちゃうことだよぉ」
「……は?」
誰かが呆気に取られたような声を漏らしたのに対し、黒猫はいつものように独特な笑い声を響かせる。
「分かんない? 言った通り、アゲハちゃんはボンゴレに恩義があるから滅多なことでは反抗しないよ、現段階では。でも、もしボンゴレがあの
「……そんなことが――」
「あるんだよぉ。今のアゲハちゃんは特別染まりやすいんだから。誰かが手綱を握ってなきゃ、最悪世界の破滅もありうるよ」
沈黙するミーティングルームに、楽しそうに笑う黒猫の声だけが聞こえる。
黒猫の言葉を冗談だと笑い飛ばす者はいない――彼らにとって先日の事件はそれほどまでにショッキングだったのだ。
誰もが最悪の事態を頭に浮かべ、冷や汗を流す。
すると、最初に怒号を発した人物が焦ったように声を荒げた。
「だ、だったら尚更殺処分した方が――」
「あのさぁ、ボクの話聞いてた? 今下手にあの
断定的な表現と力強い口調に、今度こそ全員が沈黙した。
すべてを知る彼女の言葉は、他の者とは重みが違う。
会議が完全に膠着したと思われた時、狙い澄ませたように静観していた少年が挙手した。
「じゃあ、オレがやりましょうか」
その発言に、部屋中の視線が一斉に黒猫から少年に移った。
誰かが少年の名前をうわ言のように呟いたのを、彼は笑顔で受け答える。
「そんなに皆さんが不安がるなら、オレがあいつの手綱を握る係をやります。オレがあいつの枷になりますよ」
まるで雑務を引き受けるかのように、彼はあっさりと告げた。
その上、旧友を呼ぶかのように優しい声色でアゲハを『あいつ』と表したのだ。
「それに、ある意味チャンスだと思うんです。さっき指摘されたように、あいつは今後ボンゴレにとって重要な戦力になるかもしれない。今のうちから手元に置いて、ボンゴレが正義だって刷り込ませればいいんですよ。反乱の意志も反抗の余地もないくらい、飼い慣らせばいいんですよ」
「……は? 飼い慣らすって……」
「簡単だと思いますよ。黒猫が言ったように、今のあいつは不都合な記憶を初期化してあるから洗脳しやすい。オレは多少あいつに信頼されてるし、ボンゴレに都合のいい兵器にするのは案外楽な作業かもしれませんよ」
戸惑う声に、彼は平然とそう言い放ったのだ。
先ほど『あいつ』と呼んだのと同じ声で、今度は彼女を『兵器』と呼び捨てた。
その一貫性のない台詞の数々に、参加者達が顔を見合わせる。
「それに、今まで話題に上りませんでしたけど、トーロファミリーを壊滅させた技はオレが考えたんですからね。あいつのストッパーとしては適役だと思いますよ。まあ、他にあの化物と対峙したいっていう勇者がいるなら、オレは身を引きますけど」
そこで、周囲の反応を窺うように言葉を止めた。
しかし、誰もが話の展開についていけず、混乱したように口を噤んでいる。
そうして暫く沈黙が続いた後、少年の隣に座っていた男が心配そうに声を掛けた。
「だが……万が一の時、君が危険に晒されるんじゃないか?」
「問題ないですよ。あいつはあくまで人間ですから」
少年はきっぱりとそう返答した。
今度は『人間』だと言い切った。
にゃはは、と特徴的な声で嘲笑ってから、黒猫は総括するように発言した。
「人間かどうかはともかく、アゲハちゃんもこれで思い知ったんじゃない? 自分がどれだけ周りから外れているか。一度転生した程度では、歪みは直せないことを」
こうして、対策会議は終了した。
結論として、宮野アゲハは幽閉が解かれ、今まで通りファミリーの在籍を認められた。
そして、九条
さらに黒猫の予想通り、この件でアゲハは自分の異常性を痛いほど思い知り、その後は特に大きな問題を起こすことはなかった。
そうして、異常なカリスマ性でファミリーの信頼と部下を得た彼女は、数年後にボス補佐の地位を確立したのだった。
ここまですべてが、“ご都合主義”九条雅也の思い通りの展開であった。
(標的8 了)