標的1 夢と希望と不幸の到来
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《視点:宮野アゲハ 場所:沢田家綱吉の自室》
笹川京子に死ぬ気で告白する――その宣言通り、綱吉は京子に告白することができた。
しかし、当の彼女には悲鳴を上げて逃げられ、その場にいた男に変態扱いされて殴られたのだった。
殴られてもバイクに轢かれても無傷なのは、死ぬ気状態の特性である。
身体能力は限界まで向上し、死ぬ気でやると決めたことは迷いなく実行できる精神力を身につける。
ただし、死ぬ気状態が終われば、身体能力も精神力も元に戻る。
「どーしてくれんだよ! もう街歩けないよ! それに笹川京子にあわす顔もない」
綱吉は帰宅して暫く経っても立ち直れないようで、今も頭を抱えて叫んでいる。
「告白する気なんてサラサラなかったのに~!」
「告白したくてもできなかっただけだろ?」
「う……うるさい!」
図星を衝かれてリボーンの頬を左右に引っ張るが、次の瞬間に張り倒された。
学習しない人だ。
「オレそろそろ寝る」
痛みに悶える綱吉を放置して、リボーンは寝る準備を始めた。
私はこの部屋の隣を借りることになったが、リボーンは綱吉と同じ部屋で寝泊まりするらしい。
ちなみに、突然見知らぬ女と赤ん坊が居候する件について、綱吉の母親は快く受け入れてくれた。
「娘ができたみたいで嬉しい」と裏表のない笑みで私達の生活用品を揃えてくれたママンは、本当に魅力的なママンだと思う。
私も、そんな母親が欲しかったものだ。
「――それで、その」
綱吉の目線が私に向いたので、読んでいた雑誌から顔を上げた。
しかし、彼と目が合った途端、何故か視線が泳ぎだした。
「……あの、アゲハ……さんは」
「アゲハでいいわよ」
「えっ、いやその……」
呼び捨てを提案しただけで、激しく狼狽された。
リボーンに好き勝手意見していた彼とは別人のようだ。
そして敬語を使うかどうかでまた迷い、痺れを切らしたリボーンに「とっとと話を進めろ」と銃口を向けられてようやく口火を切った。
「アゲハはいつまでここにいるんだ? 隣の部屋に泊まるって母さんに聞いたけど」
「あら、いてはいけないの?」
「そんなことないけど……ていうか、アゲハも部屋で寝る支度とかしなくていいの?」
「赤ん坊と同じ時間に就寝しないわよ。お風呂は頂いたし、もう少し寛いでいるわ」
「なら自分の部屋に戻った方が」
「貴方が休む時には戻るわ」
「……そもそも女の子が風呂上がりで男のベッドで寛ぐなよ」
「何故?」
「なんでって……」
すると、それまで黙って部屋中にトラップを仕掛けていたリボーンが、冷ややかな口調で安心しろ、と告げた。
「アゲハに何かしようとしたら、次こそ本当に殺してやるからな」
いつになく殺気に満ちたリボーンと、その迫力に気圧され絶句する綱吉を見比べる。
リボーンは私の強さを誰よりも知っているのに、何故綱吉に危害を加えられる可能性を考慮しているのだろう。
たとえ今この瞬間にミサイルが部屋に撃ち込まれたとしても、私には傷ひとつつけられないのに。
「よく分からないけど、私がここにいるのがそんなに問題なら出ていくわよ」
「……大丈夫だぞ。考えてみれば、ツナにんな度胸ねーな」
「煩いよ!!」
確かに、綱吉が私を殺す心配など、間違いなく杞憂だ。
物理的にも精神的にも、彼は人など殺せない。
リボーンから許可が出たので、再び綱吉のベッドに体を埋めた。
リボーンの殺気が失せたところで、綱吉はやっと殴られた箇所を擦りながら起き上がった。
「いって~~っ。バイクに轢かれても平気だったのに」
「あん時は死ぬ気だったからな」
