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一人は、寂しい。
周りには誰もいないし、話しかけても返ってこない。
でも、誰かと一緒なら、どんなときでも楽しくなる。どんなところでも楽しくなる。
この世界に来たときも、一人じゃなくてよかった。二人と一緒に来られてよかった。
もしも私だけ元の世界に置いていかれていたら、どうしようもなく寂しくて、きっと泣いていたと思う。
知らない場所でも、知ってる二人がいるなら怖くない。二人がいるなら、知らない場所も楽しくなるから。世界が広がるから。
だから、私はこの、ちょっと変わった見知らぬ世界を今日も、楽しんで生きている。
*
「イエーッ!! たのしいなー!! オイ!!」
「わっふーーー!!」
町中を飛び跳ねて回る一護っぽい人の背中にしがみつきながら、私も同じように歓声を上げた。
──すごい。すごい! こんな、二階建ての家と変わらない高さまで届くジャンプを連続で続けて走り回れる人なんているんだ!
私もがんばればそのくらいのジャンプはできるけれど、連続は無理だ。世界って広い。私の知らないすごい人であふれている。
道行く人たちもびっくりした顔で私たちを見ていた。うん、うん、羨ましいよね。とても目立っているみたいで────あ。
「ねぇねぇ、これすっごく楽しいけどさ、あんまりその格好で目立つのは一護が嫌がると思うからさ、変装とかする?」
「あ?」
パシパシと肩を叩くが、彼は真面目に話を聞いてくれない。
「ハッ、こんな髪の色して目立ちたくねーわけねェだろ」
「もともとこういう色だって言ってたよ。私も初めて見たときはきれいでびっくりしちゃった!」
初めて会った入学式の日に、確かそんなことを言っていた気がする。私は橙亜とちがって記憶力は全然ないので、うろ覚えというやつだけれど。
初対面で私が「きれいだね!」と言ったら、一護は眉間にしわを寄せたままで「お、おう……」と戸惑ったような様子だった。唯和いわく、「この年になって純粋に褒められるのってなかなかないからな~」とのことだ。橙亜も「唯和が言えば嫌みになりますからね」と言っていた。
「あ! というかきみ、誰? 一護じゃないよね? 死神姿の一護、学校にいたもんね!」
「……あんた、そういうの知ってんのかよ」
「そういうのって? 一護のにおいはしてるから、これはまちがいなく一護の体だと思うけど……中身は外に出てるから…………はっ! 橙亜のお兄ちゃんみたいにこの体に住みついてる人!? 初めまして、一護のお兄ちゃん! 白坂璃鎖だよ!」
「知らねーヤツの前例から勝手に結論出すんじゃねェ! つか、誰だその子!? お前みたいな特盛か……!?」
「特盛って何? 橙亜、別にそんなにご飯たくさん食べないよ。さっきもお昼ご飯、食べてなかったし」
「そりゃあの状況じゃな……」
「お兄ちゃんが言うんだ」
「お兄ちゃんじゃねェよ!!」
あ、今の言い方はちょっと一護っぽかった。あまり似ていないかと思っていたけれど、やっぱり兄弟らしい。
結局そのまま、私たちは楽しく町中を飛び回った。気づけば小学校らしきところまでやってきている。
学校の裏手に、子どもがいるのが見えた。お兄ちゃんも気になったのか、近くの塀の上に静かに着地する。
上からのぞき見れば、地面に座り込んだ三人の男の子が物陰に隠れてゲーム機で遊んでいた。もしかして……サボりというやつだろうか。ふ、不良だ……!
