憂鬱組の家族遊戯
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オトギリの注意以降大人しく箸を動かしていた椿だったが、暫くして再び私に不満を漏らし始めた。
「全く、在華はもう少し僕に感謝の気持ちを持った方がいいよ。吸血鬼が無理して朝起こしてあげてるんだから」
「ベッドに潜り込んでいたことは数え切れないけど、起こされたことは一度もないよ」
毎夜ひっそりと忍び込んで、朝まで静かに眠っているのである。
しかもシングルベッドなので、人型では寝るスペースがないため、狐の姿に化けているのだ。
お互い一人で寝た方が絶対に快適だと思う。
「別にわざわざ起きなくてもいいよ。寝てても狐姿の椿を鞄に詰め込んで学校行くから」
「言葉の端々に僕への扱いの粗雑さが出てるよ、在華」
「皆も、無理して私の生活習慣に合わせなくてもいいからね。吸血鬼がどれだけ朝弱いか分からないけど」
箸を止めて、テーブルを囲む彼らを見回した。
彼らは毎日当然のように一緒にいてくれるが、それが吸血鬼にとって“普通”のことなのか私には判別できない。
ただ、この当然の優しさに甘えてすぎてはいけないのだと思う――椿に言われるまでもなく。
「元々一人暮らしだったから家のことは大抵一人でできるし、朝食だって自分で用意できるし」
「在華」
言葉の途中で、椿に名前を呼ばれた。
椿の顔を凝視すると、サングラスの奥で優しい光を宿した瞳が見えた。
「心配しなくていいよ。僕らは好きでやってるんだから。在華が好きでやってるんだから。家族でしょ」
椿はそれが当然のことであるかのように、公然の事実を確認するかのように言ってくれるが、私は“家族”がどんなものかを知らない。
世間一般の家族がどういう会話をするのか、同じ屋根の下でどんな風に過ごすのか、経験として知る機会がなかった。
だから椿と契約した後は、まるでお遊戯のように、私の想像する家族像を演じてきたのだが、こういう時は何と返せばいいのだろうか。
「……朝食作ってくれるのは嬉しいし、こうして皆でご飯食べるのは楽しいと思ってる。だから、いつもありがとう」
言い終えてから照れくさくなって、咄嗟に俯いた。
なんとなく椿の顔を見ていたら、正直に気持ちを伝えた方がいい気がしたのでそうしたが、これは本当に正しいのだろうか。
家族って、朝食でこんな恥ずかしい思いするの?
すると、がたんッ、と椿が椅子から勢いよく立ち上がった。
「ねえ、今の聞いた? 在華がデレたよ! 超可愛い!」
「……は?」
予想外の反応に、一瞬遅れて間の抜けた声が出た。
状況を理解するより早く、横から椿に抱きつかれた。
「何、ちょっと重いんだけど……!」
「在華のそういう素直なところ大好きだよ。照れた顔も最高に可愛かったし。写真撮っとけば良かったなあ」
「久々のデレだったねェ~」
「在華、可愛いです」
「お嬢……、そこまで私達のことを思って下さっているなんて……!」
椿の腕の中でもがいている間に、周囲から口々に好き勝手なことを言われている。
唯一桜哉だけが無反応で携帯を弄っている。
「――って、桜哉は何してるの?」
「ん? さっきの在華の貴重なデレを着ボイスに設定してる」
「何その嫌がらせ!」
いつの間に録音してたの?
そもそもなんで録音したの!?
「あっ、桜哉、それ僕にもちょうだい」
「拡散しないで! 恥ずかしいから!!」
「オジサンもお嬢ちゃんの着ボイス欲しいなあ」
「じゃあ一斉送信しときますね」
「止めろ!!」
いっそ送信される前に携帯を破壊しようかと図っていると、桜哉はひょいと右手を頭上に伸ばし、携帯を私から遠ざけた。
「データはクラウドに転送したから、消しても無駄だぞ」
「対応が早すぎる! てか椿、邪魔!」
なんとか桜哉から携帯を奪おうとするものの、椿の腕が絡みついて思うように動けない。
それでも必死に藻掻いていると、ヒガンが声を掛けてきた。
「お嬢ちゃんお嬢ちゃん」
「今度は何!?」
「いや、時間大丈夫かなって思ってね。そろそろ家を出ないと遅刻するんじゃない?」
ヒガンの言葉に、周囲の空気が止まった。
固まる首を無理矢理動かして時計を確認すると、普段家を出る時刻をとっくに過ぎていた。
さっと身体から血の気が引いた。
「やっば! 椿、ほんとに離して!!」
「えー、しょうがないなあ」
「お嬢! 鞄をお持ちしました!」
「ありがとう、シャム! オトギリ、準備できてる?」
「はい。在華待ちです」
「ごめん! 今行く!」
ばたばたと慌ただしく準備を整えてリビングを出ると、玄関でオトギリがスタンバイしていた。
靴を履き終えたタイミングで、狐に変身した椿が肩に飛び乗った。
「じゃあ――行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ベルキア、桜哉、シャムロック、ヒガンの留守番組が声を揃えて返してくれた。
