標的15 死線をみた日
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《視点:宮野アゲハ 場所:同玄関》
綱吉が帰って来た気配がしたので下りていくと、ちょうど洗面所から頓狂な声が上がった。
「ドクロがしゃべってるー!!!」
ドクロ病とは、その人物の秘密や恥がドクロの模様と共に文字となって全身に浮かんでくる奇病らしい。
発病してから死亡するまでこれが一時間現れ続けることから、別名“死に恥を晒す病”とも言われているそうだ。
病状が独特すぎるためか患者数(あるいは死亡者数)は少なく、シャマルにレクチャーされるまで私も病気の詳細を知らなかったほどである。
それはともかく、何故綱吉は洗面所にいるのだろう。
ドクロを洗えば落ちるとでも思っていたのだろうか。
「おかえりなさい」
あと三十分と余命宣告されて慟哭している患者に掛けるべき台詞かどうか迷ったが、とりあえずそう言った。
すると、ようやく私の存在に気づいたようで、綱吉は弾かれたようにこちらを振り向いた。
「あっ! アゲハ!! お前何処に行ってたんだよ!? お前がいない間に、オレ変な病気で死ぬんだぞ!!?」
「らしいわね」
「助けてくれ~!! アゲハ!! リボーン!!」
「オレには無理だ。こいつにもな」
一蹴するリボーンだった。
言葉を選べ。
「ああ~~嘘だろ~!!! 最悪だ! 最悪の人生だ~~っ」
頭を抱えて平伏するその姿は、想像していたよりはるかに取り乱している。
人は、理不尽な死を突きつけられるとこうも崩壊するものか。
こちらも一日かけて綱吉の生存に尽力していたわけだが、学校に付き添っていた方が良かっただろうかと考えてしまうほどだ。
しかし、綱吉の乱心を何処か楽しそうに観察していたリボーンが何気ない口調で告げた情報に、綱吉の顔色が変わった。
「助かる方法が一つだけなくはないけどな」
リボーンが目配せしてきたので、僅かに首を縦に振った。
綱吉が驚きと喜びで彩った顔を上げるまでの一瞬のうちに、私達は意思疎通を成功させた。
「オレの知り合いに不治の病に強いドクターがいるんだ。そいつを呼べばなんとかなるかもな」
既にこの家の二階にいるのに、そう嘯くリボーンだった。
けれどその肝心のドクターは、現在それどころではないかもしれない。
というのも、綱吉が帰宅する直前、シャマルを説得しようとしたまさにその時、部屋にビアンキが乱入してきたのだ。
剣呑な雰囲気でシャマルを睨みつける彼女にただならぬ事情を察知したので、シャマルを廊下に押し出し、二人を置いて綱吉を出迎えに行ったところで、冒頭に遡る。
百戦錬磨のシャマルの心配より、精神的に不安定であろう綱吉を優先したのだ。
あと、ビアンキの事情にあまり深入りしたくなかったという本音もある。
あのシャマルがビアンキ相手に後れを取るとは思っていないが、リボーン同様、女子に手を上げられない男なのだった。
リボーンがここぞとばかりに綱吉に無茶な要求を突き付けている一方で(「助かったら、次のテスト学年で十番以内に入るか?」)、上ではシャマルが抵抗空しくポイズンクッキングの毒牙にかかっていた。
蛙が潰されたような声が聞こえた直後、二階から階段の段差を削り取るような勢いで落下し、一階の廊下に仰向けで倒れる恩人の一部始終を見てしまった。
成人男性が階段を転げ落ちる轟音は洗面所まで充分届き、綱吉が慌てて駆けつけ、目の前の惨状に絶句した。
「だ……誰だよ……? ポイズンクッキングの餌食になってんのー!!?」
人の家の廊下で顔面に毒のホールケーキを貼りつけて寝転がる男を、先ほど話題にした医者だとは言いづらい。
リボーンと私の恩人だとはもっと言いづらい。
「久し振りに世のためになる殺しをしたわ」
しゃあしゃあとそんなことを言いながら、ビアンキが階段を下りて来た。
本当に殺していたなら、綱吉の生命線を断ち切る大暴挙だ。
その場合私に報復されると分かっているのか?