不良な子どもたちはゲームの話で盛り上がっていて、私たちには気づいていない。
すると突然、お兄ちゃんは地面に降り立った。そのまま子どもたちに近づいて、ゲーム機に手を伸ばす。
「何? 交ぜてもらうの?」
「気分ワリィ……ぶっ壊してやる……!」
「なんで!? ダメだよ!?」
「ぐぉッ……!?」
とっさに彼の首を腕と足で絞め上げ、後ろに倒れるように体重をかけた。ブリッジをするようにお兄ちゃんは背中を反らせて、必死に足で踏ん張っている。
「なんで壊すの!? 乱暴なことはしちゃダメなんだよ!」
「おまっ、今、自分が……やって……!」
「ほら、そこのきみたち! このお兄ちゃんにゲーム壊されるよ! 危ないよ!」
地面スレスレで逆さまになりながらも、子どもたちに向けて叫んだ。
しかし、子どもたちは困ったような、あきれたような顔でこちらを見ている。
「何だ? 不審者?」
「高校生カップルかな? イチャつく場所でも探してんの?」
「えー!? マジかよ!」
全然こちらの話を聞いてくれない子どもたちにどうしたものかと考えていると、私の体がふわりと浮いた。
「えっ」
「殺す気かよこの野郎ッ!」
ぶおんと空を切る音がして、私の体はお兄ちゃんの首からすっぽ抜けた。上半身を無理やり振って拘束から抜け出したようだ。
私はその勢いのまま子どもたちのほうに飛んでいく。ちょうど落下地点にいた三人は、悲鳴を上げて縮こまった。
私は手前の地面にどうにか足を伸ばし、踏み切って三人の頭上を飛び越える。きれいなターンを決めて着地した私は、お兄ちゃんを振り返った。
「あっぶなー! 怪我したらどうするの!」
「チッ……ガキどもごとぶっ飛ばしてやるつもりだったのに……!」
お兄ちゃんは首をさすりながら言う。なんてひどいことをするお兄ちゃんだ。もっと一護の優しさを見習ったほうがいい。
それとも、もしかして、実は悪い人なのかな?
「なんでそんなことするの? この子たちが嫌いなの?」
「言ってただろ、そいつら! 『消しちゃえば』とか『もっとイイやつ作る』とか!」
「言っ……てた……?」
記憶が不確かな私は、確認するように子どもたちの顔をのぞき込んだ。しかし、すっかりおびえた様子の三人はブルブルと震えてまともに返事をくれない。
おーい、と子どもたちの顔の前で手を振っている私にかまわず、お兄ちゃんは叫んだ。
「命は……! 他人が勝手に奪っていいモンじゃねぇだろ!?」
どこか悲痛に聞こえた叫びに、私はまばたきする。
橙亜みたいなことを言う人だ。そう思って──どうしようもなく嬉しくなった。
なってしまったので、「もしかしたら悪い人かも」なんて疑念はどこかに飛んでいく。それならそうと、ちゃんと言えばいいのだ。
「じゃあ、そう言ってよ! それならゲームも壊しちゃかわいそうでしょ!」
「はぁ!? それは……ちょっと違うだろ!」
「ちがくないよ! だってお兄ちゃんが助けたい人たちが生きる世界でしょ! 壊しちゃったら困っちゃうよ!」
ねぇ? と同意を求めるように改めて子どもたちに向き直った。
「な……何言ってんだ、お前ら!? 意味わかんねー!」
「えぇ? 命は大事にしないとダメなんだよ?」
「ゲームの話だろ!? 一緒にすんなよ!」
「ゲームの中に生まれたら同じじゃない?」
「生まれるかッ!! アンタ、もしかしなくてもバカだな?」
「すごい、よくわかったね! よく言われるんだよー」
「なんで照れてんだ!? 褒めてねーよ!」
恐怖が薄れてきたのか、子どもたちは私をにらんで怒鳴っている。ゲーム機を守ったのに、なんで怒られているのだろう? ともあれ、元気が戻ってきたのはいいことだよね!