死ぬ気とは、身体の安全装置を外した状態のことで、命を削る代わりに潜在能力が発揮される。
一見便利な能力に思えるが、当然リスクもある――しかし、その話には今は触れないようだ。
リボーンは寝間着に着替えながら、自分達の目的を説明した。
「オレはボンゴレファミリーのボス・ボンゴレ九世の依頼で、お前をマフィアのボスに教育するために日本へ来た」
綱吉は微妙な顔をしているが、死ぬ気弾を体験する前と違い、“マフィア”という世界を多少受け入れる準備ができたようだ。
「じゃあ、アゲハは何のために日本へ来たんだ? 確か、リボーンの助手だったっけ」
「そんなわけないでしょう。何故私がリボーンのおまけなのよ」
「え?」
「アゲハはな、ツナの護衛を任されたんだ」
「ご、護衛!?」
驚きの声を上げる綱吉に、そうだぞ、とリボーンはあっさり首肯する。
「何しろ馬鹿強えーからな。裏の世界では“ボンゴレの姫 ”って異名を持っていて、九代目の補佐をしてるんだぞ。実質No.2だ」
「一部では裏ボスとか言われてるわね」
「ますますありえねー!」
「そうか? アゲハなんか明らかに只者じゃねー気配が漂ってるだろ」
自覚がないわけではないが、リボーンにだけは指摘されたくない。
「それ、お前に言われたくないと思うけど……。それにアゲハは女の子だろ?」
「裏の世界に性別や年齢は関係ねーぞ。必要なのは実力と運だ」
確かに、私と同世代の殺し屋は大勢いるし、女性の殺し屋も山ほどいる。
ただしリボーンのニュアンスはそんな一般論ではなく、『アゲハに性別や年齢なんて常識は通用しない』という冷静な評価である。
「話が逸れちまったが、ボンゴレ九世は高齢ということもあり、ボスの座を十代目に引き渡すつもりだったんだ」
リボーンは懐から三枚の写真を出し、綱吉の前に掲げる。
「だが、十代目最有力のエンリコが抗争の中撃たれた」
「ひいっ」
「若手No.2のマッシーモは沈められ」
「ギャア!」
「秘蔵っ子のフェデリコはいつの間にか骨に」
「いちいち見せなくていいって!」
次々に見せられるグロテスクな写真に、とうとう綱吉は顔を覆った。
反応がいちいち面白い。
「今は詳しい話は省くが、もし知りたければアゲハに訊けば教えてくれると思うぞ」
「興味があるならいつでも教えてあげるわよ」
「興味もないしぜってー訊かない!」
それならそれでありがたい。
身内の死など、本当ならあまり心地のいいものではないのだから。
「そんで、十代目候補として残ったのがお前だけになっちまったんだ」
「は~~~!!? なんでそーなるんだよ!」
「ボンゴレファミリーの初代ボスは、早々に引退し日本に渡ったんだ。それがツナのひいひいひいじいさんだ。つまりお前は、ボンゴレファミリーの血を受け継ぐれっきとしたボス候補なんだ」
『初代ボス』と言った時に視線が一瞬向けられたが、気づかない振りをして雑誌のページをめくった。
どうやらイタリアを発つ前の出来事をまだ根に持っているようだ。
「大体、ボスならアゲハがやればいいじゃんか。今だって裏ボスとかいうのをやってるんだろ?」
「ボスっていうのは、ボンゴレの血をひいている奴じゃなきゃなれねーんだ。だから、どんなに才能があってもアゲハには無理だ」
もっとも、その伝統を無視して私をボスに任命しようとする勢力も少なくなかった。
もし私がボンゴレの血をひいていたら、こんな跡継ぎ争いは起こらなかったかもしれない。
「心配すんな。オレ達が立派なマフィアのボスにしてやる」
「ちょ、ふざけんなよ! オレは絶対ならねーからな!」
「んじゃあ寝るな」
「私もそろそろ部屋に戻るわ。おやすみツナ」
