憂鬱組の家族遊戯
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ベルキアの長い指がソファの後ろから伸びて、私のケータイを取り上げた。
「ねェねェありりん! 暇じゃない? ゲームしよーよォ~」
「……暇じゃなかったんだけどね。まあいいや、ゲームって何?」
ソファの背に体重をかけて背後を振り向くと、ベルキアはシルクハットの内側にケータイを放り込んで被り直した――人のケータイをマジックで消すな。
重要なメールを作成している最中だったので、ゲーム終了後に速やかに返却されることを願う。
「ズバリ! 古今東西ゲーム!! つばきゅんのいいとこ古今東西~」
「何そのゲーム。気持ち悪っ!」
なんで本人不在の状況で(いても嫌だけど)、そんな椿しか喜ばないようなふざけたゲームをしなきゃいけないんだ。
というか誰だ、そんなゲーム考案したの。
「ボクら下位の間でやってたゲームなんだけど、つばきゅんがどうしてもありりんに訊いて来いってうるさくてさァ~」
「………」
ドアに冷たい視線を向けると、数分前にリビングから出て行ったはずの椿がバツの悪そうな表情で姿を現した。
ため息と共に「……何してんの」と低い声で言うと、そっと目を逸らされた。
そういえば、少し前から椿は不自然にそわそわしていたし、椿が席を立ってからベルキアが自身のケータイを見て眉を顰めていたのを思い出した。
「ベルにメールで頼んだの? なんでそんな面倒臭いこと……」
「だって、直接僕のいいところ挙げてって迫ったら、絶対ウザいとかキモいとか言うでしょ?」
「直接じゃなくてもウザいしキモいよ」
そこまで予測できたなら自重してほしい。
父親と年頃の娘みたいだな、と桜哉が感想を漏らした。
「じゃあゲームじゃなくていいから、僕のいいところ百個言って!」
「んな無茶な……」
提案が無茶苦茶だという意味で言ったのだが、それを聞いた椿は絶望的な顔をした。
「え……、僕のいいところ、ないの……?」
「ちょっとォ、ありりん! 一個くらいあるでしょォ!? なくても適当に言ってあげて!」
「いやそういう意味じゃなくて……」
どう伝えようか言い淀んでいる隙に、椿は大股で詰め寄ると、私と桜哉の間に割り込むように腰を下ろした。
ソファは三人座っても充分余裕がある広さなのに、椿の身体が密着するほど近い。
「じゃあ言って。あるよね?」
威圧するように、整った顔が更に数センチの距離まで近づいた。
纏うオーラは威厳ある真祖のものだが、これは多分怒っているというより拗ねている。
折角の休日にこんな辱めを受けるのはやっぱり納得いかないものの、仕方なく当たり障りのない意見でこの場をやり過ごすことに決めた。
「えーっと、じゃあ……扱いやすいところ?」
「一緒にいて気が楽? 在華らしい褒め言葉だね。ありがとう」
「すげー曲解だな」
椿の陰から、桜哉の呟きが聞こえた。
しかし、椿本人がその答えで満足そうなので無視しておく。
「他には?」
「えっ、他? ……よく奢ってくれるところ」
「うんうん。優しいところね。あとは?」
「な……殴り心地がいい、とか?」
「包容力がある、かあ。なるほどね。もう一声!」
「うーん……、狐姿だと持ち運びが便利かな」
「ずっと一緒にいたいくらい好き、だって! 在華ってば大胆だなあ」
「一言もんなこと言ってねーけど!?」
一連の流れに堪え切れず、とうとう桜哉が叫んだ。
桜哉が突っ込んでくれなかったら、私が言っていただろう。
「あんなんでいいのォ? つばきゅん」
「分かってないなあ、ベルキア。在華はツンデレなんだから、ちゃんとデレを分かってあげないと」
「………」
絶句したベルキアは、こっそり私の耳元に顔を寄せて声を潜めた。
「ほらァ、ありりんが普段から塩対応だから、つばきゅんが可哀想な奴みたいになっちゃってんジャン!」
「……まあ、確かに『殴り心地がいい』は自分でもないなと思ったけどさ。でも、分かってるならいいじゃん」
「分かってる?」
ベルキアが首を傾げた。
――一緒にいて気が楽。
――優しいところ。
――包容力がある。
