標的13 耳を澄ませて目を凝らせ
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《視点:宮野アゲハ 場所:同庭》
夏休みを満喫しているのは世の学生だけでなく、殺し屋も同じである。
今日のリボーンとビアンキは、庭にビーチチェアとパラソルを持ち込み、まるでプライベートビーチにいるかのような格好で日光浴をしている。
ビアンキにいたってはビキニ姿でチェアに寝転んでいるのだが、普通の家の庭でそれをやると近所からは良識を疑われるに違いない。
綱吉が見たらまた怒るだろうな、と考えながら、縁側に座ってポップコーンを摘まむ。
問題の解法への手段の一つは、出題者の意図を読み解くことである。
九条雅也が何故あんなメールを送ってきたのか。
その理由が分かれば、課題の手がかりになるかもしれないと思ったのだ。
今のところ可能性として考えられるのは、大きく分けて二つである。
一つ目は、私の成長を鑑みた試練であるという可能性だ。
そもそも私を一人前の構成員に教育したのが、他ならぬ雅也君なのである。
一応、彼は私の教育係ということになっていて、私が暴走しないよう見張るのが主たる名目らしく、能力の制御の仕方や対人コミュニケーションをはじめ、組織人として必要なことはほとんど彼に教えてもらった。
今回のメールも、何らかの教育の一環と考えるのが自然ではあるだろう。
そして二つ目が、ただの嫌がらせという可能性である。
無理難題を提示し私を困らせた挙句、悔しさを滲ませながら強制送還されるのを見たいだけ――そんな可能性である。
馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれないが、九条雅也は実はそういう困ったことをよくやる人間なのだ。
時に優しく、時に厳しく私を追い詰めるのが好きなのである。
そのため、最も自然な案は前者だが、最も可能性が高いのは断然後者だと踏んでいる。
こういう嫌がらせをされる時は直前に私が雅也君の気に障ることをした場合が多いのだが、彼の地雷が何処にあるか不明なので対策のしようがない。
嫌がらせの頻度が高すぎて、たまに私の存在自体が地雷なのではと思う時すらある――と、思考が本筋からずれ始めた時、門柱の陰からこちらの様子を窺う人物の気配を感じ取った。
無遠慮な視線と気配は、間違いなく一般人のそれだ。
食い入るように見られているので、さり気なく視線を向けて確認することさえできないが、呼吸の浅さとふとした仕草から出る衣擦れの音を聞く限りでは、恐らく綱吉と同世代くらいの男子だろう。
庭で馬鹿騒ぎしている連中を、近所の人間が興味本位で見学しに来たか咎めに来たか。
一般人は下手に相手をすると面倒なことになるので、あちらが手出ししないうちはなるべく放っておくに限るのだが――血気盛んな“彼女”はそう考えないようだ。
私と同じように外部の存在に気づいたらしいビアンキは、門柱を睨みながら音もなくビーチチェアから身体を起こした。
剣呑な雰囲気を纏いながら庭を出ようとしているが、彼女もまさか一般人に手を出す愚かな真似はしないはずだ。
いざとなればあの女の命を奪う勢いで止めればいいし、構わずに思考を続けよう。
雅也君の意図が教育だとしても嫌がらせだとしても、これだけは確実に言えることがある。
雅也君の課題を解答しなければ、本当に沢田綱吉の護衛を辞めさせられるということだ。
発言は滅茶苦茶で支離滅裂でも、嘘や冗談を言う人ではない。
そして、私に情けや優しさをかけるような甘い人でもない。
あの人の有言実行はある種の呪いのようで、彼が任務から外すと言えば、本当にその通りになる。
彼の有する地位と権力と人望は、それを容易に実現できるのだ。
発言権も決定権も下手をすれば私より強力で、彼の弁舌ならば九代目を説得することも上層部を抱き込むことも朝飯前である。
だから、何としてでも宿題の内容を推理し、期限内に雅也君の望む解答をしなければならないのだ。
たとえ意地悪で無理難題を課したのだとしても、どれほど難易度が高かろうと、必ず問題と解答は存在する。