このままみんなで仲直りして、楽しく遊ぼうかと考えていると、不意に肌があわ立った。
とっさに顔を上げる。と、同時にお兄ちゃんも塀の向こうを振り返っていた。
──これ、ホロウの気配だ。
「きみたち、逃げて!」
「はぁ? お前がどっか行けよ!」
子どもたちに声をかけるが、全然言うことを聞いてくれない。
そうこうしているうちに頭上にかかった影に、息をのんだ。芋虫のような姿のホロウが、私たちを見定めるように見下ろしている。
子どもたちの頭上を飛び越え、私はお兄ちゃんの隣に着地した。お兄ちゃんは驚いた顔をするも、後ろの彼らに振り返って叫ぶ。
「早くしろ! 死にてえのか!! あっちへ行くんだよ!!」
ホロウは口を開け、私たちにまっすぐ向かってくる。
私はお兄ちゃんの腕を掴み、子どもたちの方向へ放り投げた。併せてジャンプした瞬間、私たちの立っていた場所にホロウが突っ込んでくる。
「おい! 何すんだ!! 肩が外れかけたぞ!」
「えっ、ごめん!」
お兄ちゃんの文句を聞き流し、反対方向に私は走り出した。学校の塀を越えて、外へ。ホロウはそんな私の後ろを追いかけてくる。
橙亜が言っていたように、ホロウは私たちみたいな人間を襲うらしい。しっかりと食いついたホロウに笑って、足に力を込めた。
「一護が来るまで、頑張れ私!」
町中を駆け抜け、ホロウから逃げ回る。
目的地なんてない。この辺の地理もよくわからない。四角い建物は見分けがつかないから、もしかしたら同じ場所をぐるぐる回っていたかもしれない。
それでも私は走る。ホロウを倒す能力を持たない私にできるのは囮になることくらいだ。体力には自信がある。追いつかれるまで逃げ回れば、他の人は襲われないだろう。
だったら、時間稼ぎをするだけだ。ホロウを倒す作戦も思いつかない頭だけれど、それだけ理解できていれば十分だと思った。
──だって、きっと橙亜たちがなんとかしてくれる。
私を連れ出してくれた橙亜、私にいろんなものを見せてくれる唯和。二人を信じているからどんなにバカみたいなことでもやるし、成し遂げてみせる。
私を「一人」じゃなくしてくれた二人のために、私は精一杯、頑張るの。
──おまえは置いていったのに──
「──え?」
頭の中に声が響いて立ち止まった。辺りを見回すがそれらしい人はいない。
止まったことで、気づかないようにしていた疲労が一気に体にのしかかる。足が重い。──あれ、思ったよりも疲れてる?
そうこうしているうちにホロウに追いつかれた。ホロウは足の一つを伸ばしてこちらに攻撃してくる。
「あ……!」
建物の物陰に転がり込んで、どうにか避けた。
しかし、ホロウの攻撃は止まらない。次々と襲いくる攻撃が、スローモーションのように見えた。
世界が反響する。頭の中で、男の人のあきれたようなため息が聞こえた。
──あぁ、気に食わねぇ。気に食わねぇよな──
──おまえは置いていったのに、おまえは忘れてるのに──
──他人にはそれを求めるのか──
下半身に力を込めて攻撃を避ける。しかし、かわしきれなくて地面を転がった。
──自分の頭でろくに物も考えらないバカな子ども。そんなものは動物と一緒だ──
──親の後ろをついていかなきゃまともに歩けもしない──
──出来損ないのおまえが、オレは心底嫌いだよ──
「……うるさいなぁ!」
よくわからない。何を言っているのかは本当、正直、全然わからない。私はバカなんだから、誰かは知らないけれど、もっとわかりやすく話してほしい。
左肩からは血が流れている。──痛い。攻撃を受けた。──切り傷。だけど動く。
動くなら、問題なし!
