憂鬱組の家族遊戯
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深夜二時。
草木も眠る丑三つ時――とは言っても、昼夜逆転の吸血鬼にとっては立派に活動する時間帯である。
それは人間の主人に生活リズムを合わせているこの家の吸血鬼達も例外ではない。
この日、既に就寝した在華の部屋に、二人の吸血鬼が気配を殺して侵入してきた。
息を潜めてベッドの前まで辿り着いた椿とべルキアは、安らかな表情で眠る在華の顔をゆっくりと覗き込んだ。
「やばい何この娘寝顔超可愛いんだけど天使か」
「何言ってるのォ、つばきゅんッ! 寝顔なんていッつも見てるんでしょォ?」
椿の感極まった呟きに、すかさずべルキアが突っ込んだ。
在華を起こさないよう、二人とも音量を下げて会話している。
椿はそっとベッド脇に膝をつき、うっとりと在華に顔を近づけた。
仕方ないなァ、と小さく呟いてから、べルキアも椿の隣に座り込む。
「そうなんだけどさ、ベル。いや本当いつ見ても可愛いんだよね。このまま朝まで在華の寝顔見てる?」
「本来の目的見失わないでよォ! これから眠ってるありりんにドッキリ仕掛けるんじゃないのォ?」
「天使の眠りを妨げようって言うの!? そんなの悪魔の所業じゃないか!!」
「ボクらは吸血鬼だよォ! しかも言い出しっぺはつばきゅんだからね? もう、わざわざカメラまで持って来たのにィ~」
「ああ、桜哉に借りた奴ね。……にしてもあの子、なんでこんな本格的なビデオカメラ持ってるんだろうね」
「確かに、ビデオカメラって言うからもっと家庭用を想像してたけど、まさかテレビ局とかで使ってそうなごついカメラが出てくるとは思わなかったねェ」
「壊さないで下さいね。それ、結構高かったんで」
「「うわァッ!!」」
いるはずのない第三者の声に、椿とべルキアが揃って肩を震わせた。
声のした方向を振り返ると、部屋の入り口で、携帯電話を片手に佇む桜哉がいた。
「びっくりした……。こんな時間に何しに来たの、桜哉?」
「その台詞、そっくりそのまま返しますよ。あんたらこそ何やってんすか? もし、在華に何かしようってんなら――」
「目が怖いよ、桜哉。別に夜這いに来たとかじゃないから」
「ボクらは、ありりんに寝起きドッキリしに来たんだよォ!!」
「はあ? ……相変わらず下らないこと考えますね」
桜哉は呆れた顔をしたが、それ以上は特に何も言わず、迷いのない足取りで二人に――在華のベッドに近寄っていく。
「それで、桜哉は何しに来たの?」
「オレは在華の寝顔を写真に収めにきたんですよ。あ、そのビデオカメラ、使わないんなら返して下さい。在華の寝顔撮るんで」
「桜哉ってほんと気持ち悪いよね……」
「アンタには言われたくねえよ」
桜哉は悪態を吐きながら、二人に倣って枕元に腰を下ろした。
スマホのカメラはしっかり在華に向いている。
「そもそも、なんでこんな中途半端な時間に寝起きドッキリなんですか? 寝起きって言うか、真夜中じゃないですか」
「だって、寝起きの超不機嫌な在華に何かしたら、本気で怒られそうじゃない。それなら、寝たばかりで眠りの浅い時間帯の方がまだ危険が少ないかなって」
「そういうもんですか? どの道怒られそうですけど」
「普段も結構過激なことする娘 なのに、最悪の場合僕死ぬかもしれないでしょ? 不死だけど」
「そこまで分かってるならやめとけよ……。つか、マジでドッキリやるんですか?」
「この寝顔を見たら、無理矢理起こす気は失せたよ。だから、他の案を考えよう。在華の睡眠を妨げず、なるべく僕に被害が少ない案を」
「諦めはしないんですね……」
しかも、多少被害に遭うことは覚悟している口振りだ。
桜哉が嘆息すると、椿は何を思ったのか、まじまじと在華を凝視した。
「どうしたのォ、つばきゅん? いい加減ありりんの寝顔は見飽きてよォ~」
「そういうことじゃないよ。これだけ騒がしくしてるのに、この娘 全く起きる気配がないんだよ。一体どれだけ爆睡してるの?」
椿の言葉で、べルキアと桜哉も揃って視線を向けた。
思い返せば、当初は音量に気を遣っていたが、熱が入ったせいで気がつけば普段と変わらない声量で会話している。
しかも、今この場には憂鬱組でもトップクラスに喧しい人達が二人も揃っているのだ。
桜哉ならベッドの近くで無遠慮に人の気配がするだけで目を覚ますのに、こんな環境でも身じろぎ一つせず幸せそうに眠りについている在華の神経の図太さに目を疑った。
