番外編
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京子の様子が何処かおかしい。
そう気づいたのは、親友が自分の家を訪ねて少し経った後だった。
話をしていても上の空、同意を求めても曖昧な返事しか返って来ず、たまに物思いに耽ったようにため息を繰り返す。
おまけに彼女の大好きなはずの店のケーキは、まだ二、三口しか手をつけていない始末。
いつもなら五分足らずで完食してしまうのに。
京子が家に来て二十分、とうとう耐えかねて少し強い口調で彼女に問うた。
「京子。アンタ一体どうしたの? 悩みでもあるの?」
「……べ、別に何もないよ」
京子は驚いて顔を上げると、視線を彷徨わせた後そう答えた。
嘘の苦手な娘 だ。
ため息を吐くと、京子は誤魔化せないと思ったのか観念したようにフォークを置いた。
実は、昨日は花に言わなかったんだけど、そう言って京子は切り出した。
「ツナ君に『付き合ってください』って言われる前に、すごく綺麗な女の子に会ったの」
言い忘れていたが、昨日学校からの帰宅途中、京子はクラスメイトの沢田綱吉に告白されたらしい。
『らしい』というのは、花はその場にいなかったので、後で本人から聞いたのだ。
その時の様子を見た限りでは、京子は彼の告白を冗談の類だと思っているようだ。
実は、京子の悩みの要因は沢田綱吉ではないかとも思っていたが、彼女にとっては色々な意味で大した影響にならなかったようだ。
つくづく哀れな奴だと思う。
それはともかく、京子の話をまとめると、京子は綱吉に告白される前、道端でスーツ姿の赤ん坊に出会ったらしい。
その時赤ん坊と一緒にいた少女が、彼女曰く人間離れした美しさだった、と。
その状況に色々突っ込みたいのは自分だけだろうか。
「それが本当に綺麗な子だったの! 多分ハーフだと思うんだけど。黒髪で透き通った蒼い目で、肌も白くて! スーツ姿だったんだけど、なんか神々しい感じもして!」
「……へえー」
一生懸命美少女の魅力を語る京子の話に適当に頷きながら、残ったケーキを口に含む。
どれだけ詳細な特徴を挙げられても、花は実際にその少女を見ていないのでイマイチ興味が湧かない、というより湧けないのだ。
「で、その美少女がどうかしたの?」
「え?」
「え、いや、だからその子のことで悩んでるんじゃないの?」
てっきりその少女が彼女の悩みに関わっているのかと思いそう訊いたのに、あまりに自然に聞き返されたので思わず言葉が詰まった。
今聞いた限りでは、京子が特に思い悩む原因はなさそうだ。
花のその言葉に、京子は顔を曇らせ黙り込んだ。
その変化に思わずケーキを食べる手を止め、次の言葉を待つ。
「悩んでるってわけじゃないの」
暫くの沈黙の後、楽しそうな態度から一変して神妙そうな口調で言った。
「ただね、その子と目が合った時、私思わず目を逸らしちゃったの。いきなりそんなことしちゃって、気を悪くしただろうなって……」
「……え? それだけ?」
京子がそう言って口を閉ざしたので、思わず本音が口をついた。
顔を上げた京子に反射的に短く謝ったが、彼女の相談は花の想定外だった。
てっきりその少女が京子に何かをしたか、あるいは京子が少女に何かしてしまったかのどちらかだと思っていた。
しかし、目が合って、逸らしただけ。
それだけだった。
しかも彼女の悩みというのも、誰かも分からない少女が気を悪くしたのではないかという、正直頭を悩ませてもどうしようもない問題だ。
深刻な悩みを案じていた花にとって、京子の言葉は拍子抜けだったのだ。
「なんでアンタがそんなことで悩むのよ」
「だから悩んでるわけじゃないってば!」
珍しく声を荒げ反論すると、すぐに我に返ったのか佇まいを直した。
「ただ、ずっと気に掛かってるだけで……」
だから何故気に掛ける必要があるのか。
そう喉まで出かかったが、堂々巡りになりそうな気がして口を噤んだ。
正直、何とアドバイスをしたらいいのか分からない。
むしろ、何故そんな一度会っただけの少女をそこまで気にするのか、花が訊きたいくらいだ。
それでも強いて何かを勧めるなら、それは少女のことを早く忘れることだろう。
「そんなに気に病むことないんじゃない?」
そう、深く考えずに言った。
「だって、もう会うことなんてないんだから」
ハーフの少女がこの近所に住んでいるなんて、聞いたことも見たこともない。
恐らく旅行者だろう。
こんな何もない町に観光に来る人がいるかどうかはさておいて。
だから、当然の意見を言っただけである。
「……そうだね」
自分の言葉を受け、目を伏せた親友の表情は何処か寂しそうで、胸の奥がズキリと傷んだ。
彼女のそんな表情は、今まで見たことがなかったのだ。
たとえどんなに綺麗でも、その少女は今日初めて会った人間で、聞く限りでは言葉すら交わしていない。
何故そこまで少女のことを気に掛けるのか、何故そこまで心を痛めるのか。
この時、花にはその理由が分からなかった。
――でもなんか、面倒なことになりそうね。
