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9.THE BLADE AND ME
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「第一級重禍罪、朽木ルキアを殛囚とし──これより二十五日の後に真央刑庭に於いて殛刑に処す……だ、そうだ」
そう言って、檜佐木副隊長は手元の紙からこちらに視線を向ける。
私はしばし考えて、こてんと首をかしげた。
「…………つまり?」
「……朽木ルキアが処刑されるってことだよ」
「えっ!? なんでルキアが!?」
ガタンと、ソファから勢いよく立ち上がる。聞き捨てならなくて檜佐木副隊長に詰め寄るが、副隊長はため息をつくだけだ。
私は机に向かう東仙隊長に駆け寄った。ここは九番隊の執務室。朝食を食べたあとに呼び出され、突然こんな話を聞かされている。
みんなについてくるままにソウル・ソサエティというところへやってきた私は、こちらでの日々を楽しく過ごしていた。
見慣れない景色に、テレビの中でしか見たことのない格好をしている人たちがたくさんいる。こんなにわくわくする世界があるなんて思わなかった。
よくわからない検査をされたりもしたけれど、ご飯は美味しいし、同じ隊の人たちも優しい。隊長である東仙隊長がそもそも優しい人だからだろう。
まあ、檜佐木副隊長はちょっとお小言が多いけれど。たぶん、橙亜や鏡哉みたいに真面目な人なんだと思う。あ、東仙隊長たちが真面目じゃないってことじゃなくてね?
ともかく、そんなわけで、ここに来たことについて私は何も不満はなかった。そうなのだ。
ここに来てからずっと楽しくて、どうしてここに来ることになったのか、その発端が私の頭からはすっかり抜けていたのだ。
檜佐木副隊長からルキアの詳しい話を聞かされ、私は愕然とする。
つまり、ルキアが一護に死神の力を渡したから──ルキアが殺されるってこと?
「そんなにダメなことなんですか!? じゃなきゃみんな死んでたかもしれないのに……!」
「お前なぁ……」
私の嘆きに、副隊長はあきれた顔で眉を寄せる。
私がほっぺたを膨らませていると、東仙隊長が優しい声で私の名前を呼んだ。
「人を助けるのは素晴らしいことだが、そのために法を破ることは悪なんだ」
「それは……」
浮かせていたかかとが床につく。私だって、ルールを守らなければならないことは知っている。
ルール。常識。モラル。善悪。それらは全て、橙亜から教わった。人間社会で生きていくには必要不可欠で、12才までの私の中にはほとんどなかったものだ。
「法とは、社会秩序を維持するためのもの。乱したのなら罰を受けなければ、正義は揺らいでしまう」
「困ってる人を助けるのは……正義の味方じゃないんですか?」
「困っているのは善人だけじゃないよ。場合によっては悪人のほうが困っているものさ。そこを履き違えてはいけない」
東仙隊長の言っていることが、まちがっているとは思わない。
でも、一護を助けたルキアがまちがっているわけがない。なんなら、一護を攻撃してあんなに血まみれにした白哉さんたちのほうが、私には悪者に見えた。
──ルキアが殺されるなんて、それがルールだなんて、そんなの!