部屋に仕掛けられたトラップについて抗議する綱吉の声を背後で聞き流しながら、雑誌を片手に退出した。
どうやら告白の件は、綱吉の頭からすっぽり抜け落ちているようだ。
明日が楽しみだ。
笹川京子に死ぬ気で告白する――その宣言通り、綱吉は京子に告白することができた。
しかし、当の彼女には悲鳴を上げて逃げられ、その場にいた男に変態扱いされて殴られたのだった。
殴られてもバイクに轢かれても無傷なのは、死ぬ気状態の特性である。
身体能力は限界まで向上し、死ぬ気でやると決めたことは迷いなく実行できる精神力を身につける。
ただし、死ぬ気状態が終われば、身体能力も精神力も元に戻る。
「どーしてくれんだよ! もう街歩けないよ! それに笹川京子にあわす顔もない」
綱吉は帰宅して暫く経っても立ち直れないようで、今も頭を抱えて叫んでいる。
「告白する気なんてサラサラなかったのに~!」
「告白したくてもできなかっただけだろ?」
「う……うるさい!」
図星を衝かれてリボーンの頬を左右に引っ張るが、次の瞬間に張り倒された。
学習しない人だ。
「オレそろそろ寝る」
痛みに悶える綱吉を放置して、リボーンは寝る準備を始めた。
私はこの部屋の隣を借りることになったが、リボーンは綱吉と同じ部屋で寝泊まりするらしい。
ちなみに、突然見知らぬ女と赤ん坊が居候する件について、綱吉の母親は快く受け入れてくれた。
「娘ができたみたいで嬉しい」と裏表のない笑みで私達の生活用品を揃えてくれたママンは、本当に魅力的なママンだと思う。
私も、そんな母親が欲しかったものだ。
「――それで、その」
綱吉の目線が私に向いたので、読んでいた雑誌から顔を上げた。
しかし、彼と目が合った途端、何故か視線が泳ぎだした。
「……あの、アゲハ……さんは」
「アゲハでいいわよ」
「えっ、いやその……」
呼び捨てを提案しただけで、激しく狼狽された。
リボーンに好き勝手意見していた彼とは別人のようだ。
そして敬語を使うかどうかでまた迷い、痺れを切らしたリボーンに「とっとと話を進めろ」と銃口を向けられてようやく口火を切った。
「アゲハはいつまでここにいるんだ? 隣の部屋に泊まるって母さんに聞いたけど」
「あら、いてはいけないの?」
「そんなことないけど……ていうか、アゲハも部屋で寝る支度とかしなくていいの?」
「赤ん坊と同じ時間に就寝しないわよ。お風呂は頂いたし、もう少し寛いでいるわ」
「なら自分の部屋に戻った方が」
「貴方が休む時には戻るわ」
「……そもそも女の子が風呂上がりで男のベッドで寛ぐなよ」
「何故?」
「なんでって……」
すると、それまで黙って部屋中にトラップを仕掛けていたリボーンが、冷ややかな口調で安心しろ、と告げた。
「アゲハに何かしようとしたら、次こそ本当に殺してやるからな」
いつになく殺気に満ちたリボーンと、その迫力に気圧され絶句する綱吉を見比べる。
リボーンは私の強さを誰よりも知っているのに、何故綱吉に危害を加えられる可能性を考慮しているのだろう。
たとえ今この瞬間にミサイルが部屋に撃ち込まれたとしても、私には傷ひとつつけられないのに。
「よく分からないけど、私がここにいるのがそんなに問題なら出ていくわよ」
「……大丈夫だぞ。考えてみれば、ツナにんな度胸ねーな」
「煩いよ!!」
確かに、綱吉が私を殺す心配など、間違いなく杞憂だ。
物理的にも精神的にも、彼は人など殺せない。
リボーンから許可が出たので、再び綱吉のベッドに体を埋めた。
リボーンの殺気が失せたところで、綱吉はやっと殴られた箇所を擦りながら起き上がった。
「いって~~っ。バイクに轢かれても平気だったのに」
「あん時は死ぬ気だったからな」
死ぬ気とは、身体の安全装置を外した状態のことで、命を削る代わりに潜在能力が発揮される。
