第19章 過去
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誰も助けには来ない……
この絶望的な状況下で、ナマエはふと思う。
周囲の様子から、どうにも高杉とは初対面では無い事が伺える。しかし、自分自身は“高杉晋助”の名前を聞いても、何一つ何も思い出せない事に若干のもどかしさを感じ始めていた。
今のナマエにとって高杉は、いきなり自分を拉致した“危険人物” ──それ以外の何者でも無い。
しかし、ナマエが忘れてしまっている記憶の片隅──そう、それは随分昔の話。
ナマエは、高杉らと同じ場所で学問を学び、同じ時を共に歩いていたのだ。
その時に、あの事件が起きたのだ。それは──
「先生……松陽先生──ッ!」
「ナマエ……」
「どうして……どうして先生がこんな目に……⁉︎」
燃え盛る建物を目の当たりにして、ナマエはただ泣き崩れる。
隣には、高杉と少年がもう1人──
2人とも歯を食いしばり、このどうしようもない絶望とも言える状況に、必死に耐えているのが分かった。
それから数年後──攘夷戦争が始まった。
ナマエ自身も戦争に参加しようと何度も試みるが……その都度彼らに止められていた。
「何で止めるの⁉︎ 私もみんなと一緒に戦いたい!」
「ダメだ……お前ごときの腕じゃ足手まといだ!」
「…………ッ」
「高杉! 言い過ぎだぞ! ナマエだって、俺達と気持ちは同じなのだ。少しは言葉を選べ」
長髪の青年が、ナマエを庇うように話す。その傍らで、なだめるように話しかけるのは、銀髪の青年──
「ナマエ、俺達はお前を連れてくわけには行かねーんだわ……」
「どうして……? 私だって、松陽先生の為に戦いたいのに……」
「戦いには必ず死がつきまとう……沢山の仲間が死んでいったのを、お前も見ているだろ? 少なくとも俺は、お前には生きててほしいんだ……」
「銀時……」
そう……もうこの青年は銀時だ。
そんな過去の記憶を、今のナマエは無くしてしまっているのだ。
そして、断片的に覚えている事がもうは一つ──
それは、銀時と一緒に見に行った夜桜の様な、桜の木下での記憶──
それは、サクラの花びらが舞う、そんな春の出来事──
「きれい…」
ナマエは大きな桜の木を見上げながら呟く。傍らには、過去の記憶の銀時──
「だろ~? ここは俺しか知らねーとっておきの場所なんだよ」
「ふ~ん。銀時もたまにはロマンチックなとこあるんだね」
「たまにはってなんだよ⁉︎」
「ねぇ、こうして見るとさ……桜の花びらって何か雪みたいだね──」
「…………ッ!」
不意に笑みを見せるナマエを前に、銀時は思わず抱き寄せた。それは、衝動的な行動だった。
「え⁉︎ ちょっ、どうしたの⁉︎」
「ナマエ、俺ァ──」
抱きしめながら、呟く銀時の声色は、何故か切なさを帯びて聞こえる。徐々に気付く、離れまいとする様に力がこもる。
その時だ。後方からナマエを呼ぶ声が聞えた。
「ナマエ……」
ナマエが、思わず銀時を突き放し、振り返る。
そこにいたのは高杉だ。
「おい銀時、お前は人の女に何してやがる?」
高杉はそう言うが早いか、ナマエの元に歩み寄ると、おもむろに手を取り、銀時から引き離す。そして、ギロリと鋭い視線を向ける。
「た、高杉⁉︎」
「あ? 邪魔すんなよ」
「ちょっ、痛いってば!」
「いいから来い!」
そう言うと、高杉はナマエを連れて行ってしまう。しばらく歩いて、掴んだ手を離した。そして、ナマエに向き直る。
「お前は隙があり過ぎんだよ」
「そんなことないもん! 銀時のあーゆーのは今に始まったことじゃないじゃん? 単なるいつもの冗談でしょ? ……あ、もしかして焼きもちとか?」
「うっせーよ」
「心配しなくても、私が好きなのは──」
そう言って、ナマエが高杉に口付ける。
そして、2人は微笑み合う。
過去はナマエと高杉が付き合っていたことを物語る──しかし、今のナマエには、近藤や土方、総悟と過ごしてきた過去が記憶としてが刻まれている……
これは一体──?