九条雅也は、嘘は吐かないのだから。
彼の意図がどうであれ、それだけは揺るぎないのなら、私は意地とプライドに賭けて、何としてでも問いと答えを見つけ出す。
任務を途中で放棄しておめおめとイタリアに帰るような屈辱的な真似はしたくないし、それとは別の理由で、今ここを離れるわけにはいかないのだ。
未来のボスを正しく補佐するために、こちらの世界で学びたいことがある。
きっと、それはここでしか得られないものだから。
……そういう話を、以前他でもない雅也君にしたはずなのだが。
やはり、嫌われているのだろうか。
そう考えた直後、聞き覚えのある銃声が劈いた。
「………」
少し前から手榴弾や十年バズーカの爆発音、サブマシンガンの連射音が塀の向こうから聞こえても関与せずにいたが、そろそろ我慢の限界だ。
というか、死ぬ気弾まで使用されてはさすがに無視するわけにいかない。
この家では静かに考え事もできないのか。
まだ例の一般人はこの辺りをうろついているらしく、殺し屋が入り乱れる無法地帯で右往左往している気配がある。
誤って一般人に怪我をさせそうな展開になってきたので、空になったポップコーンのカップを縁側に置き立ち上がった。
そして一息で跳躍して沢田家を囲む塀の上に着地すると、眼下では死ぬ気状態になった綱吉の両頬に追加の弾が撃たれていた。
死ぬ気弾を頬に撃つとにらめっこ弾――綱吉の頬が風船のように何十倍も膨れ上がっていく。
頭身の乱れた綱吉が、毒のホールケーキを携えたビアンキの前に立ち塞がった。
すると、ビアンキは「ムカつく」と言い放ちホールケーキを綱吉の顔面に叩きつけようとして――寸前で手を止めた。
どうやら途中で私の殺気に気づいたらしい。
慌ててこちらを見上げた顔は僅かに青ざめている。
警戒して距離を取るビアンキと綱吉の間に降り立ち、辺りを見回して状況を確認する。
一瞥しただけでも、なかなかカオスだ。
前方にはビキニ姿のビアンキ、後方には頬を肥大化させた綱吉、その更に奥の曲がり角に身を隠しているのはリボーンと十年後のランボ。
そして――
「ん?」
足元を見ると、例の一般人が泡を吹いて仰向けに倒れていた。
夏休みを満喫しているのは世の学生だけでなく、殺し屋も同じである。
今日のリボーンとビアンキは、庭にビーチチェアとパラソルを持ち込み、まるでプライベートビーチにいるかのような格好で日光浴をしている。
ビアンキにいたってはビキニ姿でチェアに寝転んでいるのだが、普通の家の庭でそれをやると近所からは良識を疑われるに違いない。
綱吉が見たらまた怒るだろうな、と考えながら、縁側に座ってポップコーンを摘まむ。
問題の解法への手段の一つは、出題者の意図を読み解くことである。
九条雅也が何故あんなメールを送ってきたのか。
その理由が分かれば、課題の手がかりになるかもしれないと思ったのだ。
今のところ可能性として考えられるのは、大きく分けて二つである。
一つ目は、私の成長を鑑みた試練であるという可能性だ。
そもそも私を一人前の構成員に教育したのが、他ならぬ雅也君なのである。
一応、彼は私の教育係ということになっていて、私が暴走しないよう見張るのが主たる名目らしく、能力の制御の仕方や対人コミュニケーションをはじめ、組織人として必要なことはほとんど彼に教えてもらった。
今回のメールも、何らかの教育の一環と考えるのが自然ではあるだろう。
そして二つ目が、ただの嫌がらせという可能性である。
無理難題を提示し私を困らせた挙句、悔しさを滲ませながら強制送還されるのを見たいだけ――そんな可能性である。
馬鹿馬鹿しく聞こえるかもしれないが、九条雅也は実はそういう困ったことをよくやる人間なのだ。
時に優しく、時に厳しく私を追い詰めるのが好きなのである。
そのため、最も自然な案は前者だが、最も可能性が高いのは断然後者だと踏んでいる。
こういう嫌がらせをされる時は直前に私が雅也君の気に障ることをした場合が多いのだが、彼の地雷が何処にあるか不明なので対策のしようがない。