ホロウと向き直り、逃げ道を探す。足元をくぐり抜けられるだろうか。わからない。でも、ここで死ぬわけにはいかないから、やるしかない。
「文句ならあとでたくさん聞くから! ここを切り抜けるの、手伝ってよ!」
──…………嫌いだ。おまえなんか──
む……そんなに言わなくても……。と思っていると、突然体が宙に浮いた。
周囲の建物を軽々と飛び越え、青空の下に出る。遅れて、誰かに体を抱えられたことに気がついた。
「おい! 生きてるか!?」
引っ張り上げたのはさっき学校で別れたはずのお兄ちゃんだった。やけに怒った顔をしていて、一護かと一瞬見間違う。
彼は私を小脇に抱えてジャンプし、建物の屋根の上を走った。ホロウから距離を取るつもりらしい。
「生きてる! ありがとう!」
「勝手に飛び出していきやがっ……て……」
さっきまで聞こえていた優しくない声の人より、お兄ちゃんは頼りになる。やっぱり根は優しい人なのだ。そうだよね、悪い人の
「……なぁ、おまえの持ってるそれ──」
「ん?」
そばの建物の屋上への着地を目指しながらも、お兄ちゃんは私の手元を見る。
つられて目を向ければ、私の手には「日本刀」が握られていた。
「………………何これ!?」
「これ死神の刀じゃねえのか!? なんでおまえが持ってんだよ!?」
「知らない知らない! なんで持ってるの!?」
「オレに聞くな!」
お兄ちゃんは私を屋上に下ろし、まじまじと刀を見た。そうこうしているうちにホロウも同じ高さまでやってくる。
「とりあえず、それでアイツ倒してみろよ」
「えぇ……? 刀なんて使ったことないのに……」
刀を持った手をブンブンと振ってみるも、いまいち正しい感覚はわからない。
ホロウは足を伸ばして攻撃してきた。このまま食らえば死ぬ。死ぬのは嫌だ。だから、この攻撃を、どうにかして止めなくちゃ──。
考えるより先に体は動く。全身が熱くなる。意識するよりも早く、私の口は無意識にその「名」を口にした。
「吹き荒べ『
一陣の風が吹く。次の瞬間、真っ黒な塊が目の前に現れた。
そして、それはホロウの足を斬り落とす。きれいなオレンジ色の髪の毛が、こちらを振り返った。
「────あれ? 一護だ!」
「無事か!? 白坂!」
ホロウを斬ったのは、まちがいなく本物の一護だった。
助けてくれた感謝を伝えようとするも、一護は一目散に隣にいたお兄ちゃんに掴みかかる。私が怪我をしたことについての文句を言っているようだが、それはちょっとあれだ、理不尽ってやつだ。
「一護、私が勝手に怪我しただけだからお兄ちゃんは悪くないよ?」
「『お兄ちゃん』!? テメッ、白坂にナニ変なこと吹き込んでんだ!?」
「ちげーよ! そいつが勝手に言ってるんだって! オレだってよくわかんねーんだから……」
「────あ」
一護とお兄ちゃんが言い争う背後で、怒ったホロウが体勢を整え、再び襲いかかってくる。
だが、一護とお兄ちゃんの同時攻撃によってホロウの頭は割られ、屋上の端まで吹っ飛ばされた。息ぴったり。さすが兄弟! これでホロウ退治は完了だね!