一見便利な能力に思えるが、当然リスクもある――しかし、その話には今は触れないようだ。
リボーンは寝間着に着替えながら、自分達の目的を説明した。
「オレはボンゴレファミリーのボス・ボンゴレ九世の依頼で、お前をマフィアのボスに教育するために日本へ来た」
綱吉は微妙な顔をしているが、死ぬ気弾を体験する前と違い、“マフィア”という世界を多少受け入れる準備ができたようだ。
「じゃあ、アゲハは何のために日本へ来たんだ? 確か、リボーンの助手だったっけ」
「そんなわけないでしょう。何故私がリボーンのおまけなのよ」
「え?」
「アゲハはな、ツナの護衛を任されたんだ」
「ご、護衛!?」
驚きの声を上げる綱吉に、そうだぞ、とリボーンはあっさり首肯する。
「何しろ馬鹿強えーからな。裏の世界では“
「一部では裏ボスとか言われてるわね」
「ますますありえねー!」
「そうか? アゲハなんか明らかに只者じゃねー気配が漂ってるだろ」
自覚がないわけではないが、リボーンにだけは指摘されたくない。
「それ、お前に言われたくないと思うけど……。それにアゲハは女の子だろ?」
「裏の世界に性別や年齢は関係ねーぞ。必要なのは実力と運だ」
確かに、私と同世代の殺し屋は大勢いるし、女性の殺し屋も山ほどいる。
ただしリボーンのニュアンスはそんな一般論ではなく、『アゲハに性別や年齢なんて常識は通用しない』という冷静な評価である。
「話が逸れちまったが、ボンゴレ九世は高齢ということもあり、ボスの座を十代目に引き渡すつもりだったんだ」
リボーンは懐から三枚の写真を出し、綱吉の前に掲げる。
「だが、十代目最有力のエンリコが抗争の中撃たれた」
「ひいっ」
「若手No.2のマッシーモは沈められ」
「ギャア!」
「秘蔵っ子のフェデリコはいつの間にか骨に」
「いちいち見せなくていいって!」
次々に見せられるグロテスクな写真に、とうとう綱吉は顔を覆った。
反応がいちいち面白い。
「今は詳しい話は省くが、もし知りたければアゲハに訊けば教えてくれると思うぞ」
「興味があるならいつでも教えてあげるわよ」
「興味もないしぜってー訊かない!」
それならそれでありがたい。
身内の死など、本当ならあまり心地のいいものではないのだから。
「そんで、十代目候補として残ったのがお前だけになっちまったんだ」
「は~~~!!? なんでそーなるんだよ!」
「ボンゴレファミリーの初代ボスは、早々に引退し日本に渡ったんだ。それがツナのひいひいひいじいさんだ。つまりお前は、ボンゴレファミリーの血を受け継ぐれっきとしたボス候補なんだ」
『初代ボス』と言った時に視線が一瞬向けられたが、気づかない振りをして雑誌のページをめくった。
どうやらイタリアを発つ前の出来事をまだ根に持っているようだ。
「大体、ボスならアゲハがやればいいじゃんか。今だって裏ボスとかいうのをやってるんだろ?」
「ボスっていうのは、ボンゴレの血をひいている奴じゃなきゃなれねーんだ。だから、どんなに才能があってもアゲハには無理だ」
もっとも、その伝統を無視して私をボスに任命しようとする勢力も少なくなかった。
もし私がボンゴレの血をひいていたら、こんな跡継ぎ争いは起こらなかったかもしれない。
「心配すんな。オレ達が立派なマフィアのボスにしてやる」
「ちょ、ふざけんなよ! オレは絶対ならねーからな!」
「んじゃあ寝るな」
「私もそろそろ部屋に戻るわ。おやすみツナ」
部屋に仕掛けられたトラップについて抗議する綱吉の声を背後で聞き流しながら、雑誌を片手に退出した。
どうやら告白の件は、綱吉の頭からすっぽり抜け落ちているようだ。
明日が楽しみだ。