標的14 Death or Piece(不幸か平和か)
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《視点:宮野アゲハ 場所:並盛中学校正門前》
学校に到着して三分後――予鈴の鳴る五分前、死ぬ気状態の綱吉が全速力で校門を通過するのを確認した。
私達は無事始業式に間に合った――のだが、それよりも気になることがある。
安堵のため息を吐く綱吉の隣で、私はある一点に注目していた。
「くっそーリボーンの奴~。間に合いはしたけど、また恥かいたよ……」
「……それはいいけど、ツナ」
「あれ? アゲハ、いつの間に先回りしてたんだ?」
「……近道したのよ」
上空を。
最後の言葉は心の中だけで付け加えた。
「それよりツナ、“それ”どうしたの?」
「“それ”?」
「まぎれもない本物……」
指差した方へ綱吉が目を向ける前に、“それ”が低い声で呻いた。
“それ”と指したのは、綱吉の右手首を辛うじて掴み地面に伏す並中の制服を着た男のことだ。
恐らく死ぬ気状態で登校している間に何処かで引っ掛け、ここまで引きずられたのだろう。
私がわざわざ回避したことを、綱吉は平気で実行してしまうのだった。
「だっ、大丈夫ですか?」
綱吉が心配そうに声を掛けると、男子生徒は何度か前転してから勢いよく起き上がった。
「聞きしに勝るパワー・スタミナ! そして熱さ!! やはりお前は百年に一人の逸材だ!!」
「は?」
長距離を引きずられても怪我ひとつない耐久性もさることながら、この話の通じなさそうな性格から類を見ないほどの変人だと一瞬で判断した。
できれば関わりたくないタイプだ。
「我が部に入れ、沢田ツナ!!」
「え、なっ、なんでオレの名前……!?」
「お前のハッスルぶりは妹から聞いているからな」
「い……妹?」
始業式がもうすぐ始まるというのに、綱吉と変人が談笑(?)してしまった。
それにしても、私を無視するとは珍しい人だ。
今のうちに先に教室に行ってもいいだろうか、とゆっくり二人から離れようとした時、校門の方から「お兄ちゃーん」と呼ぶ聞き慣れた声がした。
その声の主に変人が「どうしたキョーコ!?」と応じたことで、私はすべてを察したのだった。
「嘘でしょ……」
「もーカバン道に落っことしてたよ!」
思わず零れた感想は、スクールバッグを抱えて走り寄ってくる笹川京子の声でかき消された。
彼女は私達の元に近づくと、ごく自然に変人の隣に立ったのだ。
そして、彼も慣れた手つきで彼女からバッグを受け取っている。
「あ……ツナ君、アゲハちゃん、おはよ!」
京子は普段通りにこやかに、少し離れた私にも目ざとく挨拶した。
声を掛けられたことで、こっそりとこの場を離れるタイミングを失っただけでなく、変人までこちらを振り向いてしまった。
「おお! お前の噂も聞いてるぞ!! 宮野アゲハ!!」
そう叫ぶと(どうしてこうもボリュームが大きいのだろう)、呆然と佇む私に大股で近づき、あろうことか私の右手を取って力強く握りしめた。
仕草がいちいち大仰で認識しにくいが、本人は握手のつもりなのだろう。
「体育で目を見張る成績を残しているそうだな!! 運動神経が人並み外れて素晴らしいと、京子からいつも聞いているぞ!!」
「……そう、京子が」
「ちょっと、お兄ちゃん!」
京子が慌てて私達の間に入り、了平の手を引きはがした。
申し訳なさそうな顔で「ごめんね、アゲハちゃん」と一言残してから、綱吉に向き直った。
「ツナ君も、お兄ちゃんのボクシング談義なんか聞き流していいからね」
「ボクシング……?」
私と綱吉の声が重なった。
すると、乱暴に引き離されたことを気にも留めていない様子で変人が言った。
「そういえば自己紹介がまだだったな」
既に私の脳内では“変人”で定着しているが、彼は構わず拳を握った。
「オレはボクシング部主将、笹川了平!! 座右の銘は“極限”!!」
威嚇するような声量と、威圧するような熱量。
自己紹介というか、熱気を真正面から浴びた気分だ。
そして、名前を聞いて再確認した――彼と京子は兄妹なのだと。
「お前達を部に歓迎するぞ、沢田ツナ! 宮野アゲハ!」
変人、もとい笹川了平は、そう言って綱吉の肩を掴んだ。
――お前“達”?
まさか、私も入っているのか?