「ん? 橙亜たちのにおい……」
二人に背を向け、私は屋上の入り口に向かう。予想通り、橙亜と唯和が扉から飛び出してきた。
「璃鎖! 無事ですか!?」
「生きてる~?」
「うん! 生きてるよ!」
そう答え、私は右手を振った。──そういえば、さっきまでこっちの手には「刀」を握っていたような気がしたけれど……。
息の上がった橙亜と、その背中をさする唯和は、そろって振り上げた私の右手を凝視した。
私も同じように上を見る。太陽の光を反射したそれは、鉄でできた扇子のようなもので──。
「あれ? 刀じゃなくなってる?」
「璃鎖…………それは……?」
「え、何何何? もしかしてもう始解までしちゃったの~? やばくな~い?」
無表情でも驚いているのがわかる橙亜と、真顔で驚いている唯和。二人にしては珍しい表情だ。
「あれ? なんかまずいことした?」
「璃鎖~、そういうときは『またオレ何かやっちゃいました?』って言うんだよ~」
「唯和、余計なことを教えるのはやめてください」
「そうでもしないとやってらんねーだろこの状況~。どう考えても仕組まれてんよこれ~。始解できるのって席官クラスとかからじゃ~ん? 現状のオレたちもとい璃鎖にその実力がありますかって聞かれたら『ない』でしかねーだろ。常識的に考えて」
「ここで『自分たちは特別』という思考にならない唯和は意外と慎重ですよね」
「舐めてんのか~?」
「褒めてるんですよ」
二人でむずかしい話を始めたため、私は口を閉じて手元を見た。しかし、気を緩めるのと一緒に扇子のようなものも消えていく。
何だったのだろう、と手をにぎにぎと動かしていると、カランカランと下駄の音が聞こえてきた。唯和は目を細めて屋上の入り口を振り返る。
「おーやおや、皆サンもお揃いで」
「浦原さん! みんなもどうしたの?」
浦原さんと、現れた商店のメンバーはなにやら物騒な荷物を抱えていた。状況をよくわかっていない私の前を通り過ぎた浦原さんは視線だけを寄越して、「彼の回収っスよ」と一護たちのほうに歩いていく。
「回収って?」
「…………そういえば璃鎖、改造魂魄もろもろの話について、もしかしてちゃんとわかっていないのではないですか?」
橙亜の問いかけに、私は首を傾けた。
「かいぞうこんぱく」
「初耳らしいな~。あの変な一護のこと、どういう認識でいたんだよ~」
「一護のお兄ちゃん! この前の橙亜みたいな感じかなって」
そう言うと、唯和は噴き出した。橙亜は空を見上げている。
「天才か? その発想はなかったわ~」
「ちがうの?」
「……彼は義魂丸というもので、肉体から魂を強制的に抜く丸薬です。まあ……彼はその中でも戦闘用疑似魂魄の
「ざっくり言えば、あれは作られた存在で人間じゃな~い。当然、一護の兄弟じゃないし、成り立ち的には家族もいないんじゃねーの~? そのうえ、破棄命令も出されている『粗悪品』だからな~」
淡々とした橙亜の説明と、ケラケラと笑う唯和の言葉が耳を通り抜けた。
浦原さんたちを振り返ると、彼はいつも持ち歩いている杖を使って一護の体から何かを押し出している。丸いBB弾のようなものが一護の体から抜け落ちた。
──気づけば、体が勝手に動いていた。
浦原さんがそれを拾う前に、駆け寄った私が横からかすめ取る。手の中に確かにあるそれを握り締め、私は浦原さんに向き合った。
遅れて、橙亜の制止するような声が私を呼ぶ。けれど、私は浦原さんから視線をそらさない。
浦原さんは、帽子の影の向こうからジッと私を見ていた。
「それを渡してください。璃鎖さん」
「ひどいことしないなら、そうする」
「それには破棄命令が出てるんです」
「悪い人じゃなかったよ」
「人格の善悪は問題じゃありません。それが世界に与える影響の話をしています。悪影響を与えるなら破棄が間違いない。結果的に、みんなを守ることに繋がります」
「そのみんなの中に、この人は入れないの?」
「それは人間じゃありませんよ?」
そんなことはどうでもよかった。別に人間だろうが人間じゃなかろうが、そもそも作られた存在とか。何がちがうのかわからない。
だって結局、みんなと同じように生きているわけでしょう? なら、むやみに命を奪うのはよくないことだ。命は他人が勝手に奪っていいものじゃないって、彼も言っていたし、私もそう思う。
悪影響だからって、捨てちゃうの? いると困るから、捨てるの?
必要がないなら、どうして作ったの? 置いていくなら──どうして産んだの?