椿達にとっては都合が良いが、確かにここまで来ると多少不安になってくる。
「在華の体質は知ってたけど、ここまで起きないとちょっと心配になるよね。ちゃんと生きてる?」
「ありりんって色んな意味で肝が据わってるよねェ~。さすがボクらの主人!」
「何処が眠りが浅いんだよ……。まずドッキリの前に、在華をどうやって起こすかが問題ですね。不思議とケータイのアラームでは起きるみたいですけど」
「あ!! なら、朝ありりんが自然に起きた時に驚く方法にしたら?」
「それいいね、ベル! なら、僕が在華のベッドに潜り込んで朝まで一緒に寝てるってのはどうかな?」
「いや、いつもと同じだろ……」
「今日は人の姿のままで潜り込むよ。それなら在華も多少は驚くだろうし」
それ余計駄目だろ、と桜哉が言う前に、椿はいそいそと掛け布団を捲り始めた。
相変わらず、他人の意見を聞かない人である。
桜哉は堪忍し、どうにでもなれと目を逸らした。
それに、今桜哉が何かしなくても、朝になれば然るべき制裁が下されることだろう。
「でもこれシングルベッドだし、二人で寝るにはさすがに狭いんじゃないですか?」
「在華は寝相いいし、くっついていれば案外大丈夫なんじゃないかな」
「まァ、ありりんもつばきゅんも小柄だしねェ~」
「さらっと失礼なこと言わないで、べルキア。在華はともかく、僕は高身長だから小柄じゃないよ」
「……これ絶対在華に殴られるぞ」
「明日の朝が楽しみだねェ~!」
「在華どういう反応するかな? ……もし在華がキレたら、なるべく早く助けに来てね、二人とも」
――以上が、今朝起床してすぐに椿から聞き出した、昨夜の出来事である。
「なるほど。それで今日は人の姿で寝てたのね」
「……うん」
部屋の床の上で正座する椿の頬には、くっきりと拳の跡が残っている。
震えながら語り終えた椿は、顔色を窺うように上目遣いで私を見た。
「……ドッキリした?」
「したよ。正直心臓が止まるかと思った」
ドッキリ大成功だね、と笑いかけてみたが、椿は顔を引き攣らせるばかりで返事をしない。
ちなみに、部屋のドアに『入ったら朝食抜き』と書いた張り紙をしておいたので、いくら騒いでも助けが来ることはない。
「だから、今度は私の番ね」
ぱきり、と指を鳴らしながら、青ざめる椿に一歩近づいた。
憂鬱組のドッキリ
草木も眠る丑三つ時――とは言っても、昼夜逆転の吸血鬼にとっては立派に活動する時間帯である。
それは人間の主人に生活リズムを合わせているこの家の吸血鬼達も例外ではない。
この日、既に就寝した在華の部屋に、二人の吸血鬼が気配を殺して侵入してきた。
息を潜めてベッドの前まで辿り着いた椿とべルキアは、安らかな表情で眠る在華の顔をゆっくりと覗き込んだ。
「やばい何この娘寝顔超可愛いんだけど天使か」
「何言ってるのォ、つばきゅんッ! 寝顔なんていッつも見てるんでしょォ?」
椿の感極まった呟きに、すかさずべルキアが突っ込んだ。
在華を起こさないよう、二人とも音量を下げて会話している。
椿はそっとベッド脇に膝をつき、うっとりと在華に顔を近づけた。
仕方ないなァ、と小さく呟いてから、べルキアも椿の隣に座り込む。
「そうなんだけどさ、ベル。いや本当いつ見ても可愛いんだよね。このまま朝まで在華の寝顔見てる?」
「本来の目的見失わないでよォ! これから眠ってるありりんにドッキリ仕掛けるんじゃないのォ?」
「天使の眠りを妨げようって言うの!? そんなの悪魔の所業じゃないか!!」
「ボクらは吸血鬼だよォ! しかも言い出しっぺはつばきゅんだからね? もう、わざわざカメラまで持って来たのにィ~」
「ああ、桜哉に借りた奴ね。……にしてもあの子、なんでこんな本格的なビデオカメラ持ってるんだろうね」
「確かに、ビデオカメラって言うからもっと家庭用を想像してたけど、まさかテレビ局とかで使ってそうなごついカメラが出てくるとは思わなかったねェ」
「壊さないで下さいね。それ、結構高かったんで」
「「うわァッ!!」」
いるはずのない第三者の声に、椿とべルキアが揃って肩を震わせた。
声のした方向を振り返ると、部屋の入り口で、携帯電話を片手に佇む桜哉がいた。
「びっくりした……。こんな時間に何しに来たの、桜哉?」
「その台詞、そっくりそのまま返しますよ。あんたらこそ何やってんすか? もし、在華に何かしようってんなら――」
「目が怖いよ、桜哉。別に夜這いに来たとかじゃないから」
