標的18 貴方と私の決定的な差異
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《視点:リボーン》
ドロボー騒ぎの前日、オレ達の前に、イタリアからやってきたモレッティが挨拶に来た。
「お初にお目にかかります、姫様。特殊工作員のモレッティと申します」
オレ達、と言っても、メインはアゲハとの顔合わせだ。
オレとモレッティは来日前に連絡を取り合っていたが、確かアゲハは初対面のはずだ。
基本的に、アゲハ関連の仕事は彼我野 絢芽率いる特殊工作部隊が独占してしまうので、他の工作員はアゲハと関わる機会がない。
ボンゴレファミリー内でも、アゲハは雲の上のような存在だと思われているのだ。
「ええ。長旅ご苦労様」
アゲハはいつもの無表情でそう告げた。
こういう淡泊な対応が、アゲハの神格化に拍車をかけているとも言える。
モレッティが日本に来たのは色々な大人の事情だが、今後のことを考えてツナと接触させようとしたのはオレだ。
そして、ツナと会わせる際にモレッティを使って一芝居うとうと計画している――今回の顔合わせは、そのことをアゲハに事前に共有しておくためだ。
オレの説明が足りないとアゲハによく文句を言われるが、今回ばかりは最低限の事情を説明しとかないと、最悪の場合モレッティが本物の賊としてアゲハに排除される危険があるからだ。
当然“ボンゴレの最終兵器 ”という通り名が示すように、その脅威が及ぶのは敵対組織相手で、味方であるボンゴレファミリーの人間には危害を加えないと取り決められている。
ただし、その“味方”を“誰”とするかは、基本的にたった一人の男に委ねられている。
そんないい加減で不愉快なルールを信用する気は毛頭ない。
「――……つーわけで、明日は今言った段取りでいくからな」
明日の流れを一通り伝えると、アゲハは呆れ口調で呟いた。
「意図的に説明が欠如している箇所があった気がするのだけど」
「詳しいことはお楽しみだぞ」
モレッティ以外に色々な奴をゲストで呼んでいることは、アゲハにはまだ秘密だ。
今用意してるメンツを話したら、また渋い顔をされるからな。
本当ならそこに絢芽も混ぜてやりてーんだが、アゲハ以外の招集に応じる可能性は限りなくゼロだ――ダメ元で連絡だけしてみるか。
「そもそも、ただ工作員を紹介するのに、そこまで大掛かりなことをする必要があるの?」
「あるぞ」
予想通りの質問に、オレはふっと笑った。
「ドッキリだ」
「………」
アゲハは訝しげな顔で押し黙った。
この反応、そもそも『ドッキリ』という単語自体を知らねーな。
ま、イタリアのあの環境じゃ耳にする機会はねーか。
「……まあ、何でもいいわ。それで、私は何をすればいいの?」
「特に何もしなくていいぞ。ツナが不審に思わねーように、自然な演技をしてくれ」
「自然な演技……」
言ったものの、アゲハに演技ができるとは全く期待していない。
昔からそういう技能を必要とせず、圧倒的な力業だけで物事を解決してきたような奴だ。
正確に言えば、昔からその傾向はあったが、九条 雅也 に出会った所為で極端に増長させられた。
「口を挟んですみません。ひとつ懸念点があるんですが」
会話が途切れたタイミングで、モレッティが控えめに手を挙げた。
「何だ?」
「姫様が護衛なさっている住居にドロボーが侵入するという設定ですが、さすがに無理がありませんか? あまりに現実的じゃないので、十代目も違和感を抱くのではないでしょうか」
モレッティの指摘は至極真っ当だ。
かつては並盛町に立ち入った不審者は問答無用に排除されていた(その被害をもろに食らったのがビアンキだ)。
今は護衛意識が多少軟化したとはいえ、普通の泥棒なら、沢田家の敷地に足を踏み入れようとした時点で間違いなくぶっ殺されている。
「大丈夫だぞ。ツナはそのへん鈍感だからな」
「はあ……。そうなのですか」
モレッティは一応異論を収めたものの、腑に落ちない表情のままだ。
だが、これがマフィア界では普通の反応だ。
むしろ絢芽のように、アゲハを特別視して神格化する方が珍しくないし、そういう人種はボンゴレ内外に一定数存在する。
ツナが特殊なだけだ。
数ヶ月共に生活した上で、あそこまでアゲハを過小評価できる奴は初めてだ。
アゲハを守る、だとか、そんな台詞を馬鹿真面目に言う奴は初めて見た。
今最もアゲハの傍にいて、その異常性を少なからず認識しているのに、それでもあいつを神様にしないツナのことを、不思議に思う一方で少し期待もしている。
「ただのお遊びだし、別にいいんじゃないかしら。もしバレそうになっても、リボーンがうまく対処するんでしょう」
「そうだな」
ここで生活するようになって、アゲハは自分のことや周りのことに色々と考え始めるようになった。
