番外編
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「何なのこれ」
突然鳴り響いた轟音に驚いて隣の部屋へ来てみたアゲハは、その惨状に思わずそう呟いた。
窓ガラスは一つ残らず割れ、家具はどれも大破し、床は瓦礫で埋まっている。
辺りに黒い煙が立ち込める中、地に伏せる綱吉をいち早く発見すると、ひとまず近寄って安否を確かめる。
どうやら怪我はしているものの、命に別状はないようだ。
呆れたようにため息を吐き、辛うじて意識のある綱吉に何やってるのよ、と声を掛けた。
綱吉はアゲハの声を耳にすると、なんとか顔を上げて目線を合わせる。
冷たい目でこちらを見下ろすアゲハに思わず乾いた笑みが漏れた。
「いや……、リボーンのトラップに引っ掛かっちゃって……」
「そんなこと見れば分かるわよ。私が訊いているのは、どうやったらあんな分かりやすいトラップに引っ掛かるのかってことよ」
綱吉の返答を容赦なくばっさり切り捨てると、アゲハは改めて部屋(だった空間)を見回す。
とてもじゃないが、通常の掃除で片付くレベルではない。
これを完全に元通りに直すには、ボンゴレの工作員でも数日はかかるだろう。
その間はひとまず幻覚で誤魔化すしかない。
綱吉達や近所の住人を騙すくらいの幻覚ならアゲハでも作れるので、わざわざボンゴレから術士を手配する必要はない。
とはいえ、あんなトラップにいちいち引っ掛かっているようでは先が思いやられる、とアゲハは嘆息した。
「ていうかアゲハ……お前、オレの護衛じゃなかったっけ?」
「貴方のドジのフォローまで仕事に入ってないわよ」
「ドジって……」
そもそも家にトラップが仕掛けられること自体おかしい、という台詞を綱吉はなんとか呑み込んだ。
昨日出会ったばかりだが、この少女も感覚が普通とはずれている節があることが既に発覚している。
突っ込んでも理解を得られないどころか余計罵倒されそうな気さえする。
そこまで考えて、アゲハが自分を穴が開くほどじっと見つめているのに気付き、思わずどきりとする。
読心術で思考を読まれた過去は記憶に新しい。
もし先ほどの思考が筒抜けだとしたら、毒舌どころか直接攻撃されかねない。
そう危惧し身構えていると、予想に反してアゲハは傍にあった瓦礫の上に座っただけで、特に何かを言う気配も何かをする様子もない。
数秒の沈黙の後、アゲハは爆弾を落とした。
「ツナって笹川京子のどこが好きなの?」
「はあああっ!!?」
綱吉は怪我をしていることも忘れ、がばっと勢いよく起き上がった。
突然の衝撃で頭が回らず、うまくこの場を切り抜けようと言葉を探すが、結局どもりまくりの反応しか返せなかった。
「て、ていうか、なんで、いきなりそんなこと……」
「何よ。普通の中学生って、こういう会話するんじゃないの?」
むっとしたように返すアゲハに掛ける言葉が見つからない。
やはりどこかずれているアゲハだが、とりあえず先ほどの綱吉の反応を根に持っているらしい。
なら読心術なんて使わなければいいのに、と思わなくもない。
「ツナが分かりやすすぎて、読み取ろうとする前に分かっちゃうのよ」
発言していないにも関わらず当然のように会話が続く状況に、もはや突っ込む気もなくなった。
「で、どうなの? どこが好きなの? 何がきっかけ? いつから好きになったの?」
「って結局そこに戻るの!?」
ぐいっと顔を近づけ矢継ぎ早に質問を重ねるアゲハはどこか楽しそうに見えなくもない……気がする。
アゲハの表情は基本ほとんど変化しないので、感情の起伏を読み取るのは至難の業だ。
無表情で迫るアゲハに若干顔を赤くしながら、綱吉は半ばやけくそで白状した。
「どこって……可愛いところだよ。あとは優しいところとか?」
「ふうん」
「って随分適当な返事だな!」
「だって別にそこまで興味なかったもの」
「なら訊くなよ!!」
アゲハのペースに巻き込まれ体力を大幅に削がれた綱吉は、疲れた身体を投げ出すように床に寝転んだ。