ルールは守らなくちゃいけない。それでも、ルキアが殺されることを見過ごしたくない。
その気持ちは、きっとルキアのことを知ってる人たちも同じだ。結斗たちはルキアを知らないからそうでもないかもしれないけど……でも! 橙亜と唯和は私と同じように思って──。
「…………」
「璃鎖?」
「橙亜は……誰も死なせたくないって言ってました」
うつむいて呟いた私の隣で、檜佐木副隊長が「……あぁ、五番隊の鐘威橙亜か」と一人で納得している。そっか、二人は橙亜のこと、あんまり知らないのか。
「橙亜は、誰かが死ぬのが嫌いなんです。屋上から飛び降りようとしてる人がいたら走って止めに行くし、車にひかれそうな人がいたらやっぱり走って止めに行くの」
「そんな雰囲気の奴には見えなかったけどな……」
「いや、彼女はそういう人だよ。他人を助けるために自分を犠牲にできる人間だ」
副隊長にそう言った東仙隊長は、橙亜のことをよくわかっているみたいだ。
橙亜も、ルキアが死ぬのは嫌なはずだ。唯和だって、性格は悪いけどルキアが死ぬことを喜びはしない。二人はそういう、根っこのところがよく似ている。
二人とも、態度はそれぞれ違うだろうけれど、この話を聞けば私と同じように悲しい気持ちになるだろう。だけど、きっと──。
「だとすると……白坂。お前は……鐘威橙亜なら朽木ルキアを助けるために処刑を妨害すると考えてるのか?」
副隊長からの問いかけに、私は首を横に振った。
「いいえ……たぶん、しないです」
橙亜は、そういうことはしない。唯和も文句はたくさんたくさん言うだろうけれど、止めるまではしないだろう。
背中を丸めて床を見る私に、東仙隊長は優しく声を続ける。
「そうだね。彼女は誰も彼もを助けようとするほど無秩序な人間ではない。法に則り、公正に下された結論が『死』だというなら、彼女はそれに従うだろう。彼女は死を嫌うが、それ以上に犯した罪を贖わないことを忌避しているから」
東仙隊長の言葉選びは難しいけれど、なんとなく言っていることはわかる。
何より、私にルールを守ることを教えたのは他でもない橙亜だ。ルキアが殺されることがルールだと言うなら、きっとどんなにつらくて悲しくても、邪魔することはしないだろう。
橙亜が助けたいのは、そういうルールからこぼれてしまう人とか……そう、殺人事件の被害者? みたいな人なのだ。だから、事件の犯人が捕まって、その罰で殺されるのなら、橙亜はそれを受け入れるのだ。
でも、ルキアが犯人、だなんて。殺されるほどの罪を犯したなんて、私には思えない。だってルキアはあんなに優しくて、楽しくて、ホロウからみんなを守るために一護と頑張っていたのに。
「……わかんないです、全然。私には……ルールとか大きくてよくわからないものより、友だちのほうが大事だから……」
こんなに悲しくなるのなら、きっと私がまちがっている。私の気持ちがまちがっている。
だって、橙亜や東仙隊長がまちがっているはずがないもの。二人は正しい人だと、思うもの。
私ってバカだから。いろんなところに考えが及ばなくて、自分のことしか考えられないから。遠くのことより、今一番近くのことを考えるのに精一杯だから。
でも、人間の世界で生きていくには、自分の気持ちは我慢しなければならないらしい。そう教わった。人間として生きるのって、そういうことなんだ。
それって……なんか──。
「……しかし、そうだな。今回のことは護廷に属している者が守るべき秩序だ。今の君は少しだけ事情が違う。その感情を表に出すことが間違っているとは言わないよ」
私は顔を上げた。東仙隊長の声はずっと優しい。バカな私を責めるような雰囲気は最初から少しも見られない。
「隊長は……友だちが同じ状況だったらどうするんですか? 助けに行きたい! って、なりません?」
「おい、あんまり隊長にそういうこと聞くな。隊長としての立場があるんだ。四十六室の決定に軽々しく意見できるわけないだろ」
副隊長がひじで私を小突いてくる。そうなのか。やっぱり社会って大変だ。
しかし、隊長は首を横に振った。
