標的16 的外れな妄信、あるいは至極当然な反応
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《視点:宮野アゲハ 場所:同屋上》
地上にはガラス片の雨が降り注ぎ、黒煙が秋空を醜く染め上げている。
しかし、昼休み時間終了間際で外に誰もいなかったことと、応接室のある棟に普通教室がないことが幸いし、こんな惨事にも関わらずそれほど騒ぎになっていない。
あるいは、騒ぎにならないのは、これが二度目の出来事だからかもしれない。
そう、リボーンが今回取った行動は、私が最初に雲雀に出会った時にした退避方法と全く同じだったのだ。
強いて異なる点を挙げるなら、爆薬の量くらいだ――私の方が大惨事だったくらいだ。
閑話休題。
さて、私達が屋上に避難してから数分経ったが、雲雀が追って来る気配はなかった。
――ワオ。素晴らしいね、君。
応接室を出る前に聞いた、リボーンに向けた雲雀の発言だ。
確か、最初に出会った時も、私に同じようなことを言っていた。
そんな彼は沢田綱吉について、今回どう判断しただろうか。
ふとそんなことを思考していると、ぎいぃ、と鈍い音を立てて、屋上の重い扉が開けられた。
必要最小限の開閉によって屋上に現れたその人物は、入り口付近で流れるように膝をついた。
「お待たせ致しました。彼我野 絢芽 、只今参上しました」
コンクリートの地面に語りかけるかのように俯いたまま、慇懃な口調でそう口上を唱えた。
屋上についてから携帯で絢芽を呼び出したのだが、何故か彼女が登場した途端、綱吉が短く悲鳴を上げた。
まだ雲雀に殴られたショックが残っているのかもしれない。
混乱している綱吉は一旦放置し、フェンスにもたれ掛かって座らせている彼らを指し示した。
「まずは獄寺と山本の傷の手当てをしてやって」
「承知致しました」
絢芽はそう答えるとやっと顔を上げ、先ほど目を覚ました二人に歩み寄っていった。
近づく彼女を訝しげに観察する獄寺達と、呆然と見守る綱吉の視線を感じ、やっと肝心なことを思い出した。
そうだった、彼らと絢芽は初対面だ。
「紹介するわ。彼我野絢芽。ボンゴレの工作員よ」
「もっと早く紹介してくれ!!」
気を利かせて紹介したのに、何故か綱吉に怒鳴られた。
すると一瞬絢芽の目が光り、それを見た綱吉が肩を震わせた。
「何? 貴方達、面識あったの?」
「いや、面識というか……」
「一度ご挨拶させて頂いたことがございます」
「ああ、そうなのね」
同じ学校に潜入させたもののどう引き合わせようか思案していたので、私の知らないうちに勝手に親交を育んでいたのなら好都合だ。
それ以上は詮索せず、追加の指示を出した。
「絢芽。それが終わったら、“掃除”もお願い」
「畏まりました」
“掃除”とは、文字通り応接室やその周囲の修復のことだ――絢芽の得意分野である。
前回、応接室を破壊してそのまま退散してしまったので、今回は事後処理をお願いしたのだ。
リボーンの仕業とは言え、以前に『もうこの部屋をどうにかする気はない』と宣言してしまった手前、何もしないわけにはいかない。
雲雀はともかく、彼の部下(草壁だったか?)に申し訳が立たない。
そんな私の心中を何処まで理解しているか知らないが、彼女はいつも通り、私の命令に唯々諾々と従うのだった。
絢芽が着々と治療を進めていると、そこに今回の黒幕であるリボーンがやって来た。
そして彼が事の詳細を語ると、綱吉達はそれぞれ驚きの声を上げた。
「あいつにわざと会わせたぁ!!?」
「キケンな賭けだったけどな。打撲と擦り傷で済んだのはラッキーだったぞ」
アゲハがいたから心配してなかったけどな、とリボーンは騙ってから、私に目線を送った。