そこで、ふとあることに気づく。
――あれ、でもアゲハだって条件を満たしているような……
先ほど自分が挙げた笹川京子の好きなところは、“可愛くて”“優しい”の二点だ。
前者は文句のつけようもなく合格だ。
宮野アゲハは恐ろしく可愛い。
厳密には“美人”の部類に入るかもしれないが、それでも彼女に容姿で敵う者などなかなかいないだろう。
そして後者だが、これも充分満たしていると綱吉は考えている。
確かにアゲハは時々理解を超える言動をすることがあるし、裏社会に身を置いているためか一般人から見たら“変わった人”と思われるような雰囲気を持っている。
しかし、彼女の言動の裏には綱吉への思いやりやさり気ない優しさが隠れていることに、綱吉は昨日今日の生活の中で気づいていた。
無茶苦茶ではあるが、本質は優しい人なんだろう。
綱吉はアゲハをそう評価している。
こうして、綱吉の“好きな女子”のタイプを見事クリアしていることに、今更ながら自覚したのである。
「ツナ、なに寝転がってるの? 風邪でもひいたら笑えないわよ」
「………」
「ついでに今から私の部屋に来なさい。見苦しいから手当てしてあげる。そもそも、マフィアのボスがこれくらいのことで怪我するんじゃないわよ」
「………」
「……ツナ、何だか顔が赤いわよ。まさか熱でもあるの? まったく軟弱ね。とりあえず起きなさい。ほら、特別に手を貸してあげるから」
「………」
過剰に意識してしまっている現在の綱吉の心境では、これらの言葉はすべて“いいように”しか働かなかった。
身体中の血液が顔に集中していくような感覚に耐え切れなくなった綱吉は、ついに差し出されたアゲハの手を借りずに素早く起き上がると、「大丈夫! 何でもないから!」と震える声で言い残して走り去った。
半壊した部屋で一人取り残されたアゲハは、ドアの方を見つめたまま首を傾げた。
「……変わった人」
結局、その日アゲハの顔をまともに見ることができなかった綱吉は、翌日に不幸の少女と巡り合うことになる。
理想を超える妄想
(了)
突然鳴り響いた轟音に驚いて隣の部屋へ来てみたアゲハは、その惨状に思わずそう呟いた。
窓ガラスは一つ残らず割れ、家具はどれも大破し、床は瓦礫で埋まっている。
辺りに黒い煙が立ち込める中、地に伏せる綱吉をいち早く発見すると、ひとまず近寄って安否を確かめる。
どうやら怪我はしているものの、命に別状はないようだ。
呆れたようにため息を吐き、辛うじて意識のある綱吉に何やってるのよ、と声を掛けた。
綱吉はアゲハの声を耳にすると、なんとか顔を上げて目線を合わせる。
冷たい目でこちらを見下ろすアゲハに思わず乾いた笑みが漏れた。
「いや……、リボーンのトラップに引っ掛かっちゃって……」
「そんなこと見れば分かるわよ。私が訊いているのは、どうやったらあんな分かりやすいトラップに引っ掛かるのかってことよ」
綱吉の返答を容赦なくばっさり切り捨てると、アゲハは改めて部屋(だった空間)を見回す。
とてもじゃないが、通常の掃除で片付くレベルではない。
これを完全に元通りに直すには、ボンゴレの工作員でも数日はかかるだろう。
その間はひとまず幻覚で誤魔化すしかない。
綱吉達や近所の住人を騙すくらいの幻覚ならアゲハでも作れるので、わざわざボンゴレから術士を手配する必要はない。
とはいえ、あんなトラップにいちいち引っ掛かっているようでは先が思いやられる、とアゲハは嘆息した。
「ていうかアゲハ……お前、オレの護衛じゃなかったっけ?」
「貴方のドジのフォローまで仕事に入ってないわよ」
「ドジって……」
そもそも家にトラップが仕掛けられること自体おかしい、という台詞を綱吉はなんとか呑み込んだ。
昨日出会ったばかりだが、この少女も感覚が普通とはずれている節があることが既に発覚している。
突っ込んでも理解を得られないどころか余計罵倒されそうな気さえする。
そこまで考えて、アゲハが自分を穴が開くほどじっと見つめているのに気付き、思わずどきりとする。
