標的16 的外れな妄信、あるいは至極当然な反応
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《視点:宮野アゲハ 場所:並盛歯科屋上》
並盛中学校、とある会議室。
そこでは、各委員会の代表が集って会議を行っており、その様子は会議室の窓を通してビルディングの屋上からでもよく窺えた。
しかも窓の一つが開いているので、この距離でも微かに中の会話が耳に入って来る。
不完全な部分を読唇術で補完すれば、まるでその場に居合わせているのと同等の情報量を手に入れることができた。
ロの字型に並べた長机の黒板側に座る生徒が口を開いた。
「プリントにあるように、これが二学期の委員会の部屋割りです」
全員が手元の紙に目を落とす。
さすがに生徒達の持つプリントの内容を読み取るには時間がかかったが、すぐに一人の女子生徒が非難の声を上げた。
「えーっ、何コレ!? 応接室使う委員会ある。ずるい! 何処よ!」
『応接室』と聞いて、嫌な予感がした。
一学期にその場所を私物化していた人物を知っているからだ。
案の定、青ざめた隣の席の生徒が「風紀委員だぞ!」と耳打ちし、女子生徒は慌てて口元を手で押さえた。
彼女の発言で場の空気が凍りついたのがここからでも伝わったが、開け放した窓枠の上に腰を下ろす男子生徒が放った言葉によって、更に教室の温度が下がるのを感じた。
「何か問題でもある?」
そのたった一言で、件の女子は蛇に睨まれた蛙のように硬直し、他の生徒も当事者のように身を震わせた。
彼こそが、風紀委員長にして最強の不良と恐れられる、雲雀恭弥である。
彼の腕につけた『風紀』の刺繍の入った腕章が、陽光を受けて怪しく光っている。
こちらに背を向けているので表情は見えないが、周囲の反応とは対照的に、以前に対面した時より幾分柔らかい印象を受けた。
女子生徒が慌てて起立して頭を下げても、「じゃー続けてよ」と進行を促す声は単調だ。
口より先にトンファーを出す姿しか知らなかったので、その様子は意外だった――普通に委員長らしくもできるのか。
しかも、明らかに雲雀に敵対的な意見をする生徒達相手にも、いたって冷静に対応している。
「君達は仲良し委員会? 代表は各委員会一人のはずだけど……」
その雲雀の言葉で気づいたが、確かに『緑化委員』と書かれたプレートの席には三人も座っている。
応接室の件に触れず、全く別の話題を持ち出したのは、自分に有利に話を進めるための話術かと思ったが、ただ単に気になったことを口にしただけだとすぐに悟った。
直後に繰り広げられたのが、話し合いではなかったからだ。
異を唱えた例の三名は、会議の終了を待たずに、雲雀の手で地面に伏すことになったのである。
問答無用で相手を制圧しようとする姿勢は雲雀恭弥らしいが、終始退屈そうで欠伸すら漏らす気だるさは、これまで見たことがないものだった。
嬉々として私にトンファーを振るっていたあの彼は何処へ行ったのだろう。
その上、緑化委員の人間を校舎の外へと運び出した風紀委員の一人が零した台詞に、更に首を傾げることになった。
「ヒバリにたてついたのが悪いんじゃない。ヒバリの前で群れたからこうなったんだ」
群れる?
もしかして、複数人でいるという意味か?
まさかそれが雲雀の地雷なのか?