「ボクらは、ありりんに寝起きドッキリしに来たんだよォ!!」
「はあ? ……相変わらず下らないこと考えますね」
桜哉は呆れた顔をしたが、それ以上は特に何も言わず、迷いのない足取りで二人に――在華のベッドに近寄っていく。
「それで、桜哉は何しに来たの?」
「オレは在華の寝顔を写真に収めにきたんですよ。あ、そのビデオカメラ、使わないんなら返して下さい。在華の寝顔撮るんで」
「桜哉ってほんと気持ち悪いよね……」
「アンタには言われたくねえよ」
桜哉は悪態を吐きながら、二人に倣って枕元に腰を下ろした。
スマホのカメラはしっかり在華に向いている。
「そもそも、なんでこんな中途半端な時間に寝起きドッキリなんですか? 寝起きって言うか、真夜中じゃないですか」
「だって、寝起きの超不機嫌な在華に何かしたら、本気で怒られそうじゃない。それなら、寝たばかりで眠りの浅い時間帯の方がまだ危険が少ないかなって」
「そういうもんですか? どの道怒られそうですけど」
「普段も結構過激なことする
「そこまで分かってるならやめとけよ……。つか、マジでドッキリやるんですか?」
「この寝顔を見たら、無理矢理起こす気は失せたよ。だから、他の案を考えよう。在華の睡眠を妨げず、なるべく僕に被害が少ない案を」
「諦めはしないんですね……」
しかも、多少被害に遭うことは覚悟している口振りだ。
桜哉が嘆息すると、椿は何を思ったのか、まじまじと在華を凝視した。
「どうしたのォ、つばきゅん? いい加減ありりんの寝顔は見飽きてよォ~」
「そういうことじゃないよ。これだけ騒がしくしてるのに、この
椿の言葉で、べルキアと桜哉も揃って視線を向けた。
思い返せば、当初は音量に気を遣っていたが、熱が入ったせいで気がつけば普段と変わらない声量で会話している。
しかも、今この場には憂鬱組でもトップクラスに喧しい人達が二人も揃っているのだ。
桜哉ならベッドの近くで無遠慮に人の気配がするだけで目を覚ますのに、こんな環境でも身じろぎ一つせず幸せそうに眠りについている在華の神経の図太さに目を疑った。
椿達にとっては都合が良いが、確かにここまで来ると多少不安になってくる。
「在華の体質は知ってたけど、ここまで起きないとちょっと心配になるよね。ちゃんと生きてる?」
「ありりんって色んな意味で肝が据わってるよねェ~。さすがボクらの主人!」
「何処が眠りが浅いんだよ……。まずドッキリの前に、在華をどうやって起こすかが問題ですね。不思議とケータイのアラームでは起きるみたいですけど」
「あ!! なら、朝ありりんが自然に起きた時に驚く方法にしたら?」
「それいいね、ベル! なら、僕が在華のベッドに潜り込んで朝まで一緒に寝てるってのはどうかな?」
「いや、いつもと同じだろ……」
「今日は人の姿のままで潜り込むよ。それなら在華も多少は驚くだろうし」
それ余計駄目だろ、と桜哉が言う前に、椿はいそいそと掛け布団を捲り始めた。
相変わらず、他人の意見を聞かない人である。
桜哉は堪忍し、どうにでもなれと目を逸らした。
それに、今桜哉が何かしなくても、朝になれば然るべき制裁が下されることだろう。
「でもこれシングルベッドだし、二人で寝るにはさすがに狭いんじゃないですか?」
「在華は寝相いいし、くっついていれば案外大丈夫なんじゃないかな」
「まァ、ありりんもつばきゅんも小柄だしねェ~」
「さらっと失礼なこと言わないで、べルキア。在華はともかく、僕は高身長だから小柄じゃないよ」
「……これ絶対在華に殴られるぞ」
「明日の朝が楽しみだねェ~!」
「在華どういう反応するかな? ……もし在華がキレたら、なるべく早く助けに来てね、二人とも」
――以上が、今朝起床してすぐに椿から聞き出した、昨夜の出来事である。
「なるほど。それで今日は人の姿で寝てたのね」
「……うん」
部屋の床の上で正座する椿の頬には、くっきりと拳の跡が残っている。
震えながら語り終えた椿は、顔色を窺うように上目遣いで私を見た。
「……ドッキリした?」
「したよ。正直心臓が止まるかと思った」
ドッキリ大成功だね、と笑いかけてみたが、椿は顔を引き攣らせるばかりで返事をしない。
ちなみに、部屋のドアに『入ったら朝食抜き』と書いた張り紙をしておいたので、いくら騒いでも助けが来ることはない。
「だから、今度は私の番ね」
ぱきり、と指を鳴らしながら、青ざめる椿に一歩近づいた。
憂鬱組のドッキリ