「いや、大丈夫だよ。これは単なる雑談だ。でも、もし四十六室に意見があるのなら勢いで飛び出す前に僕に言ってほしい。璃鎖」
「なるほど、そういう手が……」
「やるなって言ってんだよ」
「うっ」
すとん、と副隊長の手刀が私の頭の頂点を叩いた。
そんなに心配しなくても大丈夫だよ。私、その四十六室? ってやつがどこにあるのかもわからないから、飛び出そうにも迷子になっちゃうと思うので。
頭を押さえて副隊長をにらみ上げるが、彼の視線は隊長に向いていて、私のことなどちっとも見ていなかった。
「隊長、こいつだって曲がりなりにも護廷隊士です。あんまり甘やかしても……」
「記憶がない者にその自覚を求めるのは酷だよ、修兵」
「だからって、こんな風にわざわざ呼び出して教えてやるなんて……特別扱いが過ぎるんじゃないですか?」
ボスボスと、私の手の上から副隊長は私の頭を叩く。痛くはないけれど、そんなに頭ばかり狙われると子ども扱いされているみたいでちょっと悔しい。背も縮みそうだし……。
「いいや、本来なら私がしっかり璃鎖と向き合うべきなのだが、申し訳ないことにやることが多くてね……勘を取り戻すための訓練も藍染隊長に押しつけたような形になってしまっているし、自分が不甲斐ないよ」
立ち上がって背中を向ける隊長に、副隊長が「そんなことはないです」と声をかける。そこはまったく同感なので、私も大きくうなずいた。
隊長はゆっくりと机を迂回し、私の前までやってくる。目の前に迫った東仙隊長を見上げると、隊長も少しだけ身をかがめた。
「私から言えることがあるとしたら……璃鎖。君は……君自身の正義を見つけなさい。他人に言われるだけの、実感の伴わない正義ほど空虚なものはない」
隊長の声は、今まで聞いた中でも一番真剣だった。
そして、隊長の手が私の肩に置かれる。
「自分の正義を他人に委ねるのは──悪だ」
話はそれで終わった。隊長も副隊長も忙しいので、挨拶をして私はさっさと執務室から出る。
廊下に出てから、ようやく大きな息を吐いた。
行き場のない感情がぐるぐると、体中を巡っているようで気分はあまりよくない。
「正義、かぁ……」
正義って、何だろう。稽古のためにこのあとも五番隊隊舎へと向かわなければならない私は、歩きながら考える。珍しく、頭を働かせる。
パッと思い浮かぶ正義は、やっぱり「正義の味方」だ。困っている人たちを助けて、《パンをくれる》。それがわかりやすい正義の味方、ヒーローだと橙亜に教わった。
橙亜と唯和に出会ったときの私は、本当に何も知らなかった。生きること以外、何も知らなかった。
そんな私が広い世界を生きていけるように、橙亜はたくさんのことを教えてくれた。言ってしまえば、橙亜は世界を教えてくれたのだ。
私が今、生きているのは、知識をくれた橙亜と、衣食住をくれた唯和のおかげだ。すごくすごく感謝している。でなければ、私はあの山で一人寂しく死んでいただろう。
「正しいこと、悪いこと……ルキアが殺されるのは…………正しいこと?」
しかし見方を変えれば、私は橙亜に枷をかけられた。生きるためと称して、首輪を。
ルールも、常識も、モラルも、善悪も、人間社会で生きていくには必要だ。でも──はたして、それは望んだものだったのだろうか。
私の行動は、橙亜に言われた基準に従っているだけのもの。だから、私の正義は橙亜のものだ。
私は橙亜が大好きだからそれでもかまわないけれど、東仙隊長はそれを悪だと言う。
善か、悪か。どちらかを選べるなら、善のほうがいい。みんなで楽しく笑って過ごす毎日が一番だから、それは善のほうだと思う。
善を選びたいのだとしたら、私は──橙亜の言うことばかりを聞いていては、ダメなのだろうか。
──ようやく自覚が出てきたのか、愚鈍め──
耳元を風が吹き抜けた。風狗──私の斬魄刀の声がした。しかし、今の私は斬魄刀を持っていない。九番隊の人に預けたからだ。
キョロキョロと周囲を見回すが、近くには誰もいない。五番隊に向かうために外に出てきたので、私と同じ行き先の人がいるはずもなかった。
「風狗ー? いるのー?」
声を上げてみるも、周りにあるのは九番隊の詰所の建物くらいだ。その辺に転がっていた石の裏も見てみたけれど返事はなく、私は晴れた青空を見上げた。
