桂から受け取った紙に書かれた場所にたどり着く。そこは一軒のお菓子屋。
「あれ? ここって──」
そう思いつつ店内に入ると、そこには俺が最近気になっている
ナマエの姿があった。
俺に気付いた
ナマエがこちらへとやって来る。
「あっ、銀さん! お待ちしておりました!」
「
ナマエちゃん、今日仕事休みじゃなかったっけ?」
「えっ!? あっ、そーなんだけど、ちょっとお手伝いを……ね」
「ふ~ん……あっ、これヅラから預かってきたんだけど──」
そう言いつつ、俺はさっき桂から受け取った注文表を手渡した。受け取った彼女は笑顔で答える。
「は~い! 少々お待ちください」
しばらくして、
ナマエが店の奥から大きな箱を抱えて戻って来た。
「……へ? 何それ?」
「じゃあ、銀さん行きましょうか!!」
「え? 行くって……どこに?」
「スナックお登勢ですよ!」
「あ~これで万事屋に戻るってことか」
「まぁ、そんな感じですね」
そう答えると、
ナマエは箱を抱えたまま表へとやってくる。
「あれ?
ナマエちゃん、仕事は?」
「あ~もう終わったんで、私もこの前万事屋へ行きます! これ運ぶの一緒に手伝いますので」
そう言いつつ、
ナマエが箱を持ちながら何とか俺のスクーターの後ろにまたがる。
「じゃあ、お願いします」
そして一緒にスナックお登勢へと向かった。
***
そして、ようやく我が家……万事屋銀ちゃんへと戻ってきた。
「到着~!」
「これを運べばやっと終わりか……んじゃとっとと行きますか!」
「はいっ! 早く行きましょ!」
ナマエに背中を押されながら、俺は店中へと入った、その時だった。突如として、パンパンッパンッッ!!!と、クラッカーの音が鳴り響く。
「「銀さん、お誕生日おめでとォォ~!!!」」
なにが起こったのか──
不意にあたりを見回すと、さっきからお荷物配達リレーにいたメンバーが勢揃いしていることに気付く。
「えっ!? ちょっ、これ、どーなってんだァ!?」
明らかに動揺している俺の元に、新八と神楽がやってきた。
「銀さん、朝からいろんな所に行かせちゃって、すいませんでした」
「サプライズパーティーの準備してたアル! それの時間稼ぎネ」
「サプライズって……ったく、お陰でこっちはクタクタだっつーの!」
「銀さん、そー言わないでくださいよ。2人ともすごく頑張ってたんですから」
そう言うお妙の言葉を聞きながら、よくよく回りを見渡すと、店中に手作り感満載の飾りが散りばめられていた。
「お前ら……」
一生懸命作業していたであろう、アイツらの姿が頭に浮かぶと、思い思わず顔が緩むのが分かった。
「あっ、これみんなからです」
唐突にそう言って、
ナマエはさっき店から持ってきた大きな箱を俺の目の前に置いた。
「開けてみてください」
「あぁ……」
箱の蓋を開けると、中には大きな苺ケーキが入っていた。俺は思わず目を丸くする。
「マジでか!? めちゃくちゃ旨そーじゃんかよ!」
「あっ、ロウソク吹き消しします?」
「んなのいいって。もうそんなのやる歳じゃねーしよォ」
「そんなこと言わずにやりましょうよ!」
「そうアル! あたしやってみたいネ」
「いやいや、吹き消すのは神楽ちゃんじゃなくて、銀さんだからね」
なんやかんや……ケーキにロウソクを立て火がともされる。
「ここはやっぱり歌を歌う必要があるだろ、じゃあエリザベス頼んだぞ」
エリザベスは「わかりました」というプラカードをあげたが、新八がすかさずツッコミを入れる。
「って、プラカードで会話してる奴が歌えるかァァ~!! 何分かりやすいボケかましてんですかァァ!!」
「歌なんてどーでもいいアル! さっさと吹き消してケーキ食べるネ」
ふ~っと、息を吹きかけて、何故か神楽が火を吹き消してしまう始末。
「おい、神楽! テメー、何しやがんだ、コノヤロー!」
「……あり? 旦那ァ、なんやかんや吹き消したかったんですかィ?」
「べ、別にィ~。何言ってんの、沖田く~ん?」
「さぁ、みんなで食べようかねェ」
「おい、ババア! 何勝手に進めてんだよ!?」
なんやかんや銀時誕生会パーティーは、和やかに行われた。
そして、パーティーも終わり、
ナマエが帰ろうとしたその時──
「あっ、銀さん」
「
ナマエちゃん、帰るんなら銀さんが送ってこうか?」
「え、でも……わざわざ悪いですし……」
「何言ってんの? 夜道に女の子1人は危ないでしょ? それに、あいつらも送ってけってうっせーしよォ」
俺はとある方向を指差す。そには2人が意味ありげなにニヤニヤしながらこっちを見ている新八と神楽の姿があった。
「……」
「
ナマエちゃん……どうかした?」
「えっ!? い、いや、なんでもありません! じゃあ、お願いします」
そして、俺は