「駄目よ、お兄ちゃん。ツナ君達を無理矢理誘っちゃ――」
「無理矢理ではない! だろ……? 沢田、宮野」
「えっ」
「無理矢理よ」
綱吉が言い淀んだ隙に、すかさず訂正した。
このまま黙っていては、わけも分からず頭数に加えられてしまう。
三人分の視線を浴びながら、なるべく熱を持たないように反論した。
「そもそも綱吉はともかく、女の私がボクシング部なんて入部できないと思うけれど」
「心配するな! お前程のポテンシャルなら、性別など問題ではない!!」
心配じゃない、拒否しているんだ。
そして私のポテンシャルは、決してボクシングのためではない。
そう反射的に言い返そうとして、寸前で思いとどまる。
こういうタイプに何を言っても、まともに聞き入れてもらえないのは火を見るより明らかだ。
この場合の相手に流されない最善の策は、意識を他へ逸らすことだ。
「そう……。でも、やっぱり少し抵抗があるわね。もしツナが入部したら、私も前向きに検討できると思うけど」
「そうか! では沢田! 放課後にジムで待つ!! 宮野も来い!!」
了平はそう一方的に約束を取り付けると、綱吉の狼狽など見えていないかのように悠々と去って行った。
彼の中で綱吉に比重が傾いたことを読み取り、内心でガッツポーズを取る。
「ガサツでしょ? あー見えて意外と優しいところもあるんだよ」
兄の後ろ姿を見送りながら、京子が声を弾ませながら語った。
「でも二人ともすごいな。私も嬉しくなっちゃった」
「え?」
「あんな嬉しそうなお兄ちゃん、久し振りに見たもん」
京子に満面の笑みでそう言われたら、綱吉は余計に断れないだろう。
案の定、青ざめて口を開閉させている。
最初はなんて似ていない兄妹だと思ったが、こうやって天然で自分の希望を押し通すところは似通っているかもしれない。
その時、ちょうど予鈴が鳴ったので、私達は教室へ移動することにしたのだが、途中で綱吉が振り返って眉を吊り上げた。
前を歩く京子に聞こえないよう、小声で詰め寄られる。
「なんで京子ちゃんのお兄さんにあんなこと言ったんだよ! オレ入部する気ないぞ!?」
「私もないわよ」
まさか、ボクシングに興味があると思われているのだろうか。
私が人を殴ったら相手を吹っ飛ばすに決まっている――蹴るよりはましかもしれないが。
「だからツナ、何としてでも入部を拒否してね」
綱吉は口をあんぐり開け、聞き逃すくらい小さな声で「勝手な奴……」と言ったのだった。
学校に到着して三分後――予鈴の鳴る五分前、死ぬ気状態の綱吉が全速力で校門を通過するのを確認した。
私達は無事始業式に間に合った――のだが、それよりも気になることがある。
安堵のため息を吐く綱吉の隣で、私はある一点に注目していた。
「くっそーリボーンの奴~。間に合いはしたけど、また恥かいたよ……」
「……それはいいけど、ツナ」
「あれ? アゲハ、いつの間に先回りしてたんだ?」
「……近道したのよ」
上空を。
最後の言葉は心の中だけで付け加えた。
「それよりツナ、“それ”どうしたの?」
「“それ”?」
「まぎれもない本物……」
指差した方へ綱吉が目を向ける前に、“それ”が低い声で呻いた。
“それ”と指したのは、綱吉の右手首を辛うじて掴み地面に伏す並中の制服を着た男のことだ。
恐らく死ぬ気状態で登校している間に何処かで引っ掛け、ここまで引きずられたのだろう。
私がわざわざ回避したことを、綱吉は平気で実行してしまうのだった。
「だっ、大丈夫ですか?」
綱吉が心配そうに声を掛けると、男子生徒は何度か前転してから勢いよく起き上がった。
「聞きしに勝るパワー・スタミナ! そして熱さ!! やはりお前は百年に一人の逸材だ!!」
「は?」
長距離を引きずられても怪我ひとつない耐久性もさることながら、この話の通じなさそうな性格から類を見ないほどの変人だと一瞬で判断した。
できれば関わりたくないタイプだ。
「我が部に入れ、沢田ツナ!!」
「え、なっ、なんでオレの名前……!?」
「お前のハッスルぶりは妹から聞いているからな」
「い……妹?」
始業式がもうすぐ始まるというのに、綱吉と変人が談笑(?)してしまった。
それにしても、私を無視するとは珍しい人だ。
今のうちに先に教室に行ってもいいだろうか、とゆっくり二人から離れようとした時、校門の方から「お兄ちゃーん」と呼ぶ聞き慣れた声がした。
その声の主に変人が「どうしたキョーコ!?」と応じたことで、私はすべてを察したのだった。
「嘘でしょ……」
