標的15 死線をみた日
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《視点:沢田綱吉 場所:同玄関》
身体中にドクロが現れるという謎の病気を治してくれるらしいドクターが来てくれたところまでは良かったが、先ほど、衝撃の事実が発覚した。
「わりーけど、男は診ねーんだ」
俺の胸部を触った後の、彼の発言だ。
命が懸かっていることを差し引いても問題発言だ。
それでもなお俺の病気は進行中で、最初は右手の平に現れたドクロが、知らないうちに両腕全体に広がっていた。
しかも、書かれている秘密はどれも自分しか知らないはずの、恥ずかしい情報ばかりだ。
「シャマルさん! お願い! 助けて~!! まだ死にたくない~!! しかもこんな無様に~~」
「おいコラ! 男が抱き付くな! 虫唾が走る!!」
必死でDr.シャマルの腰に縋り付いた時の台詞がこれである。
しかも残酷なことに、これまで診てきた百万人の患者のうち男は一人もいないという。
なんでリボーンはそんな人を呼んだんだ。
嫌がらせとしか思えない。
「かわいそうに」
崩れ落ちる俺にビアンキはそう言うが、手で押さえた口元には隠しきれない笑みが見えた。
「喜んでるよなあ! お前!!」
そういえば、元々俺を殺しに来た人だった。
一日のうちに二人の女性から自分の死を喜ばれた――死期が迫っていることよりショックかもしれない。
リボーンは明らかに面白がっているし、アゲハはといえば、何故か先ほどから口を閉ざして静観している。
無口で無表情。
出会った時のようだ。
そういえばこの冷血女は、俺が死ぬと分かった時も、全く取り乱した様子がなかった。
――何故だろう。
自分が助からないことより、死ぬことを喜ばれるより――アゲハが動揺していないことに、心を引き裂かれるようなショックが走るのは、どうしてなんだろう。
自分の死を知った時より、心が冷えるのは――
死を嘆くのも忘れるほどの失望に潰されそうになった時、俺にとっての天使が玄関の戸を開けて現れた。
「あの……取り込み中?」
「京子ちゃん!!」
控えめにこちらを覗くのは紛れもなく、俺の好きな人、笹川京子ちゃんだ。
死の間際に見ている幻覚でもない。
学校からそのまま来たのだろう、制服のまま、胸にはボクシングの本を抱えている。
お兄さんに言われてその本を渡しに来たそうだが、理由は何であれ、死ぬ前に京子ちゃんが会いに来てくれたのが本当に嬉しい。
さっきまでの暗い気分を吹き飛ばすのに充分な感動だ。
しかし、直後にそれすら打ち消す動揺に襲われることとなる。
「ああ、ツナ君ボディペインティングしてるの~~!?」
京子ちゃんに恥ずかしいドクロが見つかった!
今や腕全体に広がっているのだから、目につくのは自然だろうけれど。
目視できないだけで、服の下にも広がっているかもしれない。
しかも、更に運の悪いことに、さっきまでビアンキに絡んでいたはずのシャマルが、京子ちゃんに目をつけてしまったのだ。
電光石火の如き素早い動きで、京子ちゃんの肩を抱いた。
「君可愛いねー。チューしてあげる」
「んなっ!」
状況が飲み込めずに立ち尽くす京子ちゃんを慌てて引き剥がし、シャマルの前に立ち塞がる。
「ちょっ、あんた動物ですか!! っていうか、京子ちゃんに近づかないで下さい!」
「なんでだよ。お前カンケ―ないだろ。あと五分で死ぬんだし」
え、そこまで死が迫ってたの?
さっきから泣いたり喚いたりで、時計を確認していなかった。
ショックで思わず固まる俺の代わりに、動いたのはアゲハだった。
「駄目よ、シャマル。その娘 、私の友達だから」
俺の死が迫っても動こうとしなかったアゲハが、京子ちゃんの身体を引き寄せてシャマルから距離を取った。
その際肩を抱かれてアゲハの胸にもたれ掛かった京子ちゃんは、頬を赤く染めている。
何だろう、この複雑な心境は。
「何だよ。アゲハちゃん、友達いたの? そんな嫉妬しなくても、アゲハちゃんにもチューしてあげるから」
「はあ!?」
大声で驚く俺に対し、アゲハは僅かに眉を顰めるだけだった。
無礼者にはナイフのように鋭い罵倒を浴びせる彼女にしては、随分と消極的な反応だ。
さっきリボーンがシャマルに世話になっていると話していたが、もしかして、アゲハもこの人に恩があるのか?
