しばらく来た道を戻ったところで、
ナマエは境内の石垣の上に、落としたハンカチを見つけた。
見つかって良かった……と、思ながら、ハンカチを手に戻ろうとした時──ふと背後に気配を感じる。思わず振り返ると、そこには見馴れない男女の2人組──
一体誰なのか……直感的に嫌な予感がした
ナマエは、急いでその場を離れようとした。が、しかし──
「おっと~そっちには行かせないッス」
「申し訳ありませんが、我々と一緒に来ていただきます」
「え……⁉︎ あなた達は、一体何なんですか……⁉︎」
「ごちゃごちゃ言ってないで、黙って来たらいいんスよ!」
そう言って、女は無理矢理
ナマエの腕に掴みかかる。
「は、離して!」
「暴れるんじゃないっスよ!ちょっ、先輩も突っ立ってないで、手を貸してくださいよ!」
「乱暴はいけませんよ。でもここで騒がれては少し厄介ですね……仕方がありません。あなたにはしばらく眠ってもらいましょうか……?」
そう言って男は
ナマエに薬を嗅がせた。
「ん~ん~⁉︎」
徐々に遠退く意識の中……遠くにさっきの男女の話し声と、祭り囃子の音が聞こえる──
ナマエは心の中で叫んでいた。
銀さん……助けて──
程なくして、意識のなくなった
ナマエと共に、男女の2組は姿を消した。
その頃、万事屋の3人は──
「銀さん、作戦通り僕らはそろそろ退散しますね!」
「作戦って……これどー見ても放置じゃね? 後は自分で勝手にしろっつーこと?」
「グダグダ言ってないで告白でも力ずくでもいいから、さっさと
ナマエを物にするアルよ!」
「おいおい、随分簡単そうに言ってくれるじゃねーか」
「何言ってるネ! もたもたしてたらどこぞのマヨラーかサドに
ナマエ持っていかれるアルよ!」
「そーですよ! さっきもなんだかんだ言って手、繋いでたじゃあないですか?」
ニヤニヤしながら見てくる新八と神楽に、銀時はややめんどくさいと言わんばかりの表情を浮かべた。
「アレは……アレだよ、なんつーか……アレだ! 大人の事情だ」
「まぁ、とにかくまた後で落ち合うってことで……先に花火会場に行ってますね」
「がんばれヨ~」
そう言って2人は先に行ってしまった。
それを見つつ、またカシカシと頭を掻きながら、銀時はふとため息をつく。
どーするよ、これ……⁉︎ でも……誤解されたままにしとくわけにはいかねーしなァ……
やっぱりそろそろ腹ァくくって告白するしか……って、なんだこの中二クセー思考はよォ⁉︎
そんな事を考えながら、1人
ナマエを待つものの……なかなか戻ってこないことが気にかかる。単に道に迷っているのか……もしかしたら何か良からぬ事に巻き込まれたのか──少し胸騒ぎを覚えた銀時は、
ナマエの後を辿ることにした。
***
しばらくして、
ナマエが連れ去られた境内に差し掛かかる。
不意に目を向けると石垣にある物が、銀時の目に飛び込んできた。それは1枚の金魚柄のハンカチ。
ナマエの物なのか……?と、ハンカチを手に取り辺りを見回す。
よく見ると、地面には複数人の足跡があり、引きづられた様な跡も残されていた。
そのことに気付いた銀時は、ますます嫌な予感がした。
「お、おいおい、まさか……だろ……?」
すると後方から誰かがやって来る気配に気付き、銀時がパッと振り返る。
「お前は……⁉︎」
「こんなところで会うとは……奇遇でござるな、白夜叉──」
姿を現したのは河上万斉。奴を目の当たりにして、銀時は険しい表情を浮かべる。そんな銀時を見据えつつ、妙な事を口走る。
「あの女……やはりぬしのところに居たとはな……運命とはまさに数奇なものでござるな……」
「おい……それどーゆー意味だ⁉︎」
「いや、こっちの話でござるよ」
その時、銀時の脳裏にあることが思い起こされた──それは、月詠から聞いた鬼兵隊の話だ。
ハッと目を見開き、銀時は万斉に詰め寄った。
「おい、テメー、
ナマエをどこへやった⁉︎」
「今頃気付いたでござるか……? 呑気なものだな、白夜叉──」
「余計なこと喋ってんじゃねーよ!
ナマエはどこだって聞いてんだ、コノヤロー!」
万斉の胸ぐらを掴みながら言う銀時に、万斉は冷静に答える。
「ここであんまり騒がない方が身のためでござるよ」
「テメー、俺の質問に答え──」
銀時が言いかけた時、遠くの方で爆破音が聞こえた。それも3発、同時にだ。それにともない、悲鳴もあちらこちらから聞こえて来た。
「ッ……テメー、何をした⁉︎」
「アレはいわゆる脅しでござる……次に騒げばどうなるか……分かるな、白夜叉? 確実に花火会場が火の海になるぞ……?」
「……っ!」
「確か仲間が花火会場にいるはずでござるよな?」
「テメェ……」
ここは大人しくするのが得策だと考えた銀時は、万斉から距離を取る。
「そんなにあの女が気にかかるなら、この場所へ来るといいでござるよ……面白いものが見られるはず……ではいずれまた──」
「おい、ちょっと待て!」
一枚の紙切れを投げると、万斉は人混みに紛れていなくなってしまった。その紙切れを拾い上げ、銀時は花火会場へと急いだ。
会場に着くと、直ぐに新八と神楽に出くわした。
「あっ、銀ちゃん!」
「大変ですよ! さっき花火が爆発する事故があったみたいで……この分だと花火大会は中止みたいですね」
「……あれ? 銀ちゃん、
ナマエはどうしたアルか?」
「…………」
「銀ちゃん…?…」
「何かあったんですか?」
問いかけには何も答えず、銀時はただ沈黙を続ける。そんな銀時を、新八と神楽が首を傾げながら見つめる。
そこに土方と総悟が現れた。
くるなり土方が銀時の胸ぐらを掴みかかる。
「おい!
ナマエは……
ナマエはどうした⁉︎」
「…………」
「聞いてんのか⁉︎」
「ち、ちょっと土方さん! どうしたんですか⁉︎ 何かあったんですか……?」
慌てて新八が2人の間に入る。そして、疑問を土方にぶつける。
そして、神楽も銀時に問いかける。
「銀ちゃん、何かあったかアルか? 黙ったままじゃ分からないネ!」
そう言われ、ようやく銀時が口を開く。
「連れ去られちまった……」
「……遅かったか」
土方はやるせなく舌打ちをし、銀時を突き放した。
「……え? 連れ去られたって……一体誰にですか⁉︎ どういう事ですか⁉︎」
「鬼兵隊でさァ……」
総悟が声色低く言い放つ。その表情は冷静そうに見えるが、明らかに怒りが見え隠れしている。
「鬼兵隊って……銀さん──」
「おい……一体何が起こってんだ? その事が
ナマエとどういう関係があんだよ⁉︎」
「土方さん……だから俺はちゃんと旦那にも話しておくべきだって言ったんでさァ! 土方さん、これはあんたの甘さが招いた結果でさァ」
総悟がギロリと土方を睨み付ける。あたかも“お前のせい”だと言わんばかりの表情を見せる。
「とにかく
ナマエさんの身に何が起きているのか……ちゃんと僕らにも説明して下さい!」
「……分かった。じゃあついて来い」」
そのまま万事屋の3人は、土方と総悟と共に真選組の屯所へと向かった。
つづく