番外編
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沢田家に居候している少女、宮野アゲハの私生活は依然として謎に包まれている。
同じ生活圏にいるにも関わらず生活感のない大きな要因こそが、最近沢田綱吉が気になっている疑問に直結しているのだった。
――そういえば、アゲハの私服ってどんな感じなんだ?
というのも、綱吉はアゲハと一つ屋根の下で暮らし始めて数か月経つが、寝巻きを除いてスーツか制服を着用している姿しか目撃したことがないのだ。
一度だけ奈々の浴衣を借りていたことがあったが、あれは私服とは呼ばないだろう。
私服とは、たとえば休日に着るようなラフな衣装で、その人物の個性が出る服装のはずだ。
浴衣は勿論、スーツも制服も該当しない。
だから、彼女がどんな系統の服を好むのか、それすら把握していないのだった。
彼女の私服姿を見たいという単純な好奇心もあるが、これを機に宮野アゲハの嗜好を知りたいのだ、たとえどれだけ小さなことでも。
「――てなことを、ツナの奴が言ってたぞ」
「ああそう」
綱吉が入浴している間、リボーンとアゲハは彼の部屋に集まって思い思いに過ごしていたのだが、何の気まぐれか、リボーンが銃の手入れの片手間にそのように語ったのだった。
対するアゲハは雑誌から目を離さずにまるで興味がなさそうだが、構わずリボーンは続けた。
「そーいや、オレもお前の私服姿は見たことねーと思ってな」
「そうでしょうね」
私もないわ、と彼女は言った。
年頃の女子が私服を持っていないことに特に違和感を持っていないようだ。
「そのファッション誌は?」
「暇潰しで見ているだけだから、特に興味はないのよ」
確かに、毎回雑誌のタイトルが変わっているので、拘りがないというのは本当なのだろう。
アゲハ曰く、本屋で目についたものを適当に購入しているのだそうだ。
「その中で、着てみたい服とか」
「別にないわね」
食い気味で一蹴してから、ページを捲る。
それを見たリボーンは、その雑誌を取り上げてゴミ箱に放り投げたい衝動に駆られた。
すると、その苛立ちが通じたのか、煩わしそうに雑誌を閉じて彼に視線を合わせた。
「だって着ていく場がないし」
「休日に着ろ。ただの私服だぞ」
「任務の時は、スーツと決めているのよ」
「だったらお前は年中任務やってんのか」
段々とリボーンの言葉が荒くなっている。
実を言うとこの手の話題は何度か振ったことがあるのだが、毎回全く進展しないのだった。
同級生の女子力に感化されないかと密かに期待しているのだが、それが実現するのは一体いつになるだろうか。
「そもそも、毎日毎日同じ格好って、女子としてどーなんだ。ちったーお洒落を覚えろ」
「……私を女子扱いするのは、地球上で貴方と雅也 君くらいでしょうね」
「ツナもだぞ」
冒頭の綱吉の明け透けな意見を聞いたリボーンは、実は内心どきりとしたのだ。
アゲハがここまで頓着しない理由は、本人の性格だけでなく、これまで誰も指摘しなかったというのが一番大きい。
その原因は、マフィアという特殊な環境だけでは決してない。
絢爛豪華な見目、二つ名、逸話に眩み、宮野アゲハを色眼鏡で見ている――誰もが多かれ少なかれ盲目になっているのだ。
彼女は一括りにしたが、リボーンや九条 雅也と、沢田綱吉は全く事情が違う。
彼らは“全盛期”を知っているからこそ、相対的に現在の彼女を多少人間として見ることができているだけである。
だからこそ、それが無知ゆえだとしても、『アゲハを守る』などと堂々と宣言できる綱吉に期待しているのは、リボーンだけではないのだった。
「どうして、そうも私の服に拘るのよ。私服を見て誰が喜ぶの?」
