第18章 闇
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時は夕闇時──
ゆったりと運河を流れゆくは、屋形船。
その船内に横たわるようにして眠っていたナマエは、三味線の音色に気付き、目を覚ました。
「こ、ここは……?」
身体が鉛のように重くて気怠い……ゆっくりと上体を起こしながら、周りを見回す。
一体どこだろうか──見慣れない風景に、ふと自分が連れ去られたことを思い出す。
「そうだ……! 私、知らない人達に──」
その時背後に気配を感じ、バッと振り返る。そこには、さっき聞こえた音色の持ち主であろう男の姿があった。
男は窓際に腰掛け、ゆったりと三味線の糸を弾く──そして、目線をナマエに移しながら話しかけてきた。その男こそ、鬼兵隊の高杉晋助だ。
「ようやくお目覚めか……?」
「あ、あなたは……?」
「記憶を無くしたとは聞いていたが……俺のことまで忘れちまってるとは、いい度胸だなァ……ナマエ──」
「どうして私の名前を……⁉︎」
高杉は三味線を置いて、ナマエの方にやって来る。そして徐に、ナマエの顎をグイッと掴むと自らの顔をぐっと近付けた。
「まぁ、いい……それなら身体に聞いてみるまで…… 俺の事、思い出させてやるよ──」
「い、嫌── 」
口付けようとする高杉を、ナマエが両手で押し除ける。しかし、高杉はクククっと笑みを浮かべると、あっという間にナマエを組み敷き、手首を押さえつけながら、耳から首筋に口付け、徐々に下へとつたわらせていく。
「んっ……ぁ、や、やめて…ください……っ」
「クククっ、いい顔しやがるなァ」
掴まれた手を振りほどこうともがいてみるも、力は思いの外強く、逃れることが出来ない……
高杉がナマエの浴衣に手をかけようとした次の瞬間、誰かがやって来た。
「取り込み中のところ失礼するでござるよ……晋助、例の客人が来たでござる……」
「……わかった。ナマエ、この続きはまた後で── 」
そう告げる高杉の視線は冷たく、ナマエは凍りついたように身体を強ばらせた。
高杉が去った後、代わりに来た男がナマエに話しかける。河上万斉だ。
「本当に覚えていないようでござるな……」
「あ、あの人は……あなた達は一体何なんですか⁉︎」
ナマエがキッと鋭い視線を向けながら身構える。しかし、身体が震えているのが分かる……未だに状況が掴めぬまま、本当は泣きそうなくらいの恐怖に必死に耐えていた。
その様子を察した万斉は、少し穏やかに話しかける。
「そんなに怯える必要はないでござるよ……?」
「え……」
「晋助はただ、ぬしを迎えに来ただけ……それだけでござるよ」
「でも、いきなり襲ってきた! だから、急にそんな事言われても、信用できない……」
「まぁ、ここで大人しくしていれば、これ以上危害は加えないないでござるよ」
「…………」
しばらくして万斉が去った後、1人残されたナマエは船の外をただ見つめていた。
そして、不意に土方の言葉を思い出した。
(そう言えば、土方さんが何かあったらすぐ連絡しろって言ってた!)
すぐさまスマホを探すも……なかなか見つからない。それもそのはず、ナマエが連れ去られた直後のこと──
薬で意識を失っているナマエを横目に、高杉が鳴り止まないスマホを手に取り眺めていた。
「土方……」
「真選組、鬼の副長も絡んでいたでござるか」
「幕府の犬か……」
そう呟き、クククっと笑みを浮かべると、スマホを近くにあった金魚鉢へと沈める。そして煙管をふかしながら、高杉は遠くを見据えた。
「真選組までいたのでは、一筋縄ではいきそうもないでござるな、晋助……?」
「誰がいようと構わァしねーよ…… 俺ァ、ただ──」
***
そんなこともあり、ナマエのスマホは再起不能に陥っていた。
しかしそんなことを知る由もないナマエは、ただスマホがない事実に大きなため息をついた。
(これじゃあ外にも連絡できないや……どうしよう……それにしても、何で私が……? 大体、あんな男の人なんて知らない……だけど──)
ナマエは万斉に言われた言葉を思い出した。
(迎えに来たって言ってた……と言うことは、明らかに会ったことある……ってことだよね……?)
そう思案しつつ、思い出せないと言わんばかりに頭を抱えた。
あれこれ考えているうちに、再び強い眠気に襲われ、ナマエはいつの間にか深い眠りに落ちていた。