そもそもビアンキとシャマルは旧知の間柄のはずだが、彼女は何故こうも毛嫌いしているのだろうか。
あの城の専属医だった彼は、彼女にとっても恩人に近い存在ではないのか。
「相変わらずのおてんばだなあ。やっぱ女の子はそーでなくっちゃ~っ」
場違いな緊張感のない声と共に、シャマルはケーキの直撃を防いだハンカチを退けて平然と起き上がった。
そして、おもむろにビアンキに近寄ると、その頬にキスしたのだった。
すぐさまビアンキの後ろ回し蹴りが顔面に直撃し吹っ飛ばされるが、やはり大したダメージなさそうだ。
――なるほど、理解した。
要するに、性格の不一致が恩義を上回っているのか。
目の前で繰り広げられる大人達の茶番に唖然とする綱吉に、リボーンが説明を始めた。
「イタリアから呼んどいてやったぞ。Dr.シャマルだ」
実際に呼んだのは雅也君なのだが、さり気なく自分の手柄にしていた。
それでも多少の脚色は放っておくとして、シャマルの紹介は引き続きリボーンに任せるとすると、私はどうすべきだろうか。
事情は既に伝達し終わり、返答は聞いていないものの説得も一通り済んでいる。
これ以上私が何かを言うのは逆効果になる恐れもあるし、この状況下では、あとは綱吉本人に賭けるのが最善かもしれない(綱吉の寿命はあと十分)。
未来のボスの手腕に委ねよう。
それに、結局のところ、シャマルは私の頼みを無下にはしないだろうと思うのだ。
もしも私の言葉に耳を傾けてくれたなら。
私のことを少しでも女だと認識してくれているのなら。
この男は、女性には甘いのだから。
綱吉が帰って来た気配がしたので下りていくと、ちょうど洗面所から頓狂な声が上がった。
「ドクロがしゃべってるー!!!」
ドクロ病とは、その人物の秘密や恥がドクロの模様と共に文字となって全身に浮かんでくる奇病らしい。
発病してから死亡するまでこれが一時間現れ続けることから、別名“死に恥を晒す病”とも言われているそうだ。
病状が独特すぎるためか患者数(あるいは死亡者数)は少なく、シャマルにレクチャーされるまで私も病気の詳細を知らなかったほどである。
それはともかく、何故綱吉は洗面所にいるのだろう。
ドクロを洗えば落ちるとでも思っていたのだろうか。
「おかえりなさい」
あと三十分と余命宣告されて慟哭している患者に掛けるべき台詞かどうか迷ったが、とりあえずそう言った。
すると、ようやく私の存在に気づいたようで、綱吉は弾かれたようにこちらを振り向いた。
「あっ! アゲハ!! お前何処に行ってたんだよ!? お前がいない間に、オレ変な病気で死ぬんだぞ!!?」
「らしいわね」
「助けてくれ~!! アゲハ!! リボーン!!」
「オレには無理だ。こいつにもな」
一蹴するリボーンだった。
言葉を選べ。
「ああ~~嘘だろ~!!! 最悪だ! 最悪の人生だ~~っ」
頭を抱えて平伏するその姿は、想像していたよりはるかに取り乱している。
人は、理不尽な死を突きつけられるとこうも崩壊するものか。
こちらも一日かけて綱吉の生存に尽力していたわけだが、学校に付き添っていた方が良かっただろうかと考えてしまうほどだ。
しかし、綱吉の乱心を何処か楽しそうに観察していたリボーンが何気ない口調で告げた情報に、綱吉の顔色が変わった。
「助かる方法が一つだけなくはないけどな」
リボーンが目配せしてきたので、僅かに首を縦に振った。
綱吉が驚きと喜びで彩った顔を上げるまでの一瞬のうちに、私達は意思疎通を成功させた。
