標的16 的外れな妄信、あるいは至極当然な反応
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獄寺は雲雀に対して先制攻撃を試みたが、私は動かなかった。
ボスの危機に奮い立った獄寺や、友達を傷つけられ憤った山本には悪いが、彼らでは雲雀恭弥に敵わないと分かっていたからだ。
獄寺の武器はそもそも中距離支援で、接近戦に向いていない――元から雲雀とは相性が悪いのだ。
山本は野球で培った動体視力と反射神経は申し分ないが、まず戦い慣れていないし、無意識のうちに以前痛めた右手を庇う癖がある。
そして私の予想は的中し、獄寺は一蹴され、山本は隙を突かれて一撃を食らった。
彼らが床に倒れてから一呼吸置いて、綱吉が二人の名前を叫んだ。
「起きないよ。二人にはそういう攻撃をしたからね」
その台詞は、私というより綱吉に向けているようだった。
確かに彼の言う通り、的確に急所を狙った攻撃によって獄寺も山本も完全に気を失っている。
遠目から確認する限り怪我は酷くなさそうだが、起き上がれるまで数分は掛かりそうだ。
「今の二人が突っ込んでも止めなかったところを見ると、そっちの彼だけが特別ってことか」
伏せる彼らを一瞥し、雲雀はそんなことを呟いた。
二人を殴ったことで頭が冷えたのか、普段の冷静さを取り戻している。
独り言のような彼の言葉を、心の中で反芻する。
――『特別』か。
別段、特別扱いしているつもりはないのだが。
最初に綱吉を助けたのは、ただ反射的に動いてしまっただけで深い意味はない。
深い理想もない。
「まあいいや。だったら、また僕と戦ってくれるんだよね?」
床上から私へと目線を移した雲雀は、両手にトンファーを構え、唇の端を歪めて笑っている。
冷静さを取り戻したことで、私と戦う方向に気持ちを切り替え、怒りから愉しみへと心を入れ替えたようだ。
どうやら、綱吉を庇うためにここで私が雲雀の前に立ち塞がると思っているらしい。
「やらないわよ」
ぴくり、と雲雀の頬が引き攣った。
綱吉を守ろうと躍起になるたびリボーンに散々水を差され、一時は存在意義すら失いかけ、それらを乗り越えて私の意識も当初とは少し変わったが、何も護衛としての職務を放棄したわけではない。
もし護衛対象を害する恐れのある殺し屋がいれば、容赦なく排除する――理想の護衛を執行する。
だから、今そうしないのは、相手が殺し屋ではないからだ。
目の前にいるのは、リボーンに可能性を見いだされた、未来ある若者である。
「私は戦わない。貴方の相手はツナがするわ」
「はっ!? オレ!?」
雲雀が何か言う前に、背後で盛大なリアクションが聞こえた。
振り向くと、青い顔をした綱吉と目が合った。
「何言ってるんだよ!? 一人で二人も倒しちゃうような人に、オレが勝てるわけないだろ!?」
「応援してるわ」
「応援するなー!!」
叫んだと思ったら、何か閃いたのか目を見開いた後、雲雀の様子を窺いながら囁いた。
「ていうか、わざわざ戦わなくても、さっきの瞬間移動で逃げられないのか?」
「逃げられるけど、逃げ切れないでしょうね」
逃げ切れる速度を出したら、綱吉の身体が爆散してしまう。
それに、残された獄寺や山本がただでは済まないだろう。
全員が生還するには、誰かが雲雀を適度に満足させてやる必要があるのだ。
せめてこの場を去った時に、次の邂逅を楽しみにしていようと思わせる程度には。
「さっきは思わず手を出してしまったけれど、ツナなら大丈夫よ。死ぬ気になれば死にはしないから」
そう言って窓の方を指し示すと、それを目にした綱吉は奇声を上げた。
こちらを狙っていたリボーンの拳銃から弾丸が放たれたのは、その直後だった。
「死ぬ気でお前を倒す!!!!」
その怒声によって、銃声のした方へ向こうとした雲雀の視線が、綱吉に引き戻される。
死ぬ気状態になった綱吉は、先ほどまでの恐怖心や動揺を捨て全力で雲雀に突っ込んでいった。
しかし、百戦錬磨の雲雀にとっては不意打ちでも充分に対処できる速度らしく、綱吉の拳打を紙一重で躱すと、すぐさま顎にトンファーを叩き込んだ。
「顎割れちゃったかな」
