標的5 弱者と強者の事情
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《視点:宮野アゲハ 場所:同屋上》
さて、後日談である。
雲雀に送った資料とグラウンドから発掘された四十年前のタイムカプセルにより、根津は学歴詐称が発覚し解雇された。
綱吉と獄寺は現在校長室に呼ばれているのだが、根津が難癖をつけて提案した退学の話は白紙に戻るはずだ。
これで、綱吉達の退学を防ぎ邪魔者 を排除するという私の目的は完全に達成された。
問題の根源を絶つのは当然の対応だと思うのだが、この思考は黒猫曰く『裏社会のボスらしい』そうだ。
その善悪はともかく、私にはまだやるべきことが残っている。
それが、眼下の光景の処理である。
「――酷いわね、これ」
綱吉のメガトンパンチと獄寺のダイナマイトで真っ二つに割れたグラウンド。
この完全修復を宣言したは良いが、果たして二、三日で元通りにできるだろうか。
雲雀の計らいで大事にならずに済んだものの、グラウンドが割れた様子は生徒達に周知なので今更幻覚で誤魔化すこともできない。
こういう場合に連絡を入れる先はボンゴレの工作員なのだが、彼らにはつい最近綱吉の部屋の修繕で世話になったばかりだ。
街や施設を守れとは命じられていないものの、こうも頻繁に破壊が続くのは如何なものだろう。
結果として退学は免れたので口には出さないが、随分と手の掛かる真似をしてくれたものだ。
「見ていて清々しいだろ」
グラウンドを眺める私に、リボーンが得意げに答えた。
フェンスの上に立ちニヒルに笑う彼を一瞥し、再び視線をグラウンドに戻す。
「せめて幻覚が間に合っていれば良かったのだけれど。いっそ自分で補修してみようかしら」
「……止めとけ。余計ぶっ壊す予感しかしねーぞ」
悔しいが否定できなかった。
そういえば、私の通り名は“兵器”だった。
「ツナ達の退学取り消しと根津の解雇への根回し、その上でパニックを最小限に抑えたんだ。むしろ上出来だぞ」
「……実際にやったのは私ではないけどね」
すべて雲雀恭弥の功績だ。
「それもお前が手を回したことだ。お前がやったことには変わりねーだろ――というか」
リボーンはそこで言葉を止めた。
何事かと彼に視線を向けると、真っ直ぐ私を見つめていた。
「ボスを陰ながら支えるのが裏ボスの仕事――だが、オレはそこまで色々気を回さなくていいと思うぞ」
「……どういう意味?」
発言の意図が理解できず、リボーンを観察する。
彼の瞳は、普段より真剣な色を孕んでいた。
「無意識か? お前、九代目の傍でサポートをしていた時より気を回し過ぎているぞ。良く言えば優秀だが、悪く言えば過保護だ。お前の仕事は、護衛の域を超えている時がある」
淡々と並べられた言葉を聞きながら、屋上の手すりを握りしめる。
無意識ではない、自覚はあったことだ。
もし護衛対象が九代目であれば――いや、沢田綱吉でさえなければ、ここまで手を出さなかった。
本来なら、今日のような隠ぺい工作や取引は、護衛の仕事ではない。
すべて自覚している。
「……分かってるわよ。ただ、分からないのよ」
普通の家庭で育った人達にどう接すればいいのか。
普通の学校に通う生徒達とどう会話すればいいのか。
たとえばクラスメイトとか先生とか、友達とか。
彼らは一体、どうやって生きているのだろう。
「私は何処まで守ればいいのかしら」
こんな平和な世界で、戦闘も爆発もないような世界で、私は何から彼を守ればいいのだろうか。
そんな私の心からの疑問に対し、リボーンは普段通りの調子で受け答えた。
「そうだな、とりあえずツナの命に直接関わる原因は消しとけ。それ以外は放置しろ。たとえ風紀委員に目をつけられようが、お前にファンクラブが出来ようがだ」
リボーンの提案は、実にシンプルなものだった。
思わず「そんなことでいいの?」と疑問を口にすると、彼は余裕に溢れた笑みで答えた。
「ああ。それで充分だ。そもそも、多少の障害くらい自分で解決させなきゃ成長しねーぞ」
確かにその通りではある。
いずれボスになる人間が、いつまで経っても自分の身も守れないようでは問題だ。
だが、どうしても綱吉のことでは楽観的に考えられないのだ。
間違っても彼を死なせられない、死なせたくない。
その一心で、潔癖なまでに不穏分子を排除したくなってしまう。
それは――私のトラウマに起因するのだろう。
「もし納得できなかったら、隠ぺいも取引も好きにしろ。お前の仕事だからな」
言外の不服が伝わったのか、リボーンはそう付け加えた。
しかし、途端に目つきを鋭くし、こればかりは譲れないとばかりに語気を強めた。
「ただ、ツナや獄寺に気を遣う真似はもうすんな。あいつらはお前の家族 だぞ」
家族。
