標的17 それは誰の所為ですか
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛町通学路》
体育祭は、私にとって最悪の行事だ。
しかしそれは、運動が苦手だからという単純な理由ではない。
そして、その逆でもない――転入当初、体育の授業で加減を盛大に間違えて以来、特に大きな問題は起こしていないので、気にする必要はあっても気に病む必要はない。
嫌気が差しているのは、綱吉が事あるごとにその件を持ち出しては、「絶対に目立つな」「やりすぎるなよ」などと口を酸っぱくして注意することの方だ。
今で、何度目だろうか――数えるのも億劫だ。
「……貴方、先日無傷で雲雀恭弥から逃れられたのが誰のおかげか忘れたの?」
下校時、聞き飽きた念押しに辟易しながら、私は皮肉交じりにそう返した。
「もし私が加減を知らなかったら、『瞬間移動』した時にツナの身体がばらばらになっていたわよ」
「怖いこと言うなよ!!」
ある意味、怖かったのは私の方だ。
言わないけれど。
「大丈夫よ。今回は絢芽 がいるから」
だが、絢芽の名を出した途端、綱吉の顔が曇った。
以前私の与り知らぬところで絢芽が彼に接触したそうだが、その時に彼にとってトラウマとなるような“何か”があったらしい。
しかしまあ、そのわだかまりは、いずれ時間が解決するだろう――綱吉はなんだかんだで彼女以上の曲者達と渡り合っているのだから。
とりあえず、ここは彼女のフォローを入れておこう。
「彼女は隠蔽工作のプロフェッショナルよ。万が一何か起こっても、何事もなかったようにしてくれるわ」
「……オレが死んでも、何事もなかったように隠蔽されるのか……」
「何故」
何故、そんな物騒な発想が生まれた。
そういう類の隠蔽が過去になかったと言えば嘘になるが、さすがにごく普通の中学校でそんな依頼はしない。
「……貴方達、本当に何があったの?」
彼の中に普段とは別の種類の卑屈さが垣間見えた気がして、そう尋ねてみた。
しかしこの質問をすると、決まって綱吉は青ざめた顔で口を閉ざすのだった。
口止めされて喋れないというより、まるでうまく言語化できないほどの不気味な体験をしたような有様だ。
綱吉と絢芽の溝が予想以上に深すぎる。
もしかしたら、ビアンキの時より過剰反応かもしれない――毒を盛られるより衝撃的なトラウマとは一体。
それについては後ほど絢芽本人に事情聴取するとして、とりあえず今は話を逸らすことにした。
「それに種目だって、なるべく運動能力に左右されないものを選んだじゃない」
立候補の結果、私の出場する競技は、借り物競争に決まった。
コース上にある紙を一つ取って、そこに記載された指示に相応しい物を会場内で探して借り、それを持ってゴールする。
そして、お題に当てはまると認められれば順位に応じた点数が入り、不合格と判定されると失格になる――これが、例年の借り物競争のルールだそうだ。
このルールを聞く限り、借り物競争の肝は走力や持久力ではなく、純粋な運だと分析できる。
走る距離が他の種目に比べて短いので、いかに調達容易な品の書かれたお題を引くかによって、順位が大きく左右されるだろう。
ならば、選んだお題によっては、運動能力が他の生徒より圧倒的に優れている私でも、独走どころか下位に沈む可能性だってあると踏んでいる。
そしてその読みは、綱吉とほぼ相違ないようだ。
「貴方こそ、自分の心配をしたら? 棒倒しは男子しか参加できないんでしょう。競技中にツナにもしものことがあっても、助けてあげるのは難しいわよ」
「うっ……」
一瞬言葉に詰まった綱吉だが、やがて覚悟を決めた顔で「断るよ」と一言放った。
「何を?」
「総大将だよ!! 考えてみたら、痛いわかっこ悪いわでいいことないし」
「……負ける前提なのね」
「当たり前だろ! お前は棒倒しの怖さを知らないからだよ!!」
さも詳しいような言い草だが、彼も一年生で棒倒しは未経験のはずだ。
そう指摘すると、綱吉曰く、並中の棒倒しは地元では有名なのだそうだ。
逆に言えば、噂しか知らないので徒に恐怖心が膨らんでいるという見方もできる。
「今から京子ちゃんのお兄さんに直接言いに行こう……」
「断れるの?」
なんとなくぶつけた問いに、綱吉は『何を言っているのか』という腑に落ちない表情で振り向いた。
どうやら自分の性格を充分把握していないようなので、反論される前に畳み掛けていく。
「部活勧誘の時も流されかけて、結局死ぬ気になるまで断れなかったわよね。貴方、京子が絡むと弱いものね。それに、告白も入ファミリー試験もビアンキの時もリボーンに押し切られていたし、獄寺にだって結局自分の主張を通せたことないでしょう」
淡々と羅列していくと、みるみるうちに綱吉の顔に覇気がなくなっていった。
指摘された内容に本人も思い当たる節があるのだろう。
そもそも、自宅に殺し屋やマフィアを常駐させている時点で、彼が初志貫徹という言葉と最も縁遠い人間であることの証左である。
「いや! オレには絶対無理だから!!」
しかし、綱吉は自分に言い聞かせるようにそう叫ぶと、私の糾弾から逃げて京子の家のある方向へ走り出してしまった。
