憂鬱組の家族遊戯
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七人も住んでいる我が家の朝は騒がしい。
電車通学のため早朝に起動するよう設定した携帯電話のアラームを止め、寝ぼけ眼で身体を起こした。
すると、ころん、と何かがベッドの上を転がった。
視認せずとも、その感触だけで“それ”が何かを理解する――理解した途端に目が覚めた。
ため息を吐きながら、一見狐を模したぬいぐるみに見えるそいつをじっとりと睨みつけた。
「……何してんの、椿」
「おはよう、在華」
ベッドの上で仰向けに寝転がる“そいつ”に向けて言うと、観念したようにのっそりと上半身を起こした。
彼こそが、私が契約した吸血鬼である。
八番目の真祖、“憂鬱”のサーヴァンプ。
通り名は“招かれざる八番目 ”、名前は椿。
黒い狐に変身できる和服姿の吸血鬼。
その戦闘力は真祖の中でもトップクラスで、彼の下位吸血鬼達からも絶大な信頼を得ている――ただし、残念ながらこの家ではその威厳を保てていない。
「おはよう。で、何してんのって訊いたんだけど。なんでまた私のベッドに入って来てんの?」
低い声で問うと、椿はあざとく首を傾げた。
腹の立つことに、この狐は自分が可愛く映る仕草を熟知している。
誤解されないように注釈しておくと、この家では彼を含め全員にそれぞれ一人部屋を与えているのだ。
椿と相部屋ではないし、寝る時は確かに一人だった。
なのに、毎朝起きるとベッドに入り込んでいる。
意味が分からない。
「……いつからいたの?」
「在華が眠って十分後くらいかな」
「序盤じゃねえか」
「在華って熟睡型だから、何があっても絶対に朝まで起きないんだよね。たまに心配になるよ」
私の追及を受け流し、ふてぶてしくそんな台詞を吐く椿。
ちゃっかり人の体質を利用しておきながら、どの口がそれを言うのか。
「だから、不埒な輩が在華に何もしないように、僕が毎晩こうして警護してるんだよ」
「じゃあベッドの周りの防犯システム強化しようかな。また不埒な輩が潜り込まないように」
ベッドから立ち上がってそう吐き捨てると、えー、と不服そうな声を出された。
自分の行為が不当であるという自覚は一応あるらしい。
「……あのさあ、なんで毎回私のベッドに入ってくるの? ちゃんと自分の布団があるでしょ」
しかも、羽毛百パーセントでないと眠れないという文句を聞き入れて、わざわざ彼のために発注した布団なのだ。
使わないのなら勿体ない。
「人恋しいんだよ」
「じゃあべルキアとでも寝なよ」
「やだよ。ベルってば寝相悪いんだもん。その点在華はいいよね。朝までほとんど動かないから」
自分の寝相がいいのをこれほど悔やんだことはない。
寝返りでこいつを潰せないかな。
とはいえ、本気で対策を考えるほど実害はないので、半ば諦めている今日この頃である。
それに、女子高生の朝は忙しいのだ。
人のベッドの上で寛ぎ始めた椿を放置し、クローゼットから制服を取り出した。
「じゃあ、私着替えるから」
「うん。いいよ」
「……いや、だから着替えるんだけど」
「うん」
狐姿でちょこんとベッドの縁に座り、こちらに視線を送っている。
重ねて忠告したのに、動こうとする気配が全くない――うんじゃねえよ。
話し合いを諦めた私は、一旦制服をテーブルの上に置いて、椿に向き合った。
そして目を丸くする椿の頭を容赦なく掴むと、無言でドアの方へ歩いた。
「え、在華? 何なに、どうしたの?」
手元で椿が騒いでいるが、耳を貸さずにドアノブに手を掛けた。
今私がしようとしている行為は、ともすれば動物愛護団体に非難される類のものだが、生憎彼は不死身の吸血鬼である。
おまけに人の着替えを覗こうとする変態である。
ドアを開けて椿を廊下の外へ投げ捨てた後、すぐさまドアを閉めた。
