標的6 誰も知らない舞台裏
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛中学校グラウンド》
カキーン、とバットがボールに当たった音がグラウンドに響き、続いて歓声が起こった。
ボンゴレの工作員や術士の手を借りてグラウンドを修復し、先日ようやく野外での体育の授業が再開した。
私の視線の先では男子が野球をしているが、今回注目しているのは綱吉ではない。
先ほど見事なホームランを打ち、チームメイトやクラスの女子から声援を受けている山本武という少年だ。
とは言え、他の女子のように応援目的で彼を意識しているのではない。
山本が綱吉のファミリーに相応しいかどうかを観察しているのだ。
彼の運動神経と人望を買って、リボーンがファミリーの候補として挙げているのだが、正直私は賛成できない。
クラスメイトの輪の中心で何の屈託もなく笑うあの少年が、虫も殺さぬような少年が、マフィアになるとはとても思えないのだ。
まあ、それは綱吉も似たようなものではあるのだが、綱吉にはボンゴレの血が流れているという点で、一応マフィアの資質があるという見方ができる。
けれど、山本武には、どうしてもマフィアとしての可能性が見えないのだ。
「アゲハって、山本みたいなのがタイプなの?」
「えっ?」
突拍子もない質問に振り向くと、にやにやと笑みを浮かべる花と驚いた表情をした京子が背後に立っていた。
ちなみに、花の質問に反応したのは、私ではなく京子だ。
「なんでそうなるのよ、花」
「さっきから沢田を差し置いて山本ばっかり見てるから、そうなのかなーって思って」
誰かを彷彿とさせるような楽しそうな表情の花とは対照的に、京子は何故か不安そうに目を泳がせている。
「そうじゃないわよ。ただ彼がホームランばかり打っているから気になっただけよ」
「ああ、確か山本君って、野球部のレギュラーなんだよね」
「そういう奴にとっては、体育の授業なんてお遊びみたいなもんだろうね」
花が山本に視線を移しながら、京子の肩をぽんと叩いた。
「まあ、そういう意味じゃアゲハだってずば抜けてるけどね」
花のその台詞で、私は転入最初の体育を思い出した。
私にとっては苦々しい思い出だ。
バスケだったのだが、ルールは把握していても細かい勝手を知らなかったので、試合内容は散々だったのだ。
二人も同じことを思い出したようで、しみじみとあの時の様子を語った。
「180対0なんて点数差初めて見たよ」
「しかも全部アゲハちゃんが得点したんだよね」
そう、ルールしか知らなかった私は、ゴールすればいいだろうと反対側のコートからシュートしたり二メートル近く跳んでダンクシュートしたりと、少し派手に動きすぎたのだ。
しかも、試合後にクラスメイトや先生の反応を見るまで、自分が目立ちすぎたことに全く気づいていなかった。
生徒達から『足が速すぎて見えなかった』『まるで合成のような現実離れした動き』などと騒がれ、綱吉からは『頼むからあまり目立つな』と酷く怒られたことで、ようやくスポーツの難しさを知った。
ちなみに、その後の体育でも何度か似たような失敗を繰り返しては、綱吉に渋い顔をされている。
綱吉とは真逆の意味で、私も体育は苦手な教科だ。
「本当凄いよね! バスケだけじゃなくて、他の競技もずば抜けてるもん! 運動神経抜群なんだね!」
先ほどと一転し、興奮したように目を輝かせて語る京子を見ながら、花は苦笑する。
「確かに、アゲハってテストも毎回満点よね。才色兼備文武両道って、本当隙ないわねアンタ」
隙があったらとっくに殺されていただろう、という言葉は飲み込んだ。
そう、隙があったら殺される世界なのだ。
そんなことはリボーンも重々理解しているはずだ。
「それに比べて、沢田は本当ダメツナよね。運動も勉強も」
花の言葉でグラウンドに視線を戻すと、試合はもうすぐ終わろうとしていた。
山本の活躍はあったが、結局山本と綱吉のチームは負けている。
耳を澄ませると、チームメンバーからはダメツナの所為だと言う声も上がっている。
偏見なく現状だけで判断すれば、将来有望なのは綱吉ではなく山本だ。
なのに、綱吉と違って、何故山本がマフィアになる未来は見えないのだろう。
沢田綱吉と山本武の違いは、一体何だろうか。
ふと、リボーンがいる屋上の給水塔を一瞥した。
授業が終わったら、山本武についての考察を訊いてみよう。
