第16章 曇天
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ナマエを真選組の不足要員として雇ったのは表向きの理由ーー
その裏側には、もっと別の理由が隠されていた。
それは――
ある日の屯所――
朝の申し送りが終わった後、近藤が土方を呼び止める。
「トシ……ちょっといいか?」
「ん? なんだ?」
「ここじゃちょっと……なぁ……」
そう言いつつ、近藤は土方を自分の部屋に招き入れた。
「何かあったのか、近藤さん……?」
「いや、実は……最近鬼兵隊が江戸で妙な動きをしているらしいんだよ……」
「鬼兵隊……⁉︎」
その名を聞いて、土方の表情が一変するーー
“鬼兵隊”……言わずと知れた、過激派攘夷浪士集団。その筆頭は、あの高杉晋助ーー
「で、具体的に奴らは何を……?」
「人探しをしてるみたいでな……山崎に調べさせたんだが――ちょっとこれを見てほしい」
そう言って、近藤は一枚の写真を土方に見せた。
それを見た瞬間、土方が目を見張る。
「おい……こいつァ……!」
土方が驚くのも無理なかった。
そこに写っていたのは、ナマエに瓜二つの人物だったーー
「近藤さん、こいつはナマエ……なのか⁉︎ でも、目の色が――」
確かに顔はナマエそのものだが、瞳の色が明らかに違うのだ。
ナマエの瞳は一般的によく見る濃い茶色だ……しかし、写真の人物はガラス玉のように透明感のある綺麗な紫色の瞳をしている。
「まだ詳しい事は分かっちゃいないが……俺でさえ見間違える程だ……鬼兵隊が目を付けない訳がないだろう……」
「ナマエが狙われる…って事だな」
近藤はただ黙って頷いた。
その表情はいつになく堅い……どこまで情報が広まっているのかも分からない……いつ何が起きてもおかしくない状況だ。
「鬼兵隊にはあの高杉がいる……なんの目的かは分からんが、ナマエちゃんが危険な目に合う可能性は極めて高い……」
「だとすれば、ナマエは目の届く範囲に置いてた方が良さそうだな……」
「ナマエちゃんを護衛すると言う事か?でも、具体的にどうするんだ、トシ?」
「まぁ、無理矢理にでも真選組に来させるしかねーだろ……」
土方が言い終わるやいなや……突如局長室のふすまが開けられるーー現れたのは総悟だ。
「土方さん、この事は万事屋の旦那にも話した方がいいんじゃないですかィ?」
「総悟、お前いつからそこに⁉︎」
「近藤さん、すいません……土方さんと何やらコソコソしてやしたんで、後を付けさせてもらったんでさァ……」
ややうつむき加減に語る総悟に、土方は冷静に言葉を返す。
「ヤローに話す必要なんてねーだろ? ここは一般人の出る幕じゃねー」
そう言ってタバコの煙を吐き出す。
まるで 万事屋は関係ないと言わんばかりだーーだが、総悟も負けじと話を続ける。
「でも、旦那は高杉とも繋がりがあるんじゃないんですかィ?」
「それは昔の話だろ? とにかく、ここはあまり騒ぎ立てない方が賢明なんじゃねーか?」
らちが明かない……そんな2人のやり取りを見兼ねた近藤が間に割って入る。
「2人ともちょっと落ち着けって……確かにトシの言う事はもっともだ。まだ情報も少ないし、万事屋に話すのはもう少し様子を見てからでもいいだろ」
「でも、近藤さんーー」
食い下がる総悟に、土方が遮る様に吐き捨てる。
「総悟! いいからテメーは黙ってろ! ヤローなんざ関わらずとも、ナマエは俺が……俺達で守ればいい……そうだろ? とりあえず、俺が話をつけてくるーー」
そう言うと、土方は黙って部屋を後にした。