標的3 夢のなかの夢の話
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛中学校1年A組教室》
「家庭の事情でイタリアから越して来ました、宮野アゲハです。よろしくお願いします」
教壇の上から見る景色は、幼少期を裏社会で過ごした私にとっては新鮮そのものだ。
短く自己紹介を済ませ頭を下げると、一瞬遅れて拍手が起こる。
その動作が何処かぎこちなく見えるが、この学校では帰国子女は珍しいのだろうか?
ざわつく教室を見渡すと、目当ての人物はすぐに見つかった。
唖然としてこちらを凝視する綱吉は、『なんでアゲハがここにいるんだ』と目線で主張している。
私達の想像通りの反応ではあるが、それにしても心情を読み取りやすい人だ。
彼は読心術の前に、ポーカーフェイスを学んだ方がいい。
それでも大声で突っ込まなかっただけ、我慢した方だと言えるだろう。
綱吉の反応に満足したので、ひとまず意識を担任に戻した。
すると、タイミング良く私の席を指定しているところだった。
予想通り、ひとつだけ空いた席――窓際の一番後ろが私の席になるようだ。
対する綱吉の席は、中列中央である。
そこまで離れているわけではないし、授業中に後方から綱吉の様子を観察するのも面白そうではある――が。
「先生、ひとつお願いがあるのですが」
担任に声を掛けたのに、クラスメイト全員が会話を止めて注目した。
先生は「な、何だ?」と多少動揺しながら応じた。
クラス中から痛いほど視線を感じるが、私の目線は綱吉をしっかり捉えている。
綱吉は何か嫌な予感でもするのか、私と目を合わせたまま冷や汗を流している。
勘が良くて大変結構だ。
これはますます期待に応えなくてはならない。
しんと静まり返った教室に、私の声がやけに響いた。
「私の席、沢田綱吉君の隣にしていただけますか」
その言葉で、一斉にクラスメイトの視線が綱吉に向けられ、当人はひいっと情けない悲鳴を上げた。
この程度の人数で怖気づくな、ボス候補。
ともあれ、動揺しているのは綱吉だけでなく、教室は再び騒然となった。
私と綱吉の顔を見比べる視線と、潜める気のない声量の憶測が飛び交う。
「なんでダメツナが」「あの二人どういう関係なんだ?」などと無遠慮な声があちこちから聞こえる。
授業中とは思えないほどの雑然さにそろそろ注意されるかと担任を盗み見ると、彼も驚きで言葉を失っているようだ。
大丈夫か、この担任。
確かに転入初日にクラスの男子を名指しで指名すれば、その関係性が気になるのは理解できるが、それにしても驚きすぎだと思う。
席の移動希望はそんなに重罪だったのか?
視線を泳がせると、ふと見覚えのある少女――笹川京子と目が合った。
そういえば彼女も同じクラスだったと資料を思い返しながら見つめると、彼女は焦ったように目を逸らした。
最初に会った時もそうだったが、彼女と目が合うと何故かすぐに逸らされてしまう。
嫌われる覚えどころか、そもそも会話すらしたことがない。
理由が分からないので釈然としないが、まあ嫌われたのなら仕方ないか、と思い直し、呆然としている担任に向き直った。
「よろしいですか、先生」
丁寧に、だが有無を言わせない口調で問う。
再び静寂が訪れた。
「……何故、沢田なんだ?」
沈黙を破ったのは、やっとショックから回復したらしい担任だった。
「実は、私と綱吉君は遠い親戚で、日本に来てからも綱吉君のご両親には懇意にさせていただいているんです。慣れない土地で心細いので、なるべく知り合いの近くにいたいんです」
さすがに一緒に住んでいることは、綱吉が可哀想なので伏せておいた。
実は日本には過去に足を運んだことがあるし、たとえ未開の地であっても心細いとは感じないのだが、先生もクラスメイトも私の嘘を信じ込んだようだ。
綱吉は、処刑宣告を待つ囚人のような顔をしている。
先生は腕を組んで考え込む仕草をした後、特に問題ないと判断したようですぐに了承した。
同時に、ごんっと何かを打ち付けたような重たい音がした。
まだ至るところからひそひそと話し声が聞こえるが、先ほどの説明が効いたのか、教室は大分落ち着きを取り戻している。
綱吉の右隣の席にいた生徒に移動を命じる先生に、ありがとうございます、と短く礼を告げて早々に動いた。
整然と並ぶ机を横切り、私のためにわざわざ空けてくれた席を目指す。
綱吉は机に突っ伏したままぴくりとも動かない。
その様子が可笑しくて、思わず笑い出しそうになるのを堪えながら席についた。
「よろしくね、綱吉君」
呼び慣れない呼称がわざとらしかったのか、恨めしそうな目で睨まれた。
「家庭の事情でイタリアから越して来ました、宮野アゲハです。よろしくお願いします」
教壇の上から見る景色は、幼少期を裏社会で過ごした私にとっては新鮮そのものだ。
短く自己紹介を済ませ頭を下げると、一瞬遅れて拍手が起こる。
その動作が何処かぎこちなく見えるが、この学校では帰国子女は珍しいのだろうか?