私には見えない彼の可能性が、リボーンには見えているのかもしれない。
カキーン、とバットがボールに当たった音がグラウンドに響き、続いて歓声が起こった。
ボンゴレの工作員や術士の手を借りてグラウンドを修復し、先日ようやく野外での体育の授業が再開した。
私の視線の先では男子が野球をしているが、今回注目しているのは綱吉ではない。
先ほど見事なホームランを打ち、チームメイトやクラスの女子から声援を受けている山本武という少年だ。
とは言え、他の女子のように応援目的で彼を意識しているのではない。
山本が綱吉のファミリーに相応しいかどうかを観察しているのだ。
彼の運動神経と人望を買って、リボーンがファミリーの候補として挙げているのだが、正直私は賛成できない。
クラスメイトの輪の中心で何の屈託もなく笑うあの少年が、虫も殺さぬような少年が、マフィアになるとはとても思えないのだ。
まあ、それは綱吉も似たようなものではあるのだが、綱吉にはボンゴレの血が流れているという点で、一応マフィアの資質があるという見方ができる。
けれど、山本武には、どうしてもマフィアとしての可能性が見えないのだ。
「アゲハって、山本みたいなのがタイプなの?」
「えっ?」
突拍子もない質問に振り向くと、にやにやと笑みを浮かべる花と驚いた表情をした京子が背後に立っていた。
ちなみに、花の質問に反応したのは、私ではなく京子だ。
「なんでそうなるのよ、花」
「さっきから沢田を差し置いて山本ばっかり見てるから、そうなのかなーって思って」
誰かを彷彿とさせるような楽しそうな表情の花とは対照的に、京子は何故か不安そうに目を泳がせている。
「そうじゃないわよ。ただ彼がホームランばかり打っているから気になっただけよ」
「ああ、確か山本君って、野球部のレギュラーなんだよね」
「そういう奴にとっては、体育の授業なんてお遊びみたいなもんだろうね」
花が山本に視線を移しながら、京子の肩をぽんと叩いた。
「まあ、そういう意味じゃアゲハだってずば抜けてるけどね」
花のその台詞で、私は転入最初の体育を思い出した。
私にとっては苦々しい思い出だ。
バスケだったのだが、ルールは把握していても細かい勝手を知らなかったので、試合内容は散々だったのだ。
二人も同じことを思い出したようで、しみじみとあの時の様子を語った。
「180対0なんて点数差初めて見たよ」
「しかも全部アゲハちゃんが得点したんだよね」
そう、ルールしか知らなかった私は、ゴールすればいいだろうと反対側のコートからシュートしたり二メートル近く跳んでダンクシュートしたりと、少し派手に動きすぎたのだ。
しかも、試合後にクラスメイトや先生の反応を見るまで、自分が目立ちすぎたことに全く気づいていなかった。
生徒達から『足が速すぎて見えなかった』『まるで合成のような現実離れした動き』などと騒がれ、綱吉からは『頼むからあまり目立つな』と酷く怒られたことで、ようやくスポーツの難しさを知った。
ちなみに、その後の体育でも何度か似たような失敗を繰り返しては、綱吉に渋い顔をされている。
綱吉とは真逆の意味で、私も体育は苦手な教科だ。
「本当凄いよね! バスケだけじゃなくて、他の競技もずば抜けてるもん! 運動神経抜群なんだね!」
先ほどと一転し、興奮したように目を輝かせて語る京子を見ながら、花は苦笑する。
「確かに、アゲハってテストも毎回満点よね。才色兼備文武両道って、本当隙ないわねアンタ」
隙があったらとっくに殺されていただろう、という言葉は飲み込んだ。
そう、隙があったら殺される世界なのだ。
そんなことはリボーンも重々理解しているはずだ。
「それに比べて、沢田は本当ダメツナよね。運動も勉強も」
花の言葉でグラウンドに視線を戻すと、試合はもうすぐ終わろうとしていた。
山本の活躍はあったが、結局山本と綱吉のチームは負けている。
耳を澄ませると、チームメンバーからはダメツナの所為だと言う声も上がっている。
偏見なく現状だけで判断すれば、将来有望なのは綱吉ではなく山本だ。
なのに、綱吉と違って、何故山本がマフィアになる未来は見えないのだろう。
沢田綱吉と山本武の違いは、一体何だろうか。
ふと、リボーンがいる屋上の給水塔を一瞥した。
授業が終わったら、山本武についての考察を訊いてみよう。
私には見えない彼の可能性が、リボーンには見えているのかもしれない。