標的16 的外れな妄信、あるいは至極当然な反応
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《視点:××××× 場所:××××》
「――四人だよ」
何が?
「君の家族の人数だよ。確か、君を含めて四人だったね」
相変わらず話に脈絡がないね。
それに、前にも家族のこと訊いてきたよね。
そうだよ。
父と、母と、それから兄が一人。
「お兄さん」
うん。
「ただの興味本位で訊くんだが、お兄さんはどういう人だったんだ?」
前に話したかもしれないけど、格好良くて優しくて頼もしい人だよ。
何、気になるの?
兄さんとのエピソード、聞く?
「いや、今はいい。だが、前は彼のことを意地悪だと言ってなかったか?」
覚えてるんじゃん。
そうだね、意地悪な部分は確かにあったよ。
それに優秀だったから、喧嘩しても勝負しても一度も敵わなかったし。
でも、今から思えば、兄さんの言動は全部愛情の裏返しだったんだよね。
だから、世間的に見ても仲が良いと言えるんじゃないかな。
「そのお兄さんとは歳が近いのか?」
二つ年上だよ。
だから、力でも敵わなくて、よく苛められてたなあ。
「……そうか。ではすごい人なんだな」
すごい?
どうして?
「すごいに決まっている。君のような特異な人物が身近にいて、身内にいて、しかも歳が近く、同じ家に住んでいて、疎外も虐待もせず、どころか仲のいい関係を築くことができるなど、並大抵の精神力ではないだろう。君の兄という非常に近しい間柄を維持しながらも正気を保っていられるとは、それこそ正気の沙汰じゃない。称賛されるべきかはともかく、大いに評価されるべきだ」
………。
何を言っているのか、よく分からないんだけど。
「もし私が彼の立場なら、劣等感で死にたくなる。二、三年も経たないうちに死にそうになるだろう。端的に言うとそういうことだ」
……何それ?
そりゃあ私だって、おじさんが兄だったら死にたくもなるよ。
「そういうことは言っていない」
でも、実際は、私は兄さんに何一つ敵わなかったんだよ。
私が特異かどうかはともかくとして、そもそも兄さんが劣等感なんて抱く余地がないよ。
「幼少期の力関係に何の意味がある。確かに君の兄は紛れもなく非凡な才能の持ち主だろう。だが、それは何の意味もない。そういうことではないんだ。もはや次元が違うんだ。比較するのが馬鹿らしいほど、君は埒外の存在なんだ。誰より身近にいた君の兄が、そのことに気づかないはずがない」
……そんなことない。
だって、兄さんはそんなこと、一言も言ってなかった。
私達は、世間的に見て一般的な、普通で平凡な家族だよ。
「口にしなかったからと言って、思わなかったとは限らない。君が本当に平凡な家族だったと思うなら、それはご家族の非凡な努力の結果だ。それをなかったことにしてはいけない。知らない振りをしてはいけない」
……そんなの、知るわけないじゃん。
「いいかい、お嬢ちゃん。無知は罪だ。大罪なんだ。特に、君のように容易く世界を蹂躙できる人種は、すべてを認知する義務がある。気づかないうちに、相手を傷つけないために。知らないうちに、相手を死なせないために」
無意識のうちに人を殺せるなんて。
まるで、神様みたいだね。
「そして将来、悪魔とも化物とも呼ばれることになるだろう。しかし、それを的外れと誤魔化してはいけない。あるいは、至極当然だと開き直ってはいけない。以前私が『逃げるな』と言ったこと、そしてこれから伝えること、どうか知らない振りをしないでほしい」
(標的16 了)
「――四人だよ」
何が?
「君の家族の人数だよ。確か、君を含めて四人だったね」
相変わらず話に脈絡がないね。
それに、前にも家族のこと訊いてきたよね。
そうだよ。
父と、母と、それから兄が一人。
「お兄さん」
うん。
「ただの興味本位で訊くんだが、お兄さんはどういう人だったんだ?」
前に話したかもしれないけど、格好良くて優しくて頼もしい人だよ。
何、気になるの?
兄さんとのエピソード、聞く?
「いや、今はいい。だが、前は彼のことを意地悪だと言ってなかったか?」
覚えてるんじゃん。
そうだね、意地悪な部分は確かにあったよ。
それに優秀だったから、喧嘩しても勝負しても一度も敵わなかったし。
でも、今から思えば、兄さんの言動は全部愛情の裏返しだったんだよね。
だから、世間的に見ても仲が良いと言えるんじゃないかな。
「そのお兄さんとは歳が近いのか?」
二つ年上だよ。
だから、力でも敵わなくて、よく苛められてたなあ。
「……そうか。ではすごい人なんだな」
すごい?
どうして?
「すごいに決まっている。君のような特異な人物が身近にいて、身内にいて、しかも歳が近く、同じ家に住んでいて、疎外も虐待もせず、どころか仲のいい関係を築くことができるなど、並大抵の精神力ではないだろう。君の兄という非常に近しい間柄を維持しながらも正気を保っていられるとは、それこそ正気の沙汰じゃない。称賛されるべきかはともかく、大いに評価されるべきだ」
………。
何を言っているのか、よく分からないんだけど。
「もし私が彼の立場なら、劣等感で死にたくなる。二、三年も経たないうちに死にそうになるだろう。端的に言うとそういうことだ」
……何それ?
そりゃあ私だって、おじさんが兄だったら死にたくもなるよ。
「そういうことは言っていない」
でも、実際は、私は兄さんに何一つ敵わなかったんだよ。
私が特異かどうかはともかくとして、そもそも兄さんが劣等感なんて抱く余地がないよ。
「幼少期の力関係に何の意味がある。確かに君の兄は紛れもなく非凡な才能の持ち主だろう。だが、それは何の意味もない。そういうことではないんだ。もはや次元が違うんだ。比較するのが馬鹿らしいほど、君は埒外の存在なんだ。誰より身近にいた君の兄が、そのことに気づかないはずがない」
……そんなことない。
だって、兄さんはそんなこと、一言も言ってなかった。
私達は、世間的に見て一般的な、普通で平凡な家族だよ。
「口にしなかったからと言って、思わなかったとは限らない。君が本当に平凡な家族だったと思うなら、それはご家族の非凡な努力の結果だ。それをなかったことにしてはいけない。知らない振りをしてはいけない」
……そんなの、知るわけないじゃん。
「いいかい、お嬢ちゃん。無知は罪だ。大罪なんだ。特に、君のように容易く世界を蹂躙できる人種は、すべてを認知する義務がある。気づかないうちに、相手を傷つけないために。知らないうちに、相手を死なせないために」
無意識のうちに人を殺せるなんて。
まるで、神様みたいだね。
「そして将来、悪魔とも化物とも呼ばれることになるだろう。しかし、それを的外れと誤魔化してはいけない。あるいは、至極当然だと開き直ってはいけない。以前私が『逃げるな』と言ったこと、そしてこれから伝えること、どうか知らない振りをしないでほしい」
(標的16 了)