標的6 誰も知らない舞台裏
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《視点:宮野アゲハ 場所:同校舎裏》
私は馬鹿なのではないかと、最近本気で思うことがある。
現在進行形で後悔しているのは、言わずもがな数分前の綱吉との会話だ。
あんな話を綱吉に――というより、本来誰にもする必要はなかった。
今まで誰にも言わなかったし、そもそも誰にも言うべきではなかった。
あれは間違いなく私の本心だが、誰に話しても否定されるのは目に見えている。
そして本心だとしても、ファミリー候補である山本武をそう簡単に死なせてはいけないことを失念していたのだ。
“死なせてはいけない”とは感情論ではなくただの損得勘定に基づくものだが、どんな理由であれ、私は綱吉を上手く誘導して山本を説得させるよう働きかけなくてはならなかった。
もっとも、実際の行為は真逆だったのだが。
とはいえ、その役割はリボーンが私よりも上手くこなしてくれることだろう。
私のフォローも含めて上手くこなしてくれているだろう。
そのリボーンから未だに一切連絡がないのが、ある意味恐ろしくはあるのだが……。
頭上を見上げると、屋上のフェンスの外側に山本が立っているのが確認できた。
今にも飛び降りそうな雰囲気だが、どうやら彼は屋上へ駆けつけた生徒達と話をしているようで、時折彼らの会話がここまで聞こえてくる。
しかし、クラスメイトの説得に取り付く島もない様子だ。
ここで綱吉の説得まで失敗した場合、私が下で助けるという最終手段に転じることになる。
屋上から死角となる位置に気配を消して立っているので、たとえ山本が地面を見下ろしても私には気づかないはずだ。
山本の背中を眺めながら、先ほど綱吉に言った台詞を思い出す。
綱吉の説得が失敗して山本の自殺を私が防いだとしても、山本にかけるべき言葉を私は知らない。
だから、綱吉が止めてほしいのだ。
最終手段は、あくまで“最終”であって、最善ではない。
すると、ようやく綱吉の声が屋上から聞こえてきた。
綱吉と山本のやり取りを遮断するように、静かに目を閉じる。
私のこの性分は、それこそ屋上から飛び降りたって直らない。
綱吉の言葉は私には届かないが、山本相手なら届くだろう。
野球という彼の希望は、彼の目的は、生きているからこそ達成できるものだ。
死んでもなお目的を達成しようと何度も生き返っている綱吉なら、きっと山本を揺り動かすことができるだろう。
――と、むしろ安心した気持ちで任せていたのだが、唐突に嫌な予感がしたので目を開けた。
その直後、何かが切れるような、ブチッという嫌な音が頭上で響いたのだ。
驚いて顔を上げると、山本と綱吉が壊れたフェンスと共に落下してくるのが見えた。
そういえば前に屋上に上がった時、フェンスが錆びついてかなり劣化していたことを思い出した。
――これは、さすがに予想外だ。
急いで死角から抜け出し、彼らの落下点へ入る。
綱吉が私の名前を叫んだと同時に、校舎の窓から放たれた死ぬ気弾が彼の額に命中した。
「空中復活 !!! 死ぬ気で山本を助ける!!!」
綱吉は山本を抱えると、校舎の壁に両足を突き立てたが、人一人抱えた状態では落下速度はほとんど変わらない。
すると、落下を止めることを諦め、素早く自分の体を盾にするように背中を地面に向けた。
その瞬間、二人の体を下から吹いた突風が包み込んだ。
死ぬ気状態の綱吉でも止められなかった落下が、地面から一メートルほどの高さでぴたりと止まり、彼らは緩やかに地面に到達した。
「な、何だったんだ今の……」
「風か?」
死ぬ気が解けた綱吉と山本が呆然と声を漏らすのを一旦放置し、屋上を見上げた。
屋上にいる生徒達は、先ほどの光景をワイヤーか何かを利用した冗談だと思ったようで、ぞろぞろと捌けていく。
綱吉には後で説明するとして、残る問題は山本だけだ。
視線を二人に戻すと、我に返った綱吉が慌てて山本の無事を確認した。
「山本、大丈夫か?」
「ああ」
力強く頷いた山本と、その様子に安心した綱吉が揃ってこちらに視線を向けた。
死角から飛び出した瞬間に覚悟はしたが、正直言って面倒な展開だ。
「アゲハ……」
「宮野?」
綱吉は気まずそうに、山本は驚いたように私を呼ぶ。
さて、綱吉はともかく、山本には現状をどう誤魔化せばいいだろうか。
飛び降り自殺を妨げた謎の突風と、現場に居合わせた転入生を、どう説明すればいいだろうか。
どうせ死ぬ気状態の綱吉なら、屋上から落ちても怪我はしなかっただろうし、余計な真似をせずにあのまま隠れておけば良かった。
そう後悔した時、ふと山本の右腕が目に留まった。
包帯とギプスで固定された右腕。
「貴方のその怪我、一生治らないの?」
気がつけば、そんな意味の分からない質問をしていた。
山本は咄嗟の質問に戸惑いを見せたものの、自分の腕を一瞥しながら答えた。
「いや、骨折だから……、確か一か月くらいで治るけど」
その返事に、何故か肩すかしを食らった気分になった。
「なら、せめてあと一か月は生きてみたら? 死んだら、野球できないわよ」
投げやりにそう言って、結局説明もせずにその場を去った。
この言葉に対する山本の反応は知る由もないが、背後で二人が仲良く会話する声がしたので、とりあえず自殺は思いとどまったようだ。
彼らの笑い声を遠くで聞きながら、昨晩の自分の思考を思い返した。