「九代目に写真でも送ってやれば喜ぶと思うぞ。九代目はお前を実の娘のように可愛がってんだからな」
九代目と聞いて、さすがにアゲハの顔色が変わった。
すると暫く逡巡した後、彼女は携帯電話を取り出した。
「何してんだ?」
「絢芽 に頼んで、適当に私服になりそうなものを持って来てもらうのよ」
「……止めてやれ。これ以上あいつを追い詰めんな」
アゲハを『主様』と称し己の神として信仰する絢芽にとって、無茶振りにも程がある試練となるだろう。
脳の血管が破れるほど悩んだ末に、最終的に神話に出て来そうな衣装か、あるいは日本を意識して巫女服でも用意しそうだ。
「というか、そもそも、貴方も人のこと言えないでしょう。私だって貴方の私服姿見たことないわ」
「コスプレがあるだろ」
「尚のこと私服ではないでしょう」
とはいえ絢芽に頼めば、コスプレと相違ないものを持ってくるという事実に遅ればせながら気づいたようで、渋々携帯電話を仕舞った。
そして、アゲハは気だるそうな流し目でリボーンを見た。
「じゃあ、貴方が選んで」
「……オレか?」
「リボーンが言い出したんでしょう。貴方の趣味でいいから、適当に決めて頂戴。コスプレでなければ何でもいいわ」
とっくにこの話題に飽きていたのだろう、アゲハはそう言い捨てると再び雑誌に戻ってしまった。
その時、タイミングよく綱吉が階段を上る音が近づいてきたため、リボーンも口を閉ざすしかなかった――口元に笑みを携えて。
その様子を視界の端に収めたアゲハは、これがリボーンの望む展開だったことを悟ったが、今の状況がどう彼の利に働くかまでは捉えきれなかった。
綱吉の心中すら理解し損ねた彼女に、リボーンの下心を理解するのは読心術でも不可能だろう。
それぞれの思惑が渦巻いた結果、既に『アゲハの嗜好を知りたい』という当初の目的とはズレてしまっているが、後にリボーンは約束通り、一着の服を選んでアゲハに送ったのだった。
それに彼女が袖を通す日は、近いかもしれない。
乞うご期待
(了)
同じ生活圏にいるにも関わらず生活感のない大きな要因こそが、最近沢田綱吉が気になっている疑問に直結しているのだった。
――そういえば、アゲハの私服ってどんな感じなんだ?
というのも、綱吉はアゲハと一つ屋根の下で暮らし始めて数か月経つが、寝巻きを除いてスーツか制服を着用している姿しか目撃したことがないのだ。
一度だけ奈々の浴衣を借りていたことがあったが、あれは私服とは呼ばないだろう。
私服とは、たとえば休日に着るようなラフな衣装で、その人物の個性が出る服装のはずだ。
浴衣は勿論、スーツも制服も該当しない。
だから、彼女がどんな系統の服を好むのか、それすら把握していないのだった。
彼女の私服姿を見たいという単純な好奇心もあるが、これを機に宮野アゲハの嗜好を知りたいのだ、たとえどれだけ小さなことでも。
「――てなことを、ツナの奴が言ってたぞ」
「ああそう」
綱吉が入浴している間、リボーンとアゲハは彼の部屋に集まって思い思いに過ごしていたのだが、何の気まぐれか、リボーンが銃の手入れの片手間にそのように語ったのだった。
対するアゲハは雑誌から目を離さずにまるで興味がなさそうだが、構わずリボーンは続けた。
「そーいや、オレもお前の私服姿は見たことねーと思ってな」
「そうでしょうね」
私もないわ、と彼女は言った。
年頃の女子が私服を持っていないことに特に違和感を持っていないようだ。
「そのファッション誌は?」
「暇潰しで見ているだけだから、特に興味はないのよ」
確かに、毎回雑誌のタイトルが変わっているので、拘りがないというのは本当なのだろう。
アゲハ曰く、本屋で目についたものを適当に購入しているのだそうだ。
