標的15 死線をみた日
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《視点:沢田綱吉 場所:並盛中学校正門前》
今日は、変わったことがいくつもあった。
まず、学校が終わって帰ろうとする頃、身体がだるいと感じるようになったことだ。
風邪を引いたのかもしれないし、周りに手の掛かる奴が増えた疲労の所為かもしれない――だから、これは厳密には“変化”とは言えないのかもしれない。
本題はここからだ。
今日、アゲハが学校を休んだ。
これまで早退したことはあっても、丸一日休んだことは一度もなかったのに。
京子ちゃんに心配そうに事情を訊かれたが、俺も詳しく知らないのだった。
体調不良でないことは断言できるけど。
ただ、朝食をとっている最中に、
「今日、学校休むから」
と一言言われただけだ――制服を着た状態で。
お前はどういうつもりでその服を着てるんだ。
そう突っ込む代わりに、サラダを口に運びながらジト目で睨んだ。
「お前、オレの護衛なのに、オレから離れていいのか?」
最初はついて回られるのを鬱陶しく感じていたのに、自然と口を衝いて出ていた。
しかし、そんな当てこすりみたいな俺の言葉は、あっさり受け流されたのだった。
「大丈夫。貴方のことを守れる距離にいるわ」
俺のことを守れる距離――具体的なようで抽象的だ。
どのくらいなんだろう。
もしかして、今も、俺の近くにいるんだろうか。
だとしたら、わざわざ学校を休んだ理由は何なんだろう。
さて、更にもう一つ、普段と違う状況が起こっている。
それが、俺の目の前にいる少女だ。
「おい、貴様を訪ねてわざわざ出向いたんだぞ。間抜け面を晒すな」
腕を組み、偉そうにふんぞり返る女子中学生。
不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
まるで、親の仇でも見るようだ。
眼光と暴言に尻込みしつつ、確か隣のクラスの娘 のはずだと記憶を掘り起こした。
「えっと……、彼我野 絢芽 さんだっけ? オレに何か用なの?」
「ほう。私の名前を覚えているのか。その程度の知能はあるんだな」
「………」
……この娘 、俺と初対面だよな?
この歯に衣着せぬ物言い、只者でない風格、なんだかとても既視感がある。
「今日は主様がいらっしゃらないからな。貴様をこうして待ち伏せることができたというわけだ」
「『主様』? 誰のこと?」
「……貴様、無知も大概にしろ」
何気なく訊いたら、物凄い形相で睨まれた。
とても可愛い顔なのに、いやだからこそか、威圧感が凄まじい。
「主様と言えば、世界の主たるお方に決まっている」
「そんな神様みたいな人知りませんけど!?」
「何だと!? いつも貴様の護衛をなさっているだろうが!!」
「アゲハのことだったの!?」
俺の家にいる奴はいつの間に神様になったんだ?
というか、アゲハにこんな強烈な信者がいたのか。
校内に存在するというファンクラブよりやばそうだ。
リボーンに心酔するビアンキと似た空気を感じるが、実際に俺の命を狙ってきた彼女より、アゲハの裏で静かに敵対する絢芽の方が、不気味で恐ろしいと思ってしまう。
そんな心中を悟られないよう、同級生にびびっているとバレないよう、さり気なさを装って会話を続けることにする。
「アゲハの知り合いだったんだね」
「如何にも。主様の直属の部下だ」
誇らしげに胸を張る絢芽。
アゲハもこんな個性的な部下がいるなら、ちゃんと紹介してほしい。
「主様ほどのお方を自分の護衛に据えるなど、厚顔無恥も甚だしいと思っていたが、なるほど、あのお方の御威光を理解できないほどの愚鈍なら納得だな」
俺が決めたんじゃなく、勝手に押し掛けられて押し付けられたんだけど――と、主張するのは諦めた。
たとえそれが事実でも、今までの会話らしきやり取りを通して、彼女が俺の周囲の奇人変人の中でもトップクラスに人の話を聞かない性格だと痛感してしまったからだ。
数か月前の自分なら、ここまでの処世術はなかっただろう。
特に嬉しくもない。
「それで……、用件は何なんですか?」
同い年なのに、雰囲気に呑まれて敬語になってしまった。
彼女が実は一つ年下だと、俺は後で知ることになる。
「ん? ああ、そうだったな。とは言っても、明確な目的があったわけじゃない。主様がご不在のこの機会、最後に貴様と言葉を交わすのも一興かと思い立っただけだ」