山本のマフィアとしての可能性は相変わらず見えないが、きっと誰も知らない未来を、リボーンと共に楽しみにしていればいいのかもしれない。
私は馬鹿なのではないかと、最近本気で思うことがある。
現在進行形で後悔しているのは、言わずもがな数分前の綱吉との会話だ。
あんな話を綱吉に――というより、本来誰にもする必要はなかった。
今まで誰にも言わなかったし、そもそも誰にも言うべきではなかった。
あれは間違いなく私の本心だが、誰に話しても否定されるのは目に見えている。
そして本心だとしても、ファミリー候補である山本武をそう簡単に死なせてはいけないことを失念していたのだ。
“死なせてはいけない”とは感情論ではなくただの損得勘定に基づくものだが、どんな理由であれ、私は綱吉を上手く誘導して山本を説得させるよう働きかけなくてはならなかった。
もっとも、実際の行為は真逆だったのだが。
とはいえ、その役割はリボーンが私よりも上手くこなしてくれることだろう。
私のフォローも含めて上手くこなしてくれているだろう。
そのリボーンから未だに一切連絡がないのが、ある意味恐ろしくはあるのだが……。
頭上を見上げると、屋上のフェンスの外側に山本が立っているのが確認できた。
今にも飛び降りそうな雰囲気だが、どうやら彼は屋上へ駆けつけた生徒達と話をしているようで、時折彼らの会話がここまで聞こえてくる。
しかし、クラスメイトの説得に取り付く島もない様子だ。
ここで綱吉の説得まで失敗した場合、私が下で助けるという最終手段に転じることになる。
屋上から死角となる位置に気配を消して立っているので、たとえ山本が地面を見下ろしても私には気づかないはずだ。
山本の背中を眺めながら、先ほど綱吉に言った台詞を思い出す。
綱吉の説得が失敗して山本の自殺を私が防いだとしても、山本にかけるべき言葉を私は知らない。
だから、綱吉が止めてほしいのだ。
最終手段は、あくまで“最終”であって、最善ではない。
すると、ようやく綱吉の声が屋上から聞こえてきた。
綱吉と山本のやり取りを遮断するように、静かに目を閉じる。
私のこの性分は、それこそ屋上から飛び降りたって直らない。
綱吉の言葉は私には届かないが、山本相手なら届くだろう。
野球という彼の希望は、彼の目的は、生きているからこそ達成できるものだ。
死んでもなお目的を達成しようと何度も生き返っている綱吉なら、きっと山本を揺り動かすことができるだろう。
――と、むしろ安心した気持ちで任せていたのだが、唐突に嫌な予感がしたので目を開けた。
その直後、何かが切れるような、ブチッという嫌な音が頭上で響いたのだ。
驚いて顔を上げると、山本と綱吉が壊れたフェンスと共に落下してくるのが見えた。
そういえば前に屋上に上がった時、フェンスが錆びついてかなり劣化していたことを思い出した。
――これは、さすがに予想外だ。
急いで死角から抜け出し、彼らの落下点へ入る。
綱吉が私の名前を叫んだと同時に、校舎の窓から放たれた死ぬ気弾が彼の額に命中した。
「空中
綱吉は山本を抱えると、校舎の壁に両足を突き立てたが、人一人抱えた状態では落下速度はほとんど変わらない。
すると、落下を止めることを諦め、素早く自分の体を盾にするように背中を地面に向けた。
その瞬間、二人の体を下から吹いた突風が包み込んだ。
死ぬ気状態の綱吉でも止められなかった落下が、地面から一メートルほどの高さでぴたりと止まり、彼らは緩やかに地面に到達した。
「な、何だったんだ今の……」
「風か?」
死ぬ気が解けた綱吉と山本が呆然と声を漏らすのを一旦放置し、屋上を見上げた。
屋上にいる生徒達は、先ほどの光景をワイヤーか何かを利用した冗談だと思ったようで、ぞろぞろと捌けていく。
綱吉には後で説明するとして、残る問題は山本だけだ。
視線を二人に戻すと、我に返った綱吉が慌てて山本の無事を確認した。
「山本、大丈夫か?」
「ああ」
力強く頷いた山本と、その様子に安心した綱吉が揃ってこちらに視線を向けた。
死角から飛び出した瞬間に覚悟はしたが、正直言って面倒な展開だ。
「アゲハ……」
「宮野?」
綱吉は気まずそうに、山本は驚いたように私を呼ぶ。
さて、綱吉はともかく、山本には現状をどう誤魔化せばいいだろうか。
飛び降り自殺を妨げた謎の突風と、現場に居合わせた転入生を、どう説明すればいいだろうか。
どうせ死ぬ気状態の綱吉なら、屋上から落ちても怪我はしなかっただろうし、余計な真似をせずにあのまま隠れておけば良かった。
そう後悔した時、ふと山本の右腕が目に留まった。
包帯とギプスで固定された右腕。
「貴方のその怪我、一生治らないの?」
気がつけば、そんな意味の分からない質問をしていた。
山本は咄嗟の質問に戸惑いを見せたものの、自分の腕を一瞥しながら答えた。
「いや、骨折だから……、確か一か月くらいで治るけど」
その返事に、何故か肩すかしを食らった気分になった。
「なら、せめてあと一か月は生きてみたら? 死んだら、野球できないわよ」
投げやりにそう言って、結局説明もせずにその場を去った。
この言葉に対する山本の反応は知る由もないが、背後で二人が仲良く会話する声がしたので、とりあえず自殺は思いとどまったようだ。
彼らの笑い声を遠くで聞きながら、昨晩の自分の思考を思い返した。
山本のマフィアとしての可能性は相変わらず見えないが、きっと誰も知らない未来を、リボーンと共に楽しみにしていればいいのかもしれない。