憂鬱組の家族遊戯
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お風呂から上がると真っ先に冷凍庫を開け、何度か角度を変えて中を覗き、見間違いでないことを充分に確認した後、キッチンから包丁を取り出した。
「おい。誰だ、私のアイスを食べた奴は」
出刃包丁の切っ先をリビングで寛ぐ家族達に向け、ドスの効いた声で問い詰めた。
「ちょっと在華、女子高生とは思えない脅し方しないでよ。相手が吸血鬼じゃなかったら結構洒落にならないよ」
「私のダッツに手を出した不届き者に情け容赦は不要だよ。見過ごした奴も同罪。今正直に告発した者は許してやる」
「つばきゅんだよォ」
「椿さんが食ってた」
「椿さんです」
「お嬢ちゃんが風呂に入ってる間に、椿がこっそり食べてたね」
「申し訳ありません、お嬢……! 若に口止めされているので、私の口からは言えません!」
「ちょっと! 仲間を売るのが早いよ皆!!――うわっ」
私の気迫に、本人を除く全員が椿を名指しした。
シャムロックだけは直接告発しなかったものの、あの言い方は犯人を教えているのと同義である。
文句を言いかけた椿は、顔前に包丁をちらつかせることで黙らせた。
「どういうことだよ。なんで私のアイス食べちゃったの?」
「危ないから、とりあえずそれ下ろそうか」
「それより先に、なによりもまず、お前はしなきゃいけないことがあるだろ」
「アイス勝手に食べてごめんなさい」
「うん。まずそれだよね」
とりあえず満足したので、包丁を下ろして椿に手渡した。
椿は受け取りながら、恐ろしいことするなあ、とぼやいた。
反省の色が足りない。
「つか、食われたくなきゃ名前でも書いとけよ」
「……だって、今日学校帰りに椿と買ったものだし。椿の分だって買ってたし」
桜哉の指摘に、弱々しく反論する。
まさか、私のアイスを誰かに盗られるなんて考えもしなかったのだ。
今まで生きてきて、私の所有物に手を出すような命知らずに出会ったことがなかった――まさかそれが家族とは思いもよらなかった。
しかも、単純に間違えただけとは考えづらいのだ。
何故なら、今日の学校帰りに椿とオトギリとコンビニで買ったばかりの品なのである。
さらによく見れば、椿の抹茶アイスは冷凍庫の隅に残っているではないか。
「なんで自分のアイスじゃなくわざわざ私の分を食べたの? 嫌がらせ?」
「間違えたんだよ! ごめんってば!」
椿は包丁をキッチンに戻しつつ、居心地悪そうにそう言った。
抹茶とストロベリーを間違えるようなら、カップに名前を書いてもあまり効果がなさそうだ。
「お嬢。でしたら私が今すぐ買って――」
「いいから黙ってろって」
シャムロックが何か言いかけたのを、桜哉が押し留めた。
椿は誤魔化すようにわざとらしく咳をした。
「とにかく、今からコンビニで新しいの買ってくるから、それで許してよ」
「ん。じゃあ、同じ味のをよろしく。行ってらっしゃい」
「え? 一緒に来てくれないの?」
「行かないよ。夜遅いし、さっきお風呂入ったし、もう部屋着に着替えちゃったし」
「桜哉の上着を借りて羽織れば大丈夫でしょ」
「私が行かなくても、買うアイスは分かってるでしょ?」
「そうだけど、ほら、限界距離があるし」
「コンビニまで片道五分もかからないじゃん」
「えっと……、在華がいないと寂しくて死んじゃうから」
「兎か、お前は」
理由がどんどん雑になっている。
椿は何故か私をコンビニに行かせたがっているようだが、私だってこんな時間に極力出かけたくはない。
両者一歩も譲らず言い合いを続ける――というか、お詫びされる立場なのに、何故こっちが押されているんだろうか。