緩やかに雲が流れている。元いた世界や、現世で見た空とおんなじだ。
詰所の壁に寄りかかって目を閉じる。深呼吸して、肺の中を空っぽにする。
「……私、どうしたらいいんだろ」
──したいことをすればいい。全ての生き物は、そうして生きている──
また、風狗の声がした。まるで頭のすぐ後ろにいるみたいだ。
「したいことって……橙亜のお手伝い?」
すると、不機嫌そうな唸り声が聞こえた。
──で、鐘威橙亜が悪人だったらどうするんだ?──
「橙亜は悪い人じゃないよ」
橙亜が悪人だったら、私は何を指針に善悪の判断をすればいいのかわからない。そのくらい、私の中では絶対的な基準が橙亜だった。
橙亜は真面目で、正しくて、ルールをきちんと守って、誰にでも優しくて、分け隔てなく平等で、堅くて、強くて、絶対に曲がらない。そういう人間だ。
──まるで鎖だな──
「そんなことはないと思うけど……」
まあでも、その例えにはちょっとしっくり来たところもあった。
橙亜を否定するわけじゃない。ただ、私の16年の人生において、それらは最近、唐突に現れたものだったから、少し。
少しだけ──窮屈かな、って。
「……うん、窮屈だ。窮屈だよ。ルールとか、決まりとかってさー」
昔の、山にいたときは気にならなかったのに、周りに人間が増えて、身動きが取りづらくなった。
息苦しい。自由に空を飛んでいきたいのに、地面に引きずり落とされるような。邪魔されているような。
阻まれている。軋んでいる。人間の世界はほんの少しだけ、居心地が悪い。
──窮屈なら、そんな奴らは断ち切って、そこから飛び出せばいい──
「いいの?」
──当然だ。誰もおまえを縛れない。おまえの邪魔をするものは、オレが全て吹き飛ばしてやる。──
そうなのか。わずらわしいことも、困っていることも、全部どこかに吹き飛ばしてしまえばいい。なんて単純なのだろう。
そうだよね。そもそも今の私にはその力がないから、ルキアが殺されそうになってるのを眺めることしかできないわけで。
「私が、強くなればいいんだ」
他の誰に文句を言われても関係ないくらい、強くなればいいんだ。ルキアを助けて、橙亜たちがやりたいことを助けられるくらい、強く。
──他人におまえを決めさせるな。飼い慣らされるな。そのために生きるのなら、オレは十全におまえの力として在るだろう。璃鎖──
「うん! じゃあ、今日の稽古も頑張ってくる! ありがとう、風狗!」
風に押されるように、反動をつけて立ち上がる。
今まではなんとなく言われるがままに刀を振っていた私だけれど、目的がはっきりしたらなんだかすごくやる気がみなぎってきた。
ルキアが処刑されるまで、確かあと25日だと副隊長は言っていた。それまでにまず、風狗を使いこなせるようにならなくちゃ。
──……そこで他人を切り捨てないから、おまえはバカなんだ──
「なんで? みんながいるほうが楽しいよ!」
歩きながら、くるりと振り返る。
すると、さっきまで私がいた場所の隣がうっすらと揺らいでいた。ぼんやりと、まるで幽霊のように、私より背の高い人影がこちらを見ている。
腕を組んで、建物に寄りかかっているようだ。人間のようだけれど、頭の上には犬みたいな白い耳がピコピコと動いている。腰からは大きな白い二本の尾が、ゆらゆらと揺れている。
彼は私と目が合うと、不愉快そうに顔を逸らして、そして消えてしまった。
「……よし、頑張ろう!」
気を取り直して、私は駆け出す。風を切って、勢いよく走り出したのだった。
*
*
「唯和ちゃんはどう思てるん?」
「んあ~?」
三番隊の執務室で、ソファに寝転がりながらダラダラと過ごしていると、机に向かう市丸隊長が不意に声をかけてきた。
オレは中途半端な欠伸とともに返事を返した。
すっかり恒例となった五番隊での稽古は、本日はお休みである。そりゃ藍染隊長も毎日時間が取れるわけもなし。そういう日は個人個人で自主練に励むのだ。
え、オレ? もちろんもちろん、自主練やってるよ~。やってます~。あと五分、この今月の瀞霊廷通信を読み終わったらやりますよ~?