崩れ落ちる綱吉に向けて冷徹に言い放ってから、ソファに座る私に向き直った。
「さあ、邪魔者はいなくなったし、今度こそやろうか」
今の雲雀の視界には、私しか映っていない。
思わず口元を緩めた。
目を見開き、固まる雲雀。
そこに生じた隙を、綱吉は見逃さなかった。
死ぬ気になると全体的に能力値が底上げされるが、綱吉の場合何より目を見張るのが、バイクに轢かれてもものともしない耐久力である。
通常なら雲雀の見立て通り顎が割れるか脳が揺れて暫く立てなくなるのだろうが、綱吉は難なく立ち上がって雲雀の頬を殴り飛ばした。
咄嗟に顔の向きをずらし衝撃を殺したようだが、綱吉の追撃は止まらない。
その闘志を感じ取ったのか、レオンが綱吉に向かってジャンプした。
形状記憶カメレオン。
彼が姿を変えたのは、何の変哲もないスリッパだった。
綱吉はそれを掴むと、なんとスリッパで雲雀の頭を叩いたのだ。
所詮スリッパなのでダメージはさほどないだろうが、雲雀の身体が大きく傾き窓際の方にふらついた。
しかし、雲雀の戦意は衰えない。
それどころか――
「ねえ……殺していい?」
殺気が、増幅した。
「そこまでだ」
窓枠の上に座るリボーンが、いち早く察知しストップをかけた。
一斉に雲雀と綱吉の意識がリボーンに向く。
「やっぱつえーな、お前」
リボーンが雲雀の注意を引いている隙に、私はこっそり腰を上げた。
まず床に倒れた獄寺と山本をかき集め、突っ立っている綱吉を腕で抱えてから、開けっ放しのドアへ向かって走ったのだ。
ちょうど応接室を出たところで、背後で金属音がした。
一度振り返って確認すると、雲雀のトンファーを、リボーンが十手で受け止めていた。
「ワオ。素晴らしいね、君」
雲雀の楽しそうな声色を耳にしながら、廊下に面した窓に駆け寄る。
予め一つだけ開けておいたその窓から、三人の身体を上空に放り投げ、すぐに自分も窓枠を蹴り上げて外へ脱出した。
校舎の上を飛び越えて放物線を描く彼らを空中で受け止めた直後、応接室で小規模の爆発が起きた。
応接室の窓ガラスが割れ、黒煙が立ち上る。
その様を眺めながら、自由落下に従い屋上へ降り立つと、三人の身体を静かに横たえた。
ボスの危機に奮い立った獄寺や、友達を傷つけられ憤った山本には悪いが、彼らでは雲雀恭弥に敵わないと分かっていたからだ。
獄寺の武器はそもそも中距離支援で、接近戦に向いていない――元から雲雀とは相性が悪いのだ。
山本は野球で培った動体視力と反射神経は申し分ないが、まず戦い慣れていないし、無意識のうちに以前痛めた右手を庇う癖がある。
そして私の予想は的中し、獄寺は一蹴され、山本は隙を突かれて一撃を食らった。
彼らが床に倒れてから一呼吸置いて、綱吉が二人の名前を叫んだ。
「起きないよ。二人にはそういう攻撃をしたからね」
その台詞は、私というより綱吉に向けているようだった。
確かに彼の言う通り、的確に急所を狙った攻撃によって獄寺も山本も完全に気を失っている。
遠目から確認する限り怪我は酷くなさそうだが、起き上がれるまで数分は掛かりそうだ。
「今の二人が突っ込んでも止めなかったところを見ると、そっちの彼だけが特別ってことか」
伏せる彼らを一瞥し、雲雀はそんなことを呟いた。
二人を殴ったことで頭が冷えたのか、普段の冷静さを取り戻している。
独り言のような彼の言葉を、心の中で反芻する。
――『特別』か。
別段、特別扱いしているつもりはないのだが。
最初に綱吉を助けたのは、ただ反射的に動いてしまっただけで深い意味はない。
深い理想もない。
「まあいいや。だったら、また僕と戦ってくれるんだよね?」
床上から私へと目線を移した雲雀は、両手にトンファーを構え、唇の端を歪めて笑っている。
冷静さを取り戻したことで、私と戦う方向に気持ちを切り替え、怒りから愉しみへと心を入れ替えたようだ。
どうやら、綱吉を庇うためにここで私が雲雀の前に立ち塞がると思っているらしい。
「やらないわよ」
ぴくり、と雲雀の頬が引き攣った。
綱吉を守ろうと躍起になるたびリボーンに散々水を差され、一時は存在意義すら失いかけ、それらを乗り越えて私の意識も当初とは少し変わったが、何も護衛としての職務を放棄したわけではない。