「お前達が平和ボケしないための実戦トレーニングだぞ。鍛えるには実戦が一番だからな」
実戦と言っても、綱吉以外はほとんど瞬殺されていたのだが。
あれで何が鍛えられたのか分からないが、獄寺は雲雀に歯が立たなかったことを悔しがっているし、山本も何か触発されたような表情をしているので、無駄ではなかったのだろう。
もっとも、綱吉だけはいつも通り悲痛な声で「ぜってーあの人に目ぇつけられたよ!!」と嘆いている。
なんとなく、この人は今度どれだけ経験を積もうと修羅場をくぐろうと変わらない気がする。
ひとしきり騒いだ後、そういえば、と前置きして、綱吉が言った。
「アゲハ、あのヒバリって人と知り合いだったのか?」
綱吉の鋭い指摘に、獄寺と山本も興味津々といった様子で視線を送る。
鋭いというか、あれだけ雲雀の方から煽ってきたら、何かあったのではと勘繰るのは当然だ。
誤魔化せる雰囲気ではないので、素直に答えておくことにした。
「前に二、三度会ったことがある程度よ」
「にしては、やたらあの人に執着されていたような気がするんだけど……」
その執着によってとばっちりを受けた本人は、あまり釈然としていないようだ。
だが、それは私も同感である。
だから私から納得のいく説明はできなかったのだが、治療を終えて道具を片づけながら絢芽がぽつりと呟いた言葉に、全員の意識が集中した。
「それは至極当然でございます」
屋上が静寂に包まれる。
絢芽は救急箱の蓋を閉じて、目を閉じた。
「何故なら主様を一目見た者は、自分の世界が一変するからでございます。一度その魅力を知れば、たとえ目を閉じても意識せざるを得ない。たとえ目を塞いでも認識せざるを得ない。たとえ目を潰しても渇望せざるを得ない。それが執着するということであるなら、それは仕方のないことでございます」
何を馬鹿なことを、と言おうとして、口を噤んだ。
綱吉以外の三人が、微妙な表情を浮かべながらも、それぞれ頷くのが見えたからだ。
地上にはガラス片の雨が降り注ぎ、黒煙が秋空を醜く染め上げている。
しかし、昼休み時間終了間際で外に誰もいなかったことと、応接室のある棟に普通教室がないことが幸いし、こんな惨事にも関わらずそれほど騒ぎになっていない。
あるいは、騒ぎにならないのは、これが二度目の出来事だからかもしれない。
そう、リボーンが今回取った行動は、私が最初に雲雀に出会った時にした退避方法と全く同じだったのだ。
強いて異なる点を挙げるなら、爆薬の量くらいだ――私の方が大惨事だったくらいだ。
閑話休題。
さて、私達が屋上に避難してから数分経ったが、雲雀が追って来る気配はなかった。
――ワオ。素晴らしいね、君。
応接室を出る前に聞いた、リボーンに向けた雲雀の発言だ。
確か、最初に出会った時も、私に同じようなことを言っていた。
そんな彼は沢田綱吉について、今回どう判断しただろうか。
ふとそんなことを思考していると、ぎいぃ、と鈍い音を立てて、屋上の重い扉が開けられた。
必要最小限の開閉によって屋上に現れたその人物は、入り口付近で流れるように膝をついた。
「お待たせ致しました。
コンクリートの地面に語りかけるかのように俯いたまま、慇懃な口調でそう口上を唱えた。
屋上についてから携帯で絢芽を呼び出したのだが、何故か彼女が登場した途端、綱吉が短く悲鳴を上げた。
まだ雲雀に殴られたショックが残っているのかもしれない。
混乱している綱吉は一旦放置し、フェンスにもたれ掛かって座らせている彼らを指し示した。
「まずは獄寺と山本の傷の手当てをしてやって」
「承知致しました」
絢芽はそう答えるとやっと顔を上げ、先ほど目を覚ました二人に歩み寄っていった。