読心術で思考を読まれた過去は記憶に新しい。
もし先ほどの思考が筒抜けだとしたら、毒舌どころか直接攻撃されかねない。
そう危惧し身構えていると、予想に反してアゲハは傍にあった瓦礫の上に座っただけで、特に何かを言う気配も何かをする様子もない。
数秒の沈黙の後、アゲハは爆弾を落とした。
「ツナって笹川京子のどこが好きなの?」
「はあああっ!!?」
綱吉は怪我をしていることも忘れ、がばっと勢いよく起き上がった。
突然の衝撃で頭が回らず、うまくこの場を切り抜けようと言葉を探すが、結局どもりまくりの反応しか返せなかった。
「て、ていうか、なんで、いきなりそんなこと……」
「何よ。普通の中学生って、こういう会話するんじゃないの?」
むっとしたように返すアゲハに掛ける言葉が見つからない。
やはりどこかずれているアゲハだが、とりあえず先ほどの綱吉の反応を根に持っているらしい。
なら読心術なんて使わなければいいのに、と思わなくもない。
「ツナが分かりやすすぎて、読み取ろうとする前に分かっちゃうのよ」
発言していないにも関わらず当然のように会話が続く状況に、もはや突っ込む気もなくなった。
「で、どうなの? どこが好きなの? 何がきっかけ? いつから好きになったの?」
「って結局そこに戻るの!?」
ぐいっと顔を近づけ矢継ぎ早に質問を重ねるアゲハはどこか楽しそうに見えなくもない……気がする。
アゲハの表情は基本ほとんど変化しないので、感情の起伏を読み取るのは至難の業だ。
無表情で迫るアゲハに若干顔を赤くしながら、綱吉は半ばやけくそで白状した。
「どこって……可愛いところだよ。あとは優しいところとか?」
「ふうん」
「って随分適当な返事だな!」
「だって別にそこまで興味なかったもの」
「なら訊くなよ!!」
アゲハのペースに巻き込まれ体力を大幅に削がれた綱吉は、疲れた身体を投げ出すように床に寝転んだ。
そこで、ふとあることに気づく。
――あれ、でもアゲハだって条件を満たしているような……
先ほど自分が挙げた笹川京子の好きなところは、“可愛くて”“優しい”の二点だ。
前者は文句のつけようもなく合格だ。
宮野アゲハは恐ろしく可愛い。
厳密には“美人”の部類に入るかもしれないが、それでも彼女に容姿で敵う者などなかなかいないだろう。
そして後者だが、これも充分満たしていると綱吉は考えている。
確かにアゲハは時々理解を超える言動をすることがあるし、裏社会に身を置いているためか一般人から見たら“変わった人”と思われるような雰囲気を持っている。
しかし、彼女の言動の裏には綱吉への思いやりやさり気ない優しさが隠れていることに、綱吉は昨日今日の生活の中で気づいていた。
無茶苦茶ではあるが、本質は優しい人なんだろう。
綱吉はアゲハをそう評価している。
こうして、綱吉の“好きな女子”のタイプを見事クリアしていることに、今更ながら自覚したのである。
「ツナ、なに寝転がってるの? 風邪でもひいたら笑えないわよ」
「………」
「ついでに今から私の部屋に来なさい。見苦しいから手当てしてあげる。そもそも、マフィアのボスがこれくらいのことで怪我するんじゃないわよ」
「………」
「……ツナ、何だか顔が赤いわよ。まさか熱でもあるの? まったく軟弱ね。とりあえず起きなさい。ほら、特別に手を貸してあげるから」
「………」
過剰に意識してしまっている現在の綱吉の心境では、これらの言葉はすべて“いいように”しか働かなかった。
身体中の血液が顔に集中していくような感覚に耐え切れなくなった綱吉は、ついに差し出されたアゲハの手を借りずに素早く起き上がると、「大丈夫! 何でもないから!」と震える声で言い残して走り去った。
半壊した部屋で一人取り残されたアゲハは、ドアの方を見つめたまま首を傾げた。
「……変わった人」
結局、その日アゲハの顔をまともに見ることができなかった綱吉は、翌日に不幸の少女と巡り合うことになる。
理想を超える妄想
(了)