「『最後』……?」
「ああ」
首を傾げる俺に、絢芽はさも当然のように言ってのけたのだった。
「だって貴様、今日死ぬんだろ?」
今日は、変わったことがいくつもあった。
まず、学校が終わって帰ろうとする頃、身体がだるいと感じるようになったことだ。
風邪を引いたのかもしれないし、周りに手の掛かる奴が増えた疲労の所為かもしれない――だから、これは厳密には“変化”とは言えないのかもしれない。
本題はここからだ。
今日、アゲハが学校を休んだ。
これまで早退したことはあっても、丸一日休んだことは一度もなかったのに。
京子ちゃんに心配そうに事情を訊かれたが、俺も詳しく知らないのだった。
体調不良でないことは断言できるけど。
ただ、朝食をとっている最中に、
「今日、学校休むから」
と一言言われただけだ――制服を着た状態で。
お前はどういうつもりでその服を着てるんだ。
そう突っ込む代わりに、サラダを口に運びながらジト目で睨んだ。
「お前、オレの護衛なのに、オレから離れていいのか?」
最初はついて回られるのを鬱陶しく感じていたのに、自然と口を衝いて出ていた。
しかし、そんな当てこすりみたいな俺の言葉は、あっさり受け流されたのだった。
「大丈夫。貴方のことを守れる距離にいるわ」
俺のことを守れる距離――具体的なようで抽象的だ。
どのくらいなんだろう。
もしかして、今も、俺の近くにいるんだろうか。
だとしたら、わざわざ学校を休んだ理由は何なんだろう。
さて、更にもう一つ、普段と違う状況が起こっている。
それが、俺の目の前にいる少女だ。
「おい、貴様を訪ねてわざわざ出向いたんだぞ。間抜け面を晒すな」
腕を組み、偉そうにふんぞり返る女子中学生。
不機嫌そうにこちらを睨んでいる。
まるで、親の仇でも見るようだ。
眼光と暴言に尻込みしつつ、確か隣のクラスの
「えっと……、
「ほう。私の名前を覚えているのか。その程度の知能はあるんだな」
「………」
……この
この歯に衣着せぬ物言い、只者でない風格、なんだかとても既視感がある。
「今日は主様がいらっしゃらないからな。貴様をこうして待ち伏せることができたというわけだ」
「『主様』? 誰のこと?」
「……貴様、無知も大概にしろ」
何気なく訊いたら、物凄い形相で睨まれた。
とても可愛い顔なのに、いやだからこそか、威圧感が凄まじい。
「主様と言えば、世界の主たるお方に決まっている」
「そんな神様みたいな人知りませんけど!?」
「何だと!? いつも貴様の護衛をなさっているだろうが!!」
「アゲハのことだったの!?」
俺の家にいる奴はいつの間に神様になったんだ?
というか、アゲハにこんな強烈な信者がいたのか。
校内に存在するというファンクラブよりやばそうだ。
リボーンに心酔するビアンキと似た空気を感じるが、実際に俺の命を狙ってきた彼女より、アゲハの裏で静かに敵対する絢芽の方が、不気味で恐ろしいと思ってしまう。
そんな心中を悟られないよう、同級生にびびっているとバレないよう、さり気なさを装って会話を続けることにする。
「アゲハの知り合いだったんだね」
「如何にも。主様の直属の部下だ」
誇らしげに胸を張る絢芽。
アゲハもこんな個性的な部下がいるなら、ちゃんと紹介してほしい。
「主様ほどのお方を自分の護衛に据えるなど、厚顔無恥も甚だしいと思っていたが、なるほど、あのお方の御威光を理解できないほどの愚鈍なら納得だな」
俺が決めたんじゃなく、勝手に押し掛けられて押し付けられたんだけど――と、主張するのは諦めた。
たとえそれが事実でも、今までの会話らしきやり取りを通して、彼女が俺の周囲の奇人変人の中でもトップクラスに人の話を聞かない性格だと痛感してしまったからだ。
数か月前の自分なら、ここまでの処世術はなかっただろう。
特に嬉しくもない。
「それで……、用件は何なんですか?」
同い年なのに、雰囲気に呑まれて敬語になってしまった。
彼女が実は一つ年下だと、俺は後で知ることになる。
「ん? ああ、そうだったな。とは言っても、明確な目的があったわけじゃない。主様がご不在のこの機会、最後に貴様と言葉を交わすのも一興かと思い立っただけだ」
「『最後』……?」
「ああ」
首を傾げる俺に、絢芽はさも当然のように言ってのけたのだった。
「だって貴様、今日死ぬんだろ?」