共同生活を余儀なくされる学校という空間において、なんて厳しい沸点だろうか。
そういえば、特に意図したわけではないが、彼に会いに行く時はいつも私一人だった。
もし誰かと行動していたら、たとえば綱吉といるところを見られたら、どうなっていただろうか。
「雲雀恭弥。面白ぇーな」
その声は、会議室ではない、私のすぐ隣からした。
双眼鏡越しに並中を覗くリボーンは、口元に笑みを湛えている。
彼の心中を察するのは、私でなくとも容易いだろう。
この人は、才能を見つけるのが本当に上手い。
並盛中学校、とある会議室。
そこでは、各委員会の代表が集って会議を行っており、その様子は会議室の窓を通してビルディングの屋上からでもよく窺えた。
しかも窓の一つが開いているので、この距離でも微かに中の会話が耳に入って来る。
不完全な部分を読唇術で補完すれば、まるでその場に居合わせているのと同等の情報量を手に入れることができた。
ロの字型に並べた長机の黒板側に座る生徒が口を開いた。
「プリントにあるように、これが二学期の委員会の部屋割りです」
全員が手元の紙に目を落とす。
さすがに生徒達の持つプリントの内容を読み取るには時間がかかったが、すぐに一人の女子生徒が非難の声を上げた。
「えーっ、何コレ!? 応接室使う委員会ある。ずるい! 何処よ!」
『応接室』と聞いて、嫌な予感がした。
一学期にその場所を私物化していた人物を知っているからだ。
案の定、青ざめた隣の席の生徒が「風紀委員だぞ!」と耳打ちし、女子生徒は慌てて口元を手で押さえた。
彼女の発言で場の空気が凍りついたのがここからでも伝わったが、開け放した窓枠の上に腰を下ろす男子生徒が放った言葉によって、更に教室の温度が下がるのを感じた。
「何か問題でもある?」
そのたった一言で、件の女子は蛇に睨まれた蛙のように硬直し、他の生徒も当事者のように身を震わせた。
彼こそが、風紀委員長にして最強の不良と恐れられる、雲雀恭弥である。
彼の腕につけた『風紀』の刺繍の入った腕章が、陽光を受けて怪しく光っている。
こちらに背を向けているので表情は見えないが、周囲の反応とは対照的に、以前に対面した時より幾分柔らかい印象を受けた。
女子生徒が慌てて起立して頭を下げても、「じゃー続けてよ」と進行を促す声は単調だ。
口より先にトンファーを出す姿しか知らなかったので、その様子は意外だった――普通に委員長らしくもできるのか。
しかも、明らかに雲雀に敵対的な意見をする生徒達相手にも、いたって冷静に対応している。
「君達は仲良し委員会? 代表は各委員会一人のはずだけど……」
その雲雀の言葉で気づいたが、確かに『緑化委員』と書かれたプレートの席には三人も座っている。
応接室の件に触れず、全く別の話題を持ち出したのは、自分に有利に話を進めるための話術かと思ったが、ただ単に気になったことを口にしただけだとすぐに悟った。
直後に繰り広げられたのが、話し合いではなかったからだ。
異を唱えた例の三名は、会議の終了を待たずに、雲雀の手で地面に伏すことになったのである。
問答無用で相手を制圧しようとする姿勢は雲雀恭弥らしいが、終始退屈そうで欠伸すら漏らす気だるさは、これまで見たことがないものだった。
嬉々として私にトンファーを振るっていたあの彼は何処へ行ったのだろう。
その上、緑化委員の人間を校舎の外へと運び出した風紀委員の一人が零した台詞に、更に首を傾げることになった。
「ヒバリにたてついたのが悪いんじゃない。ヒバリの前で群れたからこうなったんだ」
群れる?
もしかして、複数人でいるという意味か?
まさかそれが雲雀の地雷なのか?
共同生活を余儀なくされる学校という空間において、なんて厳しい沸点だろうか。
そういえば、特に意図したわけではないが、彼に会いに行く時はいつも私一人だった。
もし誰かと行動していたら、たとえば綱吉といるところを見られたら、どうなっていただろうか。
「雲雀恭弥。面白ぇーな」
その声は、会議室ではない、私のすぐ隣からした。
双眼鏡越しに並中を覗くリボーンは、口元に笑みを湛えている。
彼の心中を察するのは、私でなくとも容易いだろう。
この人は、才能を見つけるのが本当に上手い。