――ずっと一緒にいたいくらい好き。
言わなくても分かっているならいいじゃないか。
憂鬱組のゲーム
「ねェねェありりん! 暇じゃない? ゲームしよーよォ~」
「……暇じゃなかったんだけどね。まあいいや、ゲームって何?」
ソファの背に体重をかけて背後を振り向くと、ベルキアはシルクハットの内側にケータイを放り込んで被り直した――人のケータイをマジックで消すな。
重要なメールを作成している最中だったので、ゲーム終了後に速やかに返却されることを願う。
「ズバリ! 古今東西ゲーム!! つばきゅんのいいとこ古今東西~」
「何そのゲーム。気持ち悪っ!」
なんで本人不在の状況で(いても嫌だけど)、そんな椿しか喜ばないようなふざけたゲームをしなきゃいけないんだ。
というか誰だ、そんなゲーム考案したの。
「ボクら下位の間でやってたゲームなんだけど、つばきゅんがどうしてもありりんに訊いて来いってうるさくてさァ~」
「………」
ドアに冷たい視線を向けると、数分前にリビングから出て行ったはずの椿がバツの悪そうな表情で姿を現した。
ため息と共に「……何してんの」と低い声で言うと、そっと目を逸らされた。
そういえば、少し前から椿は不自然にそわそわしていたし、椿が席を立ってからベルキアが自身のケータイを見て眉を顰めていたのを思い出した。
「ベルにメールで頼んだの? なんでそんな面倒臭いこと……」
「だって、直接僕のいいところ挙げてって迫ったら、絶対ウザいとかキモいとか言うでしょ?」
「直接じゃなくてもウザいしキモいよ」
そこまで予測できたなら自重してほしい。
父親と年頃の娘みたいだな、と桜哉が感想を漏らした。
「じゃあゲームじゃなくていいから、僕のいいところ百個言って!」
「んな無茶な……」
提案が無茶苦茶だという意味で言ったのだが、それを聞いた椿は絶望的な顔をした。
「え……、僕のいいところ、ないの……?」
「ちょっとォ、ありりん! 一個くらいあるでしょォ!? なくても適当に言ってあげて!」
「いやそういう意味じゃなくて……」
どう伝えようか言い淀んでいる隙に、椿は大股で詰め寄ると、私と桜哉の間に割り込むように腰を下ろした。
ソファは三人座っても充分余裕がある広さなのに、椿の身体が密着するほど近い。
「じゃあ言って。あるよね?」
威圧するように、整った顔が更に数センチの距離まで近づいた。
纏うオーラは威厳ある真祖のものだが、これは多分怒っているというより拗ねている。
折角の休日にこんな辱めを受けるのはやっぱり納得いかないものの、仕方なく当たり障りのない意見でこの場をやり過ごすことに決めた。
「えーっと、じゃあ……扱いやすいところ?」
「一緒にいて気が楽? 在華らしい褒め言葉だね。ありがとう」
「すげー曲解だな」
椿の陰から、桜哉の呟きが聞こえた。
しかし、椿本人がその答えで満足そうなので無視しておく。
「他には?」
「えっ、他? ……よく奢ってくれるところ」
「うんうん。優しいところね。あとは?」
「な……殴り心地がいい、とか?」
「包容力がある、かあ。なるほどね。もう一声!」
「うーん……、狐姿だと持ち運びが便利かな」
「ずっと一緒にいたいくらい好き、だって! 在華ってば大胆だなあ」
「一言もんなこと言ってねーけど!?」
一連の流れに堪え切れず、とうとう桜哉が叫んだ。
桜哉が突っ込んでくれなかったら、私が言っていただろう。
「あんなんでいいのォ? つばきゅん」
「分かってないなあ、ベルキア。在華はツンデレなんだから、ちゃんとデレを分かってあげないと」
「………」
絶句したベルキアは、こっそり私の耳元に顔を寄せて声を潜めた。
「ほらァ、ありりんが普段から塩対応だから、つばきゅんが可哀想な奴みたいになっちゃってんジャン!」
「……まあ、確かに『殴り心地がいい』は自分でもないなと思ったけどさ。でも、分かってるならいいじゃん」
「分かってる?」
ベルキアが首を傾げた。
――一緒にいて気が楽。
――優しいところ。
――包容力がある。
――ずっと一緒にいたいくらい好き。
言わなくても分かっているならいいじゃないか。
憂鬱組のゲーム