傍若無人で自由奔放に見える彼女も、恩人には強く出にくいのか。
そして京子ちゃんも、初対面であんなことを言われたにも関わらず、そこまでの危機感を抱いていないようだ。
もしこれで俺が死んだら、二人がシャマルの毒牙にかかってしまうかもしれないと思うと、ふつふつと身体の奥から何かが湧き出した。
それだけは嫌だ。
京子ちゃんは勿論だけど、あのアゲハが誰かに屈するのを見たくない。
「ツナの奴、死ぬ気弾なしで死ぬ気になるつもりだな」
リボーンの声が聞こえた。
確かに、死を目前にした今の精神状態は、死ぬ気に近いのかもしれない。
実際にあの状態になれるかどうかはともかく、もういっそなるようになれという気持ちで、シャツを脱ぎながら叫んだ。
「うおおおお!!! 死ぬ気で京子ちゃんとアゲハを守るー!!!」
驚くようにこちらを凝視する複数の人物が目に映る。
京子ちゃんもアゲハも、俺を見ている。
そう、露出した上半身を――
そこで急速に頭が冷え、膝を抱えて座り込むしかなかった。
案の定服で隠れていた部分もドクロに侵食され、所狭しと秘密が暴露されているのだ。
理性や羞恥心を捨ててパンツ一丁になるには、やはり死ぬ気弾が必要だった。
「やっぱりはずかしーよ!! 秘密を晒すのも死ぬ気になるのも!!!」
ダメで意気地なしで根性なしだとリボーンに罵られるが、もうどうでも良かった。
寿命はきっとあと三分程度。
もう助かることはない。
京子ちゃんの目の前で、アゲハにとってどうでもいい奴のまま、ダメツナとして死んでいくのだ。
「わーった、わーった。治してやるよ」
自暴自棄になりかけていたところに、シャマルの声でぞんざいにそう言うのが聞こえた。
聞き間違いかと伏せていた顔を上げるが、シャマルは鬱陶しそうに髪をかき上げながら続ける。
「時間がねーんだ。さっさとシャツ着な」
「Dr.シャマル……」
絶望から一転して感動の涙を浮かべる俺をよそに、Dr.シャマルは未だにくっついている彼女達の方を見た。
「つーわけで、アゲハちゃんは暫く席を外してくれるか?」
なんでアゲハが?
身体中にドクロが現れるという謎の病気を治してくれるらしいドクターが来てくれたところまでは良かったが、先ほど、衝撃の事実が発覚した。
「わりーけど、男は診ねーんだ」
俺の胸部を触った後の、彼の発言だ。
命が懸かっていることを差し引いても問題発言だ。
それでもなお俺の病気は進行中で、最初は右手の平に現れたドクロが、知らないうちに両腕全体に広がっていた。
しかも、書かれている秘密はどれも自分しか知らないはずの、恥ずかしい情報ばかりだ。
「シャマルさん! お願い! 助けて~!! まだ死にたくない~!! しかもこんな無様に~~」
「おいコラ! 男が抱き付くな! 虫唾が走る!!」
必死でDr.シャマルの腰に縋り付いた時の台詞がこれである。
しかも残酷なことに、これまで診てきた百万人の患者のうち男は一人もいないという。
なんでリボーンはそんな人を呼んだんだ。
嫌がらせとしか思えない。
「かわいそうに」
崩れ落ちる俺にビアンキはそう言うが、手で押さえた口元には隠しきれない笑みが見えた。
「喜んでるよなあ! お前!!」
そういえば、元々俺を殺しに来た人だった。
一日のうちに二人の女性から自分の死を喜ばれた――死期が迫っていることよりショックかもしれない。
リボーンは明らかに面白がっているし、アゲハはといえば、何故か先ほどから口を閉ざして静観している。
無口で無表情。
出会った時のようだ。
そういえばこの冷血女は、俺が死ぬと分かった時も、全く取り乱した様子がなかった。
――何故だろう。
自分が助からないことより、死ぬことを喜ばれるより――アゲハが動揺していないことに、心を引き裂かれるようなショックが走るのは、どうしてなんだろう。
自分の死を知った時より、心が冷えるのは――
死を嘆くのも忘れるほどの失望に潰されそうになった時、俺にとっての天使が玄関の戸を開けて現れた。
「あの……取り込み中?」
「京子ちゃん!!」
控えめにこちらを覗くのは紛れもなく、俺の好きな人、笹川京子ちゃんだ。
死の間際に見ている幻覚でもない。
学校からそのまま来たのだろう、制服のまま、胸にはボクシングの本を抱えている。
お兄さんに言われてその本を渡しに来たそうだが、理由は何であれ、死ぬ前に京子ちゃんが会いに来てくれたのが本当に嬉しい。
さっきまでの暗い気分を吹き飛ばすのに充分な感動だ。
しかし、直後にそれすら打ち消す動揺に襲われることとなる。
「ああ、ツナ君ボディペインティングしてるの~~!?」
京子ちゃんに恥ずかしいドクロが見つかった!