ただ、漠然とそんなことを考えた。
ケーキのような甘い感情
(了)
そう気づいたのは、親友が自分の家を訪ねて少し経った後だった。
話をしていても上の空、同意を求めても曖昧な返事しか返って来ず、たまに物思いに耽ったようにため息を繰り返す。
おまけに彼女の大好きなはずの店のケーキは、まだ二、三口しか手をつけていない始末。
いつもなら五分足らずで完食してしまうのに。
京子が家に来て二十分、とうとう耐えかねて少し強い口調で彼女に問うた。
「京子。アンタ一体どうしたの? 悩みでもあるの?」
「……べ、別に何もないよ」
京子は驚いて顔を上げると、視線を彷徨わせた後そう答えた。
嘘の苦手な
ため息を吐くと、京子は誤魔化せないと思ったのか観念したようにフォークを置いた。
実は、昨日は花に言わなかったんだけど、そう言って京子は切り出した。
「ツナ君に『付き合ってください』って言われる前に、すごく綺麗な女の子に会ったの」
言い忘れていたが、昨日学校からの帰宅途中、京子はクラスメイトの沢田綱吉に告白されたらしい。
『らしい』というのは、花はその場にいなかったので、後で本人から聞いたのだ。
その時の様子を見た限りでは、京子は彼の告白を冗談の類だと思っているようだ。
実は、京子の悩みの要因は沢田綱吉ではないかとも思っていたが、彼女にとっては色々な意味で大した影響にならなかったようだ。
つくづく哀れな奴だと思う。
それはともかく、京子の話をまとめると、京子は綱吉に告白される前、道端でスーツ姿の赤ん坊に出会ったらしい。
その時赤ん坊と一緒にいた少女が、彼女曰く人間離れした美しさだった、と。
その状況に色々突っ込みたいのは自分だけだろうか。
「それが本当に綺麗な子だったの! 多分ハーフだと思うんだけど。黒髪で透き通った蒼い目で、肌も白くて! スーツ姿だったんだけど、なんか神々しい感じもして!」
「……へえー」
一生懸命美少女の魅力を語る京子の話に適当に頷きながら、残ったケーキを口に含む。
どれだけ詳細な特徴を挙げられても、花は実際にその少女を見ていないのでイマイチ興味が湧かない、というより湧けないのだ。
「で、その美少女がどうかしたの?」
「え?」
「え、いや、だからその子のことで悩んでるんじゃないの?」
てっきりその少女が彼女の悩みに関わっているのかと思いそう訊いたのに、あまりに自然に聞き返されたので思わず言葉が詰まった。
今聞いた限りでは、京子が特に思い悩む原因はなさそうだ。
花のその言葉に、京子は顔を曇らせ黙り込んだ。
その変化に思わずケーキを食べる手を止め、次の言葉を待つ。
「悩んでるってわけじゃないの」
暫くの沈黙の後、楽しそうな態度から一変して神妙そうな口調で言った。
「ただね、その子と目が合った時、私思わず目を逸らしちゃったの。いきなりそんなことしちゃって、気を悪くしただろうなって……」
「……え? それだけ?」
京子がそう言って口を閉ざしたので、思わず本音が口をついた。
顔を上げた京子に反射的に短く謝ったが、彼女の相談は花の想定外だった。
てっきりその少女が京子に何かをしたか、あるいは京子が少女に何かしてしまったかのどちらかだと思っていた。
しかし、目が合って、逸らしただけ。
それだけだった。
しかも彼女の悩みというのも、誰かも分からない少女が気を悪くしたのではないかという、正直頭を悩ませてもどうしようもない問題だ。
深刻な悩みを案じていた花にとって、京子の言葉は拍子抜けだったのだ。
「なんでアンタがそんなことで悩むのよ」
「だから悩んでるわけじゃないってば!」
珍しく声を荒げ反論すると、すぐに我に返ったのか佇まいを直した。
「ただ、ずっと気に掛かってるだけで……」
だから何故気に掛ける必要があるのか。
そう喉まで出かかったが、堂々巡りになりそうな気がして口を噤んだ。
正直、何とアドバイスをしたらいいのか分からない。
むしろ、何故そんな一度会っただけの少女をそこまで気にするのか、花が訊きたいくらいだ。
それでも強いて何かを勧めるなら、それは少女のことを早く忘れることだろう。
「そんなに気に病むことないんじゃない?」
そう、深く考えずに言った。
「だって、もう会うことなんてないんだから」
ハーフの少女がこの近所に住んでいるなんて、聞いたことも見たこともない。
恐らく旅行者だろう。
こんな何もない町に観光に来る人がいるかどうかはさておいて。
だから、当然の意見を言っただけである。
「……そうだね」
自分の言葉を受け、目を伏せた親友の表情は何処か寂しそうで、胸の奥がズキリと傷んだ。
彼女のそんな表情は、今まで見たことがなかったのだ。
たとえどんなに綺麗でも、その少女は今日初めて会った人間で、聞く限りでは言葉すら交わしていない。
何故そこまで少女のことを気に掛けるのか、何故そこまで心を痛めるのか。
この時、花にはその理由が分からなかった。
――でもなんか、面倒なことになりそうね。
ただ、漠然とそんなことを考えた。
ケーキのような甘い感情
(了)