標的8 ご都合主義に都合のいい展開
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛中学校正門前》
隣を歩く綱吉が、ふあ、とだらしなく欠伸をした。
「随分眠そうね」
「他人事みたいに言うなよ……」
心配して声を掛けたというのに、彼はそう吐き捨て脱力した。
疲れたように歩く彼の顔色は決していいとは言えず、よく見れば目の下に隈が出来ている。
綱吉がここまで疲弊している理由は、主に最近沢田家に出入りするボヴィーノファミリーの殺し屋・ランボである。
リボーンは相変わらず適当にあしらうだけなので、私もランボが入り浸っている現状に言及しないことにした。
私やリボーンはそれで構わないが、綱吉は懐かれたらしくリボーンに反撃されるたび泣きつかれているので、相当扱いに困っているようだ。
「ツナも放っておけばいいのに」
「放っておけるわけないだろ。そもそも、ランボはまだ子供なんだし」
「……まあ、いいけれど。その調子でリボーンの授業に支障が出たら、どんな目に遭うか知らないわよ」
私の忠告にこれまでのリボーンの指導を思い出したのだろう、綱吉は青ざめながら嘆息した。
どうにも苦労の多い性質のようだ。
その時、背後から誰かが小走りで近づいて来る気配がしたので、意識をそちらに向けた。
綱吉は気づいていないのか、再び欠伸を漏らしている。
疲労の所為か、随分と緊張感のない様子だ。
そんな綱吉の隣から影が現れ、その人物は私達に向かって親しげに声を掛けたのだ。
「よお、ツナ、アゲハ」
「山本! おはよ!」
「……おはよう」
自殺未遂騒動の翌日から、山本武は頻繁に私や綱吉に話し掛けてくるようになった。
そして、同時に私をファーストネームで呼ぶようになったのだ。
呼び方に苦言を呈するつもりはないが、その変化に最初違和感を覚えたのは事実だ。
山本の自殺を直接阻止した綱吉と親密になるのは理解できるが、偶然あの場にいただけの私と距離を縮めようとするのは、一体どういう心境の変化だろうか。
横で観察されているとは露知らず、山本は呑気に綱吉の肩に肘を乗せる。
「なんだ、寝不足か? 隈出来てんぞ」
山本にまで指摘され、綱吉は苦笑しながら誤魔化した。
さすがに居候している殺し屋の存在は友人に明かせないと思ったのだろう。
ただ、話したところで本気で受け取られることはないと思う。
どころか、たとえ教室でマフィアだと公言したとしても、それを真実と受け取る生徒はいないだろう。
「ま、勉強で寝不足でねーんならいーんだけどな」
「え?」
「落ちこぼれ仲間が減っちまうだろ?」
快活に笑う山本の言葉に、密かに首を傾げた。
綱吉の成績は決して良くないが、山本も勉強が苦手なのだろうか。
そこまで詳細な個人情報は持ち合わせていないが、勝手に予想する限り、彼は要領が悪いのではなく学業より部活を優先していそうだ。
恐らく本気で勉強すれば、成績は格段に向上するタイプだろう。
同じ『落ちこぼれ仲間』だとしても、綱吉はもう少し山本を見習うべきだ。
そう思案しながら歩いている間も二人の会話は進んでいく。
その時、山本が綱吉の頭を肘で軽く小突いたのだ。
別に目くじらを立てることではない、男子中学生の間ではよくあるスキンシップだろう。
しかし、それをただのスキンシップと許さない人がいた。
その瞬間、私達の背後、数十メートル先の歩道橋の上から突き刺さるような視線を感じたのだ。
――山本に対して。
隠そうともしない彼への敵意に、静かにため息を飲み込んだ。
視線の正体が誰なのか、後ろを振り返って確認するまでもない。
綱吉を観察し、彼に無礼を働く者に目を光らせる存在など、一人しかいない。
獄寺隼人しかいない。
先ほど飲み込んだ嘆息を、今度こそ吐き出した。
その忠誠心は見上げたものだが、どうにも過剰というか過敏というか、どちらかと言うと空回りしているような印象を受けるのは、果たして考えすぎだろうか。
まあ、それが実際に綱吉に害をなすものでなければ、私は別に構わないのだが。
横で綱吉と仲良く話す山本を盗み見た。
獄寺の意図に気づかずに、笑顔で他愛もない会話を楽しんでいる。
これも勝手な想像だが、もしリボーンの思惑通り山本がファミリーに入ることになれば、獄寺との相性は悪いだろう。
今の状況を見る限り、獄寺が山本に一方的に噛みつく展開になりそうだ。
それはそれでリボーンが面白がりそうだが(私も面白いが)、綱吉の心労は今以上に悪化するのだろう。
――アクの強い部下を束ねるのもボスの務めか。
綱吉に直接命の危険がなければ手出しはしない、というリボーンとの約束通り、もう暫くは現状を静観していよう。