「もーカバン道に落っことしてたよ!」
思わず零れた感想は、スクールバッグを抱えて走り寄ってくる笹川京子の声でかき消された。
彼女は私達の元に近づくと、ごく自然に変人の隣に立ったのだ。
そして、彼も慣れた手つきで彼女からバッグを受け取っている。
「あ……ツナ君、アゲハちゃん、おはよ!」
京子は普段通りにこやかに、少し離れた私にも目ざとく挨拶した。
声を掛けられたことで、こっそりとこの場を離れるタイミングを失っただけでなく、変人までこちらを振り向いてしまった。
「おお! お前の噂も聞いてるぞ!! 宮野アゲハ!!」
そう叫ぶと(どうしてこうもボリュームが大きいのだろう)、呆然と佇む私に大股で近づき、あろうことか私の右手を取って力強く握りしめた。
仕草がいちいち大仰で認識しにくいが、本人は握手のつもりなのだろう。
「体育で目を見張る成績を残しているそうだな!! 運動神経が人並み外れて素晴らしいと、京子からいつも聞いているぞ!!」
「……そう、京子が」
「ちょっと、お兄ちゃん!」
京子が慌てて私達の間に入り、了平の手を引きはがした。
申し訳なさそうな顔で「ごめんね、アゲハちゃん」と一言残してから、綱吉に向き直った。
「ツナ君も、お兄ちゃんのボクシング談義なんか聞き流していいからね」
「ボクシング……?」
私と綱吉の声が重なった。
すると、乱暴に引き離されたことを気にも留めていない様子で変人が言った。
「そういえば自己紹介がまだだったな」
既に私の脳内では“変人”で定着しているが、彼は構わず拳を握った。
「オレはボクシング部主将、笹川了平!! 座右の銘は“極限”!!」
威嚇するような声量と、威圧するような熱量。
自己紹介というか、熱気を真正面から浴びた気分だ。
そして、名前を聞いて再確認した――彼と京子は兄妹なのだと。
「お前達を部に歓迎するぞ、沢田ツナ! 宮野アゲハ!」
変人、もとい笹川了平は、そう言って綱吉の肩を掴んだ。
――お前“達”?
まさか、私も入っているのか?
「駄目よ、お兄ちゃん。ツナ君達を無理矢理誘っちゃ――」
「無理矢理ではない! だろ……? 沢田、宮野」
「えっ」
「無理矢理よ」
綱吉が言い淀んだ隙に、すかさず訂正した。
このまま黙っていては、わけも分からず頭数に加えられてしまう。
三人分の視線を浴びながら、なるべく熱を持たないように反論した。
「そもそも綱吉はともかく、女の私がボクシング部なんて入部できないと思うけれど」
「心配するな! お前程のポテンシャルなら、性別など問題ではない!!」
心配じゃない、拒否しているんだ。
そして私のポテンシャルは、決してボクシングのためではない。
そう反射的に言い返そうとして、寸前で思いとどまる。
こういうタイプに何を言っても、まともに聞き入れてもらえないのは火を見るより明らかだ。
この場合の相手に流されない最善の策は、意識を他へ逸らすことだ。
「そう……。でも、やっぱり少し抵抗があるわね。もしツナが入部したら、私も前向きに検討できると思うけど」
「そうか! では沢田! 放課後にジムで待つ!! 宮野も来い!!」
了平はそう一方的に約束を取り付けると、綱吉の狼狽など見えていないかのように悠々と去って行った。
彼の中で綱吉に比重が傾いたことを読み取り、内心でガッツポーズを取る。
「ガサツでしょ? あー見えて意外と優しいところもあるんだよ」
兄の後ろ姿を見送りながら、京子が声を弾ませながら語った。
「でも二人ともすごいな。私も嬉しくなっちゃった」
「え?」
「あんな嬉しそうなお兄ちゃん、久し振りに見たもん」
京子に満面の笑みでそう言われたら、綱吉は余計に断れないだろう。
案の定、青ざめて口を開閉させている。
最初はなんて似ていない兄妹だと思ったが、こうやって天然で自分の希望を押し通すところは似通っているかもしれない。
その時、ちょうど予鈴が鳴ったので、私達は教室へ移動することにしたのだが、途中で綱吉が振り返って眉を吊り上げた。
前を歩く京子に聞こえないよう、小声で詰め寄られる。
「なんで京子ちゃんのお兄さんにあんなこと言ったんだよ! オレ入部する気ないぞ!?」
「私もないわよ」
まさか、ボクシングに興味があると思われているのだろうか。
私が人を殴ったら相手を吹っ飛ばすに決まっている――蹴るよりはましかもしれないが。
「だからツナ、何としてでも入部を拒否してね」
綱吉は口をあんぐり開け、聞き逃すくらい小さな声で「勝手な奴……」と言ったのだった。