もし護衛対象を害する恐れのある殺し屋がいれば、容赦なく排除する――理想の護衛を執行する。
だから、今そうしないのは、相手が殺し屋ではないからだ。
目の前にいるのは、リボーンに可能性を見いだされた、未来ある若者である。
「私は戦わない。貴方の相手はツナがするわ」
「はっ!? オレ!?」
雲雀が何か言う前に、背後で盛大なリアクションが聞こえた。
振り向くと、青い顔をした綱吉と目が合った。
「何言ってるんだよ!? 一人で二人も倒しちゃうような人に、オレが勝てるわけないだろ!?」
「応援してるわ」
「応援するなー!!」
叫んだと思ったら、何か閃いたのか目を見開いた後、雲雀の様子を窺いながら囁いた。
「ていうか、わざわざ戦わなくても、さっきの瞬間移動で逃げられないのか?」
「逃げられるけど、逃げ切れないでしょうね」
逃げ切れる速度を出したら、綱吉の身体が爆散してしまう。
それに、残された獄寺や山本がただでは済まないだろう。
全員が生還するには、誰かが雲雀を適度に満足させてやる必要があるのだ。
せめてこの場を去った時に、次の邂逅を楽しみにしていようと思わせる程度には。
「さっきは思わず手を出してしまったけれど、ツナなら大丈夫よ。死ぬ気になれば死にはしないから」
そう言って窓の方を指し示すと、それを目にした綱吉は奇声を上げた。
こちらを狙っていたリボーンの拳銃から弾丸が放たれたのは、その直後だった。
「死ぬ気でお前を倒す!!!!」
その怒声によって、銃声のした方へ向こうとした雲雀の視線が、綱吉に引き戻される。
死ぬ気状態になった綱吉は、先ほどまでの恐怖心や動揺を捨て全力で雲雀に突っ込んでいった。
しかし、百戦錬磨の雲雀にとっては不意打ちでも充分に対処できる速度らしく、綱吉の拳打を紙一重で躱すと、すぐさま顎にトンファーを叩き込んだ。
「顎割れちゃったかな」
崩れ落ちる綱吉に向けて冷徹に言い放ってから、ソファに座る私に向き直った。
「さあ、邪魔者はいなくなったし、今度こそやろうか」
今の雲雀の視界には、私しか映っていない。
思わず口元を緩めた。
目を見開き、固まる雲雀。
そこに生じた隙を、綱吉は見逃さなかった。
死ぬ気になると全体的に能力値が底上げされるが、綱吉の場合何より目を見張るのが、バイクに轢かれてもものともしない耐久力である。
通常なら雲雀の見立て通り顎が割れるか脳が揺れて暫く立てなくなるのだろうが、綱吉は難なく立ち上がって雲雀の頬を殴り飛ばした。
咄嗟に顔の向きをずらし衝撃を殺したようだが、綱吉の追撃は止まらない。
その闘志を感じ取ったのか、レオンが綱吉に向かってジャンプした。
形状記憶カメレオン。
彼が姿を変えたのは、何の変哲もないスリッパだった。
綱吉はそれを掴むと、なんとスリッパで雲雀の頭を叩いたのだ。
所詮スリッパなのでダメージはさほどないだろうが、雲雀の身体が大きく傾き窓際の方にふらついた。
しかし、雲雀の戦意は衰えない。
それどころか――
「ねえ……殺していい?」
殺気が、増幅した。
「そこまでだ」
窓枠の上に座るリボーンが、いち早く察知しストップをかけた。
一斉に雲雀と綱吉の意識がリボーンに向く。
「やっぱつえーな、お前」
リボーンが雲雀の注意を引いている隙に、私はこっそり腰を上げた。
まず床に倒れた獄寺と山本をかき集め、突っ立っている綱吉を腕で抱えてから、開けっ放しのドアへ向かって走ったのだ。
ちょうど応接室を出たところで、背後で金属音がした。
一度振り返って確認すると、雲雀のトンファーを、リボーンが十手で受け止めていた。
「ワオ。素晴らしいね、君」
雲雀の楽しそうな声色を耳にしながら、廊下に面した窓に駆け寄る。
予め一つだけ開けておいたその窓から、三人の身体を上空に放り投げ、すぐに自分も窓枠を蹴り上げて外へ脱出した。
校舎の上を飛び越えて放物線を描く彼らを空中で受け止めた直後、応接室で小規模の爆発が起きた。
応接室の窓ガラスが割れ、黒煙が立ち上る。
その様を眺めながら、自由落下に従い屋上へ降り立つと、三人の身体を静かに横たえた。