嫌がらせの頻度が高すぎて、たまに私の存在自体が地雷なのではと思う時すらある――と、思考が本筋からずれ始めた時、門柱の陰からこちらの様子を窺う人物の気配を感じ取った。
無遠慮な視線と気配は、間違いなく一般人のそれだ。
食い入るように見られているので、さり気なく視線を向けて確認することさえできないが、呼吸の浅さとふとした仕草から出る衣擦れの音を聞く限りでは、恐らく綱吉と同世代くらいの男子だろう。
庭で馬鹿騒ぎしている連中を、近所の人間が興味本位で見学しに来たか咎めに来たか。
一般人は下手に相手をすると面倒なことになるので、あちらが手出ししないうちはなるべく放っておくに限るのだが――血気盛んな“彼女”はそう考えないようだ。
私と同じように外部の存在に気づいたらしいビアンキは、門柱を睨みながら音もなくビーチチェアから身体を起こした。
剣呑な雰囲気を纏いながら庭を出ようとしているが、彼女もまさか一般人に手を出す愚かな真似はしないはずだ。
いざとなればあの女の命を奪う勢いで止めればいいし、構わずに思考を続けよう。
雅也君の意図が教育だとしても嫌がらせだとしても、これだけは確実に言えることがある。
雅也君の課題を解答しなければ、本当に沢田綱吉の護衛を辞めさせられるということだ。
発言は滅茶苦茶で支離滅裂でも、嘘や冗談を言う人ではない。
そして、私に情けや優しさをかけるような甘い人でもない。
あの人の有言実行はある種の呪いのようで、彼が任務から外すと言えば、本当にその通りになる。
彼の有する地位と権力と人望は、それを容易に実現できるのだ。
発言権も決定権も下手をすれば私より強力で、彼の弁舌ならば九代目を説得することも上層部を抱き込むことも朝飯前である。
だから、何としてでも宿題の内容を推理し、期限内に雅也君の望む解答をしなければならないのだ。
たとえ意地悪で無理難題を課したのだとしても、どれほど難易度が高かろうと、必ず問題と解答は存在する。
九条雅也は、嘘は吐かないのだから。
彼の意図がどうであれ、それだけは揺るぎないのなら、私は意地とプライドに賭けて、何としてでも問いと答えを見つけ出す。
任務を途中で放棄しておめおめとイタリアに帰るような屈辱的な真似はしたくないし、それとは別の理由で、今ここを離れるわけにはいかないのだ。
未来のボスを正しく補佐するために、こちらの世界で学びたいことがある。
きっと、それはここでしか得られないものだから。
……そういう話を、以前他でもない雅也君にしたはずなのだが。
やはり、嫌われているのだろうか。
そう考えた直後、聞き覚えのある銃声が劈いた。
「………」
少し前から手榴弾や十年バズーカの爆発音、サブマシンガンの連射音が塀の向こうから聞こえても関与せずにいたが、そろそろ我慢の限界だ。
というか、死ぬ気弾まで使用されてはさすがに無視するわけにいかない。
この家では静かに考え事もできないのか。
まだ例の一般人はこの辺りをうろついているらしく、殺し屋が入り乱れる無法地帯で右往左往している気配がある。
誤って一般人に怪我をさせそうな展開になってきたので、空になったポップコーンのカップを縁側に置き立ち上がった。
そして一息で跳躍して沢田家を囲む塀の上に着地すると、眼下では死ぬ気状態になった綱吉の両頬に追加の弾が撃たれていた。
死ぬ気弾を頬に撃つとにらめっこ弾――綱吉の頬が風船のように何十倍も膨れ上がっていく。
頭身の乱れた綱吉が、毒のホールケーキを携えたビアンキの前に立ち塞がった。
すると、ビアンキは「ムカつく」と言い放ちホールケーキを綱吉の顔面に叩きつけようとして――寸前で手を止めた。
どうやら途中で私の殺気に気づいたらしい。
慌ててこちらを見上げた顔は僅かに青ざめている。
警戒して距離を取るビアンキと綱吉の間に降り立ち、辺りを見回して状況を確認する。
一瞥しただけでも、なかなかカオスだ。
前方にはビキニ姿のビアンキ、後方には頬を肥大化させた綱吉、その更に奥の曲がり角に身を隠しているのはリボーンと十年後のランボ。
そして――
「ん?」
足元を見ると、例の一般人が泡を吹いて仰向けに倒れていた。