扉一枚挟んで椿の悲鳴と何かが壁にぶつかったような音がしたが、気にせず着替えを始めた。
憂鬱組の起床
電車通学のため早朝に起動するよう設定した携帯電話のアラームを止め、寝ぼけ眼で身体を起こした。
すると、ころん、と何かがベッドの上を転がった。
視認せずとも、その感触だけで“それ”が何かを理解する――理解した途端に目が覚めた。
ため息を吐きながら、一見狐を模したぬいぐるみに見えるそいつをじっとりと睨みつけた。
「……何してんの、椿」
「おはよう、在華」
ベッドの上で仰向けに寝転がる“そいつ”に向けて言うと、観念したようにのっそりと上半身を起こした。
彼こそが、私が契約した吸血鬼である。
八番目の真祖、“憂鬱”のサーヴァンプ。
通り名は“
黒い狐に変身できる和服姿の吸血鬼。
その戦闘力は真祖の中でもトップクラスで、彼の下位吸血鬼達からも絶大な信頼を得ている――ただし、残念ながらこの家ではその威厳を保てていない。
「おはよう。で、何してんのって訊いたんだけど。なんでまた私のベッドに入って来てんの?」
低い声で問うと、椿はあざとく首を傾げた。
腹の立つことに、この狐は自分が可愛く映る仕草を熟知している。
誤解されないように注釈しておくと、この家では彼を含め全員にそれぞれ一人部屋を与えているのだ。
椿と相部屋ではないし、寝る時は確かに一人だった。
なのに、毎朝起きるとベッドに入り込んでいる。
意味が分からない。
「……いつからいたの?」
「在華が眠って十分後くらいかな」
「序盤じゃねえか」
「在華って熟睡型だから、何があっても絶対に朝まで起きないんだよね。たまに心配になるよ」
私の追及を受け流し、ふてぶてしくそんな台詞を吐く椿。
ちゃっかり人の体質を利用しておきながら、どの口がそれを言うのか。
「だから、不埒な輩が在華に何もしないように、僕が毎晩こうして警護してるんだよ」
「じゃあベッドの周りの防犯システム強化しようかな。また不埒な輩が潜り込まないように」
ベッドから立ち上がってそう吐き捨てると、えー、と不服そうな声を出された。
自分の行為が不当であるという自覚は一応あるらしい。
「……あのさあ、なんで毎回私のベッドに入ってくるの? ちゃんと自分の布団があるでしょ」
しかも、羽毛百パーセントでないと眠れないという文句を聞き入れて、わざわざ彼のために発注した布団なのだ。
使わないのなら勿体ない。
「人恋しいんだよ」
「じゃあべルキアとでも寝なよ」
「やだよ。ベルってば寝相悪いんだもん。その点在華はいいよね。朝までほとんど動かないから」
自分の寝相がいいのをこれほど悔やんだことはない。
寝返りでこいつを潰せないかな。
とはいえ、本気で対策を考えるほど実害はないので、半ば諦めている今日この頃である。
それに、女子高生の朝は忙しいのだ。
人のベッドの上で寛ぎ始めた椿を放置し、クローゼットから制服を取り出した。
「じゃあ、私着替えるから」
「うん。いいよ」
「……いや、だから着替えるんだけど」
「うん」
狐姿でちょこんとベッドの縁に座り、こちらに視線を送っている。
重ねて忠告したのに、動こうとする気配が全くない――うんじゃねえよ。
話し合いを諦めた私は、一旦制服をテーブルの上に置いて、椿に向き合った。
そして目を丸くする椿の頭を容赦なく掴むと、無言でドアの方へ歩いた。
「え、在華? 何なに、どうしたの?」
手元で椿が騒いでいるが、耳を貸さずにドアノブに手を掛けた。
今私がしようとしている行為は、ともすれば動物愛護団体に非難される類のものだが、生憎彼は不死身の吸血鬼である。
おまけに人の着替えを覗こうとする変態である。
ドアを開けて椿を廊下の外へ投げ捨てた後、すぐさまドアを閉めた。
扉一枚挟んで椿の悲鳴と何かが壁にぶつかったような音がしたが、気にせず着替えを始めた。
憂鬱組の起床