標的6 誰も知らない舞台裏
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《視点:沢田綱吉 場所:同廊下》
とんでもないことをした、と思った。
昨日、スランプに陥っている山本に『努力しかない』とアドバイスをした。
その言葉に山本も共感してくれたし、俺もクラスの人気者である山本の助けになれたことに浮かれていた。
けれど、その山本が、今屋上から飛び降りようとしている。
昨日一人で居残って練習し、無茶をして腕を骨折してしまったらしいのだ。
俺の言葉が原因だと咄嗟に思った。
剣道の試合や球技大会で凄かったと山本に褒められたけど、リボーンのことは知られたくなかったから嘘を吐いたのだ。
その所為で、こんな結果を生んでしまった。
あんな無責任なこと、言わなきゃ良かった。
クラスの皆は屋上へ向かったけど、俺は山本に合わせる顔がなくて教室に残った。
崩れ落ちそうになりながら廊下に出ると、数メートル先にアゲハが立っているのが目に入った。
窓から差し込む光に照らされ、アゲハの黒髪がきらきら輝いている。
宝石のような蒼い瞳が僅かに見開かれた。
彼女を見るたび毎回思うけど、本当に同じ人間かと疑いたくなるくらい神秘的で美しい。
アゲハは廊下で立ちすくむ俺を見てすぐに異常を感じ取ったらしく、足早に近づいてきてくれた。
「――何かあったようね」
普段と変わらない静かで落ち着いた声のおかげで、少しだけ冷静になれた。
俺は今までの経緯をアゲハに説明した。
「オレのせいだ……。オレが山本に適当なこと言ったから……」
そう言うと、今まで黙っていたアゲハが不思議そうな表情で口を開いた。
「なんでツナのせいなのよ」
「なんでって……オレのアドバイスのせいで、山本は無茶な練習をして怪我して、自殺するほど思いつめて――」
説明を繰り返すうちに、改めて自分の過ちの大きさを思い知った。
本当に、なんであんなことを言ってしまったんだろう。
後悔と罪悪感でそれ以上何も言えなくなり、俯いて足元を見つめる。
目の前で、ため息を吐いた気配がした。
「だから、それでどうして貴方が責任を感じているの?」
思いもよらない言葉に、勢いよく顔を上げた。
そして、凍りついた。
アゲハの目が、あまりにも冷ややかだったからだ。
「たとえ誰の言葉やどんな出来事がきっかけであれ、最終的にそうすると決めたのは本人なのよ。なら、どんな選択をしようがどんな行動を取ろうが、貴方に口出しされる権利はないんじゃないの?」
山本を突き放すような言い方は、俺の心の負担を軽くするためじゃない。
心から、山本の死を自分達には関係ないと思っているみたいだ。
そう感じた瞬間、言いようのない寒気と不快感に襲われた。
決して交われない価値観の違いを、世界観の違いを、自覚してしまった。
「そもそも、自分の命は自分のもので、自分の行為は自分の責任で、自分の生死は自分の選択よ。自分の命をどう消費しようが、どう浪費しようが、貴方には関係ないはずよ」
最近、アゲハの表情の変化が分かるようになった気がした。
けれど今は、アゲハの考えていることが、言っている意味が微塵も分からない。
まるで、今まで一緒に暮らしてきたアゲハとは別人みたいだ。
それともこれが、本当の宮野アゲハなんだろうか。
世界最強で、ボンゴレの最終兵器と謳われる彼女の本質なんだろうか。
「それなのに、どうして貴方は自分を責めているの?」
この時、何故か初めて黒猫と出会った日のことを思い出した。
アゲハについて色々と聞いたあの時を思い出した。
――そのうち分かるよ。そのうちね。
どうして今、黒猫の言葉を思い出すんだ。
どうして今、彼女の笑みが頭に浮かぶんだ。
どうして今、黒猫に感じた気持ち悪さを、アゲハにも感じているんだ。
気持ち悪い。
