標的8 ご都合主義に都合のいい展開
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《視点:宮野アゲハ 場所:並盛中学校プール》
「っつーわけで、獄寺を納得させるためにも、山本の“入ファミリー試験”をすることにしたんだ」
「オレが納得できーん!!」
リボーンは今朝のやり取りを簡単に説明した後、まるで当然の流れであるかのようにそう言い切った。
その直後、綱吉が飛び込み台の上から異議を唱えたのだ。
プール周辺には私達三人しかいないため、多少騒いでも咎める者はいない。
それをいいことに、リボーンに至っては予め用意した水着に身を包み、浮き輪と共にプールに浮かんでいる始末だ。
その上、デザートやジュースまで持ち込むほどに用意周到だ。
ところで、何故プールでもボルサリーノを被ったままなのだろうか。
「何勝手に決めてるんだよ! ってか勝手に学校のプール入んなよ!!」
私の言いたいことはすべて綱吉が先制してくれるので、私は黙って聞いているだけでいい。
綱吉の言う通り、騒いで咎める者はいなくても、無断でプールを使用したことでトンファーを振り回す者はいるかもしれないのだ。
しかし、そんなことをいちいち指摘してもリボーンには無意味なので、無視して先ほどの提案を思い返す。
入ファミリー試験。
一体、具体的に何をするのだろうか。
私がボンゴレファミリーに入った時、そんな試験は存在しなかった。
と言うより、当時は友人の紹介があったのでほぼ無条件で加入できたのだ。
それ故に面倒臭い事態も多々発生したのだが、それはともかく。
まさか、リボーンも現段階では一般人の山本相手に無茶な内容の試験は――いや、リボーンはそういう無茶を平気でする人だった。
綱吉の反対意見をひたすら聞き流し、自分のペースを貫く人だった。
「もう獄寺に山本を呼びに行かせたぞ」
「なんだってー!!?」
リボーンの言葉に大袈裟に反応した綱吉は一瞬で青ざめ、大声を上げて立ち上がった。
「あ、“あの”獄寺君だぞ!! 山本に何かあったらどーすんだよ!!」
そう言い残し、彼は脇目も振らず更衣室に通じるドアから出て行った。
ドアが乱暴に閉じられ、辺りが静寂に包まれる。
プールサイドに腰を下ろし成り行きを見守っていた私の吐いたため息が、やけに大きく響き渡った。
どうにも綱吉の反応が過剰すぎるように思えてしまうのだ。
彼は心配性なのだろうか。
獄寺は確かに何かあればすぐ荒事で解決しようとする節があるが、あれでも一応綱吉を慕っているのだ。
そんな綱吉のファミリー候補を邪険に扱うなんてことは――充分に考えられた。
今朝の敵対的な視線が頭をよぎり、思わず即座に否定してしまった。
しかし、いくら対抗心があっても、獄寺は紛れもなく裏社会の人間である。
山本は普通の一般人だという線引きを認識していれば、さすがにいきなりダイナマイトを放つような真似は――何の躊躇もなくできてしまう人だった。
恐らく、頭に血が上ったら我を忘れてしまうのだろう。
かつて綱吉に絡んで来た不良達を容赦なく締め上げていた光景を思い出し、綱吉が去った方向に目を向ける。
綱吉の応対はある意味正当だったのかもしれない。
心配性ではなく、苦労性なのだろう。
部下に翻弄され、慌てふためく彼の姿を改めて思い起こす。
あれが、将来部下を振り回すボスになるのだろうか。
「獄寺って言えば、あいつと昔会ったことがあるって言ったな」
リボーンは空を眺めながら唐突に呟いた。
この場には私しかいないので、当然私への語りかけだ。
リボーンとの会話は毎回このように突然始まるのだ。
「いつ何処でどんな風に会ったんだ?」
「……リボーン、そんな話に興味あるの?」
「まーな」
つぶらな黒い瞳が私を捉える。
普段通りの態度ではあるが、どうやら何か思惑を抱えているようだ。
まあ、私の知ったことではないが。
そして知る必要もないが。
もったいぶるほどのエピソードでもないので、当時を思い返しながら滔々と語った。