家族に見送られ、家族と共に私の一日は始まる。
憂鬱組の朝食風景
「全く、在華はもう少し僕に感謝の気持ちを持った方がいいよ。吸血鬼が無理して朝起こしてあげてるんだから」
「ベッドに潜り込んでいたことは数え切れないけど、起こされたことは一度もないよ」
毎夜ひっそりと忍び込んで、朝まで静かに眠っているのである。
しかもシングルベッドなので、人型では寝るスペースがないため、狐の姿に化けているのだ。
お互い一人で寝た方が絶対に快適だと思う。
「別にわざわざ起きなくてもいいよ。寝てても狐姿の椿を鞄に詰め込んで学校行くから」
「言葉の端々に僕への扱いの粗雑さが出てるよ、在華」
「皆も、無理して私の生活習慣に合わせなくてもいいからね。吸血鬼がどれだけ朝弱いか分からないけど」
箸を止めて、テーブルを囲む彼らを見回した。
彼らは毎日当然のように一緒にいてくれるが、それが吸血鬼にとって“普通”のことなのか私には判別できない。
ただ、この当然の優しさに甘えてすぎてはいけないのだと思う――椿に言われるまでもなく。
「元々一人暮らしだったから家のことは大抵一人でできるし、朝食だって自分で用意できるし」
「在華」
言葉の途中で、椿に名前を呼ばれた。
椿の顔を凝視すると、サングラスの奥で優しい光を宿した瞳が見えた。
「心配しなくていいよ。僕らは好きでやってるんだから。在華が好きでやってるんだから。家族でしょ」
椿はそれが当然のことであるかのように、公然の事実を確認するかのように言ってくれるが、私は“家族”がどんなものかを知らない。
世間一般の家族がどういう会話をするのか、同じ屋根の下でどんな風に過ごすのか、経験として知る機会がなかった。
だから椿と契約した後は、まるでお遊戯のように、私の想像する家族像を演じてきたのだが、こういう時は何と返せばいいのだろうか。
「……朝食作ってくれるのは嬉しいし、こうして皆でご飯食べるのは楽しいと思ってる。だから、いつもありがとう」
言い終えてから照れくさくなって、咄嗟に俯いた。
なんとなく椿の顔を見ていたら、正直に気持ちを伝えた方がいい気がしたのでそうしたが、これは本当に正しいのだろうか。
家族って、朝食でこんな恥ずかしい思いするの?
すると、がたんッ、と椿が椅子から勢いよく立ち上がった。
「ねえ、今の聞いた? 在華がデレたよ! 超可愛い!」
「……は?」
予想外の反応に、一瞬遅れて間の抜けた声が出た。
状況を理解するより早く、横から椿に抱きつかれた。
「何、ちょっと重いんだけど……!」
「在華のそういう素直なところ大好きだよ。照れた顔も最高に可愛かったし。写真撮っとけば良かったなあ」
「久々のデレだったねェ~」
「在華、可愛いです」
「お嬢……、そこまで私達のことを思って下さっているなんて……!」
椿の腕の中でもがいている間に、周囲から口々に好き勝手なことを言われている。
唯一桜哉だけが無反応で携帯を弄っている。
「――って、桜哉は何してるの?」
「ん? さっきの在華の貴重なデレを着ボイスに設定してる」
「何その嫌がらせ!」
いつの間に録音してたの?
そもそもなんで録音したの!?
「あっ、桜哉、それ僕にもちょうだい」
「拡散しないで! 恥ずかしいから!!」
「オジサンもお嬢ちゃんの着ボイス欲しいなあ」
「じゃあ一斉送信しときますね」
「止めろ!!」
いっそ送信される前に携帯を破壊しようかと図っていると、桜哉はひょいと右手を頭上に伸ばし、携帯を私から遠ざけた。
「データはクラウドに転送したから、消しても無駄だぞ」
「対応が早すぎる! てか椿、邪魔!」
なんとか桜哉から携帯を奪おうとするものの、椿の腕が絡みついて思うように動けない。
それでも必死に藻掻いていると、ヒガンが声を掛けてきた。
「お嬢ちゃんお嬢ちゃん」
「今度は何!?」
「いや、時間大丈夫かなって思ってね。そろそろ家を出ないと遅刻するんじゃない?」
ヒガンの言葉に、周囲の空気が止まった。
固まる首を無理矢理動かして時計を確認すると、普段家を出る時刻をとっくに過ぎていた。
さっと身体から血の気が引いた。
「やっば! 椿、ほんとに離して!!」
「えー、しょうがないなあ」
「お嬢! 鞄をお持ちしました!」
「ありがとう、シャム! オトギリ、準備できてる?」
「はい。在華待ちです」
「ごめん! 今行く!」
ばたばたと慌ただしく準備を整えてリビングを出ると、玄関でオトギリがスタンバイしていた。
靴を履き終えたタイミングで、狐に変身した椿が肩に飛び乗った。
「じゃあ――行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ベルキア、桜哉、シャムロック、ヒガンの留守番組が声を揃えて返してくれた。
家族に見送られ、家族と共に私の一日は始まる。
憂鬱組の朝食風景