どんな時も変わらない美しさも、初めて見る冷酷な表情も、全部。
本当に同じ人間かと疑いたくなるくらいに。
とんでもないことをした、と思った。
昨日、スランプに陥っている山本に『努力しかない』とアドバイスをした。
その言葉に山本も共感してくれたし、俺もクラスの人気者である山本の助けになれたことに浮かれていた。
けれど、その山本が、今屋上から飛び降りようとしている。
昨日一人で居残って練習し、無茶をして腕を骨折してしまったらしいのだ。
俺の言葉が原因だと咄嗟に思った。
剣道の試合や球技大会で凄かったと山本に褒められたけど、リボーンのことは知られたくなかったから嘘を吐いたのだ。
その所為で、こんな結果を生んでしまった。
あんな無責任なこと、言わなきゃ良かった。
クラスの皆は屋上へ向かったけど、俺は山本に合わせる顔がなくて教室に残った。
崩れ落ちそうになりながら廊下に出ると、数メートル先にアゲハが立っているのが目に入った。
窓から差し込む光に照らされ、アゲハの黒髪がきらきら輝いている。
宝石のような蒼い瞳が僅かに見開かれた。
彼女を見るたび毎回思うけど、本当に同じ人間かと疑いたくなるくらい神秘的で美しい。
アゲハは廊下で立ちすくむ俺を見てすぐに異常を感じ取ったらしく、足早に近づいてきてくれた。
「――何かあったようね」
普段と変わらない静かで落ち着いた声のおかげで、少しだけ冷静になれた。
俺は今までの経緯をアゲハに説明した。
「オレのせいだ……。オレが山本に適当なこと言ったから……」
そう言うと、今まで黙っていたアゲハが不思議そうな表情で口を開いた。
「なんでツナのせいなのよ」
「なんでって……オレのアドバイスのせいで、山本は無茶な練習をして怪我して、自殺するほど思いつめて――」
説明を繰り返すうちに、改めて自分の過ちの大きさを思い知った。
本当に、なんであんなことを言ってしまったんだろう。
後悔と罪悪感でそれ以上何も言えなくなり、俯いて足元を見つめる。
目の前で、ため息を吐いた気配がした。
「だから、それでどうして貴方が責任を感じているの?」
思いもよらない言葉に、勢いよく顔を上げた。
そして、凍りついた。
アゲハの目が、あまりにも冷ややかだったからだ。
「たとえ誰の言葉やどんな出来事がきっかけであれ、最終的にそうすると決めたのは本人なのよ。なら、どんな選択をしようがどんな行動を取ろうが、貴方に口出しされる権利はないんじゃないの?」
山本を突き放すような言い方は、俺の心の負担を軽くするためじゃない。
心から、山本の死を自分達には関係ないと思っているみたいだ。
そう感じた瞬間、言いようのない寒気と不快感に襲われた。
決して交われない価値観の違いを、世界観の違いを、自覚してしまった。
「そもそも、自分の命は自分のもので、自分の行為は自分の責任で、自分の生死は自分の選択よ。自分の命をどう消費しようが、どう浪費しようが、貴方には関係ないはずよ」
最近、アゲハの表情の変化が分かるようになった気がした。
けれど今は、アゲハの考えていることが、言っている意味が微塵も分からない。
まるで、今まで一緒に暮らしてきたアゲハとは別人みたいだ。
それともこれが、本当の宮野アゲハなんだろうか。
世界最強で、ボンゴレの最終兵器と謳われる彼女の本質なんだろうか。
「それなのに、どうして貴方は自分を責めているの?」
この時、何故か初めて黒猫と出会った日のことを思い出した。
アゲハについて色々と聞いたあの時を思い出した。
――そのうち分かるよ。そのうちね。
どうして今、黒猫の言葉を思い出すんだ。
どうして今、彼女の笑みが頭に浮かぶんだ。
どうして今、黒猫に感じた気持ち悪さを、アゲハにも感じているんだ。
気持ち悪い。
どんな時も変わらない美しさも、初めて見る冷酷な表情も、全部。
本当に同じ人間かと疑いたくなるくらいに。