人間ってむずかしくて、本当によくわからない。
「じゃあ……そんな世界は、私が──」
「案ずるな、璃鎖」
隣から、ルキアに肩を叩かれる。いつの間にやってきたのだろう。
彼女は手のひらを差し出して笑うので、私はまばたきして、ルキアに彼をそっと渡した。
「浦原、貴様の店は客に売った商品を金も返さずに奪いとるのか?」
ルキアの言葉に、浦原さんの周り空気が変わる。緊張が解けたような感じだ。視界の端にはあからさまに安心したような橙亜がいた。
「そんじゃ仕方ない、金を……」
「必要ない。こちらはこの商品で満足している。……それに、元々が霊法の外で動いている貴様らだ。そうまでしてこいつを回収する義理もなかろう?」
ルキアの言葉によって、浦原さんは引き下がった。彼を破棄することを諦めたらしい。みんなに解散を促している。
私は、帰ろうとしている浦原さんの背中を追った。追いついて、その背中に笑いかける。
「ありがとう! 浦原さん!」
くるりと帽子を押さえて振り返った浦原さんは、しかし何も言わずに帰っていった。
浦原商店のみんながいなくなると、後ろから橙亜のため息が聞こえる。橙亜はしゃがみ込んでいた。
「璃鎖……あまり心臓に悪いことをしないでください……」
「え?」
「浦原さんに盾突くとかさっすがぁ~! そうだよな~、どうせオレたちに後ろめたいことを隠してるんだろうからあれくらい強気でいってもいいんだよなぁ~!」
腕を組んでうんうんとうなずく唯和を橙亜が見上げる。心なしか目つきが鋭い。
「どんな思惑であれ、面倒を見てもらっているのですから迷惑をかけるべきではありませんよ」
「はぁ~? どんな毒親でも親なんだから文句を言わずに愛せって~?」
「言ってません……肉親と他人を並べて屁理屈をこねるのはやめてください。だいたい、浦原さんからすれば僕たちなんていつでも始末なりなんなりできるんですから……」
「だからご機嫌を損ねないようにいい子でいましょう。って~? 優等生ちゃんは奴隷志望なんですねぇ~?」
「どうしてそう極端な揚げ足を取りたがるんですか……」
「唯和ちゃんはお前らの想定内に収まる人間じゃないので~す」
「天邪鬼が中二病を発症すると本当に面倒くさいですね」
唯和と軽口のやり取りをしているうちに橙亜の元気も戻ってきたらしい。再び立ち上がった橙亜は、持っていた私のカバンを渡してきた。学校は早退したようだ。
こちらの話が一息ついたところで、一護とルキアが近づいてくる。ルキアは浦原さんについて簡単に一護に説明していた。一護の眉間にはさらにしわが寄る。
「つまり、蜜江が前に言ってた便宜上の保護者って……」
「そ、あの胡散くさ~いゲタ帽子よ~」
「唯和……」
「いや事実じゃん」
その後、ルキアは怪我の手当てをして、一護とともに学校に戻っていった。
早退した私たちは、ゆっくりと浦原商店までの道を歩いていく。帰り道の橙亜たちの雑談は浦原さんの話題ばかりだった。
「あの男、いつか絶対ぎゃふんと言わせてぇ~」
「無理だと思いますよ……悔しがる顔も想像できないのに……」
「どうにかしてマユリ様と対浦原さん同盟組むか……」
「怖いもの知らずですかあなたは。勝手に体を改造されても知りませんよ」
「あ、冗談だと思ってるな~? 浦原さんが敵に回ったらそのくらいはやらないとマジで敵わんぜ~?」
「だから冗談で済ませてくれないと困るんですよ。まあ……本当にそんなことになったら気づく前に始末されてそうですけどね……」
「そっちのが怖いだろ」
飄々として、何を考えているのかよくわからない浦原さん。特に敵意や悪意は感じないけれど、「警戒心」を向けられているのは初めて会ったときからずっと感じている。