ナマエと共に並んで歩く。しばらくの沈黙の後、
ナマエが話し始める。
「銀さん、今日はどうでした? 楽しんでもらえました?」
「あぁ……何かいつの間にかこんなにも大切に想うもんがまた増えちまったなァ……何て思ったり……まぁ、その逆もしかりなのかなんて思っちまうなんざ、全く柄にもねーなァ」
「銀さん……」
「あっ、そういや~忘れてたけどよォ──」
「ん? 何ですか?」
「
ナマエちゃんからは、何か特別にプレゼントとかあったりしないのかなァ?」
ヘラッと笑いかけてみたところ──
ナマエは急に歩みを止め、不意に俺の方へと向き直る。
「
ナマエちゃん……?」
「ぎ、銀さん!」
「はい……」
「プレゼントなんですけど……私なんてどうですか?」
「……え? ……えェェ~!!? マジでか!?」
思わず聞き直してしまう。そんな
ナマエの方を見ると、顔を真っ赤にしながらうつむいている。
まさか
ナマエも俺の事……? いやいや、そんな巧い話あんのかァ!? とりあえず、ここは冷静に──
「つ、つーか、それってどーゆー意味……?」
「実は……前から銀さんの事……好きだったんです!!」
ナマエは恥ずかしそうにうつむき加減にそう呟く。
「えっ、やっぱマジでかっ!? ……ん? 俺への誕生日プレゼントが
ナマエちゃんってことで、それを俺が貰うってことは──」
俺は表情を一瞬にして、ドSなものへと変えていく。
「とりあえず、キスしてもいい?」
「……え?」
返事を聞かずして、俺はうつむいたままの
ナマエの顎を持ち上げる。
「えっ!? ちょっ、銀さん待ってくださいよ!」
ナマエが慌てて俺を両手で突き放す。
「……え? だって、
ナマエちゃん、銀さんの誕生日プレゼントなんでしょ? それにナニしようが俺の勝手じゃない?」
「そ、それはそうですけど……」
「でしょ~?
ナマエちゃんにあれこれ言う権利はないわけよ」
「で、でも、告白したんですし……その答え、聞かせてください!」
「答え……ねェ」
俺は形勢逆転しているこの状況が徐々に楽しくなってきた。完全にドSモードに火がついてしまったのは言うまでもなく──
でも、
ナマエは前から気になってた相手。その相手から自分の誕生日に告白されて嬉しくないはずがない。
「銀さん!」
「わかったよ! 今答えるから──」
しばらく沈黙が続いたが、ようやく腹を決めて俺は口を開いた。
「一度しか言わねーから、よく聞いとけよ?」
「は、はい!」
「さっきは軽々しく言っちゃっちまったけど……俺ァ、前から
ナマエのこと、気になってたっつーか好きだったわけで……先に言われちまったけどよォ……真剣に付き合いたいって思ってるんで、こんな俺でよかったら、けっ……結婚を前提にお付き合いしてくださァァ~い!!」
それと同時に頭を下げ片手を差し出してみる。
「えっ……えェェ~!!?」
ナマエはしばらくフリーズしたままだったが、ゆっくりと俺の手を取り返事を返した。
「よ、宜しくお願いします!」
その時だった──
「銀さん、
ナマエさん、おめでとうございます!!」
「
ナマエ~本当に銀ちゃんなんかでいいアルか? やめとくなら今のうちネ!」
「神楽ちゃん、ようやく2人結ばれたのにいきなりそれはないんじゃない?」
突如現れた新八と神楽に、俺は唖然とした。
「何でお前らがここにいんだよ!?」
「実は2人に協力を頼んでまして……」
えへへっと
ナマエが笑って見せる。
「まさか銀さんが結婚を考えていたなんて意外でしたよ」
「そーアル! 銀ちゃんみたいな甲斐性なしに結婚なんて無理ネ!」
「私もビックリしちゃいましたよ! まさかこんな展開になるなんて思ってませんでしたし……」
「……つーかその話やめてくんない? 銀さんだって、
ナマエしかいないって思ったから言ったのに、何でお前らまで聞いてんだよ、コノヤロー!」
「じゃあ、僕らはこれで万事屋に戻るんで、後はお二人で」
「新八……何にやついてるネ。気持ち悪いアル…….」
「ぼ、僕は別に変なことなんて考えてませんよ!」
「ちょっと新八く~ん、銀さんの
ナマエちゃんに対して、イヤらしい妄想いだくのやめてくんない?」
「ぎ、銀さん!」
そんな俺の言葉に、
ナマエはまた顔を赤らめた。
「とにかく~僕らはこれで帰りますね! 行こっ、神楽ちゃん!」
「銀ちゃん、ハッスルし過ぎてできちゃった結婚すんなヨ~」
2人が帰った後──
俺は照れを隠すように、頭をカシカシと掻きながらぽつりと呟いた。
「さっきの……してもいいですか?」
「えっ!?」
「キス、してもいいですか?」
「う、うん……」
目を瞑る
ナマエに、俺は優しくキスをした。
「銀さん、誕生日おめでとう!」
10月10日──
これから過ごすあなたとの記念日。
the END