そんな平行線の話し合いに決着をつけたのは、今まで静観していたベルキアの発言だった。
「そういえば、家の近くのコンビニに行ったら、新作アイスたっくさん出てたよォ! ありりん、折角だからチェックしてくれば?」
「え、マジで?」
しまった、思わず反応してしまった。
私の勢いが止まったのを好機とばかりに椿が畳み掛けた。
「そうそう! それに一緒に来てくれたら、アイス好きなだけ選んでいいから!」
「えっ!」
耳を疑うような魅力的な提案に、私の気持ちが大きく揺らいだ。
「……好きなだけ?」
「好きなだけ」
念を押して尋ねると、椿は力強く頷いた。
この瞬間、私の心は決まった。
「桜哉、そのジャージ貸して」
「はいはい」
桜哉は着ている上着を脱ぎ、ひょいと投げて寄越した。
受け取ったそれを羽織り、チャックを閉める。
サイズが大きいので、いい感じに部屋着を覆い隠してくれた。
近所のコンビニに行く程度なら、まあ及第点だろう。
「それじゃ、行って来るね」
「あはっ。じゃあ行こう、気が変わらないうちに早く行こう」
「……いいけど、なんでそんなに喜んでるの? たかがコンビニに行くだけなのに」
スキップしかねないほど浮かれた様子でリビングを出て行こうとする椿の背中に、ベルキアと桜哉が声を掛けた。
「つばきゅん、お礼はダッツのマンゴー味でいいよォ!」
「オレはモナカアイスでお願いします」
「うっ……、分かったよ。高くつくなあ」
「……? 『お礼』って何のこと?」
「在華は気にしなくていいよ」
ちなみに、私達が家を出た後、こんな会話があったらしい。
「つばきゅんってば、ありりんと二人で出掛けたいなら、最初からそう言えばいいのにねェ~」
「ほんと面倒臭い人だな」
「椿はお嬢ちゃんの気を引くのに必死だね」
「でも、そのたびに包丁を突き付けられるのは困ります」
「なるほど……そういうことだったのか」
「……シャムロックは本当に気づいてなかったのか」
椿の口実
「おい。誰だ、私のアイスを食べた奴は」
出刃包丁の切っ先をリビングで寛ぐ家族達に向け、ドスの効いた声で問い詰めた。
「ちょっと在華、女子高生とは思えない脅し方しないでよ。相手が吸血鬼じゃなかったら結構洒落にならないよ」
「私のダッツに手を出した不届き者に情け容赦は不要だよ。見過ごした奴も同罪。今正直に告発した者は許してやる」
「つばきゅんだよォ」
「椿さんが食ってた」
「椿さんです」
「お嬢ちゃんが風呂に入ってる間に、椿がこっそり食べてたね」
「申し訳ありません、お嬢……! 若に口止めされているので、私の口からは言えません!」
「ちょっと! 仲間を売るのが早いよ皆!!――うわっ」
私の気迫に、本人を除く全員が椿を名指しした。
シャムロックだけは直接告発しなかったものの、あの言い方は犯人を教えているのと同義である。
文句を言いかけた椿は、顔前に包丁をちらつかせることで黙らせた。
「どういうことだよ。なんで私のアイス食べちゃったの?」
「危ないから、とりあえずそれ下ろそうか」
「それより先に、なによりもまず、お前はしなきゃいけないことがあるだろ」
「アイス勝手に食べてごめんなさい」
「うん。まずそれだよね」
とりあえず満足したので、包丁を下ろして椿に手渡した。
椿は受け取りながら、恐ろしいことするなあ、とぼやいた。
反省の色が足りない。
「つか、食われたくなきゃ名前でも書いとけよ」
「……だって、今日学校帰りに椿と買ったものだし。椿の分だって買ってたし」
桜哉の指摘に、弱々しく反論する。
まさか、私のアイスを誰かに盗られるなんて考えもしなかったのだ。