優しいばかりの善人というわけではなさそうだけれど、悪人では全然ないと思う。だから、私はとりあえず彼を信用していた。
さっきだって、私の話をちゃんと聞いてくれたもの。悪い人ならきっと私の話なんて聞かずにさっさと彼を処分している。そうしなかったのは、何か理由があるのだ。
たぶん、浦原さんは橙亜や唯和みたいな人なのだろう。想像もつかないような先のことまで、常に考えて行動している。今のことしか考えられない私にはとてもむずかしいことで、だからこそ尊敬するのだ。
「オレたちは肉食動物に睨まれる草食動物ってか~。ムカつく~」
「肉食動物っていうか……まだ敵か餌かの判断もついてないから、じっくり観察してるーって感じだよね。浦原さんって」
「『ええー? ほんとにござるかぁ?』」
「どのみち肉食動物ではあるんじゃないですか」
「食われる前に食らいついていくぞぉ~!」
そうして、私たちは浦原商店へと帰り着く。出迎えてくれた浦原さんはいつもと変わらない態度で、何事もなくこの新しい日常は再開された。唯和は気に入らないようだったが。
後日、一護たちが持ち帰ったお兄ちゃん──もとい、改造魂魄さんは「コン」と名付けられ、道端に捨てられていたぬいぐるみに入れられることになったそうだ。
めでたし、めでたし!
*
*
──改造魂魄による騒動が起きる前のこと。
事件当日の朝、朽木ルキアは浦原商店を訪れていた。
橙亜たちはすでに登校したために不在である。のんびりと奥から出てきた浦原喜助に、ルキアは用件を一つずつ済ませていった。
目的の義魂丸を手に入れ、遅れながらも学校に向かおうとしたルキアは帰り際、「そういえば」と奥の畳に座る浦原喜助を振り返った。
「……あの者たちは一体……何者なのだ?」
「誰のことです?」
「橙亜たちだ! 死神でもないのにどうして斬魄刀を持っている?」
増した声のボリュームに浦原は二度、まばたきを繰り返す。ガラス戸の外では、橙亜たちの名前につられて盗み聞きをしようとした花刈ジン太を握菱鉄裁が掃除係に戻らせていた。
ルキアの真剣な問いかけに、浦原は帽子を押さえて目元の影を深くする。しかし、声の調子は普段と変わらぬ軽妙なものであった。
「サァ? アタシも
「しかし、死神のことは最近知ったような口ぶりだったぞ」
ルキアの言葉に、浦原は口を大きく開けて笑い出す。
「朽木サンってば素直な人っスね~! 彼女たちがウソをついてる可能性だってあるでしょう」
「何……? いや、なぜそんな必要が……」
「──だから、確かめたいんですよ」
眉を寄せるルキアにかまわず、帽子の下で浦原は目を細めた。
「彼女たち三人……いえ、
「…………?」
ルキアに話しかけているようで、遠くの別のところに意識を向けているような喋り方だった。感情を読ませない浦原の雰囲気に、ルキアの背筋には知らずに冷や汗が流れる。
ルキアの緊張に気づいているのか、浦原はパチンと手を叩き、笑顔を浮かべた。
「なので、彼女たちについて朽木サンが気にすることはないっスよ。アタシのほうでちゃんと見てるんで」
「ならば……よいが……」
安心させるような笑顔だが、有無を言わせぬ迫力がある。「もし、危険と判断したらどうするのか」という疑問を挟む隙間もない。
しかし、いまだ戻らない死神の力と一護の代行業に手一杯のルキアには、名目上は彼女たちの保護者である浦原に一任する以外に術はない。浦原が何やら事情を把握しているならば、自分が下手に口出しをすべきではないと判断した。
礼を述べ、ルキアは浦原商店をあとにする。せめて彼女たちが面倒事に巻き込まれなければいいと、祈るように空を見上げて。
