遠くで自分の事を呼ぶ声がする。
「……
ナマエ」
「………」
「おい、
ナマエ! いつまで寝てんだ!? とっとと起きやがれ!」
「……え!?」
バッと顔を上げると、そこはいつもの教室──国語の授業の真っ最中だった。
「えっ、さっきのは夢……?」
「何寝ぼけてんだ、オメーはよォ? 昼飯食った後の銀八先生の授業は、お昼寝の時間ですか? コノヤロー!」
「えっ、いや、す、すみません……」
「いいから早くよだれ拭いて、次のページ読め! 後、居眠りの罰として、お前放課後居残りな!」
「は、はい……」
銀八には、大目玉を喰らったが、さっきの出来事が夢だと分かり、少しホッとした自分がいた。
放課後──
私は銀八に言われた通り、居残りで黒板の掃除をさせられていた。
その時、教室に誰かがやって来た。
「手伝ってやろうかィ?」
「え……?」
その声に振り返った私は、目を丸くする。
「そ、総悟!? どうしてここにいるの!?」
「何でィ、その冷てぇ言い方は……」
そう言いつつ、総悟が私の隣で黒板の文字を消し始める。そして、声色低く話し始める。
「お前、最近なんか俺の事、避けてないか?」
「えっ、そ、そんなことないけど?」
的を得た質問に、思わず声が上ずる……でも、それを悟られまいと自然に振る舞う。
「そうかよ? まぁ、新しく男でも出来ればそんな態度にもなりまさァ」
「えっ、ちょっとそれ、どういう意味……?」
「あり? 土方さんに告られたんだろィ? もう付き合ってるんじゃ──」
「そ、それは……」
「土方さんは、まぁそれなりに容姿もいいし、彼氏にするにはもってこいだからな、よかったな」
「──なにそれ……こっちの気も知らないで……総悟には関係ないでしょう!? もう、ほっといてよ!」
聞き捨てならない総悟の言葉に、私は怪訝そうな表情を浮かべ、思わず声を荒げてしまう。
そして再び総悟に背を向け、黒板を消そうとした時だった。
総悟はがいきなり肩を掴み、自分の方に向ける。そして、逃げ場をなくす様に黒板へと詰め寄ると強引に唇を奪われる。
同時に腕を捕まれた私は、逃れる事が出来ない。総悟はさらに角度を変えながら、より深く口付けてくる。
「…んっ、んんっ……」
時折、甘い声が漏れてしまう。私は一瞬の隙をつき、総悟を突き飛ばした。
「──っっ」
「何すんのよ!? 最低!……本当に最低だよ…」
思わずその場にしゃがみ込む。目からは涙が溢れてきた。
そんな私を見かねたのか……総悟がポツリと呟く。
「……悪かった」
「酷いよ……こっちの気も知らないで……」
「え……」
「あの時もそう……総悟の気持ちが分からないよ……」
「なに言ってやがんでィ! 俺はずっと前から──」
「何……?」
「お前の事が……好きだ!」
「──ッ!?」
私は思わず目を見開く。そう言った総悟の顔が赤くなって見える。それを目の当たりにして、総悟の言葉が真実なのだと確信する。
それでも聞かずにはいられなかった。
「えっ、でも、神楽ちゃんと付き合ってるんじゃ──」
「……は? 何の話しでィ?」
「いや、だって、みんなが噂してたし……」
そんな私の言葉に、総悟が呆れた表情を浮かべる。そして、ため息混じりに話し出す。
「チャイナとなんざ付き合ってねーよ。ったく、そんなの俺に確認すりゃいいだろィ」
「そうだけどさ……いざとなると聞けないよ……」
「それより
ナマエはどうなんでィ?」
「えっ……」
「俺はちゃんと気持ちを告げた……次は
ナマエの番でさァ」
「わ、私は──」
総悟が私の言葉をジッ…と待っているようだ。私は一呼吸置いて、ゆっくりと口を開いた。
「──好きだよ……私も総悟の事が好き」
そう告げて、真っ直ぐ総悟を見据えた。
私がそう言うのを聞いた後、総悟がゆっくりと頬に手を伸ばす。それが合図であるかのように思った私は、瞳を閉じる。
その直後に唇が重なる──
総悟との二度目のキスは、一度目より長く甘く感じた。
……いや、正確には三度目……か?
「ところで
ナマエ、今日は何の日か覚えてるかィ?」
「えっ、今日……?」
「そうでさァ。7月8日──」
「……あっ!」
ハッと目を見開き、私は答える。
「誕生日…総悟の誕生日じゃん!」
「やっと思い出したか…」
「だ、だって、色々あったし……ねぇ」
「──で、プレゼントは?」
「え……?」
「え、じゃないでさァ」
「そんなこと急に言われても──」
口ごもる私を前に、総悟の表情が見る見るドSに変わっていく。
「なに言ってるんでさァ……プレゼントならちゃんとあるじゃねーか」
「えっ、どこに……?」
すると、総悟が真っ直ぐ私を指差して、言い放つ。
「プレゼントは
ナマエ……だろ?」
「えっ、わ、私!?」
「そうと決まれば、さっさと帰ってじっくり味わうとしまさァ……」
ニヒルな笑みを浮かべ、私の手を掴むとそのまま教室を後にした。
「ち、ちょっと総悟、待っててばっ!」
「嫌でィ!俺がどれだけ待ったと思ってるんでさァ。もうこの手は絶対に離すかっつーの!」
「総悟……」
「それより
ナマエ、覚悟しろよな……?」
「えっ、ま、まだ心の準備がァァ~~!」
バタバタと
ナマエと総悟が去った後、入れ違いに銀八が教室へとやって来た。
「おぉ~い、
ナマエ〜……あれ? いねーし……」
不意に銀八が、窓の外へと目を向ける。
そこには
ナマエと総悟、2人仲良く手を繋いで校門を出て行く光景が見えた(実際は、手を繋いでいるというより引きずられている)
「何だ、あの2人付き合ってたのか……? いいねぇ…まさしく青春つー感じでよォ」
7月8日──
今まではあなたの記念日
でもこれからは、2人の特別記念日―――
the END