「オレの知り合いに不治の病に強いドクターがいるんだ。そいつを呼べばなんとかなるかもな」
既にこの家の二階にいるのに、そう嘯くリボーンだった。
けれどその肝心のドクターは、現在それどころではないかもしれない。
というのも、綱吉が帰宅する直前、シャマルを説得しようとしたまさにその時、部屋にビアンキが乱入してきたのだ。
剣呑な雰囲気でシャマルを睨みつける彼女にただならぬ事情を察知したので、シャマルを廊下に押し出し、二人を置いて綱吉を出迎えに行ったところで、冒頭に遡る。
百戦錬磨のシャマルの心配より、精神的に不安定であろう綱吉を優先したのだ。
あと、ビアンキの事情にあまり深入りしたくなかったという本音もある。
あのシャマルがビアンキ相手に後れを取るとは思っていないが、リボーン同様、女子に手を上げられない男なのだった。
リボーンがここぞとばかりに綱吉に無茶な要求を突き付けている一方で(「助かったら、次のテスト学年で十番以内に入るか?」)、上ではシャマルが抵抗空しくポイズンクッキングの毒牙にかかっていた。
蛙が潰されたような声が聞こえた直後、二階から階段の段差を削り取るような勢いで落下し、一階の廊下に仰向けで倒れる恩人の一部始終を見てしまった。
成人男性が階段を転げ落ちる轟音は洗面所まで充分届き、綱吉が慌てて駆けつけ、目の前の惨状に絶句した。
「だ……誰だよ……? ポイズンクッキングの餌食になってんのー!!?」
人の家の廊下で顔面に毒のホールケーキを貼りつけて寝転がる男を、先ほど話題にした医者だとは言いづらい。
リボーンと私の恩人だとはもっと言いづらい。
「久し振りに世のためになる殺しをしたわ」
しゃあしゃあとそんなことを言いながら、ビアンキが階段を下りて来た。
本当に殺していたなら、綱吉の生命線を断ち切る大暴挙だ。
その場合私に報復されると分かっているのか?
そもそもビアンキとシャマルは旧知の間柄のはずだが、彼女は何故こうも毛嫌いしているのだろうか。
あの城の専属医だった彼は、彼女にとっても恩人に近い存在ではないのか。
「相変わらずのおてんばだなあ。やっぱ女の子はそーでなくっちゃ~っ」
場違いな緊張感のない声と共に、シャマルはケーキの直撃を防いだハンカチを退けて平然と起き上がった。
そして、おもむろにビアンキに近寄ると、その頬にキスしたのだった。
すぐさまビアンキの後ろ回し蹴りが顔面に直撃し吹っ飛ばされるが、やはり大したダメージなさそうだ。
――なるほど、理解した。
要するに、性格の不一致が恩義を上回っているのか。
目の前で繰り広げられる大人達の茶番に唖然とする綱吉に、リボーンが説明を始めた。
「イタリアから呼んどいてやったぞ。Dr.シャマルだ」
実際に呼んだのは雅也君なのだが、さり気なく自分の手柄にしていた。
それでも多少の脚色は放っておくとして、シャマルの紹介は引き続きリボーンに任せるとすると、私はどうすべきだろうか。
事情は既に伝達し終わり、返答は聞いていないものの説得も一通り済んでいる。
これ以上私が何かを言うのは逆効果になる恐れもあるし、この状況下では、あとは綱吉本人に賭けるのが最善かもしれない(綱吉の寿命はあと十分)。
未来のボスの手腕に委ねよう。
それに、結局のところ、シャマルは私の頼みを無下にはしないだろうと思うのだ。
もしも私の言葉に耳を傾けてくれたなら。
私のことを少しでも女だと認識してくれているのなら。
この男は、女性には甘いのだから。