ざわつく教室を見渡すと、目当ての人物はすぐに見つかった。
唖然としてこちらを凝視する綱吉は、『なんでアゲハがここにいるんだ』と目線で主張している。
私達の想像通りの反応ではあるが、それにしても心情を読み取りやすい人だ。
彼は読心術の前に、ポーカーフェイスを学んだ方がいい。
それでも大声で突っ込まなかっただけ、我慢した方だと言えるだろう。
綱吉の反応に満足したので、ひとまず意識を担任に戻した。
すると、タイミング良く私の席を指定しているところだった。
予想通り、ひとつだけ空いた席――窓際の一番後ろが私の席になるようだ。
対する綱吉の席は、中列中央である。
そこまで離れているわけではないし、授業中に後方から綱吉の様子を観察するのも面白そうではある――が。
「先生、ひとつお願いがあるのですが」
担任に声を掛けたのに、クラスメイト全員が会話を止めて注目した。
先生は「な、何だ?」と多少動揺しながら応じた。
クラス中から痛いほど視線を感じるが、私の目線は綱吉をしっかり捉えている。
綱吉は何か嫌な予感でもするのか、私と目を合わせたまま冷や汗を流している。
勘が良くて大変結構だ。
これはますます期待に応えなくてはならない。
しんと静まり返った教室に、私の声がやけに響いた。
「私の席、沢田綱吉君の隣にしていただけますか」
その言葉で、一斉にクラスメイトの視線が綱吉に向けられ、当人はひいっと情けない悲鳴を上げた。
この程度の人数で怖気づくな、ボス候補。
ともあれ、動揺しているのは綱吉だけでなく、教室は再び騒然となった。
私と綱吉の顔を見比べる視線と、潜める気のない声量の憶測が飛び交う。
「なんでダメツナが」「あの二人どういう関係なんだ?」などと無遠慮な声があちこちから聞こえる。
授業中とは思えないほどの雑然さにそろそろ注意されるかと担任を盗み見ると、彼も驚きで言葉を失っているようだ。
大丈夫か、この担任。
確かに転入初日にクラスの男子を名指しで指名すれば、その関係性が気になるのは理解できるが、それにしても驚きすぎだと思う。
席の移動希望はそんなに重罪だったのか?
視線を泳がせると、ふと見覚えのある少女――笹川京子と目が合った。
そういえば彼女も同じクラスだったと資料を思い返しながら見つめると、彼女は焦ったように目を逸らした。
最初に会った時もそうだったが、彼女と目が合うと何故かすぐに逸らされてしまう。
嫌われる覚えどころか、そもそも会話すらしたことがない。
理由が分からないので釈然としないが、まあ嫌われたのなら仕方ないか、と思い直し、呆然としている担任に向き直った。
「よろしいですか、先生」
丁寧に、だが有無を言わせない口調で問う。
再び静寂が訪れた。
「……何故、沢田なんだ?」
沈黙を破ったのは、やっとショックから回復したらしい担任だった。
「実は、私と綱吉君は遠い親戚で、日本に来てからも綱吉君のご両親には懇意にさせていただいているんです。慣れない土地で心細いので、なるべく知り合いの近くにいたいんです」
さすがに一緒に住んでいることは、綱吉が可哀想なので伏せておいた。
実は日本には過去に足を運んだことがあるし、たとえ未開の地であっても心細いとは感じないのだが、先生もクラスメイトも私の嘘を信じ込んだようだ。
綱吉は、処刑宣告を待つ囚人のような顔をしている。
先生は腕を組んで考え込む仕草をした後、特に問題ないと判断したようですぐに了承した。
同時に、ごんっと何かを打ち付けたような重たい音がした。
まだ至るところからひそひそと話し声が聞こえるが、先ほどの説明が効いたのか、教室は大分落ち着きを取り戻している。
綱吉の右隣の席にいた生徒に移動を命じる先生に、ありがとうございます、と短く礼を告げて早々に動いた。
整然と並ぶ机を横切り、私のためにわざわざ空けてくれた席を目指す。
綱吉は机に突っ伏したままぴくりとも動かない。
その様子が可笑しくて、思わず笑い出しそうになるのを堪えながら席についた。
「よろしくね、綱吉君」
呼び慣れない呼称がわざとらしかったのか、恨めしそうな目で睨まれた。