あいつは、俺が店に入ると大抵すぐに話しかけてくる
「あっ、土方さん!いらっしゃい!」
そう言ってにっこり笑う
「おぅ、いつもの…」
「はーい」
何度も同じやり取りをしているので、“いつもの”で事通じるようになった
「土方さん、タバコもほどほどにしないと身体壊しますよ~あっ、マヨネーズも。何でも摂り過ぎは良くないですからね」
そう言いつつ商品の会計をして、はいっと袋を渡しニコッと微笑む姿に、柄にもなく愛しいなんて思っちまった
「土方さん…?」
ナマエが少し不思議そうにしている
どうやらジッと見つめていたらしい
ふと我に返り、
ナマエから目線を外す
「それじゃ」
店を出ようとした時、よりによって一番会いたくない奴がやって来た
「よぉ、
ナマエ」
「あっ、坂田さん!」
「仕事頑張ってっか?…あれ?何で多串くんがここにいんの?何?仕事サボリですか、コノヤロー」
「あぁ⁈土方だっつーの!年中暇人のテメーに言われたかねーよ!」
また始まったいつもの喧嘩を、いつもの様に
ナマエが止めに入る
「ちょっと~!2人ともいい加減にしてくださいよ!いつもいつも営業妨害だって言ってるでしょ‼︎」
「チッ…」
毎回こうだ…こいつが来るといつも喧嘩になる
あの事件以来、奴もここにやたらと来るようになったみてぇだ
「それじゃあな…あっ、
ナマエ――」
「何ですか…?」
「また来る」
そう言って店を出た
後ろの方から「もう来んな~」とか聞こえてきたが、無視した…つっかかるとまた喧嘩になるしな…
ちらっと
ナマエの方を見ると、向こうもこっちに気づいたのか、またニコッと笑って手を振ってきた
かわりに一緒にいた野郎は少し不満そうな顔をしてやがる
ふんっ、ざまーみろ!!
さっき買ったタバコを1本取り出し、さっそく火をつけた
「ふぅ~…」
認めたくないが、奴とは思考が似てるらしいが…まさか女の趣味まで同じってか⁈
ったく、冗談じゃねぇ…
でも、あいつだけは…
ナマエだけは誰にも譲れねぇーー…
ナマエは、俺の中の闇を切り裂いてくれた
光を差し込んでくれた
そんなあいつの言葉も笑顔もいつか俺のものに、俺だけのものに…なんて柄にもねぇや…
そんな事を思いながら歩く、いつもの日常――
つづく