「朽木ルキアちゃんの処刑の話。仲よかったんやろ? 落ち込んでへん?」
「……」
ここは執務室、隊長の仕事部屋だ。そこに我らが隊長がこもっているのだから、仕事の邪魔をしてはいけないと大人しく静かにゴロゴロしているのに。
そんなオレの思いやりを無視し、市丸隊長はのんきに喋りかけてくる。話題の選定については、近頃のビッグニュースであるので特別何か反応してやることはない。
オレは面倒くさい気持ちを前面に押し出し、仰向けになって右足を左足の膝に乗せた。
「そりゃ当然、面白くないですよぉ~。あ~んなかわいい子が死ななきゃいけないなんて、世界の損失ですぅ~」
「かわいくなかったら見捨ててたん? 薄情やね」
「『見捨ててたん』って、それじゃあまるでオレが『見捨てないヤツ』みたいになるんで、言葉選び間違えないでもらっていいですかぁ~?」
「あァ、堪忍ね。てっきりキミらはルキアちゃんを助けに行くんやと思ててん。違った?」
机から顔を上げ、市丸隊長はニヤついた表情のままこちらを見た。
──「キミら」、ね。わかりやすい挑発だが、いったいぜんたいオレたちのことを何だと思っているのか。
おおかた、過去の橙亜も負けず劣らずの他人の命最優先自己犠牲野郎だったのだろう。だからって、オレまで一緒にされてはたまらない。
「違いますぅ~。オレにはルキアを助ける義理も道理も、
そもそも、そんなことしたら隊長たちに殺されて終わりでしょ。そういう面倒なことは《主人公様》に任せておけばいいのさ。
──んまぁ……なんか急に璃鎖が稽古を張り切り出したりはしてるけどぉ~。
やる気に満ちあふれ、メキメキと強く成長している璃鎖の姿が頭を過ぎる。あ、身長じゃなくて戦闘技術の話ね。
それまではなんとなく流れに乗ってふわふわと楽しんでいたようなのに、急にどしたん? ルキアの処刑が告知された日から、やたらと頑張って稽古をしているようじゃないですか。
何に感化されたのか。まさかとは思うが、もし、ルキアを助けようなんてチョコラテストロベリーなことを考えているのなら、楽観的すぎて欠伸も出ない。ちゃんと首輪をつけておかないとね。
その点で言えば、橙亜は《未来》を知っているからそっちの暴挙には出なくて安心だ。別の暴挙には出ているのでまったく褒めてねーけどな。
「罪と知っていてやったのなら自業自得でしょ。損しかねーんだから助けるメリットもゼロ、他人のために自分を切り売りする気はないので~す」
「それ、誰のこと考えながら言うてるん?」
「ルキアのことでしょ~? 唯和ちゃんは自分が一番大事なんですぅ~」
橙亜も璃鎖も、なんだって他人が死ぬことにいちいち傷ついたり悲しんだりするのだろう。(結斗たちはかわいくねー男なのでどうでもいい、スルーだ)
これが理不尽を押しつけられた被害者ならともかくだ。そうじゃないルキアを助けたいとは、犯した罪を軽視しているのでは?
え、そもそも罪と量刑が釣り合ってない? そういうマジレスは間に合ってます。だから一護たちが頑張ってくれるんでしょ。わかってますよ~。
「唯和ちゃんって、そない自己中心的な性格やったんやねぇ」
「ふふん、当然です。だってオレの人生ですよ~。自分のために生きるのが正解でしょ。隊長だってそうでしょ~?」
「ボク?」
「あれ、違うんですか~? じゃあ、隊長は日々、誰のことを考えて生きてるって言うんですぅ~?」
「そら自分のことしか考えてへんよ、ボクは」
「ほらぁ~、オレとおんなじじゃないですかぁ~」
白々しい会話の応酬だ。脊髄で適当に言葉を返しているだけの作業を「会話」と呼んでいいのかは甚だ疑問だが。
会話の切れ目に再び欠伸をこぼしていると、市丸隊長が椅子から立ち上がる音がした。ソファの肘置きに預けていた頭の上に影がかかる。
見上げると、隊長が背もたれ側から笑みを深めてこちらを覗き込んでいた。両手を袖の中で組み、ニヤニヤと笑っている。
「ほんまに、ボクと同じなん?」
どういう意味、いや、どういう意図の発言だよ。
オレが市丸隊長の心の内を見透かせるとでも思っているのか。まさか。ただの軽口を真に受けたわけではあるまい。
確実にこちらの反応を窺って、ついでに面白がっている。オレ様の焦る姿でも見たかったか? 残念だったな、絶対に見せてやらねーぜ!