近づく彼女を訝しげに観察する獄寺達と、呆然と見守る綱吉の視線を感じ、やっと肝心なことを思い出した。
そうだった、彼らと絢芽は初対面だ。
「紹介するわ。彼我野絢芽。ボンゴレの工作員よ」
「もっと早く紹介してくれ!!」
気を利かせて紹介したのに、何故か綱吉に怒鳴られた。
すると一瞬絢芽の目が光り、それを見た綱吉が肩を震わせた。
「何? 貴方達、面識あったの?」
「いや、面識というか……」
「一度ご挨拶させて頂いたことがございます」
「ああ、そうなのね」
同じ学校に潜入させたもののどう引き合わせようか思案していたので、私の知らないうちに勝手に親交を育んでいたのなら好都合だ。
それ以上は詮索せず、追加の指示を出した。
「絢芽。それが終わったら、“掃除”もお願い」
「畏まりました」
“掃除”とは、文字通り応接室やその周囲の修復のことだ――絢芽の得意分野である。
前回、応接室を破壊してそのまま退散してしまったので、今回は事後処理をお願いしたのだ。
リボーンの仕業とは言え、以前に『もうこの部屋をどうにかする気はない』と宣言してしまった手前、何もしないわけにはいかない。
雲雀はともかく、彼の部下(草壁だったか?)に申し訳が立たない。
そんな私の心中を何処まで理解しているか知らないが、彼女はいつも通り、私の命令に唯々諾々と従うのだった。
絢芽が着々と治療を進めていると、そこに今回の黒幕であるリボーンがやって来た。
そして彼が事の詳細を語ると、綱吉達はそれぞれ驚きの声を上げた。
「あいつにわざと会わせたぁ!!?」
「キケンな賭けだったけどな。打撲と擦り傷で済んだのはラッキーだったぞ」
アゲハがいたから心配してなかったけどな、とリボーンは騙ってから、私に目線を送った。
「お前達が平和ボケしないための実戦トレーニングだぞ。鍛えるには実戦が一番だからな」
実戦と言っても、綱吉以外はほとんど瞬殺されていたのだが。
あれで何が鍛えられたのか分からないが、獄寺は雲雀に歯が立たなかったことを悔しがっているし、山本も何か触発されたような表情をしているので、無駄ではなかったのだろう。
もっとも、綱吉だけはいつも通り悲痛な声で「ぜってーあの人に目ぇつけられたよ!!」と嘆いている。
なんとなく、この人は今度どれだけ経験を積もうと修羅場をくぐろうと変わらない気がする。
ひとしきり騒いだ後、そういえば、と前置きして、綱吉が言った。
「アゲハ、あのヒバリって人と知り合いだったのか?」
綱吉の鋭い指摘に、獄寺と山本も興味津々といった様子で視線を送る。
鋭いというか、あれだけ雲雀の方から煽ってきたら、何かあったのではと勘繰るのは当然だ。
誤魔化せる雰囲気ではないので、素直に答えておくことにした。
「前に二、三度会ったことがある程度よ」
「にしては、やたらあの人に執着されていたような気がするんだけど……」
その執着によってとばっちりを受けた本人は、あまり釈然としていないようだ。
だが、それは私も同感である。
だから私から納得のいく説明はできなかったのだが、治療を終えて道具を片づけながら絢芽がぽつりと呟いた言葉に、全員の意識が集中した。
「それは至極当然でございます」
屋上が静寂に包まれる。
絢芽は救急箱の蓋を閉じて、目を閉じた。
「何故なら主様を一目見た者は、自分の世界が一変するからでございます。一度その魅力を知れば、たとえ目を閉じても意識せざるを得ない。たとえ目を塞いでも認識せざるを得ない。たとえ目を潰しても渇望せざるを得ない。それが執着するということであるなら、それは仕方のないことでございます」
何を馬鹿なことを、と言おうとして、口を噤んだ。
綱吉以外の三人が、微妙な表情を浮かべながらも、それぞれ頷くのが見えたからだ。