そう決意を固め、改めて綱吉の方に目を向けた。
隣を歩く綱吉が、ふあ、とだらしなく欠伸をした。
「随分眠そうね」
「他人事みたいに言うなよ……」
心配して声を掛けたというのに、彼はそう吐き捨て脱力した。
疲れたように歩く彼の顔色は決していいとは言えず、よく見れば目の下に隈が出来ている。
綱吉がここまで疲弊している理由は、主に最近沢田家に出入りするボヴィーノファミリーの殺し屋・ランボである。
リボーンは相変わらず適当にあしらうだけなので、私もランボが入り浸っている現状に言及しないことにした。
私やリボーンはそれで構わないが、綱吉は懐かれたらしくリボーンに反撃されるたび泣きつかれているので、相当扱いに困っているようだ。
「ツナも放っておけばいいのに」
「放っておけるわけないだろ。そもそも、ランボはまだ子供なんだし」
「……まあ、いいけれど。その調子でリボーンの授業に支障が出たら、どんな目に遭うか知らないわよ」
私の忠告にこれまでのリボーンの指導を思い出したのだろう、綱吉は青ざめながら嘆息した。
どうにも苦労の多い性質のようだ。
その時、背後から誰かが小走りで近づいて来る気配がしたので、意識をそちらに向けた。
綱吉は気づいていないのか、再び欠伸を漏らしている。
疲労の所為か、随分と緊張感のない様子だ。
そんな綱吉の隣から影が現れ、その人物は私達に向かって親しげに声を掛けたのだ。
「よお、ツナ、アゲハ」
「山本! おはよ!」
「……おはよう」
自殺未遂騒動の翌日から、山本武は頻繁に私や綱吉に話し掛けてくるようになった。
そして、同時に私をファーストネームで呼ぶようになったのだ。
呼び方に苦言を呈するつもりはないが、その変化に最初違和感を覚えたのは事実だ。
山本の自殺を直接阻止した綱吉と親密になるのは理解できるが、偶然あの場にいただけの私と距離を縮めようとするのは、一体どういう心境の変化だろうか。
横で観察されているとは露知らず、山本は呑気に綱吉の肩に肘を乗せる。
「なんだ、寝不足か? 隈出来てんぞ」
山本にまで指摘され、綱吉は苦笑しながら誤魔化した。
さすがに居候している殺し屋の存在は友人に明かせないと思ったのだろう。
ただ、話したところで本気で受け取られることはないと思う。
どころか、たとえ教室でマフィアだと公言したとしても、それを真実と受け取る生徒はいないだろう。
「ま、勉強で寝不足でねーんならいーんだけどな」
「え?」
「落ちこぼれ仲間が減っちまうだろ?」
快活に笑う山本の言葉に、密かに首を傾げた。
綱吉の成績は決して良くないが、山本も勉強が苦手なのだろうか。
そこまで詳細な個人情報は持ち合わせていないが、勝手に予想する限り、彼は要領が悪いのではなく学業より部活を優先していそうだ。
恐らく本気で勉強すれば、成績は格段に向上するタイプだろう。
同じ『落ちこぼれ仲間』だとしても、綱吉はもう少し山本を見習うべきだ。
そう思案しながら歩いている間も二人の会話は進んでいく。
その時、山本が綱吉の頭を肘で軽く小突いたのだ。
別に目くじらを立てることではない、男子中学生の間ではよくあるスキンシップだろう。
しかし、それをただのスキンシップと許さない人がいた。
その瞬間、私達の背後、数十メートル先の歩道橋の上から突き刺さるような視線を感じたのだ。
――山本に対して。
隠そうともしない彼への敵意に、静かにため息を飲み込んだ。
視線の正体が誰なのか、後ろを振り返って確認するまでもない。
綱吉を観察し、彼に無礼を働く者に目を光らせる存在など、一人しかいない。
獄寺隼人しかいない。
先ほど飲み込んだ嘆息を、今度こそ吐き出した。
その忠誠心は見上げたものだが、どうにも過剰というか過敏というか、どちらかと言うと空回りしているような印象を受けるのは、果たして考えすぎだろうか。
まあ、それが実際に綱吉に害をなすものでなければ、私は別に構わないのだが。
横で綱吉と仲良く話す山本を盗み見た。
獄寺の意図に気づかずに、笑顔で他愛もない会話を楽しんでいる。
これも勝手な想像だが、もしリボーンの思惑通り山本がファミリーに入ることになれば、獄寺との相性は悪いだろう。
今の状況を見る限り、獄寺が山本に一方的に噛みつく展開になりそうだ。
それはそれでリボーンが面白がりそうだが(私も面白いが)、綱吉の心労は今以上に悪化するのだろう。
――アクの強い部下を束ねるのもボスの務めか。
綱吉に直接命の危険がなければ手出しはしない、というリボーンとの約束通り、もう暫くは現状を静観していよう。
そう決意を固め、改めて綱吉の方に目を向けた。