今や腕全体に広がっているのだから、目につくのは自然だろうけれど。
目視できないだけで、服の下にも広がっているかもしれない。
しかも、更に運の悪いことに、さっきまでビアンキに絡んでいたはずのシャマルが、京子ちゃんに目をつけてしまったのだ。
電光石火の如き素早い動きで、京子ちゃんの肩を抱いた。
「君可愛いねー。チューしてあげる」
「んなっ!」
状況が飲み込めずに立ち尽くす京子ちゃんを慌てて引き剥がし、シャマルの前に立ち塞がる。
「ちょっ、あんた動物ですか!! っていうか、京子ちゃんに近づかないで下さい!」
「なんでだよ。お前カンケ―ないだろ。あと五分で死ぬんだし」
え、そこまで死が迫ってたの?
さっきから泣いたり喚いたりで、時計を確認していなかった。
ショックで思わず固まる俺の代わりに、動いたのはアゲハだった。
「駄目よ、シャマル。その
俺の死が迫っても動こうとしなかったアゲハが、京子ちゃんの身体を引き寄せてシャマルから距離を取った。
その際肩を抱かれてアゲハの胸にもたれ掛かった京子ちゃんは、頬を赤く染めている。
何だろう、この複雑な心境は。
「何だよ。アゲハちゃん、友達いたの? そんな嫉妬しなくても、アゲハちゃんにもチューしてあげるから」
「はあ!?」
大声で驚く俺に対し、アゲハは僅かに眉を顰めるだけだった。
無礼者にはナイフのように鋭い罵倒を浴びせる彼女にしては、随分と消極的な反応だ。
さっきリボーンがシャマルに世話になっていると話していたが、もしかして、アゲハもこの人に恩があるのか?
傍若無人で自由奔放に見える彼女も、恩人には強く出にくいのか。
そして京子ちゃんも、初対面であんなことを言われたにも関わらず、そこまでの危機感を抱いていないようだ。
もしこれで俺が死んだら、二人がシャマルの毒牙にかかってしまうかもしれないと思うと、ふつふつと身体の奥から何かが湧き出した。
それだけは嫌だ。
京子ちゃんは勿論だけど、あのアゲハが誰かに屈するのを見たくない。
「ツナの奴、死ぬ気弾なしで死ぬ気になるつもりだな」
リボーンの声が聞こえた。
確かに、死を目前にした今の精神状態は、死ぬ気に近いのかもしれない。
実際にあの状態になれるかどうかはともかく、もういっそなるようになれという気持ちで、シャツを脱ぎながら叫んだ。
「うおおおお!!! 死ぬ気で京子ちゃんとアゲハを守るー!!!」
驚くようにこちらを凝視する複数の人物が目に映る。
京子ちゃんもアゲハも、俺を見ている。
そう、露出した上半身を――
そこで急速に頭が冷え、膝を抱えて座り込むしかなかった。
案の定服で隠れていた部分もドクロに侵食され、所狭しと秘密が暴露されているのだ。
理性や羞恥心を捨ててパンツ一丁になるには、やはり死ぬ気弾が必要だった。
「やっぱりはずかしーよ!! 秘密を晒すのも死ぬ気になるのも!!!」
ダメで意気地なしで根性なしだとリボーンに罵られるが、もうどうでも良かった。
寿命はきっとあと三分程度。
もう助かることはない。
京子ちゃんの目の前で、アゲハにとってどうでもいい奴のまま、ダメツナとして死んでいくのだ。
「わーった、わーった。治してやるよ」
自暴自棄になりかけていたところに、シャマルの声でぞんざいにそう言うのが聞こえた。
聞き間違いかと伏せていた顔を上げるが、シャマルは鬱陶しそうに髪をかき上げながら続ける。
「時間がねーんだ。さっさとシャツ着な」
「Dr.シャマル……」
絶望から一転して感動の涙を浮かべる俺をよそに、Dr.シャマルは未だにくっついている彼女達の方を見た。
「つーわけで、アゲハちゃんは暫く席を外してくれるか?」
なんでアゲハが?