今のあいつなら、オレが今回の件を計画した理由をきっと思い至れるはずだ。
気づいたらきっと、変われるはずだ。
オレは超一流の家庭教師。
ツナだけじゃなく、周りの奴らも育ててみせる。
(標的18 了)
ドロボー騒ぎの前日、オレ達の前に、イタリアからやってきたモレッティが挨拶に来た。
「お初にお目にかかります、姫様。特殊工作員のモレッティと申します」
オレ達、と言っても、メインはアゲハとの顔合わせだ。
オレとモレッティは来日前に連絡を取り合っていたが、確かアゲハは初対面のはずだ。
基本的に、アゲハ関連の仕事は
ボンゴレファミリー内でも、アゲハは雲の上のような存在だと思われているのだ。
「ええ。長旅ご苦労様」
アゲハはいつもの無表情でそう告げた。
こういう淡泊な対応が、アゲハの神格化に拍車をかけているとも言える。
モレッティが日本に来たのは色々な大人の事情だが、今後のことを考えてツナと接触させようとしたのはオレだ。
そして、ツナと会わせる際にモレッティを使って一芝居うとうと計画している――今回の顔合わせは、そのことをアゲハに事前に共有しておくためだ。
オレの説明が足りないとアゲハによく文句を言われるが、今回ばかりは最低限の事情を説明しとかないと、最悪の場合モレッティが本物の賊としてアゲハに排除される危険があるからだ。
当然“
ただし、その“味方”を“誰”とするかは、基本的にたった一人の男に委ねられている。
そんないい加減で不愉快なルールを信用する気は毛頭ない。
「――……つーわけで、明日は今言った段取りでいくからな」
明日の流れを一通り伝えると、アゲハは呆れ口調で呟いた。
「意図的に説明が欠如している箇所があった気がするのだけど」
「詳しいことはお楽しみだぞ」
モレッティ以外に色々な奴をゲストで呼んでいることは、アゲハにはまだ秘密だ。
今用意してるメンツを話したら、また渋い顔をされるからな。
本当ならそこに絢芽も混ぜてやりてーんだが、アゲハ以外の招集に応じる可能性は限りなくゼロだ――ダメ元で連絡だけしてみるか。
「そもそも、ただ工作員を紹介するのに、そこまで大掛かりなことをする必要があるの?」
「あるぞ」
予想通りの質問に、オレはふっと笑った。
「ドッキリだ」
「………」
アゲハは訝しげな顔で押し黙った。
この反応、そもそも『ドッキリ』という単語自体を知らねーな。
ま、イタリアのあの環境じゃ耳にする機会はねーか。
「……まあ、何でもいいわ。それで、私は何をすればいいの?」
「特に何もしなくていいぞ。ツナが不審に思わねーように、自然な演技をしてくれ」
「自然な演技……」
言ったものの、アゲハに演技ができるとは全く期待していない。
昔からそういう技能を必要とせず、圧倒的な力業だけで物事を解決してきたような奴だ。
正確に言えば、昔からその傾向はあったが、
「口を挟んですみません。ひとつ懸念点があるんですが」
会話が途切れたタイミングで、モレッティが控えめに手を挙げた。
「何だ?」
「姫様が護衛なさっている住居にドロボーが侵入するという設定ですが、さすがに無理がありませんか? あまりに現実的じゃないので、十代目も違和感を抱くのではないでしょうか」
モレッティの指摘は至極真っ当だ。
かつては並盛町に立ち入った不審者は問答無用に排除されていた(その被害をもろに食らったのがビアンキだ)。
今は護衛意識が多少軟化したとはいえ、普通の泥棒なら、沢田家の敷地に足を踏み入れようとした時点で間違いなくぶっ殺されている。
「大丈夫だぞ。ツナはそのへん鈍感だからな」
「はあ……。そうなのですか」
モレッティは一応異論を収めたものの、腑に落ちない表情のままだ。
だが、これがマフィア界では普通の反応だ。
むしろ絢芽のように、アゲハを特別視して神格化する方が珍しくないし、そういう人種はボンゴレ内外に一定数存在する。
ツナが特殊なだけだ。
数ヶ月共に生活した上で、あそこまでアゲハを過小評価できる奴は初めてだ。
アゲハを守る、だとか、そんな台詞を馬鹿真面目に言う奴は初めて見た。
今最もアゲハの傍にいて、その異常性を少なからず認識しているのに、それでもあいつを神様にしないツナのことを、不思議に思う一方で少し期待もしている。
「ただのお遊びだし、別にいいんじゃないかしら。もしバレそうになっても、リボーンがうまく対処するんでしょう」
「そうだな」
ここで生活するようになって、アゲハは自分のことや周りのことに色々と考え始めるようになった。
今のあいつなら、オレが今回の件を計画した理由をきっと思い至れるはずだ。
気づいたらきっと、変われるはずだ。
オレは超一流の家庭教師。
ツナだけじゃなく、周りの奴らも育ててみせる。
(標的18 了)