「確か、六年前だったかしら。獄寺の城の医務室で出会ったのが最初よ」
城の専属医による定期健診のため医務室にいた時、現れたのが獄寺だ。
その時に会話を交わしたが、短時間だった上に他愛もない内容だったことを覚えている。
「それが、最初で最後よ」
あの日以来、獄寺とは一度も会うことはなかった。
そのため、今では私のことを完全に忘却しているようだ。
「獄寺がお前を忘れているとして、お前はそれでいいのか? 思い出してもらおうとしねーのか?」
「別にいいでしょう、そんなこと。忘れていようが思い出そうが、任務にも仕事にも支障はないわ」
「――……そうか」
短く息を吐き出すと、考え込むようにボルサリーノを深く被り直した。
そうかと思えば、急に声のトーンを変え笑顔を浮かべたのだ。
「んじゃ、任務に支障が出れば誤解を解く気になるんだな?」
「……? まあ、そうね」
「その言葉、忘れんじゃねーぞ」
まるで上手くいった、と言わんばかりに笑みを深めたリボーンの様子と、意味深な台詞の数々に首を傾げる。
そもそも『誤解』とは何のことだろう。
しかも、知らないうちに言質を取られた気がする。
リボーンは浮き輪から跳躍すると、音もなくプールサイドに着地した。
そして、切り替えるように強い口調で忠告したのだ。
「それはそうと、入ファミリー試験では何があっても手出しすんなよ。ツナに多少危険が迫ってもだ」
「……分かったわ」
頷くと、彼は満足したように頬を緩めた。
どうやらこれ以上詮索しても何も話してくれないようだ。
諦めてフェンスの外に目を向けた時、ふとあることを思い出した。
「そういえば、三分前にランボが並中の敷地内に侵入したわよ」
「放っとけ」
一応報告したが、案の定素気のない返答だ。
視線を戻すと、リボーンは既に普段のスーツ姿に戻っている。
いつの間にか浮き輪も片付けたようで、障害物のないプールの表面は乱反射できらきら輝いている。
リボーンが何を考えていようが、彼が綱吉に支障をきたすことは決してしない。
――なら、どうでもいいか。
早々に見切りをつけると、プールを出るリボーンの後に続きフェンスを飛び越えた。
「っつーわけで、獄寺を納得させるためにも、山本の“入ファミリー試験”をすることにしたんだ」
「オレが納得できーん!!」
リボーンは今朝のやり取りを簡単に説明した後、まるで当然の流れであるかのようにそう言い切った。
その直後、綱吉が飛び込み台の上から異議を唱えたのだ。
プール周辺には私達三人しかいないため、多少騒いでも咎める者はいない。
それをいいことに、リボーンに至っては予め用意した水着に身を包み、浮き輪と共にプールに浮かんでいる始末だ。
その上、デザートやジュースまで持ち込むほどに用意周到だ。
ところで、何故プールでもボルサリーノを被ったままなのだろうか。
「何勝手に決めてるんだよ! ってか勝手に学校のプール入んなよ!!」
私の言いたいことはすべて綱吉が先制してくれるので、私は黙って聞いているだけでいい。
綱吉の言う通り、騒いで咎める者はいなくても、無断でプールを使用したことでトンファーを振り回す者はいるかもしれないのだ。
しかし、そんなことをいちいち指摘してもリボーンには無意味なので、無視して先ほどの提案を思い返す。
入ファミリー試験。
一体、具体的に何をするのだろうか。
私がボンゴレファミリーに入った時、そんな試験は存在しなかった。
と言うより、当時は友人の紹介があったのでほぼ無条件で加入できたのだ。
それ故に面倒臭い事態も多々発生したのだが、それはともかく。
まさか、リボーンも現段階では一般人の山本相手に無茶な内容の試験は――いや、リボーンはそういう無茶を平気でする人だった。
綱吉の反対意見をひたすら聞き流し、自分のペースを貫く人だった。
「もう獄寺に山本を呼びに行かせたぞ」
「なんだってー!!?」
リボーンの言葉に大袈裟に反応した綱吉は一瞬で青ざめ、大声を上げて立ち上がった。
「あ、“あの”獄寺君だぞ!! 山本に何かあったらどーすんだよ!!」