思わず手すりを握りしめると、ぱきり、と乾いた音が鳴った。
固まる私に、リボーンは更に言葉を続ける。
「家族なんだ、いくらでも迷惑かけてやれ。あいつらならお前を全部受け入れてくれるぞ」
そう言って、まるで見透かしたように、安心させるように優しく微笑んだ。
出会って数日しか経っていない彼らを何の躊躇もなく家族と呼んで、『私を受け入れてくれる』と何の恐れもなく断言した。
呆気に取られる私に、自信満々に言い切った。
「もっと肩の力抜いて、あいつらとの生活を楽しめ」
仕事を楽しむ、という感覚は、私にはないものだ。
そして私のトラウマの根源は、一朝一夕でなくなるものではない。
けれど、リボーンがいれば大丈夫だと、あの時とは違うのだと、素直にそう思えた。
「あと、ファミリーにはお前の頼みを迷惑に思う奴なんて一人もいねーから、変なこと気にすんな」
「……それは」
それは、私が修繕依頼を躊躇った工作員のことを指しているのだろうか。
色々諦めて彼から視線を外すと、階段を上って来る気配を感じたので、会話を止めて扉に目を向けた。
すると直後に、綱吉と獄寺が屋上に現れた。
「あ、アゲハ! こんなところにいたのか!」
私を見つけるなり、綱吉は笑顔でこちらに近づいて来る。
二人の表情から察するに、退学の件は水に流れたようだ。
「私を捜していたの?」
「うん。オレと獄寺君の退学が取り消しになったんだ。そのことを報告しておきたくて」
心配してくれてたみたいだから、と綱吉は自然に言ってのけた。
リボーンはともかく、綱吉が何処まで私の様子を察しているのかは未知数だ。
けれど、綱吉は、私の“これ”を心配と形容するのかと妙な気持ちになった。
「……そう。残念だわ。折角この機会にボスに就任してくれると思ってたのに」
「そう言うな、アゲハ。ツナは遅かれ早かれマフィアのボスになるんだからな」
「いや、だからマフィアになんかならないって……」
いつもの突っ込みに勢いがない。
立て続けに起こった出来事にさすがに疲れたのだろうかと解釈したのだが、暫くして綱吉から深刻そうな表情で声を掛けられた。
「アゲハ。一つ聞いていい?」
「何?」
「アゲハって、今回の理科のテスト何点だった?」
「理科のテスト? 満点だったけど。それがどうしたの?」
ポケットに入っていた回答用紙を見せると、綱吉は暫く固まった後に嘆息した。
リボーンが含みのある笑みを浮かべる傍らで、私は首を傾げる。
彼の憂鬱の原因は知らないが、それは綱吉自身に任せるとしよう。
さて、後日談である。
雲雀に送った資料とグラウンドから発掘された四十年前のタイムカプセルにより、根津は学歴詐称が発覚し解雇された。
綱吉と獄寺は現在校長室に呼ばれているのだが、根津が難癖をつけて提案した退学の話は白紙に戻るはずだ。
これで、綱吉達の退学を防ぎ
問題の根源を絶つのは当然の対応だと思うのだが、この思考は黒猫曰く『裏社会のボスらしい』そうだ。
その善悪はともかく、私にはまだやるべきことが残っている。
それが、眼下の光景の処理である。
「――酷いわね、これ」
綱吉のメガトンパンチと獄寺のダイナマイトで真っ二つに割れたグラウンド。
この完全修復を宣言したは良いが、果たして二、三日で元通りにできるだろうか。
雲雀の計らいで大事にならずに済んだものの、グラウンドが割れた様子は生徒達に周知なので今更幻覚で誤魔化すこともできない。
こういう場合に連絡を入れる先はボンゴレの工作員なのだが、彼らにはつい最近綱吉の部屋の修繕で世話になったばかりだ。
街や施設を守れとは命じられていないものの、こうも頻繁に破壊が続くのは如何なものだろう。
結果として退学は免れたので口には出さないが、随分と手の掛かる真似をしてくれたものだ。
「見ていて清々しいだろ」
グラウンドを眺める私に、リボーンが得意げに答えた。
フェンスの上に立ちニヒルに笑う彼を一瞥し、再び視線をグラウンドに戻す。
「せめて幻覚が間に合っていれば良かったのだけれど。いっそ自分で補修してみようかしら」
「……止めとけ。余計ぶっ壊す予感しかしねーぞ」
悔しいが否定できなかった。
そういえば、私の通り名は“兵器”だった。
「ツナ達の退学取り消しと根津の解雇への根回し、その上でパニックを最小限に抑えたんだ。むしろ上出来だぞ」
「……実際にやったのは私ではないけどね」
すべて雲雀恭弥の功績だ。
「それもお前が手を回したことだ。お前がやったことには変わりねーだろ――というか」
リボーンはそこで言葉を止めた。
何事かと彼に視線を向けると、真っ直ぐ私を見つめていた。
「ボスを陰ながら支えるのが裏ボスの仕事――だが、オレはそこまで色々気を回さなくていいと思うぞ」
「……どういう意味?」
発言の意図が理解できず、リボーンを観察する。