今まで生きてきて、私の所有物に手を出すような命知らずに出会ったことがなかった――まさかそれが家族とは思いもよらなかった。
しかも、単純に間違えただけとは考えづらいのだ。
何故なら、今日の学校帰りに椿とオトギリとコンビニで買ったばかりの品なのである。
さらによく見れば、椿の抹茶アイスは冷凍庫の隅に残っているではないか。
「なんで自分のアイスじゃなくわざわざ私の分を食べたの? 嫌がらせ?」
「間違えたんだよ! ごめんってば!」
椿は包丁をキッチンに戻しつつ、居心地悪そうにそう言った。
抹茶とストロベリーを間違えるようなら、カップに名前を書いてもあまり効果がなさそうだ。
「お嬢。でしたら私が今すぐ買って――」
「いいから黙ってろって」
シャムロックが何か言いかけたのを、桜哉が押し留めた。
椿は誤魔化すようにわざとらしく咳をした。
「とにかく、今からコンビニで新しいの買ってくるから、それで許してよ」
「ん。じゃあ、同じ味のをよろしく。行ってらっしゃい」
「え? 一緒に来てくれないの?」
「行かないよ。夜遅いし、さっきお風呂入ったし、もう部屋着に着替えちゃったし」
「桜哉の上着を借りて羽織れば大丈夫でしょ」
「私が行かなくても、買うアイスは分かってるでしょ?」
「そうだけど、ほら、限界距離があるし」
「コンビニまで片道五分もかからないじゃん」
「えっと……、在華がいないと寂しくて死んじゃうから」
「兎か、お前は」
理由がどんどん雑になっている。
椿は何故か私をコンビニに行かせたがっているようだが、私だってこんな時間に極力出かけたくはない。
両者一歩も譲らず言い合いを続ける――というか、お詫びされる立場なのに、何故こっちが押されているんだろうか。
そんな平行線の話し合いに決着をつけたのは、今まで静観していたベルキアの発言だった。
「そういえば、家の近くのコンビニに行ったら、新作アイスたっくさん出てたよォ! ありりん、折角だからチェックしてくれば?」
「え、マジで?」
しまった、思わず反応してしまった。
私の勢いが止まったのを好機とばかりに椿が畳み掛けた。
「そうそう! それに一緒に来てくれたら、アイス好きなだけ選んでいいから!」
「えっ!」
耳を疑うような魅力的な提案に、私の気持ちが大きく揺らいだ。
「……好きなだけ?」
「好きなだけ」
念を押して尋ねると、椿は力強く頷いた。
この瞬間、私の心は決まった。
「桜哉、そのジャージ貸して」
「はいはい」
桜哉は着ている上着を脱ぎ、ひょいと投げて寄越した。
受け取ったそれを羽織り、チャックを閉める。
サイズが大きいので、いい感じに部屋着を覆い隠してくれた。
近所のコンビニに行く程度なら、まあ及第点だろう。
「それじゃ、行って来るね」
「あはっ。じゃあ行こう、気が変わらないうちに早く行こう」
「……いいけど、なんでそんなに喜んでるの? たかがコンビニに行くだけなのに」
スキップしかねないほど浮かれた様子でリビングを出て行こうとする椿の背中に、ベルキアと桜哉が声を掛けた。
「つばきゅん、お礼はダッツのマンゴー味でいいよォ!」
「オレはモナカアイスでお願いします」
「うっ……、分かったよ。高くつくなあ」
「……? 『お礼』って何のこと?」
「在華は気にしなくていいよ」
ちなみに、私達が家を出た後、こんな会話があったらしい。
「つばきゅんってば、ありりんと二人で出掛けたいなら、最初からそう言えばいいのにねェ~」
「ほんと面倒臭い人だな」
「椿はお嬢ちゃんの気を引くのに必死だね」
「でも、そのたびに包丁を突き付けられるのは困ります」
「なるほど……そういうことだったのか」
「……シャムロックは本当に気づいてなかったのか」
椿の口実