逆に、今の発言を超シリアスに肯定してみたらどうなるのだろう。あ、いや。オレは他人のために100年以上も本心を隠して頑張るとか無理なので、ここは否定一択だったわ。ヤバッ、唯和ちゃんったら間違えてウソついちゃった、てへぺろ!
「──失礼します、市丸隊長。こちらの書類の…………何やってるんですか?」
静かにのっそりと、吉良副隊長が執務室に入ってきた。オレたちの姿を見た途端、わかりやすく眉をひそめる。あ、オマエ。オレが隊長をサボらせてるとか思ったでしょ。正解だぜ。
副隊長は書類の束を持ちながらこちらに近づいてきた。オレ様のかわいい顔面の上でそれが隊長の手に渡り、離れていく隊長に代わって、今度は神経質そうな顔の副隊長に見下される。
「普通、一般隊士がこんな風に振る舞うのはあり得ないことだよ……ここは君の部屋じゃないんだから……」
「すみません副隊長~。でもぉ~、まだ隊の人たちと上手くなじめてなくってぇ~」
「その性格ならどこででもやっていけると思うけどね……」
呆れた様子を隠さず、副隊長は溜め息をついた。
どうせ不審人物として監視されるなら、隊長や副隊長の目の届く範囲にいてやろうという気遣いだったのに。どうやら生真面目な副隊長はお気に召さなかったらしい。
「やる気のない人間が隊舎内をうろついてるほうがよっぽど邪魔じゃないですかぁ~」
「……せめて、失った記憶を取り戻そうとか、最低限の努力や頑張りを見せてくれるとこちらも気持ちよく支援ができるんだけど」
「『オー! ノーッ』、それはオレの一番嫌いな言葉と二番目に嫌いな言葉っすねぇ~」
「こんな志の低い人間が、本当に護廷十三隊に所属していたのかと疑問に思うよ……」
嘆くように副隊長はオレから視線を外した。もうオレのことがめちゃくちゃ苦手です、と顔にデカデカと書かれている。だからこそこちらも楽しくなってウザ絡みしちゃうんだぞ~。
すると、書類の確認を終えた隊長が再びソファのところまで戻ってきた。書類を返しながら、横目で副隊長を見る。
「そない言うたら唯和ちゃんがかわいそうやわ。実はこの子も、陰でちゃんと頑張ってんで?」
「あぁ?」
的外れな擁護に思わず隊長を睨み上げるが、隊長はニヤついたまま、あやすようにオレの頭に手を置いた。
「──あんま夜更かしせんと、はよ寝や。お肌に悪いで」
反射的に足を振り上げたが、頭上の隊長に届くはずもなく、反動でソファに逆戻りした。
バフバフと両足でソファを叩いて抗議する。隊長は肩を竦めて笑い、副隊長は不思議そうにオレたちを交互に見ていた。
「いちいち把握してるとかキッショ! プライバシー侵害! ストーカーかよ!」
「最近の子の言葉遣いは、なんやようわからんなァ」
「つーかそれ把握してるってことは隊長も夜更かししてんじゃねーか! 寝ろよ! ついでに副隊長もな!」
「な、なんで僕まで……」
「アンタが一番不健康そうな顔してるから~!」
ケラケラと笑う市丸隊長を、オレは歯噛みして睨みつけることしかできない。オレに負けず劣らず、性格が悪い男だ。
──眠気がやってくるまで外で鬼道を撃つ練習なんて、唯和ちゃんはこれっぽっちもしていないけれど、まあ、夜な夜な出歩いていることは事実かもしれない。
しっかり見張られていたことにムカつきつつ、このイライラの解消に、副隊長を鬼道練習相手にこき使ってやろう。と、オレは誓ったのだった。