「その中で、着てみたい服とか」
「別にないわね」
食い気味で一蹴してから、ページを捲る。
それを見たリボーンは、その雑誌を取り上げてゴミ箱に放り投げたい衝動に駆られた。
すると、その苛立ちが通じたのか、煩わしそうに雑誌を閉じて彼に視線を合わせた。
「だって着ていく場がないし」
「休日に着ろ。ただの私服だぞ」
「任務の時は、スーツと決めているのよ」
「だったらお前は年中任務やってんのか」
段々とリボーンの言葉が荒くなっている。
実を言うとこの手の話題は何度か振ったことがあるのだが、毎回全く進展しないのだった。
同級生の女子力に感化されないかと密かに期待しているのだが、それが実現するのは一体いつになるだろうか。
「そもそも、毎日毎日同じ格好って、女子としてどーなんだ。ちったーお洒落を覚えろ」
「……私を女子扱いするのは、地球上で貴方と
「ツナもだぞ」
冒頭の綱吉の明け透けな意見を聞いたリボーンは、実は内心どきりとしたのだ。
アゲハがここまで頓着しない理由は、本人の性格だけでなく、これまで誰も指摘しなかったというのが一番大きい。
その原因は、マフィアという特殊な環境だけでは決してない。
絢爛豪華な見目、二つ名、逸話に眩み、宮野アゲハを色眼鏡で見ている――誰もが多かれ少なかれ盲目になっているのだ。
彼女は一括りにしたが、リボーンや
彼らは“全盛期”を知っているからこそ、相対的に現在の彼女を多少人間として見ることができているだけである。
だからこそ、それが無知ゆえだとしても、『アゲハを守る』などと堂々と宣言できる綱吉に期待しているのは、リボーンだけではないのだった。
「どうして、そうも私の服に拘るのよ。私服を見て誰が喜ぶの?」
「九代目に写真でも送ってやれば喜ぶと思うぞ。九代目はお前を実の娘のように可愛がってんだからな」
九代目と聞いて、さすがにアゲハの顔色が変わった。
すると暫く逡巡した後、彼女は携帯電話を取り出した。
「何してんだ?」
「
「……止めてやれ。これ以上あいつを追い詰めんな」
アゲハを『主様』と称し己の神として信仰する絢芽にとって、無茶振りにも程がある試練となるだろう。
脳の血管が破れるほど悩んだ末に、最終的に神話に出て来そうな衣装か、あるいは日本を意識して巫女服でも用意しそうだ。
「というか、そもそも、貴方も人のこと言えないでしょう。私だって貴方の私服姿見たことないわ」
「コスプレがあるだろ」
「尚のこと私服ではないでしょう」
とはいえ絢芽に頼めば、コスプレと相違ないものを持ってくるという事実に遅ればせながら気づいたようで、渋々携帯電話を仕舞った。
そして、アゲハは気だるそうな流し目でリボーンを見た。
「じゃあ、貴方が選んで」
「……オレか?」
「リボーンが言い出したんでしょう。貴方の趣味でいいから、適当に決めて頂戴。コスプレでなければ何でもいいわ」
とっくにこの話題に飽きていたのだろう、アゲハはそう言い捨てると再び雑誌に戻ってしまった。
その時、タイミングよく綱吉が階段を上る音が近づいてきたため、リボーンも口を閉ざすしかなかった――口元に笑みを携えて。
その様子を視界の端に収めたアゲハは、これがリボーンの望む展開だったことを悟ったが、今の状況がどう彼の利に働くかまでは捉えきれなかった。
綱吉の心中すら理解し損ねた彼女に、リボーンの下心を理解するのは読心術でも不可能だろう。
それぞれの思惑が渦巻いた結果、既に『アゲハの嗜好を知りたい』という当初の目的とはズレてしまっているが、後にリボーンは約束通り、一着の服を選んでアゲハに送ったのだった。
それに彼女が袖を通す日は、近いかもしれない。
乞うご期待
(了)