そう言い残し、彼は脇目も振らず更衣室に通じるドアから出て行った。
ドアが乱暴に閉じられ、辺りが静寂に包まれる。
プールサイドに腰を下ろし成り行きを見守っていた私の吐いたため息が、やけに大きく響き渡った。
どうにも綱吉の反応が過剰すぎるように思えてしまうのだ。
彼は心配性なのだろうか。
獄寺は確かに何かあればすぐ荒事で解決しようとする節があるが、あれでも一応綱吉を慕っているのだ。
そんな綱吉のファミリー候補を邪険に扱うなんてことは――充分に考えられた。
今朝の敵対的な視線が頭をよぎり、思わず即座に否定してしまった。
しかし、いくら対抗心があっても、獄寺は紛れもなく裏社会の人間である。
山本は普通の一般人だという線引きを認識していれば、さすがにいきなりダイナマイトを放つような真似は――何の躊躇もなくできてしまう人だった。
恐らく、頭に血が上ったら我を忘れてしまうのだろう。
かつて綱吉に絡んで来た不良達を容赦なく締め上げていた光景を思い出し、綱吉が去った方向に目を向ける。
綱吉の応対はある意味正当だったのかもしれない。
心配性ではなく、苦労性なのだろう。
部下に翻弄され、慌てふためく彼の姿を改めて思い起こす。
あれが、将来部下を振り回すボスになるのだろうか。
「獄寺って言えば、あいつと昔会ったことがあるって言ったな」
リボーンは空を眺めながら唐突に呟いた。
この場には私しかいないので、当然私への語りかけだ。
リボーンとの会話は毎回このように突然始まるのだ。
「いつ何処でどんな風に会ったんだ?」
「……リボーン、そんな話に興味あるの?」
「まーな」
つぶらな黒い瞳が私を捉える。
普段通りの態度ではあるが、どうやら何か思惑を抱えているようだ。
まあ、私の知ったことではないが。
そして知る必要もないが。
もったいぶるほどのエピソードでもないので、当時を思い返しながら滔々と語った。
「確か、六年前だったかしら。獄寺の城の医務室で出会ったのが最初よ」
城の専属医による定期健診のため医務室にいた時、現れたのが獄寺だ。
その時に会話を交わしたが、短時間だった上に他愛もない内容だったことを覚えている。
「それが、最初で最後よ」
あの日以来、獄寺とは一度も会うことはなかった。
そのため、今では私のことを完全に忘却しているようだ。
「獄寺がお前を忘れているとして、お前はそれでいいのか? 思い出してもらおうとしねーのか?」
「別にいいでしょう、そんなこと。忘れていようが思い出そうが、任務にも仕事にも支障はないわ」
「――……そうか」
短く息を吐き出すと、考え込むようにボルサリーノを深く被り直した。
そうかと思えば、急に声のトーンを変え笑顔を浮かべたのだ。
「んじゃ、任務に支障が出れば誤解を解く気になるんだな?」
「……? まあ、そうね」
「その言葉、忘れんじゃねーぞ」
まるで上手くいった、と言わんばかりに笑みを深めたリボーンの様子と、意味深な台詞の数々に首を傾げる。
そもそも『誤解』とは何のことだろう。
しかも、知らないうちに言質を取られた気がする。
リボーンは浮き輪から跳躍すると、音もなくプールサイドに着地した。
そして、切り替えるように強い口調で忠告したのだ。
「それはそうと、入ファミリー試験では何があっても手出しすんなよ。ツナに多少危険が迫ってもだ」
「……分かったわ」
頷くと、彼は満足したように頬を緩めた。
どうやらこれ以上詮索しても何も話してくれないようだ。
諦めてフェンスの外に目を向けた時、ふとあることを思い出した。
「そういえば、三分前にランボが並中の敷地内に侵入したわよ」
「放っとけ」
一応報告したが、案の定素気のない返答だ。
視線を戻すと、リボーンは既に普段のスーツ姿に戻っている。
いつの間にか浮き輪も片付けたようで、障害物のないプールの表面は乱反射できらきら輝いている。
リボーンが何を考えていようが、彼が綱吉に支障をきたすことは決してしない。
――なら、どうでもいいか。
早々に見切りをつけると、プールを出るリボーンの後に続きフェンスを飛び越えた。