結局私はその後一人で家路についたので直接彼の勇姿を見届けていないが、何故か全身ずぶ濡れで帰宅した時の面持ちを見る限り、彼の性格に対する評価を改める必要はなさそうだ。
体育祭は、私にとって最悪の行事だ。
しかしそれは、運動が苦手だからという単純な理由ではない。
そして、その逆でもない――転入当初、体育の授業で加減を盛大に間違えて以来、特に大きな問題は起こしていないので、気にする必要はあっても気に病む必要はない。
嫌気が差しているのは、綱吉が事あるごとにその件を持ち出しては、「絶対に目立つな」「やりすぎるなよ」などと口を酸っぱくして注意することの方だ。
今で、何度目だろうか――数えるのも億劫だ。
「……貴方、先日無傷で雲雀恭弥から逃れられたのが誰のおかげか忘れたの?」
下校時、聞き飽きた念押しに辟易しながら、私は皮肉交じりにそう返した。
「もし私が加減を知らなかったら、『瞬間移動』した時にツナの身体がばらばらになっていたわよ」
「怖いこと言うなよ!!」
ある意味、怖かったのは私の方だ。
言わないけれど。
「大丈夫よ。今回は
だが、絢芽の名を出した途端、綱吉の顔が曇った。
以前私の与り知らぬところで絢芽が彼に接触したそうだが、その時に彼にとってトラウマとなるような“何か”があったらしい。
しかしまあ、そのわだかまりは、いずれ時間が解決するだろう――綱吉はなんだかんだで彼女以上の曲者達と渡り合っているのだから。
とりあえず、ここは彼女のフォローを入れておこう。
「彼女は隠蔽工作のプロフェッショナルよ。万が一何か起こっても、何事もなかったようにしてくれるわ」
「……オレが死んでも、何事もなかったように隠蔽されるのか……」
「何故」
何故、そんな物騒な発想が生まれた。
そういう類の隠蔽が過去になかったと言えば嘘になるが、さすがにごく普通の中学校でそんな依頼はしない。
「……貴方達、本当に何があったの?」
彼の中に普段とは別の種類の卑屈さが垣間見えた気がして、そう尋ねてみた。
しかしこの質問をすると、決まって綱吉は青ざめた顔で口を閉ざすのだった。
口止めされて喋れないというより、まるでうまく言語化できないほどの不気味な体験をしたような有様だ。
綱吉と絢芽の溝が予想以上に深すぎる。
もしかしたら、ビアンキの時より過剰反応かもしれない――毒を盛られるより衝撃的なトラウマとは一体。
それについては後ほど絢芽本人に事情聴取するとして、とりあえず今は話を逸らすことにした。
「それに種目だって、なるべく運動能力に左右されないものを選んだじゃない」
立候補の結果、私の出場する競技は、借り物競争に決まった。
コース上にある紙を一つ取って、そこに記載された指示に相応しい物を会場内で探して借り、それを持ってゴールする。
そして、お題に当てはまると認められれば順位に応じた点数が入り、不合格と判定されると失格になる――これが、例年の借り物競争のルールだそうだ。
このルールを聞く限り、借り物競争の肝は走力や持久力ではなく、純粋な運だと分析できる。
走る距離が他の種目に比べて短いので、いかに調達容易な品の書かれたお題を引くかによって、順位が大きく左右されるだろう。
ならば、選んだお題によっては、運動能力が他の生徒より圧倒的に優れている私でも、独走どころか下位に沈む可能性だってあると踏んでいる。
そしてその読みは、綱吉とほぼ相違ないようだ。
「貴方こそ、自分の心配をしたら? 棒倒しは男子しか参加できないんでしょう。競技中にツナにもしものことがあっても、助けてあげるのは難しいわよ」
「うっ……」
一瞬言葉に詰まった綱吉だが、やがて覚悟を決めた顔で「断るよ」と一言放った。
「何を?」
「総大将だよ!! 考えてみたら、痛いわかっこ悪いわでいいことないし」
「……負ける前提なのね」
「当たり前だろ! お前は棒倒しの怖さを知らないからだよ!!」
さも詳しいような言い草だが、彼も一年生で棒倒しは未経験のはずだ。
そう指摘すると、綱吉曰く、並中の棒倒しは地元では有名なのだそうだ。
逆に言えば、噂しか知らないので徒に恐怖心が膨らんでいるという見方もできる。
「今から京子ちゃんのお兄さんに直接言いに行こう……」
「断れるの?」
なんとなくぶつけた問いに、綱吉は『何を言っているのか』という腑に落ちない表情で振り向いた。
どうやら自分の性格を充分把握していないようなので、反論される前に畳み掛けていく。
「部活勧誘の時も流されかけて、結局死ぬ気になるまで断れなかったわよね。貴方、京子が絡むと弱いものね。それに、告白も入ファミリー試験もビアンキの時もリボーンに押し切られていたし、獄寺にだって結局自分の主張を通せたことないでしょう」
淡々と羅列していくと、みるみるうちに綱吉の顔に覇気がなくなっていった。
指摘された内容に本人も思い当たる節があるのだろう。
そもそも、自宅に殺し屋やマフィアを常駐させている時点で、彼が初志貫徹という言葉と最も縁遠い人間であることの証左である。
「いや! オレには絶対無理だから!!」
しかし、綱吉は自分に言い聞かせるようにそう叫ぶと、私の糾弾から逃げて京子の家のある方向へ走り出してしまった。
結局私はその後一人で家路についたので直接彼の勇姿を見届けていないが、何故か全身ずぶ濡れで帰宅した時の面持ちを見る限り、彼の性格に対する評価を改める必要はなさそうだ。