彼の瞳は、普段より真剣な色を孕んでいた。
「無意識か? お前、九代目の傍でサポートをしていた時より気を回し過ぎているぞ。良く言えば優秀だが、悪く言えば過保護だ。お前の仕事は、護衛の域を超えている時がある」
淡々と並べられた言葉を聞きながら、屋上の手すりを握りしめる。
無意識ではない、自覚はあったことだ。
もし護衛対象が九代目であれば――いや、沢田綱吉でさえなければ、ここまで手を出さなかった。
本来なら、今日のような隠ぺい工作や取引は、護衛の仕事ではない。
すべて自覚している。
「……分かってるわよ。ただ、分からないのよ」
普通の家庭で育った人達にどう接すればいいのか。
普通の学校に通う生徒達とどう会話すればいいのか。
たとえばクラスメイトとか先生とか、友達とか。
彼らは一体、どうやって生きているのだろう。
「私は何処まで守ればいいのかしら」
こんな平和な世界で、戦闘も爆発もないような世界で、私は何から彼を守ればいいのだろうか。
そんな私の心からの疑問に対し、リボーンは普段通りの調子で受け答えた。
「そうだな、とりあえずツナの命に直接関わる原因は消しとけ。それ以外は放置しろ。たとえ風紀委員に目をつけられようが、お前にファンクラブが出来ようがだ」
リボーンの提案は、実にシンプルなものだった。
思わず「そんなことでいいの?」と疑問を口にすると、彼は余裕に溢れた笑みで答えた。
「ああ。それで充分だ。そもそも、多少の障害くらい自分で解決させなきゃ成長しねーぞ」
確かにその通りではある。
いずれボスになる人間が、いつまで経っても自分の身も守れないようでは問題だ。
だが、どうしても綱吉のことでは楽観的に考えられないのだ。
間違っても彼を死なせられない、死なせたくない。
その一心で、潔癖なまでに不穏分子を排除したくなってしまう。
それは――私のトラウマに起因するのだろう。
「もし納得できなかったら、隠ぺいも取引も好きにしろ。お前の仕事だからな」
言外の不服が伝わったのか、リボーンはそう付け加えた。
しかし、途端に目つきを鋭くし、こればかりは譲れないとばかりに語気を強めた。
「ただ、ツナや獄寺に気を遣う真似はもうすんな。あいつらはお前の
家族。
思わず手すりを握りしめると、ぱきり、と乾いた音が鳴った。
固まる私に、リボーンは更に言葉を続ける。
「家族なんだ、いくらでも迷惑かけてやれ。あいつらならお前を全部受け入れてくれるぞ」
そう言って、まるで見透かしたように、安心させるように優しく微笑んだ。
出会って数日しか経っていない彼らを何の躊躇もなく家族と呼んで、『私を受け入れてくれる』と何の恐れもなく断言した。
呆気に取られる私に、自信満々に言い切った。
「もっと肩の力抜いて、あいつらとの生活を楽しめ」
仕事を楽しむ、という感覚は、私にはないものだ。
そして私のトラウマの根源は、一朝一夕でなくなるものではない。
けれど、リボーンがいれば大丈夫だと、あの時とは違うのだと、素直にそう思えた。
「あと、ファミリーにはお前の頼みを迷惑に思う奴なんて一人もいねーから、変なこと気にすんな」
「……それは」
それは、私が修繕依頼を躊躇った工作員のことを指しているのだろうか。
色々諦めて彼から視線を外すと、階段を上って来る気配を感じたので、会話を止めて扉に目を向けた。
すると直後に、綱吉と獄寺が屋上に現れた。
「あ、アゲハ! こんなところにいたのか!」
私を見つけるなり、綱吉は笑顔でこちらに近づいて来る。
二人の表情から察するに、退学の件は水に流れたようだ。
「私を捜していたの?」
「うん。オレと獄寺君の退学が取り消しになったんだ。そのことを報告しておきたくて」
心配してくれてたみたいだから、と綱吉は自然に言ってのけた。
リボーンはともかく、綱吉が何処まで私の様子を察しているのかは未知数だ。
けれど、綱吉は、私の“これ”を心配と形容するのかと妙な気持ちになった。
「……そう。残念だわ。折角この機会にボスに就任してくれると思ってたのに」
「そう言うな、アゲハ。ツナは遅かれ早かれマフィアのボスになるんだからな」
「いや、だからマフィアになんかならないって……」
いつもの突っ込みに勢いがない。
立て続けに起こった出来事にさすがに疲れたのだろうかと解釈したのだが、暫くして綱吉から深刻そうな表情で声を掛けられた。
「アゲハ。一つ聞いていい?」
「何?」
「アゲハって、今回の理科のテスト何点だった?」
「理科のテスト? 満点だったけど。それがどうしたの?」
ポケットに入っていた回答用紙を見せると、綱吉は暫く固まった後に嘆息した。
リボーンが含みのある笑みを浮かべる傍らで、私は首を傾げる。
彼の憂鬱の原因は知らないが、それは綱吉自身に任せるとしよう。
